人類詰みかけソシャゲで、問題児に囲まれても生き残りたい   作:つみそ

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七 地獄よりはマシな場所

 俺の故郷は、地下に作られた狭いシェルターだった。

 そこに何組かの家族がいて、「EUNOIA」の支援を受けながら対価としてシェルター内でもできる労働の成果を彼らに渡して暮らしていた。

 環境は、正直あまり良いものではなかった。

 「EUNOIA」がどれだけ理想主義な組織でも、無い袖は振れない。俺達のシェルターみたいな場所は世界各地にあったけど、その全てに拠点と同じだけのものを提供することは不可能だ。

 

 加えて、シェルターに暮らす人間はほとんどが抗体を持たないか、抗体値が低い人間である。俺の他にUMウェポンを使用できるほどの抗体値を持つ人間は一人しかいなかったな。

 そんな場所だから、当然ながら高い抗体値を持つ俺に対しての扱いは……酷い、とは言わないが壁を感じるものだった。

 両親ですらそんな感じだったし、唯一まともに相手をしてくれるのは妹くらいだ。

 

 だから、故郷に思い出なんてほとんどない。

 それでも、彼らが理不尽にZOMBIEとなって死んでよかったか、と問われても。それもまた否だと、俺は考えていた。

 

「――なにもない、場所」

「そうだな。もうとっくの昔に、終わった場所だ」

 

 結局ついてきたカオスと二人で、シェルターへの入口を開放する。

 もう既に電気は通らなくなっているので、開放するには腕力に頼る必要があった。とはいえ今回は、直前に一度開放された痕跡があり、そこまで苦労はしなかったが。

 

「誰か、来てるね」

「……だな」

 

 それが誰かは、俺の中で既に見当はついているものの。カオスに話す必要のある内容ではないので、語らない。なにせ、話してもこいつは面白がるだけだ。

 話してほしそうにしているけれど、無視である。代わりに俺はあるものをカオスに手渡す。

 

「ほら、これつけろ」

「……マスク?」

「防染マスク、UMウィルスの感染とかを防げる」

「わたし、いらないよ」

 

 確かに、カオスくらいの抗体値があればどんな場所でもUMウィルスに感染することはないだろう。俺だって、この下に蔓延してるウィルスで感染するほどではない。

 だから、これを付けるのは別の理由だ。

 

「――臭いだよ、流石にお前だってこれは耐えられないと思うぞ」

「え? ……うわ」

 

 地下を開放したことで、地下から漂ってくる()()が俺達の元まで届いてくる。カオスは顔をしかめて、げほげほと咳をした。

 

「やっぱ、中、入らない」

「こいつ……まぁ、それならそれでいいけど」

 

 その方が、俺としても助かるしな。

 と思っていたら、カオスはふくれ面で俺の持っているマスクを奪い取った。

 

「嘘、やっぱり入る」

「こいつ……」

 

 本当に、こう……本当にこいつ!

 まぁ何にしても、カオスは基本ブレない。ブレずにこいつって感じを貫いてくる。この下に何があってもカオスは平然としているだろう。

 臭い以外。

 

「カケル、行こ」

「……解ってるよ」

 

 二人でマスクを付けると、ゆっくり中へ足を踏み入れた。

 

 

 <>

 

 

 暗がりを、慎重に進む。

 電気の通らないシェルターの中は、完全なる深淵だ。そこを、抗体によって活性化した視力による暗視で進んでいく。

 階段を降りきると、狭い地下空間が広がっている。

 

「……足元気をつけろ」

「なんで?」

「一部が崩れてるのと――そこに吐瀉物がある」

「げえ」

 

 人がいた痕跡だ。この腐臭の中を、マスクも付けずに入ったのだろう。

 俺は過去に何度かここを訪れているから、マスクが必要なのを理解しているが。先にここへ侵入したヤツは一度もシェルターが崩壊してからここを訪れていないということだ。

 まぁ、そりゃそうだよな。

 

「……カケルは、ここでどんな暮らしをしてたの?」

「ここが抗体値の低い人間用のシェルターだってのは、見れば解るだろ?」

「ん」

 

 解ってるんだか解ってないんだか、なんとも言えないカオスの返事。構わず俺は続ける。

 

「そういう人間は、『EUNOIA』か『浄化連合』の支援を受ける」

「じょうか……何?」

「……『人類浄化連合』、『EUNOIA』と並んでこの世界で数少ないまともな組織だよ」

 

 一言で『EUNOIA』と『人類浄化連合』を例えるとSCP財団と世界オカルト連合だ。余計わからない?

