鷹と蝶   作:ナカイユウ

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面影

 どうして私は、ひだっちと()()()()()()()って思ったんだろう?

 

 

 

 「すいません」 「ごめんなさい」

 

 ひだっちと初めて話したのは、入学式終わりの部活中にふと肩と肩がぶつかったとき。バドミントンのスポーツ推薦で長野県の中学からこの高校にやってきた、“羽鳥飛鷹”っていう名前の私よりちょっとだけ背の高いクラスメイト。クラスでただ一人県外からやってきたのといかにもバドをやってそうな名前がやけに印象に残ったのと、同じスポーツで栄明の推薦を受けたことを知って“この人と友達になったら楽しそう”と直感したのが、ひだっちと友達になろうって思ったきっかけだった。

 

 「おはようひだっち!」

 

 私の中では特別に仲良くなりたいっていう気持ちなんて最初は全くなくて、言葉を選ばずに言うならシンプルに同じ競技を頑張っている()()()()()()()()()っていうだけの認識だった。

 

 「写真撮るなら一声掛けてくんない?」

 「わかってないな~、被写体は撮られてるって意識してない顔をしてるからいいんだよ」

 「一歩間違ったら盗撮じゃねこれ?」

 「友達同士ならセーフでしょ」

 

 だけど朝練で学校に行くときにちょうどタイミングが重なって門の前でばったり会うことが何回かあったり、話していると意外と不器用でどこかカッコつけで子供っぽい一面が面白かったり、それでいてコートに立ったら全中に出ていただけあって1年の中だと誰よりも強くて、背中に羽が生えているように見えるほど高くジャンプして相手のコートへ豪快にスマッシュを叩き落とす所作が無駄にカッコよかったり……そんなひだっちの色んな部分を少しずつ知っていくうちに、ひだっちとなら親友になってもいいかな?なんて冗談半分くらいには思い始めるようになった。

 

 「ひだっちナイスっ!……って聞こえてないし」

 

 そう心の中でひだっちのことを思い始めていた体育祭の日に、私は見てしまった。最後の組対抗リレーで5走のハリー先輩に青色のバトンを渡して立ち止まった後に、コースの外で赤組の応援をしていた雛先輩に真剣な眼差しで視線を向けていたひだっちの横顔。友達の私には一度も見せたことのない横顔を見たとき、ちょっとだけ心の中がモヤってした。私は()()()()()()()()()()って神様から言われている気がした。

 

 

 

 どうしてそんなことを思ったかなんて、自分でもまだわからないままだけれど……

 

 

 

 「いやぁ、ひだっちはすごいよね」

 「急になにが?」

 「だってさ、栄明でバドミントンをやるためだけにお父さんとお母さんがいる長野からたった1人で埼玉(こっち)に来たわけじゃん……私がひだっちと同じ立場だったら、絶対そこまで頑張れないよ」

 

 ひだっちの()()()()を見たその日から、私の中で“1番にしたい”っていう漠然とした気持ちが巡り出した。ただこのときはその気持ちの正体があまりにも漠然とし過ぎていて、自分でも何なのか全くわかっていなかった。

 

 「インターハイで2位になったお兄さんと同じスポーツをやるっていうのはきっと誰かしらから比較されることをわかった上でやってるってことだから、プレッシャーとか半端じゃないよなって……それをわかっててもこのスポーツを楽しもうって思えて、本当に楽しんでちゃんと結果まで出してる千木良のそういうところはマジで尊敬するし、純粋にすごいなって思う」

 

 何が何だかわからない気持ちの正体に気付いたのは、お兄と慧の3人で土曜にやっている自主練習にひだっちを初めて連れて行ったときのバスの車内(なか)。わざわざバドのためだけに地元を飛び出した友達に“私だったらそこまで頑張れない”と自分の気持ちを明かした私へ、ひだっちは嘘のない真っ直ぐな表情で“お前のほうが頑張ってる”と言ってくれた。全然そんなことないよって笑いながら受け流したかったけど、結果だけじゃない部分もちゃんと見てくれてたんだっていう純粋な嬉しさが、この心を埋め尽くした。

 

 「やっぱりひだっちといると本当に楽しいよ」

 

