鷹と蝶   作:ナカイユウ

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似合ってる

 「雛姉……もし俺が……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピピピッ_

 

 「んー……」

 

 アラームの音が耳に届き、夢から現実に戻ろうとする曖昧な視界の中で音を頼りに発信源を止めて、ロック画面に示された時間を確認。時間は7時ジャスト。本当はもっと早く起きても良かったが、昨日の大移動で少しばかり疲れていたのと初練習のことを考えて長めに睡眠を摂っていた。

 

 「……そっか」

 

 1回目のアラームを止めていつものように半開きの目をこすってベッドから身体を起こすと、昨日譲り受けたばかりの新しい部屋が広がっていて無意識に声が漏れる。ほんの一瞬だけ、まだ俺は長野の実家にいるんじゃないかと錯覚した。

 

 “ほんとに今日から栄明でバドをやるんだな……俺”

 

 醒めたばかりの頭で部屋の隅に置いたラケットバッグに目を向けて、今日から始まる練習を実感しようとするけれど、何故だか実感がそこまで湧いてこない。昨日までは今日という日をこれでもかと楽しみにしていたはずなのに、いざその日を迎えるとあんまり実感というのが湧かないのはどうしてなのか。

 

 “…そういや、全中で遠征に行く日の朝もこんな気分だったっけ…”

 

 心の中で似たような思いをした日があったことをふと思い出しながらベッドから立ち上がり、昨日まで寝起きしていた部屋より少しだけ広い新しい自分の部屋を出て、階段を下り昨日のルームツアーで覚えた1階の洗面所へと足を進めて、顔を洗う。

 

 「……寝癖やば」

 

 顔を洗い、手ですくった水で口を軽くゆすいで、自前のタオルで顔を拭き、見慣れた羽鳥家のより僅かに大きな洗面台の鏡に映るぼさっとした寝癖頭に、思わず再び独り言。

 

 「直すか……」

 

 

 

 

 

 

 「色々とご迷惑をかけてしまうかもしれませんが、3年間よろしくお願いします」

 

 振り返ると昨日は怒涛の一日だった。新幹線と在来線を乗り継いで半日近くかけて手に持てる限界の荷物を引っ提げ蝶野家を訪ねて、雛姉とほんのちょっとだけ感動的?な再会を果たして、ルームツアーがてらこれから3年間寝起きをする部屋を紹介されて、その後には歓迎会と称して曜子さんのお洒落で美味ながらもアスリート一家らしく栄養バランスが考えられた色彩豊かな手料理を口にしながら、雛姉と3人でそれぞれの近況や互いの家族のエピソードを和気藹々と語り合った。

 

 「…君が飛鷹くん?」

 「はい。今日からお世話になってます」

 「……本当に誰だか一瞬分からなかった」

 「10年くらい会ってなかったからねお父さん」

 

 その後に蝶野家での初めての夕食を食べ終え3人揃って一息つこうというところで元体操日本代表の弘彦さんが仕事から帰ってきて、再びご挨拶。選手を引退しても多忙な弘彦さんと会うのはほぼ10年ぶりで、本人は冗談半分だった雛姉とは違いマジで俺のことを忘れかけていた。そういう俺は俺で弘彦さんの顔が頭の中で一致するまで数分かかったが、もちろん秘密にして心に留めている。

 

 「えっ!?いいんですか…!?」

 「つまらないものだけど、バドミントンは基礎体力が大事ということでよかったら」

 「ありがとうございます!ってか、ほんとスミマセン部屋に続いてこんないいものまで貰らっちゃって…」

 

 そんな俺のことを忘れかけていた弘彦さんから筋トレ用のアブローラーをプレゼントされた後、歓迎会の後半戦とばかりに俺が持ってきた土産を食べながら小一時間ほど弘彦さんと話をして、ドタバタした一日は終わった。ちなみにこの家に住むにあたって、俺は大学に進学した関係で1ヶ月ほど前に蝶野家を出た麦姉が使っていた部屋を入れ替わりで使わせていただくことになった。

 

 

 

 

 

 「……風が吹いている〜♪」

 

