人類詰みかけソシャゲで、問題児に囲まれても生き残りたい 作:つみそ
全開放などの理由で、ZOMBIE化した抗体者はネームドになる。
この世界におけるネームドの誕生方法には幾つかの種類があって、抗体者の自爆もその一つ。
その中で、抗体者がZOMBIE化した時の状態は少し特殊だった。
少しの間、自我が残る。ZOMBIE化する前の記憶を保有したまま、暴れまわるのだ。これには色々と理屈があるんだが――
そういうのを諸々取っ払って、メタ的な視点でいうとその方が楽だからだ。
喋れない敵より、喋れる敵の方がシナリオを作りやすいんだよ。ZOMBIE化して暴走した場合、そいつは十中八九シナリオの黒幕だ。
黒幕の背景にあるアレヤコレヤを語らせるにも、自我はあったほうが便利なのである。
だから、ここに逃げ込んだ”それ”にも自我があることは解っていた。
だから、俺は自分が見つけた”それ”に声を掛ける。
「よう、ユーゴ。久しぶりだな」
ユーゴ・トミタ。
俺の同郷で、数歳年上の抗体者だ。故郷にいた頃は、俺と俺に優しくする妹へ何かと面倒を見てくれた。どこにでもいる、気の良い兄貴分って感じのヤツだった。
常日頃から、いつか「EUNOIA」に行ってシェルターの連中の生活を良くすると言っていて。実際に「EUNOIA」に入ったのを見送ったのが最後の記憶。
以来、ユーゴはシェルターへ帰ってくることもなく、シェルターは崩壊。俺もまた「EUNOIA」へ入ったが、ユーゴの姿はどこにもなかった。
シェルターの連中の生活を良くする、どころか。「SLAVE」なんていうクソ組織ででかい顔をしていたみたいで。だから、まぁ――
「――カケ、ルぅ……てめぇ、よく、ここに……カオ、だせた、なぁ!」
振り返り、変わり果てた姿で俺に罵声を浴びせてきても、意外ということはなかった。ただまぁ、内容はアレだが。
化け物が、そこにいる。ギリギリでそいつは人の姿を保っているものの、その全身はぶくぶくと膨れ上がり。同時に、何か触手のようなものが溢れ出していた。
以前から知っている男の顔がその肉袋の中央に貼り付けられているが、それも何れは肉の中に埋もれて消えるだろう。そうなった時が、ヤツの人間としての最後だ。
「……どの口が言ってんだよ、ユーゴ。お前こそ、『EUNOIA』に入って、シェルターの連中の暮らしを良くするってのは、何だったんだよ。やってることが真逆じゃないか」
「うるさい! うる、さい……! てめぇ、さえ、てめぇさえ……居なけりゃ!」
逆恨みにしか聞こえない恨み節で、肉塊の中の顔が俺を睨んでくる。
少し意外だったのは、こういう時真っ先に相手を殺しに行きそうなカオスが、黙っていることだ。俺の後ろで、ジッと俺達を観察しているように思える。
何を考えてるんだか知らないが、俺とユーゴのやり取りに口を出すつもりはないってことか。
「言ってることの意味がわからない。俺がお前に何かをしたか?」
「黙れぇ……! オレはぁ……ここにいた、頃から、てめぇが……鬱陶しくて……鬱陶しくて……仕方がなかったんだよ……!」
蠢く触手が、俺の事を指さしてくる。
そこには、純粋な憎悪があった。
「何、一丁前に……
「……」
「他の、誰もが……諦めて。オレだって、そうだ。抗体者として……この地獄を抜け出せても、結局……特別な、何かに、なれねぇのは……解ってた」
基本的に、今この時代を生きる人間は、生まれた時に抗体値を測る。そうしないと、環境によっては生きていけないからだ。
だから、生まれた時から自分の才能を、限界を知っている。それは、諦めの理由としてはあまりに十分なもの。
「てめぇ……だって同じ、はずだ! 才能なんて、ねぇ! なのに、てめぇは諦めて、ねえ! 生きようとして、やがる!」
「それは……」
「てめぇと、オレの……何が違う! 同じはず、だろ! 同じように、てめぇも地獄に、落ちなきゃ……いけない、はずだ!」
ああ、それを聞いて。
やっと俺はこいつの逆恨みが、理解できた。確かに俺は死にたくない、生きようとしている。このクソみたいな世界で、生きたいと思っている。
こうやって、他人から指摘されたのは初めてだ。「EUNOIA」では、どういうわけか全然指摘されなかったからな。
「お前は……俺が眩しかったんだな」
「黙れ黙れ! てめぇのことなんざ、クソとしか思っちゃ、いねぇ! オレの前に、現れなけりゃ……それでよかった!」
「でも、勘違いしてるよユーゴ。俺は……そんな輝かしい生き方はしてない」
お前には俺が、そんなに妬ましい存在に見えるのか? 誰もが諦める閉鎖空間の中で、それでも生きたいと思うことがそんなにも羨ましいのか?
