鷹と蝶   作:ナカイユウ

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面白いやつら

 「晴人!上手じゃあないか!」

 「兄ちゃんの真似して描いたんだ!」

 

 物心がついたときから、俺は何かと柊仁の真似をしていた。理由は単純明快で、柊仁に出来ることが自分でも上手く出来ると、決まって両親とかじいちゃんばあちゃんが俺のことを褒めてくれたからだ。

 

 「末っ子は上の子を真似て成長も早いって聞くけど、晴人は器用な子だねぇ…」

 

 まだ俺がバドミントンを始める前の小さかったある日、柊仁の真似をして描いた絵を見たばあちゃんが()()()()だと言って褒めてくれた。あの日から俺は、自分は何でも出来る器用な人間なんだと思うようになった。

 

 「そうそう真っ直ぐ、晴人くん上手いねぇ!」

 

 実際、柊仁がやっていたことをいくつかモノに出来るだけの器用さはあったと俺は今も思っている。例えば自慢できるほどの腕じゃないけれど、絵がそこそこ描けるくらいのレベルになれたのは柊仁の絵を真似たおかげだ。

 

 パンッ_

 

 そしてバドミントンを始めたきっかけも、もちろん柊仁だった。

 

 「これから更に伸びますよ。柊仁は」

 

 見ているこっちが惚れ惚れするぐらい無駄のない綺麗なフォームで、パンッと甲高く乾いた音をガットで鳴らしながらネットの向こうに羽根(シャトル)を鋭く打ち落とす、柊仁の姿。“兄貴がやっているから俺もやる”とバドミントンを始めたばかりの小1の俺にとって、スマッシュを放つ柊仁の姿はあまりに衝撃だった。

 

 「練習付き合ってくれ!」

 「えーまだやるのー?」

 「1年分やるぞ!」

 

 生まれて初めて柊仁のスマッシュをこの目で見た俺は、バドミントンっていうスポーツに一気にのめり込むようになった。柊仁や、柊仁と同じクラブにいた兵藤さんの真似をすれば俺だって強くなれるって、信じて疑わなかった。

 

 

 

 「なんでそんなこともできないの?」

 

 

 

 でもそんなに遠くないうちに、俺は()()()()()()()()と知った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いや~やっぱ強えぇわ飛鷹」

 

 ホワイトボードに記されているスコア表に終わったばかりの試合(ゲーム)の結果を書いていると、同じ2セット決着のゲームを終えた坂元が俺に話しかけて、隣でペンを取って同じく自分の試合結果を枠内に書く。

 

 「この調子じゃ1年はお前か遊佐ジュニアを除いて応援か」

 「んなこと言うなよ。まだ総当たり戦は終わってないんだから」

 

 スコアを書き終えた拍子でやや自虐的に笑いながら冗談半分に白旗を上げる坂元へ、俺は軽い感じを装って鼓舞する。ちなみに今さっき終わった坂元とのスコアは『21―13』と『21―12』で、数字だけ見れば俺が普通に勝ったように見えるけれど正直こいつは今のところ俺たち1年の中での実力は晴人と俺の次くらいにはあるから、スコア以上に意外と手強かった。

 

 「つっても俺だって弱小の中学(とこ)とはいえそこでエースやってたわけだから…せめて1人くらいは先輩に勝って意地は見せておきたいとこよ」

 「坂元なら2人くらいは勝てるでしょ。あんま簡単に勝てるって言ったら先輩に失礼だけど」

 「おまけに千木良さんからも応援されちゃってるし」

 「あー昼休みんときな」

 「つか千木良さんって普通に可愛いよな?」

 「どういう文脈?(一応可愛いのはわかるけど)」

 

 もちろん無名の中学とはいえそこのバド部でエースをやって、2回戦敗退ながら県大会に出られるくらいにはバドが上手い坂元の眼は、まだ諦めてはいない…ように俺には見える。

 

 パンッ_

 

 「ゲーム。晴人」

 

 ホワイトボードから仲良く離れると、俺と坂元が試合をしていた隣のコートでやっていたゲームが一本のプッシュで決着した。勝者はもちろん、遊佐晴人。

 

 「つっても、インハイ予選のメンバーに入る壁は相当高そうだよなぁ……ただでさえ2,3年生の先輩は強いし、針生先輩に至っては今んとこ全戦全勝だし」

 

 ゲームが終わって相手と握手を交わしてホワイトボードへと歩いていく晴人を見て、坂元が呟く。

 