 鏡を前に半ば我を忘れながら寝癖と格闘していると、どこかで聞いた覚えのある曲をハミングのように口ずさむやたらと上手い歌声が近づいてきた。そういえば、羽鳥家に曜子さんと泊まりに来ていたときも暇さえあればこんなふうに歌を口ずさんでいたっけ、雛姉は。

 

 「あ、おはよ飛鷹くん」

 「…おはよ雛姉」

 

 朝一番で久しぶりに聞いた雛姉の歌声と、お団子がほどかれ鎖骨あたりまでスラっと髪を下ろした起きたばかりの部屋着姿。ただでさえ()()()()の雛姉が頭の中に残り続けているせいか、別人みたいで見慣れない。

 

 「ごめん使ってる途中だった?」

 「もう大丈夫」

 「寝癖立ってるけどいいの?」

 「これぐらいだったらちょっとすれば戻るっしょ」

 「同居してる親戚がぼさぼさ頭で初練習に来たときの私の気持ちを少しは考えなさい」

 「分かりました家出るまでに全部直しときます」

 

 まだ寝癖が戻りきっていない俺の頭に目をやり、もっともな注意をしながら小さく笑う雛姉。これから2年間、あるいは栄明を卒業した後もこの家に残るとしたら3年間同じ屋根の下で雛姉と暮らすことになる実感は、この後に参加する栄明での初練習以上に湧いてこない。ましてや同じ学校に通うなんて、尚更だ。

 

 「…どうした?私の顔じっと見て」

 

 あまりに雛姉のいる日常に実感が湧いてこなくて、気が付くと雛姉の顔をほぼガン見していた。

 

 「…なんかすげえ不思議な気分だなって」

 「不思議?」

 「何ていうか、まだ親戚の家に泊まりに来たって感じの気分が抜けない……みたいな?」

 

 この気持ちを例えるなら、まだ頭が蝶野家での生活に慣れていないせいか親戚の家に泊まりに来た感が俺の中から抜けないでいる。まあ、強引に例えるなら3年間この家に泊まるとも考えられなくもないが。

 

 「……ぷはっ」

 「何で笑うん?」

 「普通に笑うでしょ。まだ昨日の今日なんだから」

 

 とにかくまだ実感がないという気持ちではとこの顔をついガン見していたことを突っ込まれた流れで話したら、堰を切るように笑われた。だけど雛姉の表情が分かりやすく上機嫌だから、怒れないどころかこっちまで笑ってしまった。

 

 「私も一緒でさ。これから飛鷹くんが私たちの家に住んで、しかも同じ学校に通うなんてまだ全然想像できない…」

 

 まだ慣れないのはお互い同じらしく、雛姉もそう言って上機嫌に笑う。

 

 「…だから、飛鷹くんがいる一日がどうなっていくかすごく楽しみなんだよね」

 

 こんなことをわざわざ親戚相手に言うと揶揄われそうだからいまは心に留めておくけれど、朝一番に会う雛姉の顔が笑顔だと、ただそれだけで今日が良い一日になるような気がする。

 

 「さっ、用が済んだならどいたどいた」

 「ハイハイ」

 

 寝癖との格闘をひとまず終えて用済みになった俺は洗面台を早く使いたい雛姉に優しくどかされて、微かに朝食の匂いがするリビングに進む。

 

 「おはようございます」

 「おはよ~飛鷹くん。飛鷹くんの朝ご飯(ぶん)はもう出来てるからここから取って好きなタイミングで食べちゃって」

 「はい、ではいただきます」

 

 リビングに入ると、俺が起きる時間を逆算して曜子さんが作った朝食がキッチンのカウンターの上に置かれていた。焼き鮭を中心に一口サイズのおむすび2つとだし巻き卵に3種類のサラダが乗った和食のワンプレート。やっぱり蝶野家の料理は母ちゃんの手料理と比べて洒落ている。もちろん見た目の良さは曜子さんには敵わずも、昨日まで食べてきた手料理も俺は普通に好きだったけれど。

 

