『コールします。試合番号7番_』
「来たっ」
1回戦の試合番号を告げるコールがアリーナに流れるなか、俺の出番はあっという間に回ってきた。
「頑張れよ飛鷹っ!」
「
自分の試合番号が告げられて意気揚々とラケットバッグを背負って立ち上がる俺に、応援団として駆けつけてくれた同期と後輩たちが次々と声援を送る。
「任せろ。何といっても俺は8点差をひっくり返してチャンスを掴んだ男だぜ」
熱意全開の南中バド部からの声援に、俺は意気揚々と答えて見せた。全中というだけあって甘くなんて見ていないし、1回戦を勝ち上がることすら容易じゃないってことはわかってはいたけれど、北信越大会で8点差をひっくり返して最後の一枠を勝ち取ってこの場所にまで来た
「飛鷹」
そんな俺に、俺らの代で部長をやっていた恵介が落ち着いた声で最後にこう言った。
「どんな状況になっても、自分を見失うなよ」
周りのバド部の連中が初めての全中で浮足立つ中で、恵介だけはずっと冷静なまま俺のことを見ていた。いま思うとここが、この後に始まる1回戦の結果を左右する最後のターニングポイントだったのかもしれない。
「心配は無用だぜ。なんせバドを楽しむのがこの俺だからな」
ただ最初で最後の全中に加えてこのときの俺は練習も含めて自分史上最高に調子が良かったこともあって、自分が思っている以上に舞い上がっていることに気付けていなかった。だから恵介からの最後のアドバイスも、心のどこかで軽く受け止めていた。
「じゃ、一発ブチかましてくるわ」
どっちにしろこのときの俺には
「よろしくお願いします」
それでも、小4から始めてここまでやってきた集大成が不完全燃焼で終わった
「あれ?いねえ…」
土曜日。16時までの部活が終わり、一目散にラケットバッグを背負って集合場所になっている図書館近くのバス停に着いたはいいものの、今日は学校よりバス停に近い市民体育館で練習しているはずの千木良の姿が見当たらない。女バドの練習が長引いている……のはいつも使っている体育館より時間に厳しい市民体育館のことだから多分あり得ないとして、部活が終わっていつも仲良くしている兵藤さんたち1年の面子と集まって遅れているのだろうか。
「(…ここでいいんだよな?)」
どっちにしろこの前に送られてきたメッセに書かれていた場所はここで間違いはないとは言っても、これから向かう練習場所がどこにあるかなんて全く知らないから
「(とりまメッセしてみるか…)」
試しに図書館近くのバス停に着いたことといまどこにいるかをメッセで聞くためにスマホを開く。何気なく目にした時刻表によると、次のバスが来るのは今から約3分後。
『バス停着いたわ』
次のバスを気にしながら、千木良のトークにメッセを送る。どうでもいいことだが、俺の地元で走っているバスは万が一場所と時間を間違えたりして乗り遅れようものなら次に来るのは最悪の場合1時間後とかだから、乗り遅れは割とマジで致命傷だ。
「(って既読早っ)」
なんてことを考える暇もなく、メッセを送信して5秒もしないうちにたったいま送ったばかりのメッセに“既読”の二文字がつく。
『後ろ』
「えっ?」
そして“うわ早っ”と思う隙も与えぬ早さで千木良から返信が返ってきて、訳も理解も追いつかないまま後ろへ振り返る。
カシャッ_
「いただきました。本日のひだっち」
「また盗撮かい」
時間にしてトータルで10秒足らず。俺は体育祭ぶり二度目の盗撮…もとい不意打ちを食らった。
「ひどいなぁひだっち。せっかくカッコよく撮ったのに盗撮って」
「てかいつから俺の後ろにいた?」
「時刻表のとこじーっと見てたあたり」
「忍者でも目指してんのか?(マジで気配なかった…)」
部活終わりのウザ絡みの僅かな鬱陶しさと、集合場所が合っていたことの安堵が3:7くらいのバランスで押し寄せる。もちろん鬱陶しさというのは友達であるが故で、悪い意味なんかじゃない。
「いま撮ったやつ
「あー、任せるわ」
「じゃあトークのトプ画にするね」
「それはマジでやめろ」
