鷹と蝶   作:ナカイユウ

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6/13追記:これからの展開を考慮し内容の一部を変更しました。


何でもない

 ピッピッピッ_ピッピッピッ_ピッピッピッ_ピッ

 

 「……」

 

 街の向こうに広がる地平線から陽が顔を出そうとするくらいの時間。いつもセットしているアラームに起こされて今日も夢から現実に引き戻される。

 

 「(…めっちゃ日和だ)」

 

 ベッドの上で横になっていた身体をゆっくりと起こして、長座体前屈をするときの一番最初の姿勢をとって30秒ほどかけてまだ夢心地な目を覚まさせてベッドから降りて部屋のカーテンを開けると、ちょうど地平線から顔を出したオレンジ色の光がこの部屋を照らす。まだ朝の明るさに慣れていないこの目に映った今日の空は、ほぼ快晴。実に()()()()()だ。

 

 「(…来たな)」

 

 照明が消えた部屋に朝の光が射し込んだ直後、扉の向こうから静かな足音がこの耳に届く。毎度のことだからもう全然驚かなくなったけど、今日も今日とて弟の朝は千木良家の中でも最速だ。

 

 ガチャッ_

 

 「姉ちゃん起きた?」

 

 とっくにスポーツウェアに着替えた弟の(けい)が、この中で私が着替えている途中かもしれないなんて1ミリも考えずにノックすらせずこの部屋の扉を開ける。

 

 「慧。ノックもしないでいきなり()()()()()()がいる部屋の扉を開けるのは姉の私だから何も言わないであげているけど、他所でやったらデリカシーがない人って認定されて女子からドン引きされるのはわかっているのかな?」

 「ちゃんとわかってるから大丈夫だよ。姉ちゃん」

 「よろしい」

 

 普段は大人しくて感情の起伏も少ないのに、こういう時の弟は感情こそいつも通りだけどテンションだけは遠足に行く前の小学生みたいにウキウキしてるから、それが面白可愛くてこっちも一気に目が覚める。

 

 「それより早く行くよ」

 「ちょいと支度したらすぐ出るから焦らさんな弟よ」

 

 こうして弟の慧に急かされながら、私もスポーツウェアに着替え寝癖を整えて、一緒に玄関から外に出て片道5分ほどの場所にある河川敷に行って走るという、慧が中1でバドミントンを始めたのをきっかけにお兄がこの家にいたときにやっていたことを真似て始めてみたらすっかり姉弟(わたしたち)のあいだで定着した毎朝のルーティン。

 

 「今日って姉ちゃんのとこは体育祭だっけ?」

 「そーだよ」

 「なに出るの?」

 「借り物競争と綱引き」

 「手のひらとか痛めない?」

 「手袋はめるから大丈夫」

 

 体育祭の話をしながら、河川敷に向かって近所の住宅街を一定のペースで走る。春が終わりに近づいているからか、陽が昇り始める5時台でも顔に当たる空気が暖かく感じる。まあ何割かくらいは走っているせいだとは思うけれど、細かいことは気にしない。

 

 「…慧、また背伸びたよね?」

 「急に聞くじゃん」

 「いまどのくらい?」

 「この前の身体測定で181」

 「やっばっ」

 

 途中の信号で赤になって立ち止まったついでにふと右に立つ慧を見て、ついこぼれる本音。初めて慧を連れて河川敷まで走ったときは私のほうが大きかったのに、気が付いたら10センチ以上も大きくなった1つ下の弟。

 

 「姉ちゃんだって十分あると思うけど」

 「自分よりデカい人から言われても説得力がなー」

 

 中学に上がってから20センチも伸びた大きな身体とそれに比例して低くなった声と、まだ少し幼さが残る目鼻立ちがはっきりとした美形な小顔。姉の私が言うのもアレだけどぶっちゃけこの弟はそこら辺のイケメン俳優よりも顔立ちが整っているから、ふとした瞬間に慧を見ると纏っているオーラが芸能人とか少女漫画に出てくる王子様キャラのそれみたいなレベルで飛び抜けているおかげで身内なのにドキッとしそうになる。

