「そういや千木良って
体育祭終わりの練習中、合間にひだっちを土曜日の練習に誘うついでで雑用をササっとこなしてコートに戻ろうとしたとき、私は呼び止められた。
「あー、言われてみればひだっちにはまだ言ってなかったね」
ひだっちから言われて、そういえばまだ弟の慧のことを話していなかったなってことを思い出した。もちろんずっと忘れていたわけじゃなくてどこかしらのタイミングで話そうとは思っていたけれど、いざ話そうとするとその度に頭の中がちょっとだけネガティブになるから、今まで言い出せなかった。
「実は1コ下で私と同じでバドをやってるんだけどさ……まあ
結局このときも、私は適当に理由をつけてすぐにコートのほうへと戻った。言っておくけど私は慧のことを嫌ったことは今日に至るまで一度もないどころか、弟として普通に大好きだ。お兄譲りのドが付くほどの美形で、バドミントンの才能は栄明に通っていたころのお兄をも凌駕していて勉強だっていつもクラスの上位で才色兼備だけど、ちょっと天然な可愛いところもある千木良家の自慢の末っ子。
「(…
だけどふと、そんな可愛くて仕方がない慧や“天才”と呼ばれていたお兄と自分を比べてしまって、負い目を感じてしまうときがある。本当は家族はおろか人に対してこんな感情なんて使いたくないし絶対に思っちゃいけないことだってわかっているのに、特に慧のことを誰かから聞かれると私はこうなってしまう。
「結も負けてられないね?」
みんなは私のことをいつも明るくて元気だって言ってくれるけど……
「何観てんの?」
「恋愛ドラマ」
「あぁ、姉ちゃんが毎週観てるやつか」
お風呂上がりの後でリビングのソファーに座ってドラマを観ながらスマホをいじっていると、入れ替わりで入っていたお風呂から上がって寝間着のジャージに着替えた慧が声を掛けてきた。
「何してんの?」
「ドラマ観ながら体育祭のアルバム作ってる」
「器用だね」
“何してんの”とソファーに座ってひだっちへ送る体育祭の写真を選定している私に聞きながら、慧は空いた隣のスペースに座ってスマホの画面をチラ見する。人との距離感がバグってるとまーやから言われてる私が言ってもどの口がって話かもだけど、この弟はちょっとだけ
「結~慧〜、明日も朝走るんなら遅くなりすぎないようにねー」
「このドラマが終わったら寝るよママ」
「じゃあ私もこれでお風呂入るねー」
「おけまるー」
とりあえずアルバムを送るのといま流れてるドラマが終わるまではこのソファーから立つ予定はないから、お風呂へ入るママにドラマが終わったらすぐ寝ると伝えて再びアルバム作りに戻る。ちなみにいま作っているアルバムはあくまでひだっちとさかこーのグループに送る用で、1年ズには1年ズ用のアルバムを作ってついさっきグループに送っている。
「(うん…我ながらにちゃんと撮れてる)」
アルバムのストックに溜まった、体育祭のひだっち。1Bの3人で撮った写真と、さかこーと息を合わせて走る二人三脚と、青色のバトンを持って全力疾走で駆け抜ける組対抗リレー。
「(…やっぱり
そして私が不意を狙って撮った、どこかを見つめて静かに微笑むひだっちの横顔。走っている姿も疾走感があって良いけれど、何だかんだでこの一枚を超えるベストショットは撮れなかった。
“…この写真はひだっちにだけ送るか…”
「おれもちょっとだけ見ていい?」
1Bバド部のグループに送る写真を決めたところで、ちゃっかり隣に座ってテレビで流れていたドラマを観始めていた慧が興味津々って空気を出してねだる。
「も〜、お主は我儘やのぅ」
「なんで時代劇の口調?」
もちろん見られたくないような疚しい写真なんて一枚たりともないから、私は普通に見せる。
「これがよく一緒にいる女バドの4人ね」
「へぇーめっちゃ仲良い感じじゃん」
「おかげさまで」
グループに送るアルバム作りを中断して、慧と一緒に今日の体育祭を写真で振り返る。もちろんスマホの中に保存された思い出は仲良くなった同じバド部のクラスメイトだけじゃなくて、女バドの1年ズだとかひだっちたちの次くらいに学校で話してるグループとの思い出もあって、何だかこうやって振り返るだけでもお兄が通ってたこの学校に来てよかったって幸せな気持ちになる。