「さすがに冗談すよ飛鷹パイセン」
体育祭のあの写真に満更でもない返事をされたことで変に手応えを感じてしまったのか、どっちでもいい感じの返しを送った俺を見て隣に移った千木良が嬉しそうに笑って揶揄う。ちなみにこの後の予定はと言うと、このまま隣町の駅へ行くバスに乗って千木良兄弟の待つ体育館へと向かい、2時間ほどの自主練習に参加した後に栄明OBのお兄さんから夕飯を奢っていただくという有難すぎるスケジュールだ。
「とりあえず今日は、色々とあざす」
「その代わりインハイ予選でいい結果残さないといけなくなっちゃったね?」
「当然。これで1回戦敗退とかだったら坊主にするくらいの気持ちだわ」
もちろんこれだけ至れり尽くせりをされるわけだから、これで初戦敗退で敗れるものなら頭を丸める
「わかった。じゃ今からお兄にそう伝えておくね」
「気持ちってだけでマジな意味じゃねえからやめろっ!」
「あれ?もしかしてビビってる?」
「いやビビってねえけど……てか冗談でも坊主にするとか言うもんじゃないなマジで」
「さっきから西田先輩に失礼じゃない?」
「西田先輩は似合ってるからいいんだよ」
「でもひだっちって結構坊主も似合いそう」
ってぐらいの気持ちというだけのつもりで口にしたら、俺が
「あ、来た」
そうこうしていると隣町の駅へ向かうバスがやってきて、俺は千木良と一緒に乗り込む。
「千木良っていつもこのバス使ってんの?」
「うん。歩きで行くにはちょっと遠いからね」
「どれくらい?」
「んー、40分くらい?」
「それは学校に行くだけでウォームアップになるな」
休みの日の午後というだけあってバスの車内は人がいるにはいるけれど混雑ってほど乗っておらず、後ろから2列目の右側の席に俺たちが座るのと同時にバスは走り出す。
「ひだっちは割と近いところだっけ?」
「歩きで10分」
「羨まっ」
見慣れ始めていた景色とは違う車窓を右にして、座席に収めるには少し窮屈なラケットバッグを気にしながら、目的地に着くまでの時間をクラスメイトとの会話で潰す。
『次は、青木三丁目_』
思い返せば学校の授業だとか部活が終わったあとは決まって恵介とかバド部の連中と仲良くつるんで帰っていたから、何気に同クラの女子と2人だけの放課後というのは人生初だったりする。まあ、バド部って意味で言うなら中学のころと大した違いはないのだけど。
「確かひだっちって親戚さんの家で居候してるんだよね?」
「ちゃんと元から縁があるから居候じゃねえけどな」
「あはっ、言われてみればそうだね」
なんて人知れず軽く感傷的になりながら話していると、何気ない一言にそういや雛姉に相談してからまだ千木良に
「…いやぁ、ひだっちはすごいよね」
「急になにが?」
バスにしばし揺られたところで、足元に置いたラケットバッグのほうを見つめながら千木良が急に意味深な感じに呟く。
「だってさ、栄明でバドミントンをやるためだけにお父さんとお母さんがいる長野からたった1人で
「ただ周りより早く新体操をやってきただけの私より、バドミントンをやるためだけに親元を離れてたった1人で栄明に行こうって考えて、本当に有言実行しちゃうほうがよっぽど覚悟が決まってるでしょ」
「…俺はただ、誰よりもバドを楽しみたいから
全くの偶然ながら、雛姉から言われたのと同じ意味を持つ言葉が千木良の口から出てきた。俺のことをすごいと言いながら自分はそこまで頑張れないと謙遜する表情が、何だか俺が弟のことを口にしたときの顔に似ていた。
「むしろ俺からしたら、千木良のほうが俺なんかよりよっぽど頑張ってるって思う」
その横顔が何を意味しているかなんて俺には全くと言っていいほどまだわからないけれど、きっと千木良は俺が思っている以上にバドのことを本気で頑張っていて、それなり以上の努力をし続けてきたんだろうなって僅かに影を感じる表情で俺は思った。
「こういうこと言ったら逆にお兄さんのことを意識するかもって思ってたから今まで言わなかったけどさ……インターハイで2位になったお兄さんと同じスポーツをやるっていうのはきっと誰かしらから比較されることをわかった上でやってるってことだから、プレッシャーとか半端じゃないよなって…」
