人類詰みかけソシャゲで、問題児に囲まれても生き残りたい 作:つみそ
その日、俺はアシュラとの濃密すぎる一時……もとい、模擬戦を終えて泥のように眠っていた。
あいつとの模擬戦は、本当に疲れる。一瞬でも油断したら、そのままこの世の終わりみたいなことになりそうで怖い。
とにかく、ワンチャンすらないアイツの強さがイカンのだ。最強キャラは最強であることが仕事だけど、カマセにされるのも仕事の一つだぞ。
まぁ、原作で噛ませにされることなんて一度もなかったアシュラがカマセにされたら、俺は多分一日寝込むが。
何にせよ、その日はぐっすり眠りについて、明日から頑張ろうと思っていた夜。
けたたましい警報音が、”敵”の襲撃を告げた。当然俺は叩き起こされた。
「――カケル、人を殺す顔、してる」
「寝てるところを、面倒な連中に叩き起こされたんだ。そいつらを殺したくなるのも仕方のないことだ」
「過激、そういうの好き。わたしを、殺そうとしても、いいよ」
それはもう苛立ちを隠そうともせずに通路を歩いていた俺のもとに、とことことカオスがやってくる。
服装は「EUNOIA」に入ってくる前の格好だ。要するに原作準拠。ネグリジェみたいな格好なので、そのまま寝間着に使っているらしい。
とにかく、俺はカオスの胡乱な発言を無視して問いかける。
「そういうカオスも、人を殺せそうな顔をしているが」
「始末書、終わらぬ。過去のわたしを、殺したい」
「自業自得じゃねぇか」
じゃあ壊すなよ、端末を。
といいたいところだが、これ以上の雑談はなしだ。襲撃者対応のため、俺達はそのまま基地の外へと向かう。
そこでは――
「フウスイ部隊、交代してください! ベルク部隊とツチクレ部隊は前へ! 一人も基地の中に入れないでください!」
一人の少女が、陣頭指揮を取っていた。
茶色の長い髪と可愛い系だが、凛とした顔立ち。背丈は百六十あるかないかで、年齢は今の俺と同じくらい――十代後半だ。
「EUNOIA」の制服の上に、コートを一枚羽織っている。
名を――
「――どろぼーねこだ」
――アズサ・イチノセという。
カオスの言っていることは無視だ、無視。
「アズサさん!」
「カケルさん! それにカオスちゃんも、来てくれたんですか!?」
「カケル、カケル、まずはこいつから、殺そ!」
カオスには反応しない。カオスの過激な発言は、俺に反応してもらいたいから言っているだけだ。本気で殺すつもりは……まぁ、あるけど面倒なのでやろうとはしない。
ここらへん、安易に人を殺すことのデメリットをコンコンとカオスに伝え続けてきた俺の成果だ。
「すいません、情報共有から頼む」
「わかりました。まず、襲撃してきたのは『SLAVE』です。数は――」
そこから、アズサさんと情報共有をする。
攻めてきたのは、この世界におけるヒャッハー組織筆頭のモヒカン共。数が結構多いことから、組織内で派閥争いに負けた連中が、鉄砲玉にされてる可能性が高い。
要するに、ヒャッハー上等のモヒカンとはいえ、人は人。それも組織の構成員だから、組織はそれを養う必要がある。
でも、この世界だと食い扶持は限られるので、間引きが必要なのだ。
ようするに、こいつら死ぬためにここまで来たってわけ、ふざけてんのか。
「じゃあ、あいつら、殺していいんだね。わくわく」
「ダメだ、『EUNOIA』は人道的な組織なんだよ。殺すんじゃなくて事故死させろ」
「それもダメですよぉ!」
いかんいかん、叩き起こされたのとヒャッハー共のクソみたいなゴミ捨てに苛立って、発言が荒くなっている。
心までカオスになるな、というやつだ。
そんな荒んだ俺とは違って、アズサさんはいたってまともな返答をして見せる。
この人は、本当に優しい人だなぁ。
原作においても、問題児の多い『アルテミック・ウェポン』の中で唯一と言っていいほど、アズサさんは善良で表裏のない優しい人である。
いや、善良という意味でなら一応アシュラだって善良なのだけど、裏が無いわけではない。
言い方はアレだが、アズサさんは安牌なのだ。原作で過去がすべてしれており、裏に抱えるものがない。
原作におけるアズサさんは原作主人公が最初に目覚めた時、アプリアイコンにもなっている正ヒロインといっしょに主人公を拾ってくれるポジションだ。
ゲームがサービス開始した当初に実装されていた、最高レアの一人でもある。
