『只今よりお昼休憩です_』
「えっ……マジっすか…」
お昼休み。女バドの1年ズ4人で集まって、グラウンドに敷かれたシートの上で仲良くお弁当を食べながらあかりんに恋愛相談のひとつでもしてあげようかと何気なく男バドの大喜先輩の
「ごめんねあかり。私もまさか猪股先輩に好きな人がいるなんて思わなかったから」
「結月ちゃんは何にも悪くないよ。それに私は猪股先輩のことは尊敬してるけど別に恋愛って意味で好きじゃなわけじゃないし…」
私がひだっちとさかこーの青組サイドのところに行ったり借り物競争をしているあいだにあかりんとゆーづの赤組サイドで起こったことを簡潔に言うと、二人三脚が終わった後にちょうど近くを歩いていた大喜先輩を見つけたまーやが話しかけて、その流れでほんの冗談のつもりで“付き合ってる人とかいるんですか?”って聞いたら大喜先輩から“ごめん。言えない”と返事が返ってきたというわけだ。私の経験上、そう答える人というのは必ず好きな人orもうお付き合いしているってパターンだ。
「まあまあ、あんまりネガティブに考える必要はないんじゃない?猪俣先輩以外にもきっと魅力的な人はいるはずだから」
「けどなぁ、バドも2年生の中じゃ一番強いし明るい人柄でウチら後輩からも慕われてるし、いそうでいないよなぁ…」
「そこなんだよね~」
というわけでまさかの大喜先輩に好きな人がいる疑惑が浮上して少なからずショックを受けているであろうあかりんを、ゆーづとほのちゃんが慰める。
「みんなありがと……でも本当にそういうのじゃないから私は平気だよ」
ゆーづとほのちゃんからの慰めに、あかりんは気丈に笑みを浮かべて平気だと言ってお弁当の中に入っているトマトを口に運ぶ。何事もないって感じに振る舞いながらも“まじかぁ…”ってくらいのショックを受けているのは、僅かな声のトーンの違いで私はすぐにわかった。
「悪い……俺、一番に大切にしたい人がいる」
「あかりんにひとつ提案なんだけどさ……好きな人がいるかもとか、自分の気持ちがどうだろうとかは一旦置いといて、まずは普通に後輩として距離を縮めてみるのはどう?」
そんな私が友達としてあかりんにしてあげられることは、同じスポーツをやっている
「距離を縮める…って私は何をどうしたら」
「それは自分で考えなきゃ意味ないよ。大切なのはあかりんのペースで大喜先輩と仲良くすることだから」
「そ、そうだよねっ」
「おや?ちょっとだけお近づきになろうって気になった?」
「後輩としてだからね結ちゃん?」
「確かに結の言う通り、このまま何もしないよりは何かアクションを起こしてみるのはアリかもね」
「だから後輩としてだからね結月ちゃん??」
「困ったらいつでも相談乗るからファイトだよ、あかりっ」
「も~穂花ちゃんまで~っ!」
私がアドバイスをすると、あかりんの表情がショックからちょっとずつ立ち直って明るくなって、それを見てゆーづとほのちゃんも嬉しそうに笑って鼓舞する。あくまであかりんが一方的に大喜先輩が好きだってことしかわからない私にできることはこれぐらいだけど、友達としてあかりんのことはバドだろうと恋愛だろうと全力で応援したいって、私は思ってる。
「でも…結ちゃんの言ってくれた提案。やってみようかなって思う」
「そうだよあかりん。何事もチャレンジしなかったら後悔しか残らないからね」
たとえそれが叶うことのない片思いだとしても、何もチャレンジしないまま終わるよりは想いを伝えて散るほうが自分にとっての糧になる……もちろん、あかりんには勝利を掴んでほしいって気持ちが私は一番だ。
「…ところでなんだけど、結のほうはどうなの?」
ひとまずは勇気を振り絞って後輩として大喜先輩に一歩ずつ近づいていこうと決意したあかりんに微笑ましく頷いたゆーづの視線が、今度は私のほうに向けられる。
「ん?何のこと?」
「そんなの羽鳥くんのことに決まってるでしょ」
「あー、やっぱ聞いちゃう感じすか」
何となく聞かれるだろうなー、とは思っていたから全然驚きも動揺もないけど、この流れなら聞かれますよねって感じの気持ちが身体を巡る。もちろん私がひだっちとワンチャンあるんじゃない?と同クラの女子や女バドの1年ズ界隈で思われ始めている理由には、思い当たりはある。
「もちろん
だけど私が持っているひだっちへの感情は、一貫してずっと