「姉ちゃん。すごく楽しそうな顔してる」
「そりゃ楽しかったからね体育祭」
しかも隣にこの思い出を見て嬉しそうな顔をしている弟がいるから、それだけで幸せとエモさが倍増だ。
「…もしかしてこの写真のどっちかの人?同じクラスのバド部の人って?」
なんて感じに写真を見せていたら、ひだっちとさかこーの3人で撮った写真を慧が指さして聞いてきた。
「そーだよ。この左側で半目になってる人」
「なんで半目?」
「シャッター押したタイミングで瞬きしちゃったらしいよ」
「らしいよって撮ったの姉ちゃんでしょ」
私がシャッターを押したタイミングで瞬きをしたせいで、何だかめちゃくちゃ不機嫌そうな顔になっているひだっち。あの後にちゃんとしたスリーショットも撮ったけど、私的には断然
「あ、この写真いいじゃん」
すると今度は、慧が今日撮った写真の中でも一番のベストショットのやつを指さした。
「ほほぉ~、この写真の良さに気付けるとはさすがは私の弟よ」
「ひだっちファイトー!」
この横顔を撮ったとき、私はひだっちがどこを見つめていたのかなんて全く想像もつかなかったから、頭の中で“どこ見てたんだろ?”と思いながらも特に気にも留めていなかった。
「追いつけひだっちーっ!!」
だから最後の組対抗リレーのときにはそんなことなんかすっかり忘れていて、青のバトンを右手に持って目の前を一瞬で駆け抜けるひだっちを写真に収め、私は声が枯れようがお構いなしなくらいの気合いを込めて応援していた。
「ひだっちナイスっ!」
陸上部も顔負けなペース配分無視のロングスパートで200メートルを一気に駆け抜けて、バトンがハリー先輩に渡るのと同時にゆっくりとペースを落として息を整えながら歩くひだっちに、私は声を掛けた。
「って、聞こえてないし」
普通に届くぐらいの声量を送ったのだけど、一気にデッドヒートになったハリー先輩の青組と大喜先輩の赤組の優勝争いで最高潮になった盛り上がりに飲まれてしまったのか、私の声に全く反応する素振りを見せずにひだっちは目の前を通り過ぎて、少し先に行った場所で立ち止まると顔を上げてコースの外へ視線を向けた。
『青組速いです!赤組との差が_』
顔を上げて私の目に映ったひだっちの横顔は、開会式の後に撮ったあの一枚とも違う真剣な表情をしていた。その表情が私には、まるで“俺のことを見ろ”と言っているように感じた。
「(…雛先輩?)」
そしてひだっちが見つめる視線の先にいたのは、新体操部の雛先輩だった。いやいや見間違いでしょって自分の頭を振ろうとしたけど、あのときのひだっちは明らかに雛先輩を見ていた。そういえば総当たり戦のとき、雛先輩がひだっちとハルの試合を見てたこともあったっけ。
“…もしかしてひだっちって…”
「どーしたの結、急に静かになって?」
「えっ?いや別にっていうかハリー先輩は?」
「あそこ」
「ハリー先輩マジでガンバーっ!!」
だけど、私にはまだ見せたことのない表情で違う人を見ているひだっちの
「楽しみだね……土曜日の練習」
私のスマホに映るひだっちの横顔を見つめる視線をテレビのほうへ移して、慧が呟く。
「もう、ほんとバドのことになるとわかりやすくなるよね慧は(ひだっちもだけど)」
「姉ちゃんが強いって言うんだから絶対なのは決まってるしね」
「ごめん。やっぱりちょっとだけ弱いかも」
「全中に出てるって時点で弱いわけないよ」
「まあそれは言えてる」
相も変わらずドラマを観ながら言葉を交わす横顔と声はポーカーフェイスだけど、ひだっちとの練習を心待ちにしている素直な気持ちが表れている目だけは、本当に子供みたいに輝いている。まあ、実際まだ子供ではあるのだが。
「よしっ、1Bに送る用のアルバムできた~」
そうこうしているうちにこっちはこっちでアルバムが出来て、グループにアルバムを送る。
「さあ飛鷹よ。