そうして、この世界のことを主人公に少しずつ教えてくれるのだ。
なんてありがたい人なのだろう。
「つまり、片方の守りはアシュラが単独でやって、もう片方はこうして抗体者を集めて部隊編成をしてる……と」
「アシュラさんとお二人以外の固有武装持ちには、河から単独で侵入してくる敵がいないか警戒してもらってます」
さて、俺達が暮らす「EUNOIA本部基地」は河に囲まれた要塞だ。
入口は二つしかなく、侵入するにはその二つの入口を突破するか、河を渡って侵入するしか無い。
当然ながら、河からの侵入にはセンサーの類を取り付けてあるんだが、中にはUMウェポンの能力とかで突破してくるヤツもいるな。
今回相手しているヒャッハーに、そういう類の抗体者はいなかったはずだが。
というか彼奴等、一応組織の理念に則ってUMウェポンで武装はしていないはずだが。それはそれとして、警戒は必要だな。
「じゃあ俺からも提案。万が一河から侵入するアホがいた時のために、先日開発した防護装置を使いたい。プロフェッサーに許可の申請を頼めるか?」
「防護装置……って、この前カケルさんがプロフェッサーと一緒に作ってたアレですか? 過剰だと思いますけど……」
「いいんだよ、『SLAVE』相手に、万が一でも基地の人間を攫われたくない。使われなかったら、それはそれで問題ないしな」
プロフェッサーってのは、アシュラと一緒に「EUNOIA」を運営しているトップだ。戦闘要員ではないが、「EUNOIA」の設立者である。なので共同で運営しているとはいえ発言権はアシュラより強い。
ともあれ、俺が今回襲撃してきたヒャッハーを気にするのは、アズサさんにも理由がある。
簡単に言うと、今回襲撃を仕掛けてきた「SLAVE」って組織は非常に非人道的な組織だ。そんな組織に人が攫われると、碌でもないことが起こる。
それが抗体者の身内だったら最悪だ。それを人質に、良からぬことをさせられる場合もある。
そう、アズサさんに裏はない。だが、ゲーム内ではそんなアズサさんに裏ができてしまう。妹がいるのだ、アズサさんには。
妹さんが攫われたゲームのアズサさんは、「SLAVE」の言いなりになってしまい――このゲームにおける最初の裏切り者となった。
同時に――プレイアブルとしては最初の犠牲者でもある。
いやあ衝撃的だったね。まさかプレイアブルになってる美少女が事情こそあるけど裏切った上にそのまま死ぬとは思わなかったのだ。
正確には、妹さんが既に亡くなっていると解ったため、下手人を道連れに主人公達を襲っていたネームドZOMBIEへ致命傷を与えたのである。
その壮絶な最後は、プレイヤーを『アルテミック・ウェポン』へ惹きつける分かりやすい導火線となった。なにせゲーム開始当初、公開されていたメインストーリーのラストがそれだからな。
ともあれ俺は、そういう理由で今襲いかかってくるヒャッハーを、一人でも中へいれるわけには行かないのだ。
ただでさえアズサさんは貴重な戦力なのに、基地内唯一と言ってもいい癒やし枠を失うわけには行かない。
「きょ、許可とれました。でも、本当に使う機会なんてあるんですか?」
「ないならそれでよし、あったら――」
「ころせば、よし」
「いや、殺しはしないが……」
あくまで防護装置は、ヒャッハー共を捕獲するための装置だからな。
殺すためのものではない。
「おはなし、おわった?」
「ああ、待たせて悪かったな」
「わたしを一秒、またせるごとに。ひとり、敵を殺すね」
それをまたせた後に言うのは、普通に性格悪いよな。
まぁ、カオスのことだ。実際に殺すのは半分くらいに抑えてくれるだろう。というか、本人は殺さないつもりで戦ってくれるだろう。
加減が効かないから、うっかりやってしまうだけで。
「殺さないように、頑張ってくれ」
「ん、先行ってる。――行こう、ガジェット」
カオスが自分のUMウェポンを抜き放つ。
このUMウェポン『ガジェット』は、現在「EUNOIA」が把握しているUMウェポンの中で最もスペックが低いとされている代物だ。
代わりに、カースが非常にゆるい。
なんだってそんなUMウェポンをカオスが握っているかというと、俺がイン・エコーズをパクったことで、別のカースが重いUMウェポンをカオスが握るのは悪いと思ったのだ。
