In Seventh Heaven   作:九条空

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教えてくれ SEVENTH MOON

「ガトは何十万年もうまく生きてきたんだろ? 俺たちより頭がいいさ。いろいろ考えた結果、俺たちに頼むしかないってんならそうなんだろう。俺は協力したいと思うが、ビヒータは?」

 

 レイが話を振ると、たんたんたんたん、と一定のリズムを叩いたのち、ビヒータはシンバルをジャーンと鳴らした。

 

「構わないってよ」

 

 この調子で、バサラもミレーヌも、FIRE BOMBERの皆は快諾だった。拍子抜けするほどである。

 唯一ガムリンが「いいんですか!?」と動揺しており、彼がいなかったら俺が似たようなことを言っていただろう。

 ガムリンは真面目に苦言を呈した。

 

「自分で他人のスピリチアを吸って弱らせておきながら、弱っているからなんとかしてくれと人に頼むのはどうなんですか?」

「でもそうしなかったらガトが死んじまうならしかたねえだろ?」

「治せるのが私たちしかいないっていうならしかたないわね?」

 

 ガムリンの指摘はもっともだと思うが、バサラもミレーヌも「しかたがない」で済ませた。

 それでいいのか? という疑問の顔をしているのは、俺とガムリンだけである。

 しかしここで俺が何を言っても、聞き苦しい言い訳になるだろう。俺は肩をすくめて、ガムリンに言った。

 

「心配なら君も来ると良い。見張ってくれて構わないよ。なんだか彼ら、のんきすぎて心配だし」

「あなたに言われるとさらになんだかな……という感じですが、わかりました。俺も行きましょう」

 

 じゃあ行こうか、と俺とバサラが腰を上げようとすると、ミレーヌが待ったをかけた。

 彼女が言うに「機体はどうするの?」と――俺は首を傾げ、彼女から詳しいところを聞いた。

 

「サウンドフォース?」

「そうよ、私たちFIRE BOMBERはみんなそうなんだから。最近はお役御免になってるけど」

 

 彼らがどうプロトデビルンと戦ったのかは詳しくなかったので、聞いてようやく納得した。

 

「なるほど。君たちの力を十全に借りようと思ったら、その機体も必要なわけか」

 

 そういえば、地球人というのは宇宙において生身で活動できないのだった。

 宇宙から襲ってくる敵と戦うためには、手段が歌であったとしても戦闘機に乗る必要があるというわけだ。宇宙では音が響かないから、歌を聴かせるためのスピーカーポッドなるものもあるらしい。ミサイルのように敵の機体に打ち込んで音を聞かせると。すごい話だな。

 

 彼らの歌を聴いてほしいのは、星に住む民たちなので、宇宙で活動することはないと信じたいが……用心に越したことはない。軍属というのならそれを引っ張ってくるのは少々骨が折れるか、と計算しているとミレーヌが提案する。

 

「私、パパかママにお願いしてみよっか?」

「ミレーヌのパパとママ?」

「パパはバトル7の艦長、ママはシティ7の市長なの」

 

 ミレーヌは結構な令嬢だったらしい。

 

「ではお願いできるかな。ちょうど行きたかったんだ、バトル7」

 

 少なくとも、アポをとる時間は省けそうである。

 

 ミレーヌにここで待ち合わせね、と言われた場所でぼんやりしていると、ミレーヌが「はぁい」とやってきた。先ほどとは髪型と服装が変わっており、地球人の価値観を忘れかけている俺でも、今のミレーヌは少しばかり大人らしく見えた。

 

「お色直しが必要なら言ってくれたらよかったのに」

「私に似合う服を教えてくれた?」

「それに関しては自信がないので辞退しよう。俺の方はこのまんまでいいのか?」

「いいわよ。それでバッチリ決まってるもの!」

 

 流行など当然知らないので、今の俺の服装は黒いシャツに黒いスボン、なんでもない革靴だ。

 ドレスコードがあるとしたら、ネクタイだのなんだのでひっかかりそうだが、ミレーヌが大丈夫というのならそれを信じよう。俺は数十万年生きているが、人間としてはミレーヌの方がもはや先輩と言ってもいい。俺はもうあまり思い出せないからだ。思い出したとして、マクロス7における常識ではない。

 

 マクロス7船団長兼バトル7艦長にして、ミレーヌのパパ、マクシミリアン・ジーナスを前に、俺は頭を下げてお願いをした。

 

「少々ミレーヌさんをお借りできないかと思いまして」

「ミレーヌを?」

「サウンドフォースのご活躍は耳にしております」

 

 ついさっき耳にしたばかりだが、耳には入ったから嘘ではない。

 

「我々の星でも人気でしてね。ぜひ誘致したいと考えているのです」

 