「ひだか?」
「って人が練習に来るからよろしく」
当然、とっておきの一枚は栄明で一番仲良くなった友達にだけのサプライズプレゼント。どんなリアクションが返って来るか、送る前からもう楽しみだ。とりあえず欲を言うなら、慧みたいに“いいじゃん”って言ってくれたら私の勝ちだ。全然勝負でも何でもないけど。
「(…あとはこれで送信っと)」
あれ?よくよく考えたら
「姉ちゃん。全中に出てたってことはおれその人と同じ大会出てるじゃん」
慧がまさかの一言を呟いたのと同時に、一枚の写真を選択していた指が送信ボタンに触れた。
「あれ?今日は部屋戻らないんだ」
蝶野家の風呂から上がった後、いつもなら自分の部屋へ真っ直ぐに戻るはずの俺がリビングに顔を出したのを見て、先に風呂に入ってリビングのソファーに座ってドラマを観ていた雛姉が少し意外そうな顔で一瞥して言葉をかける。
「部屋に籠って筋トレしたり世界選手権の動画見るのもいいけど、たまにはドラマを観るのもいいかなって思ってさ」
「普段は全然ドラマとか観ないのにどうしたの飛鷹くん?」
「何となく今日はそういう気分だから」
「どういう気分それ」
どういう風の吹き回し?とも言いたげに笑う雛姉に理由になってない理由を告げて、俺は3人分ほどのソファーの空いたスペースに座ってドラマが流れているテレビに視線を向ける。
「いま思ったけど飛鷹くんって風我くんにもちょっとだけ似てるよね」
「誰それ?」
「いま出てる人」
「俺こんなイケメンじゃないんだけど」
「そう?でもほら、目元とか割とそっくりな気がする」
「だからこの人誰?」
「
「聞いたことすらない」
「ドラマに映画に引っ張りだこでいま一番勢いがあるイケメン俳優を知らないとはさては流行りに疎いな君?」
「って言われても俺にはさっぱりわからん」
ちなみに雛姉の言う通り普段の俺はドラマとか映画の類を全くと言っていいほど観ないから、いま話題の人と言われても全くピンと来ない。
「途中から観ても全然わかんないでしょ?このドラマ」
「とりあえず恋愛ドラマだっていうのは何となくわかった」
「まず飛鷹くんって恋愛ドラマ観たことあるの?」
「一回もない」
「だと思った」
「でも面白そうだなとは思う」
「ホントにそう思ってる?」
昼休みのときみたいに雛姉の隣に座ってドラマに目を通すはいいものの、こんな調子なわけだから当然ストーリーとか登場人物の関係なんて1ミリもわからず、いま流れているのは恋愛ドラマなんだろうなってことが辛うじてわかるくらいだ。これもまた雛姉の言う通り、ドラマなんて途中から観ても全然わからない。
「じゃあこれを
とりあえずな感じで何気なくドラマを観始めた俺に、左に座る雛姉が優しく微笑みながら聞いてくる。
「おう。全然いいよ」
「ホント?」
「ぶっちゃけ恋愛ドラマなんてまともに見たことすらないけど、雛姉がこうやって楽しそうに観てるやつだから絶対面白いでしょ」
「ぷはっ、どういう理由よそれ」
ぶっちゃけ恋愛ドラマなんて今まで生きてきてまともに見たことが一度もないくらいには疎いけど、あの新体操に一筋でストイックな雛姉がリビングに座って釘付けになっているのを見るだけで、不思議と俺も観てみたいなって思えてくる。
「でも飛鷹くんのこういうところ、私は
「嫌いじゃないって何?」
「待っていまいい感じのところだから静かにっ」
「めっちゃ真剣に観てやがる…」
何よりも、5年前と何ら変わらない距離で雛姉とこうして一緒にいることが、深い意味なんて関係なしに幸せだ。
…そういやリレーのときに目が合ったこと、まだ雛姉から聞いてないな…
♪~
「スマホ鳴った」
「あぁ、俺のやつ」
雛姉の隣に座ってドラマを観始めて数分後、一通のメッセが俺のスマホへ届いた。多分これは部活のときに行っていた写真のことだろう。
「(やっぱり)」