 「やっぱリアルに考えて1年でメンバー入りできるのは、既に先輩にも勝ってる飛鷹(おまえ)とジュニアくらいだろうな…」

 

 諦めるかどうかは別として、強豪校の部活で1年がレギュラーメンバーに入るのは本当に難しい。まず3年生は基本的に全員手強くて、中でも針生先輩は全戦全勝で向かうところ敵なしで、1ゲームマッチでギリ勝ちした西田先輩との戦績も3日後の練習でリベンジを果たされて1勝1敗になっている。そして2年生にも大喜先輩を始め油断できない程度には手強い先輩が何人かいるから、最後まで気は抜けない。

 

 「つーわけで俺が奇跡的にインハイ予選のメンバーに入れたら褒美でなんか奢りをおなしゃす飛鷹パイセン」

 「なんかめっちゃオブラートにカツアゲされてね俺?」

 

 だからこそ、当然油断なんて絶対にしないで本気で勝ちに行くけれど。

 

 「羽鳥…だっけ名前?」

 

 坂元の冗談と付き合いながらコートの外で水分補給をしていたら、いきなり横から名字で名前を呼ばれて声がしたほうへ振り向く。この声は間違いなく晴人だ。

 

 「次どっかコート空いたら試合やるぞ。いいな?」

 

 振り向いて視線が合った瞬間、晴人はぶっきらぼうな表情と態度で俺に試合を申し入れてきた。幸か不幸か、ちょうど俺もひと試合を終えたばかりの晴人に“次、試合しよう”と声を掛けようかどうか考え始めたところだった。

 

 「サンキュー。俺もちょうど晴人と試合したいなって思ってた」

 「言っとくけど俺に勝負を吹っ掛けた以上はせめて楽しいって思わせるゲームにはしてくれよ」

 「わかってるよ。そーいう約束だし」

 「約束はしてないだろそっちで勝手に盛り上がってただけで」

 

 何だ、案外バド楽しんでんじゃん…と心の中で思いながら機嫌よく話しかけてみたものの、晴人の表情と態度は変わらずどこか無愛想なまま。だけど眼だけは正直者みたいで、テンションが上がってそうなのが何となくこっちに伝わってくる。

 

 「てか、俺の名前覚えてくれたんだ?」

 「…適当に勘で言ったら当たっただけだっつの」

 

 ていう感じに俺が心の内側で思っていることなんて1ミリも知らないであろう晴人は、つんけんとした態度を貫いたままバツが悪そうに名前を覚えたことを()()のせいにして自分のラケットバッグとペットボトルを置いた場所へと戻って行く。

 

 「…昼間はシカトだったのに晴人(そっち)から話しかけてくるんかい」

 「悶着起こしたくないから黙ってたけど飛鷹に同意だな」

 

 にしても昼休みのときはシカトを決め込んでいたくせに向こうからやろうぜって話しかけてくるとか、結局くだらないとか言っておいてめっちゃ楽しみにしてんじゃん……って心の声が口から出そうになりかけたけど、坂元と同じく試合前にひと悶着は起こしたくないから聞こえないくらいの距離まで離れたところでボソッと吐き出した。

 

 「なあ飛鷹」

 「ん?」

 「ぶっちゃけ遊佐ジュニアってさ……実は不器用なだけなんじゃね?」

 「それは俺も思ったわ」

 

 とにかくこれで確信した。やっぱり晴人(こいつ)は、俺と一緒でバドミントンが好きだ。

 

 「マジで面白いやつだよな。晴人って…」

 

 

 

 

 

 

 「次は()()()()の対決か…」

 

 ホワイトボードにスコアを書き終えて空いているコートがないか辺りを見渡すと、話し声が聞こえたのと同時にちょうど前のコートに飛鷹と晴人がラケットを片手に入って行くのが目に入った。

 

 「(飛鷹の実力はもう分かっているから置いておくとして、果たして晴人がどこまで喰らいついていくか…)」

 

 一瞬だけ互いの顔を伺いながらラケット片手にコートへと入る2人の新星。ここまでの戦績を見るに1年のトップは飛鷹だが、晴人もこの総当たり戦で既に2年を相手にいくつか白星を上げていることを考えると、俺からすればどっちが勝ってもおかしくはない。

 

 

 

 「晴人って佐知川の中学にいたのに何でわざわざ受験してまで栄明(うち)に来たんだ?」

 「この前言ったじゃないですか…インターハイで優勝する為ですよ」

 

 

 

 「…大喜は飛鷹と晴人、どっちが勝つと思う?」

 

