人類詰みかけソシャゲで、問題児に囲まれても生き残りたい 作:つみそ
『アルテミック・ウェポン』は、最近流行りの人類詰みかけ系ソシャゲの一つだ。
UMウイルスというウイルスによって起きたパンデミックで、人類の大半がZOMBIEになってしまった世界。
そんな世界で、
その美麗なグラフィックと、お手軽ながらも派手な戦闘。そして何より、緻密なシナリオによって高い評価を受ける、オタクのトレンドソシャゲの一つがこの『アルテミック・ウェポン』。
何と言っても、シナリオがいい。滅びゆく世界で、何とか明日を掴もうともがく人々と、そんな人々を骨の髄までいじめ尽くしてやろうという濃厚な曇らせ。しかし最後には、そんな人々の輝きによって敵が倒される。
昨今の流行を見事に網羅した、王道の物語と言えるだろう。
ただ、一つ言えることがあるとしたら。
もしゲームの世界に転生するとして、『アルテミック・ウェポン』の世界には絶対転生したくない。まず、少しでもUMウィルスに対する抗体が無いと即詰み。あっても抗体が弱いとシェルターで難民生活を強いられ、抗体が強いと抗体者として戦場に駆り出される。
作中で最も人道的でプレイヤーが所属する『EUNOIA』ですら、女子供だろうと容赦なく戦場に送らないといけないくらいには、この世界は殺伐としている。
加えてこの世界は死亡率が非常に高いのだ。
プレイアブルキャラクターですら、平気で死ぬ。というかプレイアブルになるってことは見せ場がもらえるってことだから、下手すると実装イコール死だ。
実装予告が死の宣告なんて呼ばれるゲーム、少なくとも俺は他に知らないぞ。
ちなみに、ソシャゲにはプレイアブルが男女両方存在するタイプと、片方の性別しか存在しないタイプがあるが『アルテミック・ウェポン』は前者である。男も女も関係なく死ぬし、男も女も関係なく主人公が大好きだぞ。
そして、そんな世界に転生してしまった哀れなオタクが、俺だ。
カケル・トオミというこの世界での名前を与えられた俺のスタートは、故郷の全滅。
小さなシェルターの中に引きこもって、何とか生活していたのだが。ある時シェルターが崩壊、俺以外全員ZOMBIEになってしまった。
その後「EUNOIA」に拾われ、抗体者としての訓練を受ける。
まぁ、ここまではいいのだ。
このクソみたいな世界に転生してしまった以上、家族が死ぬなんて想定済み。「EUNOIA」に拾われた時点でむしろ世界的に見れば幸運な方だ。
これが「CROWN」とかに拾われてみろ、鉄砲玉にされて捨てられて終わり。よくて「EUNOIA」へのスパイ兼自爆テロ要因にされてイベストの黒幕になり、最終的に改心して何かいい感じに死ぬとかそんな感じである。
だが、それはそれとして生き残るためには少しでも強くならなければならない。
というか、強くならなければ明日どこかでZOMBIEにくわれて死ぬかもしれないのだ。しかし、一人で強くなった所で限界はある。
そもそも、俺が一人で強くなって原作を変えた所でどうなる? 下手したら、原作のギリギリすぎるバランスが壊れて逆に悪い方向へ突っ走るかもしれない。
二次創作でたまにあるだろ、転生者が余計なことしたせいで逆に悪化するパターン。なのに原作キャラは当然そのことを知らないから、転生者が感謝されるなんていう地獄。
流石に、それはゴメンだ。心が折れる。
そこで俺は考えたのだ。
