人類詰みかけソシャゲで、問題児に囲まれても生き残りたい   作:つみそ

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三 この世界には、問題児しかいないのか

 結局ベルクくんのベルクくんは没収となった。

 そりゃそうだ、暴走の危険がある人間にベルクなんていう危険なUMウェポンは渡せない。彼、根は優しいのだが行動力が高すぎて他人と衝突しがちなところがある。

 だが逆に言えば、どんな理不尽にもまっすぐ怒れる若さがある。そういう意味で、「EUNOIA」内での彼の評価は二分されていた。

 とはいえ、そんな彼。『アルテミック・ウェポン』の世界においては、比較的穏当な人物である。これで。

 

 昨今のオタクコンテンツでは、性格や言動に難のある問題児が受ける傾向にある。これには色々と理由があると思うんだが、そういう問題児に共通している傾向は一つ。

 問題はあっても、プレイヤーのことが大好きであるところは疑いようがない点。

 とにかく問題のある人間が、プレイヤーに重い感情を向けてくるのだ。あれほど問題のある人間が、こんなにも自分を好いてくれている。こいつを制御できるのは自分しかいない。

 そんなところが、プレイヤーに受けているんだろう。

 正直、俺もそういうキャラは大好きだ。

 

 『アルテミック・ウェポン』もその例に漏れず、問題児が多い。というか、何だったら敵役であることも多い。最初は味方として登場し、裏切ってから見せ場を作って死ぬヤツがとにかく多い。

 某FGO並に、イベストの新規実装キャラはとりあえず黒幕と疑っておけ、と言われるくらいだ。

 ただ、例外なく主人公に対して方向性は置いといて、クソデカ感情をぶつけてくる。これがまぁ、受けるのだ。

 

 しかしここで、一つ……いや二つ問題が生まれる。

 一つは、転生者である俺は主人公ではないということ。

 なにせ、ただの得体も知れない転生者だ。しかも、原作知識をフル活用しまくってるので組織からは結構疑われてると思う。こんなヤツ誰が好きになるんだよ。

 原作キャラが主人公を好きなのは、あくまで特別な存在である主人公だから。

 どうでもいいけど、この世界の主人公は男女選択可能で、どちらにも固有の名前がある。某グラブルとか某スターレイルとかが近いだろうか。ちなみにこの世界だと女主人公だった。はやく「EUNOIA」にやってきてほしい。

 

 もう一つは、この世界が現実であるということだ。

 俺は『アルテミック・ウェポン』の世界を生きる一人の人間であり、原作キャラもゲームの向こう側のキャラクターではなく、一人の人間だ。

 正直、俺はあんまり現実とゲームの区別はついていない。ゲームの中だと思って振る舞わないと頭がおかしくなってしまいそうだから。

 それでもこの世界に生きている人間が、本当に生きていることは知っている。人が死んだらそれまでだということは、知っている。

 だからこそ、俺は彼らに安易なデレとかを求めたりはしない。ゲームの中のように振る舞ってほしいとは思わない。

 なにより――

 

 

 あんな問題児どもに、主人公ちゃん並に好かれたら身体がどれだけあってもたりないわ!

 

 

 今でさえ、一部の連中から危ない視線を向けられているんだ。

 これ以上重い感情とか、勘弁極まる。

 ああー、はやく来てくれ主人公ちゃん。はやく開始してくれ、原作。原作第一部が終われば、面倒なカース問題も解決するし、色々と落ち着くんだよぉ!