 この瞬間、ひだっちに対して思っていた“1番にしたい”気持ちの正体が、“1()()()()()()()()()”っていう気持ちだってことに気付いた。好きとはまた違うけれど、もっと仲良くなって一緒にバドでもバド以外でも色んな思い出を作っていきたいって思った。

 

 「…単刀直入に言うと、千木良に謝らないといけないことがある」

 

 それでもひだっちから“話したいことがある”って言われたときは伝えようとしていることがわからなくて、そう私へ言ったときの表情があの横顔と同じで、こういうときこそいつも通りにいようと心掛けて平然は装えてたけど、答えを知るまでは普通に不安だった。

 

 

 

 もしかしたらひだっちには好きな人がいて、その()()()()が……なんて自分でも何を考えてるんだって言いたくなることすら一瞬だけ考えたりもした。

 

 

 

 「親戚側(こっち)の事情もあって今まで千木良には言い出せなかったっていうのもあるけど、結果的に嘘ついた形になった…いや、普通にずっと千木良に嘘ついてた……本当にごめん」

 

 いつもの余裕と明るさはどこに?ってぐらい畏まった態度で正座しながら最後にこう締めくくって私に打ち明けたのは、新体操部の雛先輩が実は親戚(はとこ)だということだった。それをひだっちの口から聞いたときに感じたのは、どこか安堵に似たホッとした気持ちだった。

 

 「礼はいらないよ。私は君の()()だから」

 

 

 

 そしてひだっちにとって雛先輩が好きな人ではなくお世話になっている親戚だってことを知って緊張の糸みたいなものが切れた私は、会話の流れでついひだっちに言ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ひだっちお疲れっ」

 

 16時までの練習が終わって先週(まえ)と同じ図書館前のバス停に向かうと、一足先に着いていた千木良が出迎えるように部活終わりの俺へ軽く手を振っているのが目に留まった。

 

 「今日は普通だ」

 「普通って?」

 「あの辺とかに潜んで写真撮るかと思ってた」

 「ああいうのはちょうど本人が忘れた頃にやるのが一番いいんだよ」

 「いやそれ言われても知らんて」

 

 この前みたいにどこかに潜んでまた無防備な俺の顔を撮ろうとしてるんじゃないかってふと警戒したものの、今日は逃げも隠れもせずバス停で俺を待っていたから逆に少しだけ拍子抜けした気分だ。まあ、別に求めていたわけじゃないけれど。

 

 「ちなみに今日は、私からちょっとしたプレゼントがあります」

 「プレゼント?俺の誕生日まだ3週間くらい先なんだけど?」

 

 という心の声を知ってか知らずか、一緒にバスを待つ千木良がそう言って不敵に笑む。プレゼントがあると言われて初めて、ずっと千木良が左手を後ろに隠していることに気付く。誕生日プレゼントじゃないのはわかるとして、サプライズとやらは一体何なのだろうか。

 

 「知ってるよ。もちろん誕プレは誕プレで何かしら渡すからお楽しみに」

 「じゃあ楽しみにしてるわ」

 「今月の28日だよねひだっちの誕生日?」

 「おう」

 

 とりあえず過度な期待はせずに身構える俺へ、千木良はずっと左手で隠していた白い手持ち袋を差し出す。

 

 「それではインターハイ出場を目指すひだっちへ、私からこれを授けよう」

 「卒業証書っぽく渡すのは意味あんの?」

 「特になし」

 「だと思ったわ」

 

 まるで卒業証書を授与するときの担任の先生みたいな渡し方で“これ”と言って差し出された手持ち袋を、一応そのノリに付き合って両手で受け取る。手に取ったときの感触からして、これはケースだ。

 

 「で、中身は何?」

 「聞いたら絶対ひだっち驚くと思う」

 「だから何だよ中身は?」

 「ねえもし驚いたら私にジュース奢って」

 「やだわ誰がそんなんで奢るかっつの」

 「ごめんごめんさすがに冗談だよ」

 

 早速中身を聞こうとする俺の顔を見て、千木良はほくそ笑みながら自分でプレゼントのハードルを上げていく。いくら自信があるとはいえ、さすがにジュースを奢りたくなるほど凄いプレゼントなんてよほどのやつじゃない限りあり得ない。

 