「…まー結はそうだよね~。良くも悪くも人との距離感がバグってるとこあるし」
「言い方容赦なっ」
友達だと言い切る私に、ゆーづは一瞬の間を空けて渋々納得してくれた。ただ、ゆーづが何か違うことを言おうとして言うのをやめたっていうのを、ちょっとだけ心配そうな表情を見て私は察した。
「…けど、“もしかしたらワンチャンその気があるんじゃない?”って思われてたりしてるのかもなーっていうのは、ぶっちゃけ自覚はしてる」
そしてゆーづが言いたいのはひだっちのことだろうなって思った私は、誤解を解く意味で3人に自分の思っていることを明かすことにした。
「そうなんだ…私とかがちょいちょい言ってるだけで結は全然自覚ないもんだと思ってた」
「私は1ミリもそんなつもりないんだけどね」
一応誤解されるかもしれないってことを自覚してると明かしたら、3人とも意外って感じのリアクションでそれを受け止めてくれた。気が付くと学校に行けば毎日のように話すぐらい仲良くなれたのはバドミントンっていう共通の話題と私が人見知りとは無縁な性格だからっていうのもあるけど、そもそも私がひだっちに対して思っている気持ちは友情以外の何物でもない。
「でもさ、友達ってそういうもんじゃない?学校に来て教室入って目が合ったら普通におはようって言って、授業とか部活が終わって帰るときにまた明日って言ったりとかさ……その相手が男子ってだけで、あとは何も違わないじゃん」
だから私は自信を持って、ひだっちは友達だって言い切れる。
「とにかく私がひだっちに感じてる気持ちは、ここにいる
まあ敢えて言うなら、
「あのぉ…非常に言いにくいことなのですが私からひとつよろしいですか?」
「おぉどうしたゆーづ畏まって?」
ひだっちへの本心を打ち明けると、ゆーづがややわざとらしく申し訳なさそうな口ぶりで言いたいことがあると返してきた。何となくの直感で、さっき言おうとして言わなかったことなんだろうなっていうのは一瞬でわかった。
「えーっとですねぇ、男女の友情というものはどんなに友達のままでいようと心に決めたとしても、同性の友情と違ってふとしたことがきっかけであっという間に境界線を越えてしまうほどデリケートなものという説がありまして…」
「というと?」
「つまりは、いくら結さんがそう思い続けるとしても
「うわ、それ考えたことすらなかった」
「結ってそこら辺が抜けてるっぽいのが私も心配なんだよなぁ」
場がシラケないようにおふざけ交じりの口調で話を続けながら、ゆーづは正面に座る私の目を真面目な表情で見つめて自分の意見をぶつける。言われてみれば確かに、どんなに私がひだっちのことを友達だって思い続けても、それが相手にとっても同じことだとは限らないってことも、無きにしも非ず。
「もちろん結の意思を尊重する前提で言うけど……もしかしたら羽鳥くんが結のことを
だから、もしかしたらひだっちが私のことを……なんてこともあるかもしれない。
「…ひだっちが私を…」
「何だそれ」
「いやいや絶対あり得ないってそれは」
うん。ゆーづからこんなこと言われたもんだから一瞬だけガチで考えちゃったけど、やっぱりそれはあり得ない。
「でも借り物競争のときゴールした後も結構仲良さげな感じだったじゃん?」
「当たり前じゃん。ひだっちは友達だし」
「思うんだけどこういう態度があらぬ誤解を招く気がするんですが…」
「ていうか逆に結のほうがってパターンもあるかも」
「私?いやそれこそ一番あり得ないって」
「そう?だって羽鳥くん普通にイケメンだし性格も良さげじゃん」
「え~それほどでもないと思うよ~ひだっちは」
だってひだっちが私を見ているときの視線に、
「それよりゆーづとほのちゃんこそどーなの?気になってる男子とか先輩とか?」
「えー?ウチらは特にいないよねぇ穂花?」
「うん」
「ぶっちゃけハリー先輩とか匡先輩見てカッコいい~とか思ってるでしょ?」
「だからいないってばー」
「そういえば結月ちゃん、この前の部活のとき遊佐くんのことカッコいいって言ってなかった?」
「えっ?」
「ナイスあかりん!さあ詳しい話を聞かせてもらいましょうか真彩さん??」
「あれはただスマッシュ打ってるとこ見てカッコいいなぁって思っただけで、全然そういうのじゃないから」
「またまた~」
ていう感じで、体育祭の昼休みは男バド絡みの