このゲームが、プレイアブルに死者が多いなら――
単純な話だ。俺一人じゃできることなんてたかが知れている。
そして原作では、多くのストーリーでプレイアブルが死ぬ。何なら過去に死んでる非プレイアブルも結構多い。
そいつらが
俺一人なら悪い方向に運ぶ可能性があったとしても、数撃ちゃいい方向に転がるだろう、という単純な発想。
だが、思いついた時はこれしか無いと思った。
何より、原作を知っていれば回避できる悲劇が結構ある、というのがいい。先日討伐したクソキリンがその典型だ。
あのクソキリン、最初はちょっと瞬間移動ができるだけのクソZOMBIEだったのが、最終的に転移するわ毒ばらまくわ、挙句の果てにブッパするだけで拠点一つ吹っ飛ばすゴン太ビームまで習得しやがる。
しかし、あそこで討伐できればそれらの悲劇が全部チャラ。生存する人物は五人。
クソキリンが登場するイベストのメインキャラが成長しないという欠点はあるが、そのメインキャラそもそもイベストの中で死ぬので生きてたほうがマシだろう。
というわけで、俺は原作キャラ救済に奔走した。
全ては俺が生き残るため。
だが、悲しいかな俺の実力……というか抗体者としての才能である抗体値は抗体者の平均程度しかなかった。これでは「EUNOIA」最強のアシュラみたいに強くなれない。
何より、そもそもUMウェポンにはある面倒な特性があるのだ。
そこら辺を考慮して俺は――少し、原作知識でズルをすることにした。
原作で、ある人物が使用するはずだったUMウェポンを――パクったのである。
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現在、俺は自分より階級の低い抗体者達を引き連れてZOMBIEを間引いている。
なぜそんなことをしているかと言うと、ZOMBIEには特殊な処理を施したUMウェポンの攻撃でないと、たとえミンチにしても再生してしまうという特性があった。
「EUNOIA」はZOMBIEの治療を最終目的とする組織なので、下手にZOMBIEを処理するわけには行かない。そこでこうして、定期的に基地周辺のZOMBIEを間引きするのである。
まぁ、流石に非常時とかは特殊処理を施しての”浄化”が行われるけどな、うちの組織でも。
余裕があるうちは掃除して再生による時間稼ぎをするべきだという、倫理観があるんだかないんだかわからない「EUNOIA」の基本業務だ。
これ、原作だと主にデイリーの周回で行う業務だ。
無駄にゲームシステムと世界観がすり合わせされている。いいよねそういうの。
「まぁ……現実でZOMBIEの間引きは、気が滅入るけどな」
「なにかいいましたか? カケルさん」
「いや、何でも」
独り言が、少し聞こえていたようだ。
まぁともあれ、仮に聞かれていてもある程度誤魔化せば納得してもらえるだろう。ZOMBIEの間引きはどう考えても苦行だからな。
負けるような相手ではない、抗体者なら噛みつかれても感染することもない。
ただ、人をダース単位でミンチにする仕事だ。結果的には再生するから、殺してはいない。それでも気分がいいものではないだろう。
プレイヤーはこの事実を知った時、皆してドン引きした。これが原因で「EUNOIA」を裏切る奴がでたけど、ですよねという感想にしかならなかった。そんな最悪の作業である。
まぁ、素材のためにプレイヤーは気にせず周回するんですけどね!