そして、カオスがそんなスペックの低い武器でも、「EUNOIA」有数の戦力に数えられるほど強くなる事を、俺が知っていたからというのもある。
必要なら別の武器を握ればいいしな。
武器の形は、鎌。カオスが最も使いやすい形である。最初はナイフだったんだが、カオスが手にするタイミングで改造してもらったのだ。
俺も後を追うように、イン・エコーズを抜き放って戦場へ飛び込む。
「おらあああ! 殺せ殺せ! 弾丸全部叩き込めええ!」
「くそ、できるだけツチクレの影に隠れながら、制圧するぞお!」
戦場はヒャッハー共とうちの隊員たちの怒号で、混沌としていた。カオスが目を輝かせている。
「何人ころそ、何人ころそ」
「殺すなって」
直後、楽しげに揺れるカオスの視線が、こっちを向いた。
「……決めた、カケル、殺す!」
「うわああああああ! カケルさんとカオスちゃんが援軍に来たと思ったらカオスちゃんがカケルさんを攻撃したあああああ!」
「いつものことだろ、ほっとけ! と言うか近寄るなよ! 余波で普通に死ねるからな!」
まさに混沌。
俺は突っ込んできたカオスの鎌にイン・エコーズを引っ掛けて、カオスをヒャッハー共の中に投げ飛ばして叫ぶ。
「あー」
「全員、防御しながら後退! こいつらは俺とカオスで片付ける! 逃げ出そうとしたやつは追うなよ!」
「は、はい!」
後退し始める仲間と、後方で吹き飛び始めるヒャッハー。
俺はイン・エコーズを構え、
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UMウェポン持ちの抗体者ならともかく、銃を持って武装しただけの相手に遅れを取ることはない。殲滅はあっという間に完了した。
一応「EUNOIA」は襲撃してきた連中を殺さない方針なので、制圧のために多少手間取るものの。それでもなんてことはない作業だ。
なお、殺さない方針とはいっても努力目標なので、普通に死人は出る。カオスとか、気をつけてても敵の生存率が五割切ってるかもしれない。
俺? 俺は基本死人はゼロだよ。生き残りたいってやつが人を殺しちゃダメでしょ。
制圧を終わらせた所でアシュラから通信が入る。急ぎの用事らしく、個人回線ではなく「EUNOIA」の全体回線だ。何かあったのだろうか。
『こちらアシュラだ。カケル、君の防護装置が役に立ったよ』
「河から侵入してきたヤツがいたのか?」
『ああ、それも抗体者だ。装置がなかったら、怪しかったかもしれん』
そいつは重畳。
というか時期的に、そろそろ原作が始まってもおかしくない時期だ。狙いはアズサさんの妹さんだったかもしれないな。なら、なおのこと良かった。
『それにしても、こんな高いものよく用意できたな? とてもじゃないが、『EUNOIA』の予算で用意できるものじゃないぞ』
「私費だよ。俺の金は有り余ってるからな」
世紀末としか言いようのないこの時代においても、組織の運営にはお金が必要。とてもじゃないが俺とプロフェッサーが開発した防護装置は予算内で設置できるものではなかった。
だから俺が設置したんだ。これも俺が生き延びるため、必要経費である。
の、だが。なんか通信の向こうから恍惚とした雰囲気を感じる。怖い。
『ああ、それは……素晴らしいな……』
「それで、そっちの殲滅は?」
『無論、完了しているとも! ああ、君と肩を並べて共に戦いたかった。君の戦い方を真似して死者を出さずにやってみたんだ。ああ、本当に感服するよ君はどこまですばら――』
そこで通信が途絶した。
多分、長くなりそうなので通信士が独断で切ったんだろう、周囲から「グッジョブ」という空気が漂う。
さて、俺は頑張ったんだ、あとの処理は他の人に任せてもいいだろう。「隙あり!」と飛びかかってきたカオスをとっ捕まえて抱え基地に戻ろうとする。そこで――俺はあるものを見た。
なんだか、うっとりとしたような笑みを浮かべるアズサさんだ。
思わず、ドキッとしてしまうような妖艶さだった。抱えているカオスの視線が痛い。
「ああ、カケルさ――」
「――アズサさん?」
「ふぇ……? え、あ! 失礼しました。お疲れ様ですカケルさん」
「後のことは、任せても?」
そして、正気に戻った様子のアズサさんに呼びかけると、いつもどおりの笑みでアズサさんは答えてくれた。さっきのアレは何だったんだ?