 

 「それよりも慧はもっと自分のポテンシャルを自覚したほうがいいとお姉さんの私は思うんだけどね」

 「ポテンシャル?一応わかってるつもりなんだけど」

 「もちろん()()()()の話ね」

 「どういうこと?」

 「ごめん。やっぱ何でもないわ」

 「あぁそう」

 

 ただ如何せん、この弟はこのビジュアルを持っていながらバド以外のことに関してはまるで無関心で、年頃的にはとっくに思春期だというのに恋愛事には全く興味がないし今のところ目覚める気配もない。皮肉にもそんな天然で着飾らない性格とバドの成績のおかげで通ってる中学だと栄明で言うところの千夏先輩レベルでチヤホヤされちゃってるのはともかく、慧のこういう無自覚なところが私はちょっとだけ心配だったりもする。

 

 「河川敷までちょっとペース上げるよ、慧」

 「うん」

 

 そもそも慧がバドミントンを始めたのは好きだったとか面白そうだったとかではなく、小学校の卒業文集の将来の夢にお兄と私がやってるからという理由で“バドミントン選手”と書いて、クラスメイトの女子から“慧くんってバドミントンやってないじゃん”って指摘されたからだ。そんな理由で今まで体育の授業でやったことがあるくらいでしかなかったバドを始めてたった1年で全中に進んでしまうまでに才能が開花した天才を通り越した()()っぷりは、周りから天才と呼ばれていたお兄以上で姉ながら本当に恐ろしい。

 

 

 

 という具合に私の弟は、千木良家の中で一番大人しいけど誰よりもぶっ飛んでいる。

 

 

 

 「ふぁ~、めっちゃ天気いいね今日」

 「そうだね」

 

 信号が青になったのをサインに少しペースを上げて一気に河川敷のサイクリングロードに上がると、頭上を遮るものが無くなって起きたときより少しだけ明るくなった光が私と慧を照らす。

 

 「昨日聞こうと思って忘れてたんだけど、お兄との練習って行けそう?」

 「土曜のやつだよね。こっちは16時終わりだから間に合うよ」

 「お兄はオーディション終わりだから17時からだってさ」

 「兄ちゃんから昨日メール来てたから知ってる」

 「なんだ知ってたんかい」

 

 再びいつものペースにスピードを緩めて、高3で引退したお兄と週1or隔週ペースで土曜日に近所の体育館を借りてやっている自主練習の話をしながら慧と並んで走る。こんなふうに一緒にランニングをしているときに弟と話す中身は決まってバドミントンにまつわる話だけど、もちろん私もバドミントンが一番好きだからこうやってバドの話をしながら河川敷の道を走るのはものすごく楽しい。

 

 「栄明(そっち)のバド部はどう?楽しい?」

 「急にお母さんみたいなこと言うじゃん」

 「気になるから」

 「もちろん楽しいよ。先輩はみんな面倒見が良くて優しくて、あかりんもゆーづもほのちゃんも一緒にいて楽しいし…それに男バドだとハリー先輩もいるから」

 「ハリー先輩って誰だっけ?」

 「あぁそっか。ちょうどハリー先輩と入れ替わるタイミングでクラブに入ったから知らないんだ…」

 

 隣を同じペースで走る慧が、一瞬だけ私のほうに視線を向けながら高校のことを聞いてきた。入学式から早くも1ヶ月。私が栄明に進学したのはお兄から学校の雰囲気を聞いて“いいなぁ”って思ったからだけど、先輩も同期もみんないい人たちだから本当に栄明に進んでよかったって今は思う。

 

 「あと、同じクラスにいる男バドの人でめっちゃ強いのが1人いてさ」

 

 そして男バドには()()っていう名前に違わぬ綺麗で豪快なジャンプスマッシュが得意技の、お兄や慧に一度会わせてやりたいと思うクラスメイトがいる。

 

 「その人ってどれくらい強いの?」

 「んー、1年生の中だったら一番強いんじゃないかな?全中出てたって言ってたし」

 「だとしたら普通に強いじゃん」

 「強いよ。ぶっちゃけ」

 