画面を開くと1年B組バド部のグループ宛てに “ちぎらゆいがアルバム『体育祭』を作成しました”というメッセージが表示されていた。そういえば千木良のやつ“マジで期待して”みたいなことを言っていたけど、果たして写真好きのお手並みのほどはどうか……という僅かな期待を感じながら雛姉と一緒に観ているドラマへ半分くらいの意識を向けつつ、もう半分の意識で送られてきたアルバムの中身に目をやる。
「(俺が瞬きしてたやつフツーに入ってるし)」
アルバムを開いて真っ先に目に飛び込んだのは、俺だけ半目になった坂元と合わせた3人での集合写真。坂元曰く千木良がシャッターを押したタイミングで瞬きしたからこうなったというが、改めて自分で見直すとまさに苦虫を噛み潰したような顔をしていて1周回って笑いそうになる。
「(二人三脚と……これがリレーのやつか)」
自分の変顔はほどほどに親指で軽くスクロールすると、待機時間に撮ったいくつかの写真に混ざって坂元と出た二人三脚や俺のリレーを撮った写真が目に付く。
「(確かに上手いな撮るの)」
俺と坂元が肩を組んで息を合わせながらコースを走る様子や、青色のバトンを受け取って200メートル先のゴールを目指して目の前を駆け抜けていく俺を連写で撮った千木良の写真。エフェクト的なものは全く使ってないから一見すると普通だけど、よく見るとそのどれもがちょうど写真の真ん中に被写体(千木良がそう言ってた)が来るように撮られているから、やたらと写真写りが良くて心なしか俺と坂元がいつもより映えている気がする。
「我ながらカッコよく撮れたから期待しといて」
と、ハードルを上げたくなる気持ちがわかるくらいにはちゃんとカッコよく撮れている千木良の写真。何となく思う壺になっていそうなのが若干悔しいけれど、これだけ上手く撮ることが出来たらさぞ楽しいだろう。
「(本気出せばカメラマンとかワンチャンいけそうじゃねこいつ?)」
♪~
思っていた以上に上手く撮れている千木良の写真にすっかり感心しかけたところに、今度はグループではなく俺宛てに“ちぎらゆいが写真を送信しました”という通知が届く。
「(…あれか)」
もしや…という予感を肌で感じながら千木良のトークを開くと、“奇跡の一枚”というメッセと一緒に俺の横顔を撮った不意打ちの写真が送られていた。
『ほぼ盗撮やん』
『これが今日のベストショットです笑』
グループに送ったアルバムには入れず、わざわざご丁寧に俺のところにだけ送ってきたベストショット。このとき俺は、少し離れたところで大喜先輩たちと記念写真を撮っていた雛姉のことを見ていた。
「(なんつー顔してんだよ俺…)」
写真越しに知る、雛姉を見ている自分の表情。“いい顔してる”って千木良は言っていたけど、撮られた俺からすれば普通に恥ずかしさが勝つ。というかこんな顔で見てたんだ俺……とりあえずはいま隣にいる雛姉がこれを見てしまったときにどう思うか、ちょっとだけ恐い。
『普通にはずいわ笑』
ただこの写真を撮った千木良からは、撮られた俺とは
『でもありがとう』
ホント、千木良は
「もうドラマ飽きちゃった?」
体育祭の写真を見返しながらドラマなんてそっちのけでトーク画面と睨めっこをしていた意識に、割と真面目なトーンの柔らかな声が入ってきて意識がスマホから離れる。
「ごめん。友達からメッセ来ててそれ返すのに集中してた」
「それは友達を優先しなきゃだね」
「あの、ドラマに飽きたわけじゃないんでそこんとこはよろしくっす」
「ふふっ、わかってるよ」
たまにやる揶揄いをまんまと真に受けた俺を見て、雛姉は悪戯に笑い出す。ジョークだっていうのは頭でわかっていても声のトーンとか表情がいちいちマジっぽくてつい引っかかってしまうのは、5年前のときから変わらない気がする。
「体育祭…楽しかった?」
そんな感じにワンチャン女優も行けるんじゃね?と思わせる演技力に騙された俺を微笑ましく見ていた雛姉が、佳境に入った恋愛ドラマへ視線を戻して呟く。
「おかげさまで楽しみ尽くせたよ。青組も優勝できたしめちゃくちゃ美味い焼きそばパンも食えたし……でもってインハイ予選のメンバーにも選ばれたし」
「体育祭のこと聞いてるのにバドミントンの話が出てくるのが飛鷹くんらしいね」