 サクスムではまだサウンドフォースは無名だが、これから有名になるのだから問題はない。問題がないだけで嘘ではある。

 ミレーヌは焦ったように俺の腕を引いて、耳元で内緒話をした。

 

「ちょ、ちょっとガトさん、そんな適当なこと言っていいの?」

「うん。サクスムは辺境の星だ。今までとくに統治者というのがいなかったんだけど、少し前に星間貿易をするようになって、代表者が必要になり……」

 

 俺は形ばかりに襟を正した。ドレスコードやらなにやらは、すべて文化の違いで何とかなるだろう。

 ただ背筋を伸ばして堂々とすればいい。貫禄はこの長い生で勝手に身に着いている。

 

「いつのまにか俺になってた。どうも、サクスムの()()()です、こんにちは」

「でぇえ!?」

市長(ママ)の方にお邪魔するべきだったかな?」

 

 驚くミレーヌを尻目に、俺は来る場所を間違えたかもしれないと考えていた。

 外交というのなら、担当はそちらだったかもしれない。

 だが軍というのをちょっと見てみたかったのだ。ガムリンからも良く来る場所と聞いていたし。

 

「聞いてないわよ、ガトさん!」

「身分を言って色眼鏡で見られるのは苦手でね」

 

 ミレーヌにも思うところがあったのか、「もう!」で済ませてくれた。

 それからは色々あったが――最終的にはミレーヌの「ねえパパ、いいでしょ?」で話がまとまった。

 まとまったというか、諦められたというほうが正しいか。艦長は最初に会った時より疲れた表情を見せながら、俺に頭を下げた。

 

「娘をよろしくお願いします」

「サクスムにいる間、命を懸けて彼女の身を守ります」

 

 ミレーヌは大げさねと言ったが、サクスムは今、巨大な隕石の迫る滅びかけの星だ。

 これくらい言っても尚連れて行くのをためらうほどだ――しかし俺にも通したい意地がある。

 帰り道、俺は少しばかり胸をなでおろしながら、ミレーヌに言った。

 

「俺がプロトデビルンだってことを利用しなくて済んで助かった。人を脅したりなんだりってのは苦手なんだ」

「場合によっては脅すつもりだったのね……」

「まあ。悪いが、こう見えて切羽詰まっている。可能な限り穏便にいきたいとは思っているんだよ。実際努力もしているはずだが」

「できてるわ」

「ならよかった」

 

 雑談しつつ進んでいると、廊下の反対側からフードを被った小柄な影が近づいてきて叫ぶ。

 

「アンタなんでこんなとこに゙」

 

 始めて来るバトル7だが、彼は俺の方の知り合いだった。

 俺は両手を上げて降参のポーズをとりながら弁明する。

 

「密航はしてないよ。自力で来た」

「なおさら悪い゙ッ!」

 

 彼はアイスという名のサクスム人だ。

 最近始まったばかりのマクロス7とサクスムの貿易を担当している。

 なぜこんなところに、と言うのなら俺の方もそうだ。軍部にまで顔を出すほどになっているとは知らなかった。

 アイスは語尾に濁点がつく訛りがあるものの、他のサクスム人に比べれば言葉がとても上手だ。

 そして彼はサクスムの民にしては珍しいことに、ある程度の生真面目さと、一般的な常識を兼ね備えた稀有な人物である。

 政治もいけるだろうなと睨んでいたので、俺の見立ては正しかったと言える。個人的には次の大統領になってもらいたい。俺がそろそろやめたいからだ。

 

「帰りは人数が増えても構わないか?」

 

 サクスムの貿易船に乗って帰りたい。俺はマクロス7に自力で来たが、人間を連れて帰るとなると、安全で快適な旅は提供できないからだ。

 俺とミレーヌを指さしながら尋ねると、アイスは深々とため息をつき、俺の腹のあたりを軽く殴った。肩をいからせて去っていくのを見ながら、俺は隣のミレーヌに言った。

 

「いいって」

「いいってリアクションだったの、アレ?」

 

 怪訝な顔をするミレーヌだったが、遠くまで歩いて行った彼が「合計何人だッ!」と叫ぶのを聞いて、ひとまずは納得したようである。俺が両手で6、とやると「多いだろ゛ッ!」と叫んで、またずかずかと進んでいった。

 

「……やっぱり大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。彼はああ見えて親切で、誠実な男だ」

 

 文句を言っているようで、その実そうではない。態度や口調が荒々しいが故につっけんどんに聞こえるというだけで、彼自身大して不満にも負担にも思っていない――というのは、彼の友人の談である。俺もそうであると信じたいから信じている。

 遠くで振り向いたアイスが、フードの下で眼孔を光らせた。

 

「荷物ば!」

「バルキリーが4」

「多いだろ゙!」

 

 バルキリーが4、と復唱した彼が「多いわ゙! なはは!」と笑いながら去って行ったので、やっぱり俺は彼の優しさを信じることにする。

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