 方針は違うけど、人類の秩序のために戦う組織ってことだな。敵対することもあれば協力することもある。

 

「俺達はZOMBIEの治療を目的としているが、『浄化連合』はZOMBIEの殲滅を目的にしている」

「……そっちのが、よくない?」

「そう考える人間は、まぁ少なくない」

 

 今のところ、『EUNOIA』のZOMBIE化治療薬は全く完成しそうにないしな。

 なんなら原作の第二部まで入っても、一向に完成しない。そもそも研究者のプロフェッサーがいなくなるから、完成どころじゃないんだが。

 

「何にしても、支援を受けたシェルターは、代わりにそういう組織が欲しがるアイテム……UMウェポンとかを製造してるんだよ」

 

 他にも、単純な補給物資とかな。中には、地下に大きなプラントを有しているシェルターもあるそうな。そういうシェルターなら、もう少し生活環境も良かったんだろうなぁ。

 

「うちはまぁ、小さなシェルターだったから、あんまりいい環境じゃなかったな」

「くさいし」

「臭いのはシェルターが崩壊したからだよ」

 

 多少かび臭くはあったが、別に暮らせない程じゃない。

 辛気臭い場所、というのが全てだ。そんな、かつてあったここでの生活。それを意識しているのかしていないのか、カオスがシェルターの中をキョロキョロと観察しながら俺に声をかけてくる。

 

「すこし、ふしぎ」

「何が?」

「カケル、ここに、思い出、あまりない、よね」

「……まぁ」

 

 否定はできないだろう。というか、誰だってここの環境を思えば感じるはずだ。このシェルターは抗体者には生きにくいだろう、と。

 換気は最低限で閉鎖的。UMウィルスへの抗体値の低い人間が抗うには、こういう環境でなくてはならなかった。

 だが、抗体値の低い人間からも、抗体値の高い抗体者は生まれてくる。

 

「俺は、疎まれてたよ。というか、俺に限らず抗体者になれるヤツは疎まれてた」

「他にいたんだ」

「まぁ、何世代か生き残ったシェルターだしな。同年代にも、一人いた」

 

 抗体値の高い人間を、低い人間は受け入れられないだろう。天運に恵まれて、この世界で生きる権利を与えられた存在。

 薄暗いシェルターで息を潜めるしかなかった自分たちとは違う、恵まれた存在。

 そう生まれてしまった時点で、俺は彼らから疎まれる他なく。

 

「じゃあ、そいつら、カケルに嫌なこと、した?」

「……してない。疎まれてはいたけど、何もされなかったんだ」

「なんで?」

 

 なんでって、そりゃ――

 

「……諦められてたからだろ。抗体値の高い人間は、シェルターの外でも暮らしていける。大半が外の世界へ出ていっちまうんだ」

 

 いずれいなくなる人間に、悪感情を向けてもしょうがない。

 いずれ死ぬ自分が、生きている人間を攻撃しても意味がない。

 そんな、諦観がこのシェルターには満ちていた。

 

「この世界は、そんな場所ばっかりだ」

 

 そして、それはありふれた話だ。俺のシェルターだけが、こうだったわけじゃない。そしてそういうシェルターがZOMBIEによって壊滅することも、また。

 

「ZOMBIEが、シェルター、破壊した。……カケルだけ、生き残った」

「そうだな」

「他の人、ZOMBIEになった」

「……ああ」

「じゃあ、やっぱり、ふしぎ」

 

 そうして、カオスは立ち止まると振り返る。

 淀んだ、喜悦と殺意の混じった瞳が俺を覗き込む。吸い込まれそうになるほど、深淵と混沌の満ちた瞳で問いかける。

 

 

「どうして、カケルはここの人たち、ころさないの?」

 

 

 ジッと、見つめてくる。

 カオスの言う通り、俺はここの住人を一度も殺したことがない。ネームドのせいでZOMBIEになった後、「EUNOIA」の人たちが俺の救出に来て。一度殲滅してそれっきりだ。

 

「……必要がないからだよ。このシェルターは入口さえ封鎖すれば中のZOMBIEは外に出てこれない」

「それが、かわいそうって人、いるよ?」

「……解ってる」

 

 世の中には、ZOMBIEは死んでるときの方が幸せなんじゃないか、という考えの人がいる。

 なにせ、ZOMBIEは動いている間は生きているように見えるからだ。もしZOMBIE化してもその間の事を覚えていたらどうする?