 1年の中で頭一つ抜きん出た実力を持つ2人に目を向ける意識の後ろに気配を感じて、横目で誰なのかを一瞥で確認して問いかける。

 

 「急に難しいこと聞きますね」

 「言っとくが友達の親戚だからって飛鷹を()()()しなくたっていいぞ?」

 「まだ何も言ってないのに決めつけないでください…」

 

 どっちがこの試合に勝つかという我ながら意地悪な質問に、大喜は分かりやすく何でそういうことを聞くんですか?と言いたげな顔でそのまま言い返す。

 

 「…正直、俺はどっちが勝ってもおかしくないって思います」

 「ほぉ、大喜もそう来るか」

 「針生先輩も同じですか?」

 「ああ。単純に中学までの戦績を見れば下馬評で飛鷹ってことになるけど、飛鷹には好不調のムラがあるからな。そこを突ければ晴人にも勝機はある」

 

 ホワイトボードから飛鷹と晴人の立つコートへと視線を移して、少し考え思い浮かんだ答えを冷静に俺へとぶつける大喜。本当に相手が誰だろうが負けることを考えないマインドは初めてこの体育館のコートに足を踏み入れたときから変わらないが、インターハイがただの向こう見ずな目標だった()()()()までとは違って壁を乗り越えたいまの大喜(こいつ)には言葉ひとつにも説得力を感じる。これが先輩の俺からすれば嬉しいような、悔しいような。

 

 「というか、俺はてっきり大喜は晴人からナメられてるから先輩に従順な飛鷹の肩を持つと思ったんだが」

 「ナメられてる?」

 「だってお前、晴人からタメ口で話しかけられてるだろ?」

 「…なんで知ってるんすかそれ?」

 「さっき話してるとこを見たんだよ。そもそも俺からすればなんで晴人がお前にタメ口で話してんだって話だが」

 「なんかずっと1年生だって思われてるみたいで…」

 

 ただ悪く言うならば、大喜は俺とは違い自分が()()()()()になったらどうするかという考えがまだ身に付いていない。無論、勝ちたい相手に勝つために上ばかりを見続けることはバドにおいて何より大切なことではあるけれど、自分より強い人に勝って一番になりたいと思ってラケットを握っている人間は下を見ればいくらでもいる。今はまだ発展途上の2人の一歩先を走れていても、来年もこの距離のままリードしていられる保証なんてない。

 

 「…あはははっ!」

 「なんとなく言うタイミングを逃してるだけですよっ!」

 「にしても威厳が無さすぎるんじゃないですか()()()()?」

 「これに関しては何も言い返せない…(しばらく弄られるやつだ…)」

 

 言うまでもなく、1年からタメ口で話しかけられる程度に大喜の威厳がないことは全く関係ないが。

 

 「…しかし晴人といい飛鷹といい、()()()()()()が今年は入ったな」

 

 昨日の自分を超え続けてきた生粋の努力家へ、思っていることをギリギリ伝わるか伝わらないかの言い回しで俺は伝える。

 

 「…そうですね。ただ晴人が1年生の中だと早くも少し浮いてるみたいで…」 

 「ハッキリ物言うやつはそうなりがちだよな。おまけにバドも上手いからなんも言えないし」

 

 ただここまで遠回しな言い方ではまだまだ発展途上な挑戦者(チャレンジャー)には伝わるはずもなく、俺の意図など知る由もない大喜は晴人の心配をし始める。

 

 「俺は好きなんですけどね……練習の態度とか見てると、バドが好きなのが伝わってくるし…」

 

 実際に晴人は去年の県大会で2位になった正真正銘の実力者で、ノックを上げて実力を確かめてみたらスタミナと一発の強さは1年の中ではメンバー入り最有力の飛鷹に分があったが、ショットのコントロールの正確さと引き出しの多さは俺の感覚で言えば飛鷹と互角かそれ以上に感じた。だがこれだけの実力がある反面、独りよがりに捉えられかねない言動と態度が周りに誤解を生み、悪い意味で距離を取られてしまっている。

 

 「だから1年生の中で晴人と戦える飛鷹には理解者になって、お互いに高め合ってくれたらって思うんですよ」

 「…やっぱ飛鷹のことがほっとけなくて仕方ないんですね()()()()()()()?」

 「してないですよっ!(また弄られた…)」

 

 後輩を揶揄う視線の先のコートで、飛鷹がシャトルを手に取って位置につく。どうやらサーブ権は飛鷹が取ったみたいだ。

 

 「でも確かに…ああいう()()()の心を開かせるなら直接戦って負かすのが一番手っ取り早い方法でもあるからな…」

 