 さり気なく話の流れでひだっちのことを言うと、慧は淡々としながらも満更じゃない感じで言葉を返す。表情はさほど変化はないものの前を向いたまま一定のペースで走る視線には、“興味津々”の四文字が写っている……ように見えるような何も見えないような。

 

 「…土曜の練習さ、その人も参加させていいかな?」

 

 とにかく慧が興味を持ったのを表情で感じ取った私は、ひだっちを今週末の自主練習に誘うと決めた。

 

 「うん。いいよ」

 「おっけー、じゃああとでお兄にもメッセしとくね」

 

 もちろんひだっちを誘うのは、インターハイ経験者かつ栄明のOBのお兄と練習させれば刺激になって大会でより良い成績を残せるからウィンウィンじゃね?っていう、あくまで部活動の延長みたいなものだけど。

 

 カシャッ_

 

 「なに撮ってんの?」

 「走ってる慧の横顔が綺麗だったから」

 「走りながらよく写真撮れるよね」

 「これも立派な()()()()()()()()ってやつよ(撮られてることには何の疑問も持たないのかな?)」

 

 というわけでついでに晴れた朝の河川敷を颯爽と走る弟の横顔も撮れて、肌寒さもなくなり桜が散り緑も芽吹く季節になって、いよいよ栄明高校の夏が動き始める……その前に_

 

 

 

 「優勝するぞー!」

 「「「オーッ!!」」」

 

 

 

 運動部強者の多い我が栄明高校では、これを食べたらもう普通の焼きそばパンには戻れないという言い伝えがある“栄明特製体育祭限定デリシャス焼きそばパン”を賭けた熱き戦いが、グラウンドで繰り広げられていた_

 

 

 

 

 

 

 「すっげえ盛り上がりだ…」

 

 5月。程よく涼しい爽やかな晴れ空の下、栄明のグラウンドは真夏のような活気で満ち溢れている。なぜなら今日は栄明の高等部では文化祭と並ぶ一大イベントだという、体育祭が行われているからだ。

 

 「さっきから初めて都会に出てきた人みたいな顔してんな飛鷹」

 「俺のいた地元ってめっちゃ田舎だから、こんな大人数でやる学校のイベントなんて見たことないんだよな」

 

 こっちでの生活もすっかり慣れたとはいえ、少なくとも地元の雲山では学校のグラウンドにこれだけの大人数が揃うことは運動会でもまずなかったから、昨日までは楽しみだったけどいざ本番になったら地元じゃまず感じられない埼玉のスポーツ強豪校の活気に、テンションが上がる裏で若干圧倒されている自分がいる。

 

 「つか飛鷹って次の二人三脚となにで出るんだっけ」

 「リレー。しかもどっちも大喜先輩と被るっていう」

 「狙った?」

 「いいや、全くの偶然」

 

 開会式が終わって第一競技の玉入れまでの準備時間を、6色のハチマキでごっちゃになった集団に紛れて坂元と駄弁りながら暇を潰す。ちなみに俺が出るのは坂元(こいつ)との二人三脚と最後のリレーで、坂元は二人三脚と綱引きだ。

 

 「(…あ、雛姉だ)」

 

 そんなこんなの駄弁りがてらで何気なく周りを見渡すと、少し遠くのほうで学ランを着た雛姉が同じクラスの守屋先輩や大喜先輩たちと記念写真みたいなことをしているのが目に留まった。確か雛姉は“応援団をやる”とか言ってたけど、学ランまで用意するとか気合いがすごいな。

 

 「優勝賞品の焼きそばパンって、そんなに美味いんかな?」

 「どーだろうな」

 

 ただし雛姉たちはA組こと赤組になるから、B組こと青組の俺にとって今日だけは()だ。もちろん敵と言っても、体育祭の中だけの話だけど。

 

 「(楽しそうだな…雛姉…)」

 

 それでもやっぱり大喜先輩たちと仲良く思い出を作っている雛姉を見ると、敵ながらこっちも自分のことのように嬉しくなってくる。

 