 その分第二部はさらなる地獄が待ってるけど、それはそれとして今は早く原作が開始してほしいというのが俺の本音だ。

 

 

 <>

 

 

 その日、特にやることのなかった俺は、自室でゆっくりしていた。

 この世界は元々近未来地球を舞台にしているだけあって、技術は発展している。そのほとんどはダメになってしまったけれど、でかい拠点なら世界崩壊前の文明の恩恵を受けることは可能だ。

 具体的には風呂と娯楽。

 前者は抗体値が低いと水からUMウイルスに感染してしまうリスクがあるものの。ある程度の抗体値を持っていれば問題ない。

 後者は拠点内でしか電波とかは使えないし、新しい娯楽の供給は止まっているけれど、アーカイブに関しては充実している。

 世界情勢がゴミクソ以下の地獄という点を除けば、衛生観念の発展していない中世風ファンタジー世界よりは過ごしやすいのだ。

 

 ただ、これのせいで時たまオタクコンテンツを巡るトンチキイベストが正史で発生するんだよね。コミケモチーフのイベントの時とか、酷かった。今から原作キャラが厄介オタクと化して基地内で銃撃戦を開始すると思うと頭が痛い。

 抗体者がただの銃弾程度で死ぬことはないとは言え、大惨事になったんですよ。反省してくださいね!

 ともあれ、話をまとめると今はオフだから、自室で過去のオタクコンテンツを接種しているという状況だ。

 

「ああー、このソシャゲリアルタイムでプレイしたかったなぁ……最終章がレイドイベとか、絶対盛り上がるやつじゃん」

 

 現在は、未来の高度な技術によってアーカイブ版として再現された、この世界の過去のソシャゲをプレイしている。

 『アルテミック・ウェポン』もそうだったけど、最終章がレイドになるとやっぱり盛り上がるよね。

 とか、思っていたら。

 

 

 不意に、俺の感覚が一斉に警告する。ここにいたら、()()()と。

 

 

「カケルー、あそぼー」

 

 直後、声がした。

 ぞくりと、背筋が震える。その声がするたびに、俺はいつも心の底から恐怖を抱くのだ。

 なぜならその声は、混沌としているから。殺意がまじり、憎悪がまじり、愉悦がまじり、歓喜がまじり、喜色がまじり、愛情がまじり、執着がまじっている。

 あまりにも多くの感情が綯い交ぜになっている。人は一つの側面だけで語れるものではないけれど、これはもはやそれ以前の問題だ。

 

 とはいえ、直感が危機を警告しても、声に俺自身が震えても。

 逃げるということはしない。単純に意味がないのと、一応はこれでもその声の主が味方だからだ。少なくとも、”俺の味方”という点において彼女より信頼できる相手はいない。

 名を――

 

「……カオス、どうしたんだ」

 

 カオス。

 なんというかもう、名は体を表すみたいな少女だった。

 

「あそびにきた、カケル、今日ひま?」

「まぁ、オフではある」

「わたしも、いっしょだね」

「……元々、俺とカオスのオフは同じになるようシフトが組まれてると思うが」

「わたし、カケルがかり、だから」

 

 いや、逆ですよ。

 俺がカオス係なんですよ。

 とは、口に出さない。出すと大変なことになるから。少なくとも今日俺の一日は潰れる。

 

 何にしても、この幼気でありながらもどこか超然とした。目を見ていると不安になってくる少女は、『アルテミック・ウェポン』においては言うまでもなく重要キャラの一人だ。

 具体的には、セカンドアニバーサリーで満を持して実装された限定キャラ。その後も、水着イベとかで別バージョンが実装されたりと、根強い人気を誇る。

 

「わたしはー、カケルのために、ここにいるから」

「……おう」

「カケルが、だいすき、だから。こんなきゅーくつな服、着てるん、だよ?」

 

 たどたどしい、どこか癖になる声音。ド直球な好意。

 人気が出ないわけがない。ちなみに現在はダボダボの――というか、俺の――「EUNOIA」制服を着ているが、ゲームではもうちょっと神秘的というか、ソシャゲらしい格好をしていた。

 これもまた、本人のデザインと相まって人気の秘訣である。

 問題は、それが何だって俺へ執着を向けているのかという話。

 

「ねぇね、カケル、カケル。アレ、出して」

「……イン・エコーズ」

「そう、そう。わたし、アレをもってるカケルが、一番好き」

 