雛姉や千木良とは違って、俺は身内に比較される対象がいなかった。元々そこまで心が頑丈ではない一人っ子の俺にとって、自分より優れた兄弟だとか偉業を成し遂げた親がいなかったというのも純粋な気持ちのままバドを続けられた理由のひとつだって思っている。もし仮に親がバドミントンの日本代表でオリンピック選手っていう家族のところに生まれていたら、いまよりも心が弱かった俺は親と比べ続けられるプレッシャーに圧し潰されて、
「それをわかっててもこのスポーツを楽しもうって思えて、本当に楽しんでちゃんと結果まで出してる千木良のそういうところはマジで尊敬するし、純粋にすごいなって思う」
だから2人みたいに、嫌でも比べられることを理解した上でそれでも同じスポーツを好きになって本気で楽しめるのは、本当に凄いし誇るべきことだって俺は思う。
「俺はただ、自分がやってて楽しいか楽しくないかみたいな…たったそれだけの
千木良と仲良くなれたのは同じスポーツを頑張っているってこともそうだけど、初めて話したときからこいつにどこか雛姉と
「…一番いいじゃん。それ」
今までで一番心の内側を曝け出した俺を見て、千木良はそう言って嬉しそうに微笑む。
「その代わり針生先輩から初日に“熱しやすく冷めやすいメンタルをどうにかしろ”って言われたけどな」
「あー見えてハリー先輩って結構ちゃんとみんなのこと見てるからね」
「あー見えてっつーか俺にはそういうイメージしかないんだけど」
自分で言っておいてアレだけど、いざ言い終えてみたら“やっぱ言わなきゃ良かったか”という後悔に似た恥ずかしさが少しだけ募る。例えるなら、自分でボロを出したみたいな感覚だ。
「けど、自分じゃ到底敵わないような人が目の前に立ちはだかろうが、とにかく気持ちだけは負けずにコートにいる誰よりもバドを楽しんでやろうって……それだけは心に決めてる」
だけど、境遇は違えど同じスポーツに本気で打ち込む友達を前にした俺にとって、そんなことなんてどうでもいい。
「気持ちだけは負けず、コートにいる誰よりもバドを楽しむ……めっちゃ最高じゃん」
「て言いながらいざ直面すると“うわ終わった…”ってなるまでがセットな」
「あははっ、何それ全然駄目じゃん」
「全然駄目だから楽しいんだよ。ちょっとずつだけど強くなってる自分を実感できて」
ただバドを楽しむ気持ちだけでここまで走ってきた周りが思っている以上に不器用な俺を、千木良は“最高じゃん”と言って白い歯を見せるように明るく笑う。
「やっぱりひだっちといると本当に楽しいよ」
「それはどうも」
そう言ってくれたからってこっちから言うと雛姉のときみたいに揶揄われそうだからわざわざ口にはしないけれど、俺にとってもこいつといる時間は本当に楽しい。
「ふぁ~」
「眠いん?」
「部活終わったあとにバス乗ると眠くなるだよね~、なんかバスの中がイイ感じに暖かいっていうかさあ」
「いま寝落ちされたら俺が困るんだけど」
「“南宮町”ってところで降りるよ」
「と言われてもわからん」
「近くになったら起きるから安心して」
「思いっきり寝る気満々じゃねえか」
「
と心がそう感じた傍から、窓側に座る千木良はまあまあ豪快な欠伸をして
「(…マジで寝やがった)」
それから何度かバスの揺れに身を任せながらこっくりと頭を前後に動かして睡魔と戦うも、1分と経たずして寝落ちてしまった。欠伸をしたときから“あ、これはマジなやつだ”と直感はしていたものの、部活終わりで疲れ気味なときに邪魔するのも悪いから何も言わずに放置したが、当然こっちは降りるバス停まであとどれくらいかかるかなんてわからない。
「(南宮町……ってあとどれくらいだマジで?)」
つい2ヶ月前まで長野にある山のふもとの田舎町で過ごしていて
「…Zzz」
かと言って、部活が終わって気持ちよさそうに寝ている女子を無理やり起こそうって気にはとてもじゃないけど俺はなれない。