 カシャッ_

 

 「?」

 

 なんて感じに遠くで記念写真を撮って談笑する雛姉を見つめる意識の横で、突然シャッター音のようなものが聞こえた。

 

 「いい顔してるねひだっち」

 

 不意のシャッター音がした右側へ振り向くと、青色のハチマキをカチューシャみたいに頭に巻いた千木良がスマホを構えながらしたり顔で笑っていた。

 

 「写真撮るなら一声掛けてくんない?」

 「わかってないな~、被写体は撮られてるって意識してない顔をしてるからいいんだよ」

 「一歩間違ったら盗撮じゃねこれ?」

 「友達同士ならセーフでしょ」

 

 普段から教室でも体育館でも目が合えば普通に話すのが当たり前になったくらいにはすっかり打ち解け見慣れたクラスメイトとはいえ、おしゃれに巻いたハチマキが相まってか何だかいつもより陽キャ感が増している気がしなくもない。

 

 「てか坂元、千木良がいるの気付いてたら教えてくれよ」

 「悪ぃマジで気付かなかったわ」

 「ここに来るまで2人と目が合わないように()()()()()()()()()しまくったからね」

 「千木良ってバスケ部だっけ?」

 

 てことはどうでもいいとして、千木良からガッツリ雛姉を見てたところ撮られたけど大丈夫だよな?俺的には別に知れ渡ってもいいっちゃいいんだけど、今のところ俺が雛姉の親戚だってことは男バドと雛姉のいる新体操部しか知らないわけだし……でもよくよく考えたらこいつだけが知らないっていうのもなぁ……後でタイミング作って雛姉に相談するか…

 

 「ねぇせっかくだから1Bバド部で写真撮らない?」

 「あ~いいじゃんそれ。地味にこの面子だけで写真撮ったことねえし」

 

 なんて俺が馬鹿みたいにしょうもない心配をしているなんて知らない千木良は、何事もなかったかのようにスマホを片手に俺と坂元の3人で記念写真を撮ろうと言って、俺たち男バド組を巻き込んで雛姉たちと同じように1Bのバド部で記念写真を撮る。南中のときもそうだったけど、どうして女子は写真好きが多いんだろうか。

 

 「ぷはっ、半目になってるよひだっち」

 「えっ?うわマジだ」

 「シャッター押したタイミングで瞬きしたからじゃね?」

 「千木良…もう一枚お願いします」

 「しょーがない撮ってやるか」

 「あざます」

 「てことで焼きそばパン半分」

 「代償エグいなおい」

 「まず焼きそばパンは青組(おれら)が優勝しないと一口も食えないけどな」

 「そのためにも玉入れで最高のスタートダッシュを決めないとだね!」

 「千木良って玉入れ出るっけ?」

 「私は借り物競争とリレー」

 「ここにいる俺ら誰も出てねえじゃん」

 

 ま、今は細かいことは考えないで栄明に入学して初めての一大イベントでもある体育祭で勝って、千木良曰く“これを食べたらもう普通の焼きそばパンには戻れないっていう言い伝えがある”という特製焼きそばパンを手に入れるために、思う存分に楽しむとしますか。

 

 『第一競技は、玉入れです_』

 

 そうこうしているうちに玉入れの準備は整ったみたいで、放送委員のコールがグラウンドに流れて玉入れに出場する選手、もとい同学年や先輩たちが列を成して入場していく。

 

 「ねえ、あれ千夏先輩じゃない?」

 

 立てられた5つのかごの前に集まる出場者の一角に、千木良が目配せする。その視線の先にいたのは、俺たちと同じ青組の千夏先輩。

 

 「千夏先輩、玉入れやるんだ」

 「バスケ部だからじゃね?」

 「あ~そういう」

 

 バスケで普段からボールをバスケットゴールに入れているから…なのかはわからないけれど、玉入れに出場する千夏先輩へ俺たちは仲良く視線を向ける。

 

 「しかし美人だよなぁ千夏先輩」

 「ねー」

 「さすがは栄明のヒロイン。こりゃ雑誌にも乗るわけだ」

 「思いっきり心の声が漏れてるよさかこー」

 