 「ったく、さっきから俺のこと馬鹿にし過ぎなんだよ千木良は。言っとっけどそう簡単には驚かねえぞ俺は?」

 

 まず触った感じはただの薄めなケースみたいな感じだし、幾ら親友になったからって俺のことを馬鹿にし過ぎじゃね?ともぶっちゃけ思う。

 

 「へぇ~、この中身がお兄のインターハイの試合映像だとしても?」

 「マジで?!」

 「マジです」

 「……えっマジ??」

 「大マジです」

 「…神じゃん」

 

 はい。馬鹿にしていたのは俺のほうでした。

 

 「あははっ、めっちゃ喜ぶじゃんひだっち」

 「いやだって、インターハイ準優勝してるお兄さんの現役のときのプレーとかジュース奢るレベルの話じゃねえって…」

 「ちなみに入ってる試合はインターハイの決勝です☆」

 「それは最高過ぎる」

 

 千木良が俺に手渡したのは、千木良のお兄さんの試合映像が入っているというDVDだった。しかもその試合はお兄さん自身が完全燃焼した決勝の試合。これはもう俺的には冗談抜きでジュースを奢るとかそんなレベルじゃないくらいの代物だ。あくまで例えだけど。

 

 「…てか待て、こんな大事なものこんな感じで借りちゃって大丈夫なんか?」

 

 なんて浮かれ出したところでよくよく考えたらすごく貴重な代物を受け取ってしまったことに自分で気が付いて、ハッと我に戻る。冷静に考えればこれはお兄さん、ましてや千木良家にとってある意味で大切な思い出のようなものだ。ぶっちゃけこんな大事なものを、ついこの間に会ったばかりの奴が勝手に借りてしまっていいのだろうか。

 

 「全然。てゆーかこれ私がダビングしたやつだからそのままプレゼントするよ。参考になるかわかんないけど」

 「あ~そういうパターンか…けどこれお兄さんに何か一言言ってから貰ったほうが良くね?」

 「大丈夫だよひだっち。ちゃんとお兄の許可は取ってるし、何なら試合のチョイスしたのもお兄だから」

 「そっか…いやどっちにしろお礼言わないとだな」

 

 そんな具合に些細なことを気にする俺へ、優しく笑いながら千木良はちゃんとお兄さんから許可をもらったと告げる。おまけに中身まで選んでくれたなんて、本当に至れり尽くせりでこっちは頭が上がらない思いだ。

 

 「意外と心配性なところあるよねひだっちって」

 「心配っつーか、これはお兄さんたちにとっての思い出みたいなものだろうからさ…」

 

 俺のことを心配性だとクールに笑って、千木良は視線と身体をバス停の奥に広がる二車線の道に向ける。大学の授業と少しずつ増え出しているという俳優の仕事の合間を縫って練習メニューまで考えてくれているという自主練習。本当は妹と弟のために時間を使いたいはずなのに、お兄さんは“あくまで趣味”と言い切って俺が同じ学校の後輩だからとここまでやってくれる。こんなこと、絶対に当たり前なんかじゃない。

 

 「しかしここまでされちまったら……お兄さんのために意地でも勝ち抜くしかないな。インターハイに出れるように」

 

 

 

 「飛鷹!ここで一本取って意地でも流れ変えるぞ!」

 

 

 

 あのときの俺は、最後の最後まであきらめず背中を押してくれた親友の気持ちに応えられなかった。そんな自分を変えるなら、確かな結果で形にするしかない……

 

 

 

 「気負い過ぎ」

 

 至れり尽くせりな現状を思って誰に向けるでもなく本音を呟いた俺の肩を、千木良が気負い過ぎだと痛まない程度の強さで優しくグーの手で一発ぶつける。

 

 「自分がやってて楽しいか楽しくないか、その情熱(きもち)でバドをやってきたのがひだっちじゃなくて?」

 

 そのまま千木良は横目でこっちを見ながらちょうど1週間前に俺が言った言葉を引用しながら優しく喝を入れて、白い歯を見せるようにニッと笑う。自分ではそこまで自覚はなかったけど、千木良からはそう見えていたということは、俺は自分が思っている以上に気負っているということ。この1週間でお兄さんからのアドバイスを元にしたプレースタイルがこの身体へ順調に沁み込んでいく一方で、針生先輩から指摘されているメンタル面についてはお世辞にもまだ改善したとは言えないと、こういう場面に出くわすと痛感する。