 原因は……やっぱりこれかなぁ。

 イン・エコーズ。前にも言ったが、この武器は原作のとあるキャラからパクったものだ。具体的に言うと、今目の前にいるカオスから。

 正確には、カオスがイン・エコーズを手に入れる前に俺が先回りした感じ。なので、俺の罪悪感以外はこの世界でイン・エコーズを俺が所有することに何の問題もない。

 カオスが、俺に執着しているという点を除けば。

 

 カオスは、元々「EUNOIA」の所属ではない。完全無所属の単騎勢力だった。これには2つの理由があって、一つは「イン・エコーズ」の所有者だから。

 周囲がカオスを敵だと思っていたのだ。本人の浮世離れした雰囲気も相まって、半ばネームドのZOMBIEみたいな扱いを受けていた。

 というか何なら、気まぐれで様々な勢力へ喧嘩を売るから、勢力によっては本当にネームドZOMBIE扱いだったのである。

 もう一つは、カオスがとある研究所の出身だから。試験管ベイビーというやつだ。実験によってカオスは生まれ、研究所がとあるZOMBIEによって滅ぼされた結果解放された。

 以来、ずっと一人で世界中を彷徨っていたのである。

 

 ゲームの中で、カオスは気まぐれに主人公陣営に攻撃を仕掛けてくる敵として登場した。だが、同じ章の中で、章ボスだったクソ組織――「SLAVE」を攻撃。半ば共闘することとなる。

 共闘した原因は、主人公に興味を抱いたから。まぁよくあるやつだな。

 それからも、定期的に敵として出てきたり、味方として出てきたり。カオスはトリックスターとして活躍を続ける。

 章をまたいで登場するキャラが少なかったこともあり、自然とカオスは人気になった。

 

 そうして満を持して実装されたのが、セカンドアニバーサリーイベント「混沌末路」。

 ここでカオスが、幼い少女を助けて友達になったり。その少女を主人公と守ったり。カオスが様々な組織から敵意を持たれているのがイン・エコーズの『不理解』のせいだと判明したり。

 様々な掘り下げがされた後――カオスは死んだ。

 友達になった幼い少女と主人公を助けるために、身を投げ出したのだ。その衝撃的でありながら熱い展開は、カオスの人気を不動のものとしたのである。

 

 こうまとめると、カオスが何か訳ありの善良な少女に思えてくる。

 が、しかし――

 

「――なんか、どろぼーねこのにおい、する」

 

 ――はっきり言おう、カオスは性格が悪かった。

 なんかいい感じにゲームでは退場したけど、ホーム画面に置いたら死ぬほど性格が悪かった。独占欲が強く、時にはそれで主人公を攻撃したりする。

 具体的には――

 

「どろぼーねこ……って、これはソシャゲだぞ」

「おんなのこ、いっぱい出る、ゲーム。敵」

 

 そう言って、俺の元へとずかずか近づいてきて――この世界のスマホに相当する端末を掴もうとしてくるのだ。

 何とか俺はそれを避けようとするものの、カオスはそれを掴み取り――

 

「ふん」

「あっ」

 

 バキッ、と粉砕した。

 端末のデータは、クラウドに保存されているから問題ない。しかし、端末そのものは壊すと始末書物だ。

 事務の人に、これで今月何回目ですか? と白い目で見られてしまう。

 こいつの一番最悪なところは、こういうやってもギリギリ許されるくらいの性格の悪さを発揮するところだ。なにせこいつ、イン・エコーズこそ持っていないけど「EUNOIA」においてはかなりの重要戦力だからな。多少の横暴も許される。子どもだし。

 

「カケルは、わたしだけ、みてればいい」

「あー……なんだ」

 

 正直、最近はこういうことが起きなくなったのもあって、油断していた俺も悪いが。

 

「……まずはごめんなさい、じゃないか?」

「…………やだ」

 

 そういって端末を握りつぶすついでに、ベッドで寝転がっていた俺の身体を押し倒していたカオスは、唇を尖らして視線をそらした。

 ……とりあえず、すぐにでもこの少女を退かさないと、色々まずいことになりそうだな。

 そもそも、何だってこいつは俺にここまで執着してるんだよ。何かいきなり俺の前に現れて、俺をすきすきいい始めたんだぞ。

 

 ゲームにおいて主人公に対して感情重い問題児を可愛いと思えるのは、そもそも主人公に見えない事情をプレイヤーが把握しているという理由もある。現実で同じ状況に陥った俺は、そう声を大にしていいたい!