 「飲み物は何がいい?」

 「…牛乳ってありますか?」

 「あるよ~」

 「あざます。プレート(これ)置いたら自分で用意しときます」

 「あらいいの?」

 「少しでも自分でやれることはやっとかないとなんで」

 「偉いね~飛鷹くん」

 「食べ終わったらプレートはどこに置けばいいですか?」

 「とりあえず適当にこの籠に入れておいて大丈夫よ」

 「了解です」

 

 雛姉の朝食(ぶん)を作っている曜子さんと会話を軽く弾ませながら、ワンプレートが乗った朝食を向かいのテーブルに置いて、キッチンにお邪魔して棚からコップを取り冷蔵庫から牛乳を拝借してコップへ流し込む。

 

 「おはよう」

 「あ、おはようございます」

 

 テーブルに置いたコップに牛乳を入れ終えパックを再び冷蔵庫へと戻したタイミングで、リビングの隣にある和室の扉が開いてウィンドブレーカーを着た弘彦さんがバッグを持って出てきた。ちなみにこの部屋は、和室好きな弘彦さんたっての希望で作られた拘りの部屋だという。

 

 「じゃあ僕はこれで行ってきます」

 「えっもう出るんですか?」

 「片道1時間以上かかるからね」

 「あー、それは大変っすね…」

 「ホントは誰よりも早く練習場に行きたいだけのくせに」

 「そうなんですか?」

 「この人、引退しても()()()()だから」

 「あんまり飛鷹くんの前で言わないでくれるかなそういうの……行ってきます」

 「いってらっしゃい」

 

 かと思うと、弘彦さんはそのまま仕事場へと行ってしまった。本人が昨日チラッと言っていたけれど、弘彦さんが監督をしている男子体操部は来月の大会に向けて追い込みに入っているらしく、世間が春休みだろうと関係なく朝早くから仕事場に行って夜遅くに帰る忙しいスケジュールをこなしているため、シーズンが始まってしまうと同じ家にいても中々顔を合わせられない時間が多いという。さすがは監督と准教授の二刀流で、親戚の集いにもなかなか来れないのも納得だ。

 

 「…ほんと、体操バカ極まれりなのよね昔っから」

 

 俺と雛姉が朝食を食べるのを待たずに仕事へ向かった弘彦さんへ、キッチンで雛姉の分を作っている曜子さんがリビングの入り口へ視線を向けて半分呆れながらも暖かな眼差しでぼやく。俺の両親は他人や親戚の前だと滅多に愚痴やぼやきを吐かない人たちだから、こういう何気ない部分を見るだけでも新鮮な気分になる。

 

 「もちろん今のは良い意味ってことだから飛鷹くんは深く考えないでね」

 「大丈夫ですよ。本当に仲が良いんだなっていうのは伝わってるんで、昨日からめっちゃ居心地いいっす」

 「あははっ、私たちは仲が良いんじゃなくて全員B型で自己主張が強いだけよ。仲良しなのはむしろ飛鷹くんのほうじゃない?」

 「仲…まぁ俺のとこの場合仲は全然悪くないっすけど、俺の親って2人とも口数そんなに多いほうじゃないから話しててもあんま盛り上がんないし、父さんに至ってはマジで“ザ・長野県民”って感じの堅物なんで“何なんだよこの人”って言いたくなることもそれなりにありますからね……つっても、そういうところがあるから()()()()()()なんすけどね…」

 

 両親がどちらも大人しくて基本的に静かめな羽鳥家とはまるで正反対の、良い意味で家族というより友達みたいな距離感で壁のない蝶野家。これだけ環境と日常が変わると、いくら俺でも1泊程度じゃまだまだ馴染めない。

 

 「…もちろん、地元の高校に行くって決めた後になっていきなり栄明に行きたいって言い出した俺のことを反対もせずに送り出してくれたことは、感謝してもしきれないくらい感謝してますよ……2人に直接は恥いんで言えませんけど…」

 

 だけど一番()()()()()()はちゃんと共通しているんだなってことは1日過ごしただけでも感じ取れたからか、俺はこうして包み隠さず本音で話せているのかもしれない。