 もし仮にUMウィルスの特効薬が完成して、彼らが人に戻れたとして。

 こんな地獄みたいな状況の記憶を持っている彼らが、元の生活に戻れるのか?

 だから「EUNOIA」はZOMBIEを間引くのだ。今生きている人たちのためだけではない。ZOMBIEになってしまった人のためにも。

 

 無論、逆の考えもある。間引かれたときの記憶を覚えていたら、とか。そもそもミンチにされた後再生した人間は、同じ人間と言えるのか? とか。

 いろんな考えがあって、色んな理由で人はZOMBIEを殺したり、殺さなかったり。浄化したり、しなかったりする。

 その中で、俺は――

 

「――資格がないんだよ、俺にはZOMBIEをどうこうする資格がない」

「へんなの」

 

 「EUNOIA」の仕事として、間引いたり浄化したりはする。

 俺に襲いかかってくるなら、反撃はする。ネームド連中はそもそも人間じゃないし、討伐しないと後々に関わるから殺す。それでも、自分から積極的にZOMBIEを排除しようとは思えない。

 

「さっきの、すらべのひゃはーにも、そうだったよね」

「すら……なんだ?」

「カケル、みのがした。そのあと死ぬって、わかってたのに」

 

 ええと……おそらく、俺をベルクで殺そうとして、失敗した後逃げた男だろう。

 たしかにアイツも、放っておけばその後死ぬとわかっていたし、実際にZOMBIEとなったところを確認している。

 

「攻撃してきた人間を、助けないことがそんなに不思議か?」

「ふつう。でもカケル、それにも、資格って、言う」

「……まぁ、そうだな」

 

 言いながら、カオスは背を向けて再び先に進む。

 無言のまま、先程までの周囲に興味を向ける様子はどこに行ったのか。

 ずんずんと一直線に、周囲の居住区を無視して、奥へ。

 奥には、入り組んだ作りの狭い工場設備がある。このシェルターが「EUNOIA」に提供していた工業製品を、生産するための場所だ。

 そして今は――

 

「じゃあ、カケルが、壊そうとしなかった、この、場所を……」

「……」

 

 ――ZOMBIEがここに集まっている。本来ならば、理由もわからずに工場を歩き回っていることだろう。

 だが、今この瞬間は――

 

「むちゃくちゃに、されてても――」

 

 

 そのZOMBIE達が、ことごとく鏖殺されていた。

 

 

 俺達より前に、このシェルターに逃げ込んだやつがやったのだ。

 それ自体は当然なことだ。安全地帯を求めて逃げ込んだのに、そこでZOMBIEが闊歩してたら殺さなければ身体を休められない。

 そのうえで、カオスは俺に問いかけてくる。

 

「――それを、とがめる資格、ない……って言う?」

 

 

 <>

 

 

 ――カオスは、カケルが無茶をする理由が自己犠牲ではないと知っている。

 自分がイン・エコーズの「不理解」によってカケルを誤解していると、理解している。

 その上で、カケルが本当はどんな理由で自己犠牲染みた無茶に走るのかまでは、知らない。

 カケルが生き残るために無茶をしていると、知らない。

 

 だが、それ以上にわからないことがある。

 

 カケルがどうして、そこまでして生存に拘るのか、だ。

 先日の模擬戦見学にカオスは参加していなかったが、それでもあの場で何が起きていたのかは解る。カケルという凡人だった狂人が、努力だけでアシュラという才能に千日手まで持ち込んだのだ。

 それは、普通ならできることではない。

 

 言い換えれば、普通の人間なら諦めるということだ。

 

 だが、カケルは諦めていない。だとすれば、そこには理由があるはずだ。理由がなければ、そこまで凡人は強く成れないはずだ。

 だからカオスはそれを知りたい。

 知ろうとする。

 