だったらそれは間違いだ。
「俺に、お前から妬まれる資格なんてないよ。――イン・エコーズ!」
「黙れぇ!」
普段はペンダントになっている、赤黒い血煙の杖を起動する。
手元に現れたそれを振るって、閃光が俺の手元を薙いだ。
怒りに歪んだユーゴの顔。
無数の触手が、俺に向けて放たれる――!
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UMウィルスに対する抗体は、UMウィルスを少量体内に注入すると活性化する。そうすることで、人は人外じみた身体能力を手に入れるのだ。
そうして爆発的に上がった身体能力で、俺は工場の中を駆け抜ける。
その後ろを、ユーゴの触手が追いかけてきていた。
「は、ハハハ! 逃げる……だけかよ、カケルぅ!」
「……器用なことを!」
触手の先端に自分の顔を生み出して、ユーゴが煽ってくる。こいつ、無駄にZOMBIE化した自分の身体を使いこなしやがって。
まず間違いなく、ユーゴの自我がない方がこいつは弱い。でも、そうするにはあと数日の時間が必要だ。ここで戦う以上、ユーゴの存在は無視できないな。
「てめぇは、一体なんなん、だ! 才能も、ねえ! 生まれだって、めぐまれて、ねぇ! なのに、『EUNOIA』の最高戦力、だぁ!?」
「情報収集には余念がないみたい……だな!」
迫りくる触手を、血煙の刃で切り飛ばす。ユーゴの顔も巻き込まれて吹き飛んでいくが、こいつ気にした様子もない。すぐに別の触手を生み出すと、攻撃的な笑みを浮かべてくる。
「いいよ、なぁ! その杖だろ! そいつが、あったから……周りの連中が、チヤホヤしてくれん、だもんなぁ!」
「お前、本当にカオスみたいなヤツに好かれて嬉しいか?」
「知る、かよ! そのガキが……何だって、んだよ! さっきから、気味が悪いだけじゃねぇか!」
まぁ、遠くから見ればそうなるのか。
カオスに限らず、様々な勢力の人間を生かして捕らえて、戦力として利用する「EUNOIA」には厄介なやつが多い。
俺に主に絡んでくる……というか、普段から拠点に常駐してるのはアシュラとカオスくらいだが。
それ以外にも、何かと俺にちょっかいをかけてくるやつも多い。
プロフェッサーだって、理想以外は基本マッドだからな。
「そもそも、ネームドがこの場所に入り込んで……一人だけ生き残ってる、その時点で……悪運は……強えよなぁ……!」
「それは……!」
「はは、他の連中を、踏み台にして、生き残った気分は――」
俺は、ユーゴの顔ごと触手を切り飛ばす。
顔を切り飛ばしても痛みはないのか、こちらを嘲笑う表情のまま真っ二つになったユーゴ。そのまま、地面を転がって消えていく。
だが、触手はまだ残っている。
そうこうしているうちに、俺は戦闘を開始した場所に戻ってきた。
「待てよ、クソがぁ! てめぇだけは……逃さねぇぞ……!」
「チッ……しつこいな!」
見れば、カオスが鎌を手にしたまま、こちらを見返している。
その周囲にはユーゴの触手が散らばっていた。おそらく、カオスを人質にしようとして失敗したんだろう。不思議なのは、それでいてカオスが何も動こうとしないこと。
こちらに対しても、視線で問いかけてくるだけだ。
『助太刀、無用?』
『まだ、いらない』
俺も視線だけでそう返しつつ。再び工場設備の中を飛び回る。
原因は、触手の数と大きさが膨大すぎるからだ。広い場所で戦おうとすると、触手が肉盾のようになって一向に進めない。
触手自体は簡単に切り飛ばせるから、その場で動かないならカオスのように対処できるが、倒すとなるとそうは行かないのだ。
だから工場設備の狭い通路を飛び回って触手の数を制限しつつ、時折こうして元の場所に飛び出して一撃を狙うのだが、上手くはいっていなかった。
「どうした、どうしたぁ! 『EUNOIA』も、大したこと……ねぇ、よなぁ! こんなのが、あのアシュラと……並んで、最高戦力!?」
「流石にそれは……俺を舐めすぎだな!」
さて、そろそろ反撃に打って出てもいいだろう。
俺がわざわざこんな非効率なヒット・アンド・アウェイを選択したのは、向こうの触手のスペックを図るため。
さっきから俺を攻撃しているが、全然当たっていないし切り飛ばすのだって難しくない。
つまり、触手は数が多いのと射程が長い以外は大したことがないということ。
「……全開放!」
「な……正気、か!?」
全開放が原因で、こうして化け物に堕ちてしまったユーゴには、正気と思えない選択を俺は取る。だがこいつは理解していない。全開放は足りないスペックを埋めるために使うものじゃないんだよ。
俺はふたたびユーゴの本体がいる場所に躍り出ると、イン・エコーズを振るう。