 

 「悪い。そうだった」

 

 このところコートに立てば身体の調子もプレーも絶好調ってぐらい調子が良いのに2()()()()()からはまだ1セットも取れていないのは、バドの上手さと経験値に限った話じゃない。

 

 「プレーは良くなってもメンタルはまだまだだね」

 「何気にこれが一番の課題なんだよな俺の場合」

 「大体の人はきっとそうだよ。バドに限らずスポーツは心技体全部が噛み合わないといい結果は出ないのはよく聞く話だし。特にメンタルは“ダメになったら全部終わっちゃう”ってお兄も言ってたから」

 「やっぱそうなんか」

 

 千木良の言う通り、スポーツは心技体の全てが噛み合わなければいい結果は出せない。特にバドはお兄さん曰く“相手にミスをさせるスポーツ”だというから、ある意味では体力以上に精神面は重要になってくる。どんなに身体は絶好調でも心が乱れていたら途端に昨日まで普通に出来ていたことすら出来なくなってしまう。

 

 1年前に弟くんと試合をしたときの俺みたいに。

 

 「簡単そうに思えて難儀だよね。スポーツって」

 

 視線を車が行き来する目の前の通りへ投げて、千木良が呟く。

 

 「結局は楽しんだ(もん)勝ちなんだよなこーいうのって……実際にその気持ちのままやり切るのはすげえムズイけど」

 「ひだっちなら絶対できるよ。私が保証する」

 「言ってくれんじゃん」

 「親友なめんな」

 「別にナメてねえわ」

 

 こういうときに隣にいて何気ない話をしてくれる仲間や応援してくれる人の優しさに無意識に甘えてしまうのが俺の弱さでもあるけれど、その優しさと声に何度も背中を押されてきたから俺はここまでやって来れている……と、親友になった千木良の根拠のない励ましを前にふと思う。

 

 「でも、同じスポーツやってる千木良(おまえ)から“絶対できる”って言われるとそれだけで心強いわ」

 

 

 

 こんな感じで相変わらず心が弱い俺だけど、せめて()()()()()()()()()()()()()()が同じ屋根の下にいる間までに、その人の隣に立てるくらいには強くなりたい……

 

 

 

 「……あざーす」

 

 親友として励ましてくれたことに感謝を告げると、千木良はなぜか視線を露骨に逸らすように前へ視線を投げたまま小さく言葉を返す。

 

 「千木良?どうした?」

 「えっ?あぁいや、バス早く来ないかな~って」

 

 ピピッ_ピピッ_ピピッ_

 

 「あ、ちょうど来た」

 

 その今まで見たことのない千木良の恥ずかしそうな表情とどこかよそよそしいリアクションに少し戸惑う間もなく、隣町へと向かうバスがほぼ定刻通りに着いてドアが開くや千木良はそそくさと乗り込む。ただ普通に思ったことを言っただけなのに、急にどうしたのか。

 

 「ほら乗るよひだっち」

 「言われなくてもちゃんと乗るっての」

 

 まあ、俺の考えすぎか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「(…やっと着いた)」

 

 部活が終わって、私は家に戻らず正反対の方角にある河川敷に来ていた。本当は商店街の近くにあるいつもの公園に行って練習の続きをしたかったけれど、今日は土曜休日で人が多いし迷惑にもなるから歩いていくには少し遠いけど広々としていて人の邪魔もある程度は気にならないこの場所まで来た。

 

 「♪~」

 

 歌詞もメロディーもないハミングを誰にも聞こえないくらいの声で呟きながら、視線を川面のほうへ移す。夕方の5時になる前のまだ昼間のように明るい空に照らされる大きな川の向こうに広がる街と、街の騒がしさをシャットアウトする水辺の風の音。こういう自然の空気に触れるだけで、大会が迫りいつもより張り詰めやすくなっている心も一気に落ち着きを取り戻していく。

 

 ちなみにこの場所はまだ、飛鷹くんには教えていない。

 

 「(…さて)」

 