 入場する列の中に佇む、周りとは一線を画すオーラを纏う女バスのエース。ただそこに立っているだけなのに映画とかドラマのワンシーンを観ているってくらいの存在感があって、やっぱりこの人は体育館で女バスの人たちといるときも、学校の中でたまに見かけるときも、いつ見ても本当に高嶺の花だ。

 

 「でも、ホントに嫉妬も湧かないくらい綺麗だよね千夏先輩ってさ」

 「逆に女子から見た千夏先輩ってどうなん?」

 「そりゃあ栄明女子にとって千夏先輩は()()()()っすよもう」

 「栄明女子とか初めて聞いたわ」

 

 だけど、学年を超えて憧れを持たれている千夏先輩もこうやって青組に混じって誰かと普通に話しているところとかを見てると、高嶺の花だって思っているのは千夏先輩のことをよく知らない人の勝手で、当たり前のことだけど千夏先輩も周りと同じで普通の女子(ひと)なんだなって、ふと思う。

 

 

 

 「飛鷹は自分の親戚がこんなふうに周りから注目されてるのを見てどう思う?」

 

 「親戚(はとこ)が蝶野先輩って普通に凄くね?」

 

 

 

 雛姉だってみんなから一目置かれてるけど、千夏先輩と同じで普通の女子(ひと)なんだよな…

 

 

 

 「なにさっきから無言でボーっとしてんのひだっち?」

 

 いつの間にか我を忘れて千夏先輩と雛姉を頭の中で照らし合わせていた意識に、また千木良の明るい声が飛び込む。

 

 「え?あぁ、何でもない」

 「あ、わかった。ひだっちも千夏先輩に見惚れてたんでしょ」

 「別に見惚れてないわ」

 「まあ飛鷹よ。1人の男としてお前の気持ちは痛いくらいに分かるぜ」

 「だからなんで俺が見惚れてた前提になってんの??」

 

 案の定、坂元と千木良からは千夏先輩に見惚れていたと思われて軽く弄られた。ある意味で半分くらいは正解なんだけど、いざ我に戻って振り返るとまあまあ脳内がキモくなっていたことに気付いて、人知れずメンタルに若干のダメージを食らう。

 

 「マジで何でもないっての。ただ青組のとこ見てただけで」

 「やっぱ千夏先輩じゃん」

 「これなに言っても駄目なやつやん…」

 

 こんなことを考えてしまうのは、間違いなく体育祭の活気に釣られたせいだ……ということにしておこう。

 

 『スタート!』

 

 そんな俺の心情なんてつゆ知らずなまま、出場者が全員揃って位置についたのを合図に第一競技の玉入れが始まる。

 

 『青組リードです!流石バスケ部エース率いる青組、次々と球がかごに吸い込まれていきます!』

 

 「すげえな千夏先輩」

 「投げた球が全部入ってるよ」

 「もう今年の体育祭は青組の優勝ね」

 「言っとくけどまだ一戦目だからな千木良」

 

 開始早々、千夏先輩が正確無比なコントロールで青色の球をかごの中へと入れていき、それに触発されるかのように周りのみんなが投げる球も次々と入って行って独走態勢に入ろうとする青組。さすがは女バスのエースなだけあって、安定感が半端じゃない。

 

 「で、あかりんのいる赤組は…」

 

 『赤組やや遅れ気味かー!?』

 

 一方であかりんことA組の兵藤さんが出ているという隣の赤組は、思うように球が入らず遅れ出している。

 

 「苦戦してるっぽいな」

 「誰とは言わないけど」

 「あかりんは腕の筋肉弱いからな~」

 「()()()()()が言っちゃったよ…」

 

 その原因…なんて言ったら怒りそうな千木良がやれやれって感じで笑いながら、かごに届く気配すら感じられない兵藤さんの球の軌道を見つめる。女バドの練習を休憩がてらにたまに見たりしてるけど、やっぱり腕の筋力と体幹が足りてないせいか羽根の軌道が不安定な兵藤さん。それがモロに玉入れでも出ていて足を引っ張ってしまっている。