「もちろんああ見えてバドに対する心意気とセンスは本物だから、結局憎むに憎めないんだけどな」
午後から夕方に移り変わろうとする外の景色に照らされる綺麗で穏やかな寝顔を何気なく見ていたら、針生先輩の言葉を思い出した。普段はこんな具合にマイペースな自由人で、ときにうるさいくらいに明るくてそういう素振りを1ミリも見せないから伝わりづらいし本人もそんなことなんか望んでないだろうけど、千木良は普通に頑張り屋だって俺は思っている。
「…頑張ろうな。お互い」
バスに揺られながらこの後の自主練習に備えて体力温存…もとい睡魔に負けてうたた寝する無駄に美人な女バドの1年生エースへ、ギリギリ聞こえるかくらいの声で声援を送る。
「(って、聞こえるわけないか)」
もちろん聞こえない前提で発した俺の声は、バスの車内音にかき消されて隣にすら届かない。おまけに寝られてしまっては、雛姉のことだって話せない。まあ雛姉の話は、千木良のお兄さんから夕飯を奢っていただくときにでも話そうか。
『次は、南宮』
ピンポーン_
『次、止まります』
「よしひだっちに勝った」
「よく起きれたな」
「“南宮”って単語が聞こえたから条件反射で目が覚めた」
声を掛けられたことなんて知らない千木良がアナウンスから“南宮”という単語が聞こえた瞬間に目覚め驚異の反射神経で降車ボタンを押してくれたおかげで、俺のどこで降りればいいのかという心配は杞憂に終わった。
「お兄たちは先に着いて準備してるって」
「了解」
南宮町というバス停を降りて表通りから住宅街の道に入って2,3分ほど歩くと、千木良が土曜日にお兄さんと弟の3人で自主練習をしているという体育館が見えてきた。
「そういやお兄さんってバドは高校で引退してるんだったっけ?」
「うん、そーだよ」
「今なにしてんの?」
「大学通いながら俳優やってる」
「マジで??」
「そう。しかもちゃんと芸能事務所入ってる」
「…てことはリアルガチな芸能人やん」
「と言ってもまだまだ無名だけどね」
ちなみに千木良曰く、栄明高校男子バドミントン部のOBでもある千木良のお兄さんは高3のときに出場したインターハイでの準優勝を最後に引退して、今は大学に通いながら芸能事務所に入って俳優をやっているらしい。
「だからお兄からバドを教えてもらえるのは今のうちかもよ?ブレイクなんてしちゃったらこんなふうに土曜日に集まって練習なんて出来なくなると思うし」
「そっか…言われてみれば」
「って考えるとめっちゃグッドタイミングだねひだっち」
「あぁ、かもな」
芸能人がどんな生活をしているかなんて世界が違い過ぎて想像すらつかないけれど、こういう話を聞くと練習する前から今日は色んな意味で来て良かったと思えてくる。
「何ならサインも貰っておく?これで2年後くらいになって超がつくぐらいの売れっ子になってたらとんでもない価値になりそうだし」
「急に生々しいこと言うなおい…」
そんなバドをやめて芸能人になったお兄さんの
「…千木良」
ロビーへ入り、シューズに履き替えるところで俺は千木良に
「バドやってるっていう
体育祭終わりの部活で“会ってからのお楽しみ”と言っていた、まだ俺が何も知らない千木良の弟。結局あれから今に至るまで、一度も聞けずじまいなままだった。
「だから言ってるじゃん。
「お楽しみってどういう意味だよ?」
「そのまんまの意味」
「絶対に教えないってか」
「教えちゃったら意味ないでしょ」
相見える直前に弟のことを聞いてきた俺に、千木良は含みを持った笑みで一点張りを貫きながらスニーカーを空いたロッカーの中へと入れる。どうやらネタバラシをするつもりは全くないらしい。いったい何がそんなにお楽しみなのか、俺には全くわからない。
「…でもヒントを言うなら、ちょっとだけ
と、頭の中でしょうもなさすぎる考察をしながらロッカーにスニーカーを入れて半開きになった入り口の扉へ足を進めようとした俺へ、先に入り口の前に足を進めていた千木良が振り返りざまでヒントにならないヒントを与えて、軽くウインクしてアリーナの中へと入って行く。