 

 「…だったら、気持ちを言葉にしない代わりに()()()()()()()()()を送れるように頑張らないとね?」

 

 あまりにも照れくさすぎて本人たちには絶対に言えない感謝(ことば)を言った俺に、黙って聞き手に徹してキッチンに立つ曜子さんが悪戯っぽく笑う顔と優しい声で父ちゃんから言われた約束に似た言葉を送る。やや小柄な背丈も童顔な顔立ちもそっくりなせいか、この人が笑うと雛姉の顔がちらついてくる。

 

 「はい。もちろん」

 

 雛姉の面影を色濃く残す曜子さんからこう言われると、是が非でも栄明での高校生活を頑張らねばと思う。もちろん、そのために俺は実家を出てここにいるのだけど。

 

 「…てかさっきからマジでスイマセン朝からこんなしんみりした話を」

 「ううん。それよりもごめん私ったら食べようとしてたところ呼び止めちゃって」

 「いいえ全然そんなことないっす曜子さん」

 

 そんなこんなでキッチンで両親のことを話しては勝手に黄昏かけてたことに気付いて、我に戻りすぐに自分の椅子について曜子さんの作った朝食をしっかりと味わう。

 

 「これは匂いからして和食とみた」

 「雛、朝ご飯カウンター(ここ)に置いてあるから取っておいて」

 「りょーかい。お父さんはもう出かけた?」

 「うん。ついさっき」

 「安定の早さね」

 

 俺が食べ始めて2分後くらいに、下ろしていた髪を二つ結びのお団子にした雛がリビングに姿を見せ、曜子さんと軽く話しながらプレートを受け取り俺と同じようにキッチンでコップと自分の飲み物を取ってちょうど向かい側に座って食べ始める。

 

 「飛鷹くんって牛乳派なんだ?」

 「おう。というか物心ついたときから朝は牛乳っていうのが当たり前だったからそういうの考えた事もないわ」

 「へぇ~」

 

 特に他愛のない話や学校の話で盛り上がるわけではなく、賑やかだった昨日の夕食とは打って変わって俺と雛姉はたまに言葉を交わすぐらいで静かに曜子さんの作った朝食を食べ進めていく。シンプルに昨日の歓迎会で話すことを話し尽くして互いに話題がないだけなのかもしれないが、良い意味でリアルな静かさが流れたこの時間は、初めて自分がこの家の家族も同然になったような感覚になった。

 

 「ごちそうさまでした」

 

 雛姉より一足早く朝食を食べ終えて、自分の食器を籠へと入れて再び洗面所に行き歯を磨き、新しい自分の部屋に戻って9時から始まる初練習に備えて軽めのストレッチをして全身の筋肉を覚醒させて、部屋着から練習着に着替え蝶野家に昨日届いたという栄明のウィンドブレーカーに袖を通す。とりあえずサイズは全く問題ない。

 

 「……すげえ」

 

 初めて身に纏う強豪校のウインドブレーカーに、心の中の感想が独り言になってつい溢れて、朝起きてからどこか今一つ湧いて来ないままでいた実感というものがじわじわと湧いてきた。これで本当に俺は、栄明高校のバドミントン部の一員となって先輩や同学年のライバルに囲まれ切磋琢磨しながら、インターハイを目指していくことになる。

 

 “……燃えてきた”

 

 

 

 

 

 

 そして、まだこの家と学校までの通学路(ルート)しか知らない見慣れない新天地でこれから起こる3年間が……俺にとっての()()()()になっていく……

 

 

 

 

 

 

 「あれ?もう行くの?」

 

 ラケットバッグを背中に背負い、玄関で買ったばかりの靴を履いて立ち上がると、真後ろから雛姉の声が聞こえた。

 

 「まだ時間的に余裕あるけど、これに着替えたら謎にスイッチ入って1分でも早くバドがやりてぇって気分になったから」

 「…飛鷹くん…ちょっと会わないうちにすっかりバドバカになっちゃって……雛さまは嬉しいぞ…」

 「それ褒めてんの馬鹿にしてんの?」

 