 全中に出られただけの実力を持ちながらも、それをひけらかして周りを見下すような真似はせずに同期と同じ視点に立って練習に励む飛鷹は、怖がられている晴人とは対照的に1年の中で中心的な存在感を放っている。

 

 「ファーストゲーム。ラブオールプレー」

 

 そんな2人の新星が立つコートに試合開始のコールが流れ、数秒の間を空けて右のサービスコートに立ち構えをとった飛鷹からまずまずなコースでサーブが放たれる。1ゲームマッチのときもそうだったが、後半型(スロースターター)の飛鷹は試合序盤は一旦相手にペースを掴ませて調子を伺いながらゲームを進めていく傾向がある。相変わらずスロースタートなのは構わないとして、肝心なのはここから相手に流れを与えずに自分のペースへと試合展開を持ち込むことだ。

 

 「(ほぉ、いきなりフェイントか)」

 

 分かりやすく()()()の軌道を描くサーブを晴人は右手で打てる限界まで奥へと引き寄せ、コルクを打つ瞬間に面の角度を左から右へと変えてコートの奥をめがけてロブを放つ。慎重に様子を伺う飛鷹に対して、いきなり手札を見せて勝負を仕掛ける。

 

 パンッ_

 

 左へ行くと見せかけて右へと軌道を描いたロブに一瞬惑わされながらも、すぐさま反応してバックステップを取り飛鷹がクリアで返す。持ち前の反射神経と筋力でどうにか間に合ったものの、尻上がりに調子の上がる後半型の悪い部分がいきなり出た。

 

 「(ただ、初日より良くはなっているな…)」

 

 ほんの一瞬とはいえ見ている俺のほうがヒヤリとしたが、晴人がいきなり見せたフェイントをサインに早くも守りから攻めの姿勢に切り替えたのか、ラリーが続く中で反応する速度が徐々に上がり始める。栄明(ここ)に来て初めて1ゲームを争ったときは慎重になるあまり立ち上がりが悪くなり序盤で流れを取られてしまっていたが、まだ数週間とはいえ自分より強い相手とプレーをしてきたことで多少なりともメンタルが鍛えられたのか、今のところ予防線を張った臆病な部分は影を潜めている。

 

 パァンッ_

 

 そうして互いに1点目を分け合った後にラリーの応酬が続いたところで、左コートのやや後ろに上がった羽根を飛鷹がクロスのスマッシュで攻め込む。晴人は勝てない相手じゃないと飛鷹(こいつ)自身が最初から判断しているだけかもしれないが、今までと比べると明らかに最初から動きが良く流れに乗れている。朝練のときに言っていた“絶好調”っていう言葉は、あながち嘘じゃなかったということか。

 

 「(ロブ…いやこれは…)」

 

 ただ2年を相手に白星を上げている晴人もまた、他の1年みたいに流れにさえ乗ってしまえば余裕で勝てるような相手ではない。

 

 「(…前に落とすか)」

 

 自陣から見て右側から放たれた鋭い一撃をバックハンドのロブで打ち返すと見せかけて、1秒に満たない僅かな時間の中で咄嗟にバックステップを取って左足を後ろへ置き、相手からすればどう考えてもロブ以外に打つ選択肢がないと錯覚するタイミングまで引きつけてその羽根をクロスのラインでネット際へと落とす。そもそもフェイントは基礎の部分が十分に出来ていないとただのどっちつかずな甘い球になってしまうから、トリックショットやフェイントを成立させるにはシャトルの飛び具合にも気を遣うほどの繊細なコントロールを身に付けることが必須みたいなものだが、そこは佐知川中で兄の後を継いでエースをやっていただけあって軌道は完璧で、並外れた器用さがある。

 

 キュッ_

 

 その完璧なラインを描くフェイントに、今度は惑わされることなく飛鷹は最初から予見していたんじゃないかと思うほどの速さで反応してクロスヘアピンを返し、ネット際の勝負に持ち込む。ここまでタイミングをずらされた挙句にネット際ギリギリの完璧なクロスを打たれると、県大会で上位まで来れるような実力者でも惑わされて上手く対処できないこともあるが、やはり()()()()()で全中まで行けた素質の高さは伊達じゃない。

 

 「(ま、これぐらいの羽根は余裕で取れねえと全国には行けんわな)」

 