「んじゃ、いつも通り俺が後ろで構えるから、全員持ち場についてくれ」
「はい!」
さて、このミンチ作業、新人の戦闘訓練としても使われている。俺の役目は監督で、なにかあった時の保険だ。
流石にこのくらいの業務で、貴重な戦闘要員を失うわけには行かない。
「UMウェポン起動! ……フウスイ!」
「起動! ベルク!」
数人の抗体者が、自身のUMウェポンを起動させる。
どれも、「EUNOIA」が開発した汎用UMウェポンだ。
どうでもいいけど、『アルテミック・ウェポン』においてキャラのレア度はUMウェポンで決まる。
同じキャラでも、使用する武器が異なればレアリティも変わってくるのだ。これで人気キャラの別バージョンを実装できるってワケ。
まぁ、そんな商業的な理由でたまに武器を持ち替える皆さんの話はともかく。
新人抗体者達は、各々が自分の武器でZOMBIEに飛びかかっていく。俺はそれを後ろから眺めつつ、時折指導を入れるのだ。
「フウスイは特性上、遠距離攻撃でZOMBIEを近づけさせないのが鉄板だ。とにかく距離を取って、囲まれないようにしろ!」
「はい!」
「ベルクは性能こそ汎用UMウェポンの中では高いが、その分カースが重い。くれぐれも無茶はするな!」
「は、はい!」
とまぁこんな具合に。
しばらく様子をみていると、フウスイの抗体者くんが苦戦している。彼は今回が初めての実戦だったから無理もないだろう。とはいえ、流石にこのままだとまずいな。
「……イン・エコーズ!」
「カケルさん!?」
フウスイの彼が驚いたようにこっちを視る。俺が禍々しい赤黒の杖を取り出したからだろう。イン・エコーズはあらゆるUMウェポンの中でもとびきりに見た目が禍々しい。
何にせよ、そのまま飛び出してフウスイくんの前に立つと、ZOMBIEを一振りで薙ぎ払った。
「大丈夫か?」
「すいません……」
「気にするな、もっと厚顔に行け。生きてればなんとでもなるんだから」
「……! それよりカケルさん!」
「……っと!」
フウスイくんを慰めていると、もう一人――ベルクくんに異変が起こる。フウスイくんと同じタイミングでそれに気付いた俺は、思わず顔をしかめた。
「ォオオオオ! アァアアアアア!!」
「……あいつ、暴走してる!」
「ベルクのカースか、……こんな時に暴走するってことは、除染を怠ったな!?」
見れば、ベルクくんは明らかに様子がおかしくなっている。暴走と呼ばれるその現象は、ベルクというUMウェポンの「
カース。
UMウェポンには、それぞれカースと呼ばれるデメリットが存在する。ベルクであれば見ての通り正気を失い暴走してしまう。
このカース、特定の設備で除染が可能なのだが、中にはあえて除染を行わないものもいる。カースの影響が強くなればなるほど、UMウェポンの性能を引き出せるからだ。
加えて言うと、たとえ除染を行っても完全にカースを取り除けるわけではない。少しずつカースは溜まっていって、数年も使い続ければ最終的に永続的なカースが発生してしまうのだ。
そうなっては、現状カースをどうにかする手段はない。第一部最終章で治療法が確立されるんだけどな……今はそもそも原作すら始まっていないぞ。
「……しょうが無い、俺が彼を止める。その後ZOMBIEの間引きを行って撤退だ、いいな」
「は、はい」
フウスイくんを守るようにしながら、イン・エコーズの力をより引き出す。
――全開放だ。
「……っ、これが……イン・エコーズの……」
フウスイくんが息を呑むなか、俺は一気にベルクくんへと接近する。
刹那にも満たない時間で肉薄した俺は、まず一振りで周囲のZOMBIEを殲滅。つづく一振りでベルクくんを吹き飛ばす。
暴走によって、汎用UMウェポンの域を遥かに超えた性能を引き出しているベルクくん。
しかしイン・エコーズはそんなもの、ものともしない。俺の才能はベルクくんとどっこいだが、使っている武器が違うのだ。
「アアアアアアアアッ!」
「落ち着けって……先日の件は不幸だった! でも、君は何も悪くない!」
おそらく、ベルクくんが暴走したのは、先日とあるZOMBIEとの戦闘によって発生した被害が原因だろう。ベルクくんの妹さんが、片足を失ったのだ。幸いにも
ベルクくんは、かなり後悔しているはずだ。