「(…やべえ遅くなった)」
周りのみんながグラウンドに敷かれたシートの上でお昼を食べている中、曜子さんの弁当を右手に持った俺は体育館の階段を上がって待ち合わせているキャットウォークへと駆け足で向かう。
『雛姉。急でホントごめんだけど学校のことでちょっと話したいことがあるんだけど後で時間取れる?』
『りょうかい』
『そうだ。どうせだったらお昼休み一緒に食べない?』
『場所は体育館のキャットウォークで』
そもそも一体どうして俺が昼休みに同じクラスの面子と仲良く晴天のグラウンドでお昼を食べずこんなところにいるかというと、二人三脚が終わった後に学校のことでちょっと相談したいことがあると雛姉にメッセを送ったら、“どうせだったら”という理由で一緒に体育館のキャットウォークでお昼を食べることになったからだ。
「ごめん。遅れた」
階段を上がってキャットウォークに着くと、入り口から少し奥へと進んだところの地べたに座り半分に折ったナフキンの上に弁当を置いた学ラン姿の雛姉がいた。俺はひとまず遅れたことを謝る。
「来なかったらどうしようかなって思った」
「マジでごめん」
「嘘だよ全然気にしてないから」
自分から相談を頼んでおいて遅れてきたこの俺に雛姉は一瞬しかめっ面を見せて、反応を見るやクスっと笑って揶揄う。今更気付いたけれど、何気に雛姉と学校の中でまともに顔を合わせて話すのは初めだ。
「そういや守屋先輩とかには何て説明した?」
「用事があるから違うところで食べるって言ってきた」
「あと、学ラン結構似合ってる」
「お世辞ならいらんよ飛鷹くん」
「俺は基本お世辞は言わない主義なんで」
「ふふっ、ありがと」
雛姉と言葉を交わしながら、俺も隣に座って同じようにナフキンを広げて同じ献立の入った弁当を開ける。
「中身が一緒だ」
「どっちも
当たり前だけど、こんなふうに雛姉とお昼を食べるのも初めてだ。ついでに言うなら体育館で昼を食べるのもだけれど。
「…ほんとありがとな。色々と」
ていう初めてはともかく、いまの心境的にはたかが女バドのクラスメイトに俺と雛姉が親戚同士だってことを打ち明けていいかっていう相談をするだけなのに、思いのほか大事にしてしまった感があるから若干後ろめたい。
「礼はいらないよ。困ったときはお互い様でしょ?」
そんな後ろめたさからか“ごめん”代わりの気持ちをつい口から出していた俺に、雛姉は1ミリも気にしてないと言わんばかりに優しい口調で返す。
「それに、実を言うと一度は飛鷹くんと一緒に学校でお昼食べてみたいって思ってたんだよね」
「マジ?」
「うん。だから今日はたまたまそのタイミングが来たってことでいいよ」
「ははっ、何だよそれ」
俺が少し後ろめたくなっていることを察してか、気を落とす隙すら与えないかのように“一緒に食べてみたかった”と先輩らしくクールに言い切る雛姉のわかりやすい優しさに、つい釣られるように笑ってしまった。
「とりあえず食べよっか」
「だな」
「いただきます」「いただきます」
ともあれ飯を食べなければ事は始まらないので、いただきますを合図に俺と雛姉は同じ献立の入った弁当を口に運ぶ。
「こういうところで食べるお昼も意外と悪くないね」
「そもそも曜子さんの作る料理が美味すぎるんよな」
「ぶっちゃけ下手なレストランより全然美味しいからね」
「卵焼きですら味付けが絶妙でレベルが全然違うし」
食べてる場所が教室だろうと体育館だろうと、今日も変わらずお昼が美味い。空腹は最高の調味料と言えど毎度ながら曜子さんの作る手料理はお弁当も含めてマジで美味いから、食べる度に心と身体がリセットされて元気が湧いてくる。
「今年の体育祭は青組がリードかぁ」
「おう。でも雛姉の赤組も僅差で追ってるからこっちは全然気ぃ抜けないわ」
「勝負はラストのリレーってところかな」
「そうなってくれたら盛り上がりって意味で最高なんだけど」
「ごめんだけど私は大喜が走る赤組を応援するから」
「そりゃ雛姉は赤組の応援団長だしな」
「応援団長って…半分くらいはコスプレ気分だよ」
「の割には気合入ってんじゃん」
「まあ、勝ちに来てるんで」
そして同じ弁当を食べながら学校の体育館で話すことは、やっぱり他愛の無い話。誰もいなくて静かな体育館のキャットウォークで2人きりになって、誰かに見つかるかもしれないスリルを心の片隅で感じながらも、話す中身はいつもと何ら変わらない。