 

 「あかりんファイトー!」

 「普通に敵チームの兵頭さん応援してるし」

 「だって友達があんなに苦戦してたら応援したくなるじゃん」

 「それはわかりみがすぎる」

 「飛鷹(おまえ)飛鷹(おまえ)で納得するんかい……俺も敵ながら応援したくなってるけど」

 

 その様子を見て、千木良が両手でメガホンを作って敵味方も関係なしに応援し始める。確かに敵チームに友達がいるからって応援したら駄目なんてルールはないし、あの様子じゃ逆にこっちも応援したくなる。さすがは女バドきっての愛されキャラだ。

 

 『おおっと赤組!怒涛の追い上げーっ!』

 

 「なんか兵藤さんめっちゃ覚醒してね?」

 「あかりんはやればできる子なんだよ。ほら、能ある鷹は爪を隠すって言うし」

 「にしては隠しすぎてる感は否めないけどな」

 「ひだっちは爪を隠さないタイプの鷹だよね」

 「はい?」

 「あ~俺もわかるわ。いきなり自分の手札見せてくるところとか」

 「褒めてんの馬鹿にしてんのどっち?」

 

 と、千木良が大声で応援を送った直後、兵藤さんは前半の不調が嘘のように突如覚醒して千夏先輩に引けを取らないボールコントロールで次々と赤い球をかごに入れていく。これぐらいのやつを是非バドでも見せてくれたらな…と、何だか後半は授業参観に来た親御さんみたいな心境で俺たち3人は青組の応援そっちのけで赤組の兵藤さんを見守った。

 

 『第一位は、青組です!』

 

 こうして玉入れは後半で赤組が怒涛の追い上げを見せるも、序盤から千夏先輩を中心に安定してリードを保ち続けた青組が逃げ切ってまず1勝を手にした。

 

 「てなわけで俺らは二人三脚で1位を搔っ攫ってくるわ」

 「ひだっちとさかこーの雄姿はちゃんと撮っておくからね~」

 「おう、じゃあカッコよく頼むわ」

 「お任せあれ!」

 

 こうして青組の勝利で玉入れが終わり、勝手にカメラ係を名乗り出てお任せあれと敬礼する千木良に見送られながら、俺は坂元と一緒に二人三脚の集合場所に足を進める。バドをやってるときもそうだけど、やっぱり身体を動かしてるとその分だけ時間の流れがひたすらに早く感じる……と言いつつ動かすのはこれからだけれど。

 

 『次は、二人三脚です_』

 

 「坂元。なんで女子って写真が好きなんだろうな?」

 「さあ?そういうのがエモいからじゃね?知らんけど」

 「その()()()ってやつちょいちょい聞くんだけどマジでどういう意味?」

 「あれじゃね?綺麗な景色とか見て“うわめっちゃええやん”ってなる的な?」

 「あー、なんかぽいっちゃぽいなそれ」

 「つか話変わるけど俺たちって二組目で合ってるよな?」

 「ん?おう。確か大喜先輩は一組目で、組み合わせ的に俺らは西田先輩と当たることになってる」

 「うっわ西田先輩とか絶対強ぇじゃん二人三脚」

 「総当たり戦のリベンジにも燃えてるだろうしな」

 「それは飛鷹(おまえ)のせいじゃねえか」

 

 という感じで玉入れの時間はあっという間に過ぎ去り、グラウンドに二人三脚の始まりを告げる合図が流れる中で俺は坂元と一緒にグラウンドの真ん中へと足を進めた。




マジでここからどうしようかな……って感じで体育祭は悩みながら書いてます。

それとさりげなく前話から1ヶ月ほど時系列が進んでいますが、これは原作で描かれている体育祭は時期的に5月辺りだろうっていう解釈と、なるべく展開が中だるみしないように何かしらの進展が起こるところまで思い切ってすっ飛ばしたって感じです。

ただどこかしらのタイミングですっ飛ばした空白のところは軽くですが書く予定ではいます……多分。
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