現れるのは、無数の血煙による斬撃。フウスイによる弾幕でもよかったが、触手は点で穿つより切った方がどうにかしやすいようだからな。
全開放は、UMウィルスを抵抗値が許容する最大まで身体に取り込むことによって発生する。結果として、身体能力はUMウェポンをただ起動した時よりも圧倒的に向上するわけだが――
当然、戦闘スキルの威力だって向上する。
故に――
「吹き飛べ……!」
器用に、俺とカオスだけを避けて放たれた斬撃の群れは、一瞬にしてすべての触手を粉微塵に切り飛ばした。
「が、ああああ!」
同時に、ユーゴの本体も切り刻む。
どうやら、本体を攻撃すれば普通にダメージが入るようだ。
「抗体値の低い抗体者のZOMBIE化で発生したネームドのスペックが、そう高いはずないだろ!」「ぐ、おお……がああああ! ざっけんなよ、ふざけんな、ふざけんなああ!」
本体に顔を戻したユーゴが、それを歪めながら叫ぶ。
「結局、こうなる、んだろ! オレはなんにもなれ、ねぇ。てめぇが、そうして上から、目線でみてくる、のを……! 受け入れる……しかねぇ!」
「上からは、見てない。俺は――」
「だがなぁ! まさかてめぇ……!」
俺は、そのまま油断なくユーゴに飛びかかる。
触手はすべて切り飛ばした。目の前には無防備なユーゴの姿。だからこそ、ここでトドメを指しに行かない理由はない。
しかし――
「オレの初見殺しが、触手だけかと……思ったかよ!」
直後、ユーゴの顔が喜色に歪んだ。
そして――
シェルター全体で、一斉に爆発が巻き起こる!
俺の足元からも、切り刻んだ触手の肉片がはぜて飛び散る。油断はしていない、だからこそ防御自体はそこまで難しくなかった。
だが、まさか爆発なんて方法をこの地下空間で取ってくるとは、思わない。
「くそっ……正気か、あいつ!」
俺は血煙のツチクレで全身を守りつつ、爆風の勢いで後方に吹き飛ばされる。ちょうど、カオスがいた辺りだ。
まさかこの爆発でカオスがやられたことはないと思うが――
「無事か、カオス」
「煙、酷い。マスク、あってよかった」
カオスは無傷だった。俺と違って、爆発から身を守る壁とかはなかったはずなんだが。純粋に抗体値が高すぎるのだ。鎌を振るうだけで、自分を狙ってない爆発くらいなら弾けてしまう。
「……あんまり何度も爆発すると、シェルター保たない」
「解ってる。けど、アイツの狙いはそこなんだろうさ……くそ、気付くべきだったな」
考えてみれば、死ぬ間際の人間がわざわざ崩壊した故郷に戻ってきてやることなんて、そんな候補があるものじゃない。
ちょっと頭を巡らせれば、推察もできそうなもんだが。全く、考えても見なかったのだ。
「――わかってん、だよ……てめぇが、この場所を……そのままに、しておきたい……ってのは」
爆煙の中から、声がする。
ユーゴが、こちらを狙っている気配がした。いつでも、触手を飛ばしてくるだろう。切り飛ばせば、また爆発でシェルターを攻撃させる。
かといって切り飛ばさないと、いつまで経ってもユーゴに近づけない。全開放のタイムリミットが来てしまう。
「それは――」
「
その言葉に、俺は口を閉じる。
カオスも、こちらに視線を向けていた。相変わらず、その感情は読めない。
「自分を、下にみて……! 他人とは違うことに、浸って、やがる! いいご身分だよ、なぁ!」
「浸ってなんか、いない! 俺は……!」
「てめぇ、は!
その返しに、一瞬言葉が詰まる。
事実だ、俺には前世の記憶がある。それで他者をゲームのキャラクターのように見ることだってある。それが正しいことだとは、到底言えない。
でも、違う、違うんだ。俺の見ているものは――
『――お兄ちゃんの見てるものは、特別なものじゃ、ないもんね』
ふと、過去の記憶が蘇る。
かつて、妹に言われたことを思い出す。
そうだ、俺は――
「――動くんじゃ、ねぇぞ。今から、このシェルターに……オレの触手を、ばらまく……! そして、シェルターごと、お前を潰す」
「逃げたら、無意味」
「好きに、しろ……! オレが潰すのは、カケルぅ! てめぇの、その、くだらねぇ……プライドだ!」
煙がゆっくり、晴れていく。
ユーゴの姿を、再び視界に捉える。
「だが、なぁ……こいつを……見ろ」
そしてその触手が、ある人物を掴んでいるのを、見る。
その人物は――ZOMBIEだ。顔は爛れて、人の形を保っているだけ。
幼い少女である、カオスとそう変わらないくらいの年頃の。
「お前が、逃げてみろ。シオンは――お前の、妹は……ここで、もう一度、ころして……やる」
シオン。
俺の妹を、ユーゴは人質に取っていた。
「EUNOIA」のカルト化が「SLAVE」にバレてたのはこの男のせいなので、誰もがカルト化を把握しているわけではないです。