 何より飛鷹の恐ろしいところは、大喜のようなスピードタイプでありながらフェイントやトリックも打てる上に、その精度も現時点でかなり高いということ。今はまだ判断が遅れて決めきれないこともあったり逆に相手のフェイントに惑わされそうになったりと油断しやすいメンタル故の浮き沈みはあるが、下手をするとインハイ予選が始まる頃には()()になっている可能性だってある。

 

 

 

 もちろん一番上に立つ存在を打ち負かして優勝する脅威になろうとこんなふうに()()()()()()がまた1人2人と増えていく状況は……今年でバドミントン漬けの日々に()()()をつけると決めている俺からすれば、これ以上ないくらいに倒し甲斐があって面白いことだ。

 

 

 

 パンッ_

 

 手前に返ってきた晴人からのヘアピンを少しタイミングを遅らせて打ち返すと、飛鷹の打った羽根は一番上の白色のテープを沿うように超えて、羽の部分をネットに掠めながら落ちていく。ここまで限界ギリギリを攻めたヘアピンを打たれると、もう相手はどうすることも出来ない。

 

 「サービスオーバー。2―1」

 

 ヘアピンが決まり、スコアは『2―1』。再び飛鷹が試合をリードする。

 

 「まだ序盤だっていうのにものすごくハイレベルだ…」

 「しかもどっちも1年とかとんでもねえよ」

 

 ファーストゲームの序盤にしていきなりインハイ予選ばりに白熱した試合展開を進める2人の新星に、コート外がざわつき始めた。やはりと言うべきか、()()()()()()っていうのは最初から面白い試合(もの)を魅せてくれる。

 

 “大喜……お前はこの2人を見てどう感じる?”

 

 「大喜。もうすぐ西田のやってるとこが終わりそうだから、ひと試合頼めるか?」

 

 それに感化されたとかではないが、『2―1』まで見届けた俺は隣で同じように1年同士のメンバー入りを賭けた試合を真剣な眼差しでコートの外から見守る大喜へ試合を申し込んだ。

 

 「はい。もちろん」

 

 

 

 

 

 

 「サービスオーバー。2―1」

 

 ネット前の勝負に持ち込んで次の一手で仕掛けるつもりが、先に完璧なヘアピンを決められて逆にリードを奪われた。諦めとかではないけれど、あまりにもそれが完璧すぎて手も足も出せなかった。

 

 「(やっぱ強ぇな…こいつ…)」

 

 最初にノックをしているところを何気なく見たときから、こいつは他の1年とはレベルが違うってことを俺は察していた。ショットの正確さは周りと比べて明らかに頭一つ抜けていて、終盤になっても動きや体幹が全くブレずスマッシュの威力もほとんど落ちないスタミナの高さも併せ持っていた。みんなで助け合って強くなろうみたいな綺麗事じみたお人好しの考えが俺には鼻についてどうもいけ好かないが、実際にこうして同じコートに立って対峙してみると実力が本物だってことに嫌でも気付かされる。

 

 パンッ_

 

 サービスラインに落ちた羽根をラケットで拾い、ネットの奥にいる羽鳥へパスする。確かにこいつは手強い。だけど試合はまだ序盤の序盤。もちろん俺は()()()()()()()()をぶっ倒すために栄明へ来たから、こいつ如きにこれ以上のリードを許すわけにはいかない。何も知らないこいつに勝って、俺がこの中で一番だってことを証明してやる。

 

 

 “もっと楽しもうぜ”

 

 

 返された羽根をラケットでキャッチして左手に持った羽鳥が、俺に向かってそう言いたげな眼でネット越しにこの眼を見る。本当に心の中で“もっと楽しもうぜ”と思いながら目の前の俺を見ているかまでは読めないけれど、こいつが俺とのフルゲームを楽しんでいることは顔を見ただけで分かった。

 

 「(…余裕こいてられるのは今のうちだぞ)」

 

 不覚にも()()に乗りそうになった自分へ喝を入れる意味合いも込めて心の中で羽鳥へ言葉を返し、構えの姿勢をとり一気に集中力を高める。そして構えの姿勢をとった俺を見て、羽鳥もサーブを構える。久しぶりに体感する、明らかに油断できない奴と戦うときの独特な緊張と高揚。

 

 

 

 

 

 

 「ゲーム、ワンバイ。KTSジュニア_」

 

 

 

 

 

 

 パンッ_

 

 中3のときに味わった()()()()()が一瞬だけ脳裏をよぎった瞬間、対角線上の手元から一本のサーブが放たれた。




試合の場面は書いてて楽しいけど、ペース配分がめっちゃむずい。

4/20追記:原作最新話の展開を考慮し、晴人がバドミントンを始めた時期を変えました。
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