「任せてください。この方たちの収容も、その後の
「それはよかった。……じゃあ、よろしく」
大丈夫とのことなので、任せることにした。だから既にウトウトし始めているカオスを抱え直して基地に戻る俺は、アズサさんの表情を視ることなく、その場を立ち去ったのだ。
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「SLAVE」の鉄砲玉を収容施設に収容したアズサは、自室に戻ってきた。
アズサの部屋には、アズサの他に彼女の唯一の肉親である妹が暮らしている。鉄砲玉達の襲撃で目を覚ましてしまったのだろう、妹は寝ぼけ眼でアズサを出迎えてくれた。
「おかえり、お姉ちゃん」
「ただいま。いい子にしてましたか?」
「うん……
ならよし、とアズサは妹の頭を撫でてから「EUNOIA」の制服を脱いでラフなスタイルでベッドに腰掛ける。妹を寝かしつけなくてはいけないからだ。
それからアズサは、先程あった出来事を妹に話す。するとベッドの中で妹は――
「ねぇお姉ちゃん、どうしてその人達はそんな悪いことをするの?」
と、問いかけてくる。
対してアズサは――
「それはですね? カケル様のことを彼らが知らないからですよ」
と、返した。
アズサ・イチノセ。
カケルにとっては、「EUNOIA」において最も信頼のおける相手。裏に抱えたものがなく、優しく、真面目な同僚。
だが、それはあくまで前世の認識によるもの。
この世界におけるアズサは――
「カケル様は、尊く素晴らしいお方です。あの方のことを知れば、きっと彼らも改心するはずです。まかせてください、そのために私はここにいるんですから」
その狂信ぷりは、主にこうして捕らえた他勢力の捨て駒や構成員に対して、カケルの存在を布教――洗脳することで発揮される。
「お姉ちゃんは、どうして普段はカケルさまのことを、カケルさんって呼ぶの?」
「それは……昔の私が愚かだったからです。あの方のことをよく知らなかったから、気安く接してしまったんですよ」
「そっか……じゃあ、どうしても今もカケルさん、って呼ぶの?」
妹の問いかけに、頭を撫でながらアズサは答える。
「カケル様は日常を尊ぶ方ですから、変に私がかしこまった態度を取ったら、悲しんでしまいます。それに、これは愚かな私への罰でもあるんですよ」
「そっか……お姉ちゃんは大変だね」
「いえ、いいんです。これもすべては、カケル様のため」
そうして、アズサは――
「この世で、最も愚かな人間は過去の私です。だからこそ、その罪を雪ぐため、この世で二番目に愚かな人たち――カケル様の事を知らず、悪行に走ってしまう者たちを改心させなくてはいけないんですよ」
今日も静かに、イエスカケルノータッチの精神で狂っていく。
イエスカケルノータッチ、ユーノイアの鉄則です。
日間上位になりました、高く評価していただき大変うれしく思います。
以降の話も楽しんでいただければ幸いです。
本当にありがとうございました。