「にしてもさ、人がいないと余計に広く感じるよねこの体育館」
「さすがはスポーツ強豪校って感じだよな」
「ここでほぼ毎日部活してるんだよなぁ私たちって」
「ほんとな」
きっと蝶野家にいるときだろうと、どうせ俺と雛姉が話す会話の内容は大して変わらないだろうし、コートを通りがかったときに軽く“お疲れ”と挨拶を交わすぐらいけど体育館に行けば毎日のように会っているから特別に新しいことはない。
「体育祭が終わったら、いよいよ俺たちもインターハイに向けてまっしぐらか」
「その前にインハイ予選があるけどね?」
「わかってるよ。
「言ったね?その言葉覚えとくから」
「雛姉こそどうなんだよ調子とか?」
「私はいつだって絶好調よ」
「さすが雛さま」
そのはずなのに、学校にいる雛姉とこういう形で隣り合って話すと何だか普段の雛姉よりも先輩っぽく感じるから、言葉にすると難しいし表現としてこれが合っているかわからないけれど、ちょっと
「…そういえば私に話があるって言ってなかったっけ?」
「?…そうじゃん忘れてた」
「忘れてたんかい」
話にすっかり夢中になっていつの間にか曜子さんの弁当を完食しようかってところで鶴ならぬ
「同じクラスに千木良っていう女バドのやつがいんだけどさ……そいつにも俺らのこと話していいかな?」
我に戻って思い出して、すぐさま本題を切り出す。全く、俺はこの話をするために雛姉とわざわざ人がいない体育館まで来たっていうのに、何を呑気に関係のない雑談に花を咲かせた挙句に忘れてんだって話だ。
「千木良さん……って、借り物競争で飛鷹くんと手を繋いでた背の高い子?」
「…あれ見てたんだ」
「当たり前でしょ。私もグラウンドにいたんだから」
俺のことを話し始めた俺に、雛姉が手を繋いでた背の高い子かと問いかける。やっぱりも何もないとして、千木良と一緒に手を繋いで走ってたところを雛姉はガッツリと見ていた。まあ、一緒に走っているうちにこっちも気分的に吹っ切れたから振り返っても“だから?”って話だが。
「仲良いの?千木良さんとは?」
最後の一個になった卵焼きを箸で掴み、右に座る俺に横目で視線を向けて“仲良さそうじゃん”と言いたげに悪戯っぽく笑いながら雛姉が千木良のことを聞く。
「
「そっか。それは良かった」
もちろん千木良とはこの1ヶ月で普通に友達と呼べるくらいの関係になっているから、反論する理由なんてない。
「もし俺が千木良に言うことで雛姉が困るんだったらもちろん言わないけど……あいつだけ知らないのはどうなのかなって、俺的に思っちゃってさ」
「あれ?もしかして1年B組にいた人?」
ネットを張る準備をしようとしてたときにふと肩がぶつかったことがきっかけで初めて千木良と言葉を交わしたのは、約1ヶ月前の入学式終わりの部活でのこと。
「おはようひだっち!」
ほぼ初対面だというのにずっと前から親友だったかのような距離感で絡んでくる千木良のことは、ノリが陽キャすぎてぶっちゃけ最初は戸惑いのほうが強かった。けれどクラスメイトになって教室や体育館で一緒に話したり、たまに朝練に来るタイミングが重なって校門の前から体育館まで一緒に歩いてるところを後ろから来た針生先輩に見られて揶揄われたりなんてことをしているうちに、気が付いたら千木良は同じクラスの坂元と共に学校で会えば必ず話すような友達になった。
「ひだっちはリレーやるんだ?」
「俺は走る系の競技が好きなんだよ」
「バドが一番じゃなくて?」
「もちろん体育祭ん中での話な」
同じ屋根の下で暮らしてる雛姉とは真逆でほぼほぼ学校でしか会って話をしていないのだけど、どことなく波長が合うところがあるせいかただ話してるだけで深い意味もなく面白くて、たまに陽キャな言動と行動に振り回されてもつい大目に見てしまう憎めないところが、単純に俺の高校生活にバドミントン以外の楽しさを与えてくれている……なんてことを言葉にして本人に言えるほどじゃないけれど、気が付けばそれぐらいには
「いい顔してるねひだっち」
ひとつだけ言えるのは、もし俺がバドじゃない違うスポーツをやっていたら、きっと千木良とは
「…どうだろう雛姉?」
「いま口の中に卵焼き入ってるから10秒待って」
「おう。悪い」
