In Seventh Heaven   作:九条空

6 / 8
おすすめBGM:https://x.gd/mJvnB


人は1人じゃ生きられない

 ライブは当然大成功だった。

 音楽ライブというものに馴染みのないこの星の皆は、とりあえず宴だということで各々酒とつまみを持って会場へとやってきたが、彼らは早々に酒を飲むことすら忘れた。

 数回のアンコールを終え、それでも皆が肩を組んでうにゃうにゃ合唱している。

 

「んにゃあ~♪ んなぁ~♪」

 

 猫の鳴き声だったが、メロディはFIRE BOMBERの楽曲だ。

 彼らは耳が良く、一度聞いた音楽を正確に覚えられるようだ。この星に来て長いが、まだ彼らの新しい良いところを知ることができて嬉しく思う。

 限界近くまで歌うことになったミレーヌは肩で息をしながら、観客性の賑わいの声を聞いた。

 

「どうして普通にしていられるの? こうしている今も、空から巨大な星が降ってこようとしているのよ?」

「ま、死ぬときは死ぬだけにゃー」

「なんでそんなにのんきなのぉ!?」

 

 彼もライブを楽しんだのだろう。アイスは上機嫌に笑い、サクスム訛りを抑えようとするあまりに語尾を濁らせるのも忘れていた。

 ミレーヌは理解できないと叫んだが、これがいいところなのだ。

 後先考えず今を楽しむ。それがこの星のモットーである。

 たとえこの星に落ちてこようとする隕石がどんどん近づいて、今ではもう太陽より大きく見えるようになっていたとしても、彼らは悲観することがない。

 

「……ん?」

 

 そういえばバサラがいない。

 ステージ上の後方に置かれていたバサラのバルキリーが起動し、まっすぐ空へと飛び立っていった。

 観客席は爆発的な歓声に包まれたが、パフォーマンスではない、おそらく。

 

「なにか嫌な予感がするのだが!?」

「バサラ!? どこ行くつもりなのよーっ!?」

 

 ミレーヌと共にステージに飛び出して、飛んで行ったバサラを見上げる。

 何をする気なのかはわからないが、ここがサクスムである以上、彼らの安全を守る責任が俺にはある。

 

「ミレーヌ、下がっててくれ」

 

 困惑するミレーヌをレイに預けると、俺は()()した。

 プロトデビルンはもともと実体を持たない生命体だ。サブユニバースという別次元に生息し、この宇宙のある世界に50万年前やって来た。

 当時文明を築いていたプロトカルチャーという種族が戦争のために作った、エビル・シリーズという生物兵器を乗り移って実体を得ている。俺が選んだエビル・シリーズは遊撃型多目的戦術指揮ユニット――何の因果か、攻撃のための姿は巨大な猫に似ている。

 

 観客席から大盛り上がりのにゃあにゃあが聞こえるが、見世物ではない。

 バサラを追って、俺も空へと飛んだ。今の俺ではバサラに追いつくのが精いっぱいだ。

 

「Hello ここまで来たよ

 星から星へ 時を繋いで」

 

 人間のものではない俺の耳ならば、宇宙空間であってもバサラの歌を聞くことができる。

 あるいは、彼の歌は真空を飛び越え、心に直接届くのか。

 

「声が届かなくても

 感じていたよ 光の速さで」

 

 宇宙デブリを体にぶつけながら、大気圏をとっくに突破していたバサラのバルキリーとなんとか並走する。

 

「なんで急に宇宙に来たんだ!?」

「歌を聴かせるために決まってるだろ!」

 

 バサラは歌の合間で俺の返事をしてくれた。さらに聞き返す。

 

「誰に!?」

「隕石に!」

「隕石に!?」

 

 とんでもない操縦テクで、バサラはバルキリーに搭乗したバサラは無数の隕石を避けながら進んだ。

 

「woo woo すれ違って

 woo woo 巡り会って」

 

 そして、彼の最も恐ろしいところは、彼が集中しているのはバルキリーの操縦ではなく、歌と演奏である点だ。

 

「ちっぽけな石だって

 本気出して生きている」

 

 隕石ならそこら中に山ほどあるが、バサラの目的はこの小さな隕石たちではないようである。

 

「I am a ROCK 宇宙にBeatある限り

 ひとりじゃない oh 信じてる Big Friends」

 

 とすれば、彼の目的は一つしかない。今この星に落ちようとしている巨大隕石だ。

 俺は顔をひきつらせながらバサラを追った。無茶は止めなければならない。

 

 バサラのバルキリーの前に飛び出し、その機体を覆った。バサラからは「おい!」と文句が飛んでくるが、大人しくいかせるわけにはいかない。

 背中にいくつかの隕石が当たる。

 今の体の大きさでは、バサラの機体を完全に覆い尽くせない。

 俺はこういう機械に詳しくないから、どれだけ壊れれば生命維持に問題が出るのかを知らない。

 わからないのならば、すべてを守り切るしかない。

 

 さらに巨大化して、バサラの乗るバルキリーよりも大きな体格に変形する。

 これだけで随分スピリチアを使うため、俺は息苦しさを覚えた。宇宙に酸素はないけれど、比喩である。

 次に迫り来る隕石のサイズを見て、俺はバサラに声をかける。

 

「ああ、あれはダメだ。戻るよバサラくん!」

「まだ歌いきってねえ!」

「オーケー、隕石の代わりに俺が聞く!」

 

 親猫が子猫を持つように、バルキリーの首根っこを口でくわえてサクスムにひとっとびで戻る。

 俺の説得に応じたのかそうではないか不明だったが、バサラは暴れることなく、しかし歌い続けた。

 ある程度のところでバサラの機体を放し、大気圏で燃え尽きず、サクスムに落ちるだろう大きさの隕石に向き直った。

 

「まだ、この星を壊させるわけにはいかない」

 

 飛びかかるように隕石に接近する。長いしっぽを叩きつけ、粉々に砕いた。

 砕かれた破片はそのままサクスムへと引力によって落ちていくが、小さい破片たちはすべて燃え尽き、サクスムの大地にまでたどり着いたものはなかった。

 

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