「……ひどい、光景」

「そうだな」

「でも、カケル、しょうがない、っていう」

 

 二人で、工場の中を進んでいく。

 そこかしこにはめちゃくちゃにされた死体があって、先にやってきた誰かは明らかに尋常でない暴れ方をしている。

 カケルが教えてくれた、「SLAVE」にはUMウェポンのベルクを数本もって脱走した抗体者がいる、と。

 本人もベルクの使い手で、おそらく今もそれを使っているだろう、と。

 

「カオスが倒したモノケイン……サルは負傷してたか?」

「うん」

「多分、ベルクのカースで暴走した上に、全開放でZOMBIE化の侵食まで受けてるな。リミッターを壊して、限界を越えて全開放で暴れまわったんだ」

 

 まるで、見てきたようにカケルは言う。

 おそらく、ある程度状況が推察できているのだろう。

 

「ここをこんな風にしたヤツは、サルと戦って倒しきれず逃走。暴走と侵食に苛まれながら、なんとかここまで逃げ込んだ」

 

 そうして、襲いかかってくるZOMBIEを蹂躙しながら奥へ逃げ込んだ、とカケルは言う。

 だが、カオスが聞きたいのはそんなことではない。そんなどうでもいい相手の話ではないのだ。

 視線を辺りに向ける。何か、カケルのことが解る情報がここにはないか。一応、心当たりならばある。カケルは以前言っていた、カケルには妹がいる、と。

 もし生きていたなら、今すぐにでも殺しているだろうが、ZOMBIEならそれでもいい。

 その女がいれば、カケルから何かを引き出せるはず。

 

「――あ」

「どうした?」

 

 ふと、カオスはあるものを見つけた。

 おそらく、カケル達より前に暴れた誰かのせいで吹き飛ばされ、引っかかったのだろう。

 カケルは気がついていない。妹のZOMBIEではないが、アレでも使えないことはないだろう。だからカオスは、カケルの意識を引くために声をかけた。

 

「もし、カケルは、私が――」

 

 周辺への警戒はあるが、カオスが話しかければカケルはそちらに意識を向ける。

 その間に、丁度――天井から、上半身だけのZOMBIEがカケルへ向けて落ちてきた。無論、カケルはそのくらい簡単に反応するだろうが、カオスが先に動いてしまえばいい。

 そして――

 

「こうやって、シェルター、の人、を、めちゃくちゃに、しても、怒らない?」

 

 落ちてきたZOMBIEを、カオスは自身の得物で切り飛ばした。

 既に半分だった身体が更に裂かれ、壁に叩きつけられる。それを見たカケルは――

 

「……むしろ、助かったって言ったほうがいいか?」

「むう」

 

 望んだ答えを、返さなかった。

 カケルは間違いなく、このシェルターの人々へ少なからず感情を向けている。資格がないというけれど、殺せなかったという感情も間違いなくあったはずだ。

 でもそんな人の尊厳を、カオスが目の前で破壊してもカケルは咎めない。

 仕方がないことだから、自分にそれを止める資格がないから、と。

 

 ――このままでは、カオスじゃカケルの心根を引き出すことは難しそうだ。

 

 口惜しいことだ、と思う。

 カケルの一番はカオスでないといけないのに。

 業腹だが――頼る他なさそうだ。

 おそらく、この先にいるだろう”誰か”。カオスにとっては心底どうでもいいが、カケルにとってはそうではない誰か。

 

 カケルは言っていた。このシェルターにはカケルの他に、抗体者がいた。そしてその抗体者は、外へ出ていったのだという。であればどこへ? ここが「EUNOIA」の支援を受けるシェルターである以上、行き先は「EUNOIA」だ。

 そして、「EUNOIA」からベルクを持って「SLAVE」に離反。先程のモノケインの襲撃で暴走と全開放の侵食を受けながら、このシェルターに逃げ込んだ存在。

 

「この先にいるぞ、全開放の侵食でネームドのZOMBIEになった抗体者が」

「……カケルの、()()が」

 

 カケルは、カオスの言葉に答えなかった。




ナチュラルに性格悪いカオスが癒やしみたいな場所
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