「お兄!慧!ひだっちきたよー!」
正直ただの考えすぎだとは思っているけれど、いまの千木良からは自主練習に誘われたときに感じた歯切れが悪い感じは全くなかった。
まあ今は、インターハイに向けてOBのお兄さんから吸収できるものを吸収して予選を勝ち抜くことに集中しますか…
「失礼します」
半開きだった入り口の扉を広げて威勢よく入って行った千木良に続いて、俺も自主練習に向けて気持ちを切り替えて中へと入る。
「君だね。結が言っていた1年生の中で一番バドミントンが強いっていう友達は…というより、栄明のバド部ということは俺からすれば後輩ってことになるわけか…」
すると恐らくお兄さんだと思われる背が高くて見るからに芸能人ってレベルで顔立ちが整った練習着姿のイケメンが、俺を見つけるなりキラリとした爽やかなオーラを撒き散らしながらラケット片手に近づいてきて、手隙の右手を差し出す。
「初めまして。結の兄で栄明高校男子バドミントン部OBの
「1年B組、羽鳥飛鷹です。今日は色々とありがとうございます」
目の前まで来た千木良のお兄さんが自己紹介がてらで握手を求めて、俺もそれに応じる。
「礼はいらないよ。インターハイを目指す後輩のために尽くすのは
「あ、あざます」
元来の真面目さが露見して堅くなってしまっている俺に、差し出した手を放したお兄さんは礼はいらないとクールに笑って見せる。見るからに180は普通に超えているスラっとした背丈と、男の俺ですらビビるくらいの顔立ちの良さからくる雰囲気でどうこうできるやつなんかじゃない
「(てか待て……千木良のお兄さんカッコよすぎん?)」
いま感じている気持ちを例えるなら、ぶっちゃけバラエティー番組とかでたまにやる芸能人が突然目の前に現れたら?というドッキリで一般人が軽くパニックになったりカメラの外に逃走するやつを見て“そうはならんやろ”と思ってたけど、たったいまその気持ちが半分くらいわかってしまった……という感じだ。
「ところで結は学校でも元気にしてるかい?」
「はい。めっちゃ元気っす」
「ハハッ、それはよかったよ」
とりあえずはっきりとわかるのは、妹のビジュアルの良さは間違いなく
「ひだっちっ」
そんなバドをやめて芸能人になったお兄さんを前にやや緊張気味になった俺の名前を呼ぶ千木良の明るい声で、我に戻る。いけないいけない、俺はここにバドミントンをしに来ていて、あくまでお兄さんから色々とバドを学ぶためにここにいるんだ。
「この子が私の弟」
我に戻って千木良(妹)のほうへ振り返ると、その隣では例の弟が少しだけ恥ずかしそうな感じで立っていた。
「どうも。
「“かのじょ”て」
「
そして振り返った先で千木良の隣に立っていた弟くんもまた、お兄さん譲りの背高イケメンだった。というか三人揃って美形とかどういう遺伝子なんだこの三兄弟……ここまで来たら親御さんの顔も見たいくらいだ。
「
なんて俺が思っているなんて知る由もない千木良に揶揄われながら軽い自己紹介を済ませると、弟くんは明るい姉とは対照的な落ち着いたトーンで礼儀正しく挨拶する。
「いや、それはこちらこそっつーか…」
その弟くんが自分の名前を言った瞬間、妙な
「…いきなり変なこと聞くけど、もしかして去年の全中に出てた?」
そして頭の中で一瞬だけよぎったデジャブから生まれた好奇心のままに、俺は思い切って聞いてみた。
「はい。出てました」
「ゲームマッチ。ワンバイ。埼玉県代表、千木良君」
「…おう。マジか」
弟くん淡々とした“出てました”の一言で、曖昧になりかけていた記憶が一気に蘇った。
「あれ?あんまり驚かないんだひだっち」
ついでに人はあまりに驚きが強すぎると一周回って冷静になって何もリアクションができなくなるということを俺は知った。
というわけでついに全中で試合をした2人が邂逅したのと、男子バド部OBの千木良兄の初登場です。
ちなみに千木良3兄弟の身長は黎(185cm)、結(169cm)、慧(181cm)って感じです。