 

 

 <>

 

 

 カオスにとって、世界とはカケルだ。

 カケルとの出会いは、彼がイン・エコーズを研究所から回収しに来た時のこと。

 原作において、カオスの目覚めは描かれていない。気がつけばイン・エコーズを手にし、世界中を暴れまわっていた。

 だが、この世界においては違う。カケルが研究所へやってきたことで、それに反応して目を覚ましたのだ。

 

 そんなカオスが始めてみた光景こそ、イン・エコーズを手にしたカケルの姿だった。

 

 イン・エコーズのカース『不理解』。それは当然、カオスにも有効に働いた。

 カオスは原作において、自我の薄い存在として描かれる。興味の惹かれるままに世界を放浪し、感情のままに行動するのだ。

 その行動が、『不理解』もあいまって、まさに混沌としているように周囲から見えるのだ。

 だからこそ、『不理解』によって発生するカケルへの強い感情は、まるでインプリンティングのようにカオスへ刷り込まれた。

 

 ただ結局、それは執着の根本的な理由でしか無い。

 本質的にカオスがカケルに意識を向けたのは、そのチグハグな行動によるものだった。

 カケルは生存のために、自己犠牲に走る。生きたいと強く願っているのに、自分を犠牲にして誰かを助けようとする。

 矛盾しているのだ。そしてその矛盾を、人々は理解できない。カオスとてカケルの本質を見抜いた訳では無いが、大きな矛盾とそれによる混沌をカケルが抱えている事はわかった。

 

 ああ、なんて不可思議で、理解できない存在なのだろう。

 人というのは、つまらない。理性というよくわからないもので、本当の感情を否定する。だけどカケルはどうだ。少なくとも彼は、生きたいという感情のために生きている。

 その生命の輝きこそ、カオスが見たかったものなのではないか。

 本気で、そう考えるようになっていた。

 

 だが、カオスにも悩みはある。

 どうにも、カケルの存在は周囲の人間を惹きつけるのだ。

 それはカケルが特別だから――ではない。むしろカケルの性根は普通の人間だ。休みの日はソシャゲをプレイしながらダラダラする、ちょっとダメなオタクだ。

 それでも、戦場に出れば彼は常人のメンタルで、普通ではできないことをやってのける。

 

 結局のところ、それは端からみれば、彼が特別と思っているこのゲームの主人公と変わらないのだ。特別な存在ではあるが、その人間性はあくまで一般人のそれ。ただし、この絶望的な状況でも前に進める強固な精神を持った一般人だ。

 あえてカケルと主人公の違いを上げるなら、それはカケルが未来を知っているということ。

 未来を見通した、異様な行動とそこから発生する異次元の成果は、イン・エコーズのカースも相まって原作主人公とは違う印象を周囲に与える。

 

 まるで、救世主のようだと誰もが思う。

 

 ああ、本当にカケルの存在は面白い。

 カオスは思う。叶うことなら、そんな救世主には自分だけを見てほしい、と。あらゆるすべての人間を救う傑物が、カオスという個人に溺れるさまを見てみたい

 幼いながら、情緒が育っていないながら、カオスは普通に性格が悪かった。結果、カケルという英雄が自分だけを見てほしいという歪んだ願望を、抱いてしまったのである。

 これが原作のように、願望を抱かぬまま世界を放浪し、幼子との友情を築いていたらまた違った未来もあっただろうが。

 

 少なくとも、この世界のカオスはカケルによって歪んでしまった。それがもとに戻ることは、二度と、金輪際、起こり得ないだろう。

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