 川辺の空気で適度に癒されたところで、ワイヤレスイヤホンを耳に付けてスマホを立ち上げ、いつもみたいに課題曲を掛けて一旦シャットダウンしていた心のスイッチをもう一度入れ直す。

 

 

 

 「あのとき雛姉が“頑張れルーキー”ってエールを送ってくれたから、俺はこうやって前に進めてるからよ」

 

 

 

 『♪~…』

 

 どんなタイミングで思い出しているのか、不意に飛鷹くんの何気ない言葉が頭の中を巡って思わず流れていた課題曲を一旦止める。どこかの誰かさんと負けず劣らずにバドバカな、同じ屋根の下で暮らす私のはとこ。

 

 「……」

 

 だけど、実際にいまの私は自分が思っている以上に飛鷹くんから()()()()()()()んだなって、日に日に自分の中で大きくなりつつある飛鷹くんの存在を前に思う。

 

 

 

 

 

 

 「人ってどうやったら変われんのかな?」

 

 ちょうど1週間前。初めてのインハイ予選を3週間後に控えていた飛鷹くんは、珍しく悩んでいた。本人的にはいつものように明るく振る舞っていたつもりだろうけど、私に向かって愚痴を溢す勢いで千木良さんたちとの自主練習の反省を一気に吐き出す様子から、あの子なりに大会のことで気負っているのは手に取るように分かった。

 

 「ただ無理をしてでも変わりたいって()()()()が叫んでいるなら、まずは気合いのひとつでも入れてみれば?」

 

 そんな飛鷹くんへ私はインターハイ経験者としてふたつの選択肢をアドバイスという形で送った。1つは自分を変えるよりもいま出来るベストを尽くせということで、もう1つはそれでも変わりたいって心が叫んでいるなら気合いのひとつでも入れてみればというもの。正反対にしか思えない選択肢を敢えて言ったのは覚悟がどれくらいあるのかを確かめるみたいな大それた理由じゃなくて、もし飛鷹くんならどうするのかがただ親戚(はとこ)としてシンプルに気になったってだけだった。

 

 「えっ、どうしたのそれ?」

 「まあ、これはなんつーか……俺の心が“変わりたい”って叫んでた、的な?」

 

 そうして飛鷹くんが選んだ選択は“自分を変えてベストを尽くす”という、何とも飛鷹くんらしい選択だった。気合いの入れ方が髪を切るところも含めて何というか本当に私の想像通りで、さすがに家に帰って来たときはビックリしたしつい笑っちゃったけど、あっという間に腑に落ちた。

 

 「…雛姉がそう言ってくれるんなら、イメチェンして良かったわ」

 

 ただ私の中で唯一予想外だったのは、気合いを入れてイメチェンした次の日の朝に見た飛鷹くんの後ろ姿に、今まで以上に大喜の背中が重なって見えたこと。背格好がほとんど同じってこと以外はよく見るとそんなに似ているわけではなかった後ろ姿が、髪の長さが同じくらいになったことでまた余計に大喜と似てきた。

 

 「飛鷹くん……ごめん何でもない」

 「えっ何?すげえ気になるんだけど?」

 「朝早くて頭回ってないからなに言おうとしたか忘れた」

 「あー、それはしゃあないか」

 

 咄嗟に朝が早いからっていう理由で誤魔化してどうにか乗り切ったけど、あのとき私は無意識に大喜のことを呼ぶ感覚で飛鷹くんの名前を呼んでしまった。いつもみたいに早朝のランニングへ出掛けるその背中に、一瞬だけ私は()()()()()()()()()()()の面影を見た。

 

 「(君には君の良さがあるって言ったのに……どうして君は似てきちゃうんだろう…)」

 

 

 

 もう()()()()のことは私の中で思い出として蓋をして区切りをつけたはずなのに、どうして私は重ねてしまうんだろう……

 

 

 

 

 

 

 「…さっきからなに考えてるんだ私は」

 

 今度こそはと心のスイッチを入れて、私は止めていた課題曲を再生して自分だけの世界に入った。




アオのハコとは1ミリも関係のない話ですが、ダイアン津田が「ダイオウグソクムシメガネ」という謎のワードを叫んでた夢が1ヶ月経っても未だに忘れられません。
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