俺が意思を仰ぐと、雛姉は弁当箱の中に残っていた最後の卵焼きを口に含みながらもごもごとした口調で
「いいよ。千木良さんに言っても」
そして卵焼きを味わいながら何かを考えるように上のほうに視線を向けてからちょうど10秒くらいのタイミングで、卵焼きを飲み込んで視線を右隣の俺へ戻した雛姉は優しく笑ってあっさりと了承してくれた。
「マジでいいの?」
「だって友達に嘘ついてまで隠し事するのはする側もされる側も辛いだろうなっていうのは、私も想像つくからさ」
1ゲームマッチの帰りで雛姉が自主練で使っている公園に寄ったときに軽い感じであったとはいえ“あんまり言いふらさないでほしい”って言われてたから駄目って言われるかもしれないと内心では思っていたものの、その心配は杞憂だったみたいだ。
「本当にありがとう。雛姉」
とはいえちょっと拍子抜けするくらい杞憂に終わっても、心はひと仕事を終えたみたいな解放感に包まれる。
「もちろんこの後すぐに話すとかじゃなくて、タイミングとかを考えて言うべきときに言おうとは思ってる」
「へぇ~、飛鷹くんって結構そういうのちゃんと考えるタイプなんだ?」
「攻守とかロクに考えないでひたすらシャトル打ってた中学んときとは違って、いまの俺はバドも含めてちゃんとその辺も意識してっからな」
「栄明に来てからちゃんと成長してて偉いね君は」
「やっと中3から一歩踏み出せたってだけよ」
「褒められるとついその気になるところは変わんないけど」
「何でわかんの?」
「思いっきり顔に出てる」
「マジか気をつけよ次から」
打ち明けると言えどもちゃんとタイミングを考えて千木良に伝えるという自分なりの方法を雛姉から偉いと言われていい気になって、そしてあっさりと見抜かれる俺。
「ま、そういう
「だったらいいけど」
煽てられるとすぐに調子に乗るこの性格は割と本気で克服したいとは思ってはいるものの、俺の弱いところも知っている雛姉から褒められるとついいい気になってしまう。
「あっそうだ、千木良にも雛姉と俺のことは学校で言いふらさないようにって忘れず伝えとくわ」
でも、そんな雛姉が近くにいるおかげで中学のときみたいに自分を見失わず、いまの俺はバドを本気で頑張れているって思う。
「…飛鷹くんは
曜子さんの弁当を食べ終えた雛姉が、1階のコートを挟んだ向かいのキャットウォークの窓を見つめながら小さな声で俺に呟く。
「…それはどうも」
俺って自分が思ってる以上に、まだまだ雛姉のことを
「さて、話は終わったことだしそろそろ戻ろっか」
何秒かの沈黙を挟んで、雛姉は何事もなかったかのように弁当を片付けて立ち上がる。
「おう。つってもあと20分くらいあるけど」
「あんまり長くいると誰かに見つかるかもだし」
「まぁ、それもそっか」
それに続いて俺も美味しくいただいた弁当を片して立ち上がる。何気なくついでで開いたスマホのロック画面が示す時間は12時37分。思わぬ形で一緒にお昼を食べることになった雛姉との時間も、少し早いけどこれで終わり。
「出るときも別々ほうがいい?」
「うん。そうだね」
「どっちから先に出る?」
「んー、私はもうちょっとだけここにいたいから飛鷹くんが先で」
「わかった。雛姉も遅くなりすぎないようにな」
「心配は無用ぞ」
もう少しだけここにいたいと言う雛姉へ遅れないかの心配を心の中でしつつ、俺は一足先に出口に向けて足を進める。
「言っとくけど幾ら相手が雛姉だろうと焼きそばパンは譲らないからよろしく」
「上等。私も気持ちは同じだから」
「じゃあまたグラウンドで」
ぶっちゃけるともうちょっと一緒にいてもいいって気持ちもあるけれど、1人になりたい雛姉の気持ちを尊重して最後は青と赤の
「(…そんなに俺って優しいんかな?)」
階段の踊り場まで下りたところで、頭の中にさっきの横顔が浮かんできた。“優しいね”と右に座っていた俺に言葉を向けているようで違う場所に意識が向いているような、そんな感じがした雛姉の顔。
「……」
家にいるときにはまず見せることのないその横顔を見た瞬間……俺は雛姉との間に
「(って、何考えてんだ俺…)」
踊り場から1階のロビーに下りてひとまず頭の中が冷静になった俺は、そのまま振り返ることなく体育館から出た。
ちなみにこの裏で大喜と千夏先輩は体育館の倉庫でイチャイチャしながらお昼を食べてます。(原作125話&126話より)