「俺は大喜先輩の次くらいにはバドバカなんで」
「自分で言うんだ…」
振り返れば今日の体育祭は、最初から最後まで雛姉と千木良の2人に振り回されていたような気がする。もちろんそこに嫌だとか不快な気持ちは全くなくて、いま残っているのはきっと今日のことはいつか振り返ったときに
「…リレーのとき、針生先輩にバトン渡したあと目が合ったじゃん」
同じようにドラマを観ながら感傷に浸り出していると、一呼吸ほどの間を空けて雛姉が呟くように聞いてきた。聞かれたのは、部活が終わって蝶野家に帰ってからお互いにまだ一度も口にしていなかったリレーでの一幕。
「そのときの飛鷹くん。何か私に言いたそうな感じに見えたんだよね」
「なんで?」
「んー、見るからに目で訴えてる感じがした」
あの3秒間で俺はどう思いながら雛姉のことを見ていたのか、いざ言葉にしようとすると難しくて言い表せない。
「“どうだ、俺の走りを見たかっ”みたいな…違ってたらごめんだけど」
『青組速いです!赤組との差がさらに縮まって_』
「…俺がバトンもらって走ってるとき、雛姉の声が聞こえたんだよ。“ファイト”って」
走り終えた後に目が合ったことを話し始めた雛姉へ、俺は一呼吸を置いて“ファイト”という小さな声が聞こえたことを明かす。
「へぇー……あれ聞こえてたんだ」
その小さな声が届いていたことに薄々勘づいていたのか、妙に勘が鋭いところがある雛姉は心なしか“やっぱり”って気持ちが入ってそうな表情で呟き返す。
「走っててギリ聞こえるか聞こえないかってくらいの声なんだけどさ…その声がスッと耳の中に入ってきたら、もう青組が勝つことより雛姉に俺の全力を見せてやろうみたいな気持ちになって、ペースとか無視して全力で走ってた」
「途中でバテないか敵ながら心配だったよ」
「俺もあんなペースで最後まで持つとは思わなかったわ」
やっぱり
これが雛姉から言われた“優しいね”という言葉がきっかけだっていうのは、何だか気恥ずかしくてどうしても言えなかった。
「…見て欲しかったんだよ。
だから俺は、その代わりになる言葉を隣に座る雛姉へと伝えた。
「飛鷹くんのことなら毎日見てるでしょ。こんなふうに」
目が合ったときに何を思っていたのか明かした俺を、毎日見てるとツッコミながら雛姉はクスっと笑って見つめる。そりゃ同じ家に住まわせてもらっているから、言われてしまえば当然のことだ。
「それはそうだけど…なんつーか、
だけど見て欲しかったのは、学校を本気で楽しんでいる俺のことだ……なんてことを堂々と口にするのにまだ烏滸がましさを感じて結局言えないくらいには、いまの俺はまだ雛姉の考えていることや気持ちをわかっていないけれど。
「あははっ、そんなの言われなくてもわかるよ」
自分の気持ちを上手く纏められない俺を見て、雛姉はまた悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「体育館にいるときの君がいつも楽しそうに練習してるところを見れば、それだけでこの学校を
そして全部わかっていると言わんばかりに優しい笑顔と明るい声でそう言って、雛姉は視線をテレビのほうへ戻す。
「カッコよかったよ。今日の飛鷹くん」
自分でも本気で楽しめているかなんてまだわからないのに、雛姉から立て続けにこういうことを言われただけで、単純な俺はその気になってしまう。
「…なら全力で走った甲斐があったわ」
やっぱり雛姉は、色んな意味で恐ろしい人だ。
「あれ珍しいじゃない飛鷹くんがこの時間に
「雛姉からも似たようなこと言われました」
「たまには気分転換でドラマ観たいって」
「へぇ~、けど明日も学校なんだから夜は遅くなりすぎないようにね」
「了解です」
「このドラマが終わったらすぐ寝るよお母さん」
こうして1学年上のはとこと同じクラスの友達に振り回された一日は、雛姉が毎週観ている恋愛ドラマの次回予告を締めくくりに終わった。
途中で名前だけ登場する神岡風我のモデルは、あのイケメン俳優さんです。