ここに来る前、アシュラからその事を聞かされたので、俺は知っている。
「……ッ!」
「よおし、そのまま……」
俺は、ベルクくんをイン・エコーズで押さえつけると、懐から取り出した注射器を彼に刺す。カースの鎮静効果があるその薬で、何とかベルクくんは無効化できた。
後は残ってるZOMBIEを片付けて撤退だな。ベルクくんの説教は他の人にやってもらおう。俺は優しい言葉をかけてしまったからな。
「撤退だ、急げ!」
「……っ、は、はい!」
ベルクくんを抱え、ZOMBIEを薙ぎ払ってからフウスイくんのところへ戻る。
その表情は、どこか怯えが感じられた。
「悪い。イン・エコーズは禍々しいから、不安にさせただろ」
「い、いえ……」
「でも安心してくれ、それは勘違い……イン・エコーズのカースによるものなんだから」
俺がそう伝えると、フウスイくんは深呼吸一つ。なんとか冷静さを取り戻してくれたようだ。
まあでも無理はない、彼はイン・エコーズのカースによる影響を受けているんだろうから。
イン・エコーズ。
そのスペックは凶悪だ。俺みたいなフウスイくんたちと殆ど変わらない抗体値の人間が、彼らが苦戦するZOMBIEの群れを一瞬で薙ぎ払える。
加えて俺がこのUMウェポンを得物に選んだのには、もう一つ理由がある。
カースだ。
イン・エコーズのカースは『不理解』。
これを使用する抗体者に対する、周囲の感情を誤解させる。具体的に言えば『不理解』のカースしか持たないイン・エコーズはUMウェポンの中では非常に安全な武器であるにもかかわらず、周りの人間はイン・エコーズが危険だと感じてしまうのだ。
その使用者も同様に。
ラノベによくある『勘違い』を引き起こすカース。ただ、これに関しては一つの解決策がある。
イン・エコーズのカースが『不理解』であると、周りの人間が理解していればいいのだ。
確かに使用中は、誤解による悪感情を生じてしまうかもしれない。だが、イン・エコーズを活性化させなければ、その悪感情は誤解だと認識できるだろう。
だから俺は、イン・エコーズを拾った時点で「EUNOIA」にそのカースを報告した。
原作では「EUNOIA」がこのカースを知らず『不理解』によって使用者が最終的に死亡してしまうUMウェポンだが、種が割れていればなんてことはない。
だからイン・エコーズは現状俺が入手できるUMウェポンの中で、もっとも安全なのだ。
故に俺は、このUMウェポンを自分の得物としたわけである。
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イン・エコーズのカース『不理解』。
それは確かに、種さえわかっていれば対策ができる。
何より、カースが周囲の精神状態にしか影響を与えないというのは、UMウェポンが持つカースの中では破格の安全度だ。
原作では、イン・エコーズの使用者がどの勢力にも属さないフリーの存在だったため、悲劇が発生してしまったものの。
組織に所属する人間が使う上では、これほど安全なUMウェポンは他にないだろう。
カケル・トオミが使用するのでさえなければ。
確かに種さえわかっていれば、イン・エコーズのカースが発生させる悪感情は無視できる。
だが、悪感情以外はどうだろう。
人々は、カケルの行動を「自己犠牲」だと考えている。世界に対する憎しみが、彼を突き動かしているのだ、と。
しかし実際のカケルは、自分の生存を最優先にしているのだ。
これは紛れもなく、イン・エコーズによる不理解の結果だ。
カースとは呪い、しかし何もそれが不利益だけをもたらすわけではない。ベルクがその典型だ。ベルクによって暴走してしまうと理性を失うが、代わりに圧倒的なパワーが手に入る。
ただの一般抗体者がカケル――「EUNOIA」最高戦力の一角でないと制圧できないような怪物へ変貌してしまうのがカースの恐ろしさであり、強みでもある。
同じように、イン・エコーズはカケルに不理解のカースを与えた。
自己犠牲によって人類のために救済を求める、そんな存在がカケルである――と。
ゆえにこそ、フウスイの彼があの時感じていたのは、カケルに対する悪感情ではない。
結果として、「EUNOIA」には多くのカケル信者がいる。
自覚、無自覚問わず。
とんでもない数の信者が――カケルの理解し得ないところに、発生していた。