 振り返った先で、上半分だけ同じウインドブレーカーに着替えた雛姉がわざとらしいリアクションで目を輝かせ軽く揶揄う。

 

 「栄明(がっこう)までの道は分かってる?」

 「マップで覚えたから大丈夫」

 「もし道が分かんなくなったら電話してよね。あと10分ぐらいしたら私もここ出るから」

 「さっきからオカンか」

 

 早く練習をしたい気持ちが心をハイな状態にしているだけかもしれないが、同じ格好で一足早く蝶野家から体育館へと向かう俺を見送りに来た雛姉の姿を見て、本当に同じ学校の体育館の中で同じ目標に向けて走って行くんだという実感が、またひとつ心の中で湧き始めた。

 

 「じゃ、お先に行ってきます」

 「うん。いってらっしゃい」

 

 通学路を完璧に覚えた節を伝えて逸り出した気持ちをどうにか落ち着かせながら、背を向けざまに1コ下の弟分らしく軽い敬礼をして蝶野家の玄関のドアノブに手を掛ける。

 

 「飛鷹くん」

 

 ドアノブに手を掛けて玄関を開けた瞬間、雛姉から名前を呼ばれて俺はもう一度振り返る。

 

 「似合ってる」

 

 似合ってる。そう言って雛姉は目を細めて白い歯を見せるように笑った。もちろんその意味を、俺は言われた瞬間に理解した。

 

 「……ありがとう」

 

 栄明のバドミントン部になった()()姿()を見たお世辞のないたった一言の感想に嬉しさと恥ずかしさの半々な気分を感じながら、俺は雛姉の言葉に背中を押され蝶野家の玄関から外へと足を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……はあ」

 

 開いた玄関の扉が閉まり私と飛鷹くんをピンポイントに照らしていた光が消えるのを見届けたら、昨日からずっとテンションが上がっている自分への溜息が出てきた。もっと()()()()らしく普通に言うなり、敢えて言わないで“いってらっしゃい”の一言だけで済ませても良かったのに、何を私はらしくもなくバカみたいにはしゃいでいるんだろう。

 

 “……後ろ姿、ちょっとだけ大喜と似てるんだよな……”

 

 あの飛鷹くんがこの家で3年間お世話になることになって、しかも私と同じ栄明に通うことになったとお母さんから聞いたときはめちゃくちゃ驚いて、直後に()()()()2()()のことが頭に浮かんで人知れずちょっと複雑な感情になったこともあったけれど、次の日には久しぶりに会えるという楽しみに心は切り替わっていた。そして昨日、久しぶりに会った飛鷹くんは前に会ったときより一回り以上大きくなって声もすっかり大人っぽくなって落ち着いていたけれど、顔にははっきりと面影が残っていて、たまにカッコつけなところが出てきたり面白いことを言ってきたりするところも変わっていなくて、ただ目の前にいるだけで微笑ましかった。

 

 

 

 

 

 

 「雛姉……もし俺がバドも楽しめなくなったら……どうしたらいいんかな?」

 

 

 

 

 

 

 でも何よりも、私に親友にも言えない心の内を明かした()()()からずっとバドミントンを続けている飛鷹くんがインターハイのために栄明に来てくれたことが、まるで同じ目標を目指す()()ができたみたいで本当に嬉しかった。

 

 “……千夏先輩もこんなふうに朝練へ行く大喜を見送ったりしたのかな……”

 

 そのせいなのか、朝起きて“おはよう”と言って顔を合わせて一緒に朝食を食べて先に体育館へ行く飛鷹くんを見送ったら、自分でもドン引くぐらい未練がましいことを想像してしまった。もちろん今ではとっくに吹っ切れて思い出になっているから心はほとんど痛まないけど、大喜(あいつ)と似たぐらいの背丈になった飛鷹くんの背中を見て……そう思ってしまった。

 

 「……私も準備しよ」

 

 ()()()()()()()()を糧にしてもう一度友達になると決めた腐れ縁の姿を一瞬だけ重ね、私は自分の部屋へと戻って支度を始めた。




蝶野家パート書くの難しすぎる。
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