鷹と蝶   作:ナカイユウ

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答え合わせ

 『♪~_』

 

 みんなが帰った後の体育館の踊り場に居残って、耳元のイヤホンから流れる演目の曲に合わせて今日の練習でどうしても納得いかなかった部分の振り付けの再確認。

 

 「…よしっ」

 

 5回ほど繰り返してようやく自分の中で納得のいく感触を掴めたのをサインに、耳元で流れる曲と共に練習を止めてイヤホンを耳から外す。コーチは相変わらず“凄い”と褒めてくれるものの、その言葉を真に受けているだけでは1位になれないのが、インターハイの難しさ。

 

 「(…でもまだちょっと不安だから家帰ったらもう一回イメトレしよ)」

 

 前提としてウチの新体操部のコーチの褒めて伸ばす方針は嫌いじゃない。けれども本当に褒めることしかしないしミスをしても“どうしたの?”と心配してばかりでここを直した方がいいという具体的な指摘もないから、こんなことを言ったら悪いけど今のコーチから掛けられる言葉は心の底から信用することができないのが現実。

 

 

 

 「いいか雛。全国で1位を目指すと言うなら、自由と甘えを履き違えていたら駄目だぞ」

 

 

 

 かと言って普段は温厚だけど体操においては真逆で鬼のように厳しいお父さんみたいな人がコーチだとこれはこれで“もっと努力を見て欲しい”って気持ちになるが、何だかんだで私は駄目なところや甘さがあったらハッキリとこのままでは駄目だと言ってくれる人のほうがいいのが本音だ。

 

 

 

 「(うわ…かなり降ってきた)」

 

 踊り場からアリーナへと戻る途中で、いつの間にか降り出していた雨がその勢いを増していることに外のほうから微かに聞こえるザァっとした雨音で気付く。夕方ごろから雨が降ると天気予報が言っていたから念のために普通の傘を持ってきたけど、この雨だと折り畳みじゃ頼りないから本当によかった。

 

 「(…そっか。飛鷹くんは今日も千木良さんのところで練習か)」

 

 1階のロビーに下りたタイミングで、不意に同居人の親戚のことを思い浮かべる。こんな大雨の中でも、飛鷹くんは今日も同じクラスの千木良さんたちと一緒にいよいよ来週に迫る予選に向けて練習に励んでいる。本当は会場の体育館に行って応援したいところだけど、今年は新体操の県予選とバドミントンの県予選の日程が丸被りだから健闘を祈るしかない。

 

 「(この雨のせいで風邪とか引かなきゃいいけど…)」

 

 なんて、一周回って不吉な心配をしてしまう自分が可笑しくて自分で笑ってしまいそうになる今日この頃。ちょうど1年くらい前の私は親が体操の元日本代表であるが故の重圧だとか、()()2()()の関係を知ってしまったりと色んなことが重なって直前まで軽いスランプに陥っていたけど、いまの私はすこぶるに調子が良い。

 

 「良いことばかりじゃないからさ~♪」

 

 何なら調子が良過ぎて、コーチでさえ気づけなかった振り付けの細かいズレに気付けてこんなふうに自分で修正することができた。ひょっとしたら今年は、1年前に立てなかった場所に立てるかもしれない。

 

 「……ふぅ」

 

 と、浮足立って鼻歌を歌い始めた自分に気が付いて、アリーナの入り口の前で深呼吸をして心を冷静にする。せっかくここまで身体も心も調子が良いのに、直前で油断して県予選で1位を逃したりなんかしたら本当に惨めな話。大切なのは最後の1週間だと、オリンピックの舞台にも立ったお父さんから耳にタコができるくらい言われているのに。

 

 「(…絶対影響受けてるわ…)」

 

 それなのにこんなにも心の中が軽いのは、間違いなく飛鷹くんの影響(せい)だ。夏休みになって長野にある羽鳥家へ泊まりに行くとき、新幹線の改札口の向こうでいの一番に元気よく手を振って私たち蝶野家のことを出迎えてくれていた1つ下の元気なはとこ。その無邪気なまでな元気さと普段の日常では味わえない自然に触れているときは、もはや人生の一部みたいになっていた新体操のことすら忘れてしまうほどその瞬間を楽しんでいた。

 

 そういう私が持ち合わせない明るさを持つ人が、いまは()()()にいてくれる。

 

 キュッ_

 

 

 

 私は1人でも全然頑張れるしどうにかしていけるけど、そういう自分には無いものを持つ人が()()()()()()()にいるってだけで、不思議と心は軽くなる。

 

 

 

 ダンッ_

 

 「(…この音…)」

 

 誰もいなくなったはずの体育館のアリーナへ戻ると、その中からバスケットボールが床を跳ねる低い音が微かな雨音と一緒に響いてきた。ちょうど今日は、女子バスケットボール部の県予選が始まった日。

 

 「…あ」

 

 緑色のネットに覆われたコートでただ1人、黙々とシュートの練習をしていたその人が私の存在に気が付いて、バスケットボールを拾いざまにこっちのほうへ視線を向ける。

 

 「こんにちは」「こんにちは」

 

 視線が合ってひとまずはお互いに挨拶をする、同じ体育館の中にいながらも入っている部活も学年も違うから普段は滅多に話す機会のない千夏先輩と私。

 

 「居残り練習ですか?」

 「うん。明日は大事な試合があるから」

 「そうなんですね」

 「蝶野さんも残って練習してたの?」

 「はい。来週の県予選に向けての最終調整です」

 「偉いね、蝶野さん」

 「千夏先輩には負けますよ」

 

 そもそも接点があまりないから話す機会は変わらず少ないけれど、大喜とのことを経て全部が終わった今は気まずさも蟠りもなく普通にこうやって千夏先輩と私も話せるようになった。

 

 「それじゃあ、私はこれで帰ります」

 「うん。お疲れ様」

 「千夏先輩はまだ残るんですか?」

 「もうちょっとだけ練習してから帰る」

 

 かと言っていざ話す話題は“明日の試合も頑張ってください”くらいしか思いつかないし、自主練の邪魔をするわけにもいかないから練習が終わった私は居残る千夏先輩を尻目に帰り支度を始める。そういう私もまあまあ居残っているわけだから、あんまり人のことは言えないけれど。

 

 「…やっぱり私もあとちょっとだけ練習して帰ります」

 「そっか」

 「曲流れますけど大丈夫ですか?」

 「大丈夫」

 「ありがとうございます」

 

 なんて気持ちでリュックを背負いかけて、演目1曲分の通しぐらいならまだ許されるだろうと急に魔が差して、私は千夏先輩に断りを入れてネットの向こうの空いているコートへ向かい、着ていたウインドブレーカーを脱いで動きやすい恰好に着替え、床に置いたスマホから課題曲を再生して本日最後の振り付け練習に入る。

 

 「(ここでリボンを投げて、次はローテーション…)」

 

 もちろん練習が終わって全部片付けてしまった後だからリボンは想像上のエアーで地面が身体の衝撃を和らげてくれるマットではなくただの床だから完璧にはできないけれど、だからこそ軸から指先やつま先に至るまでの動き、そして表情をより意識して流れる曲に合わせてこの身体を動かしていく。

 

 『♪~_』

 

 床の上に置いたスマホから流れる演目の曲に身を任せてターンをする一瞬の視界に、見えない相手をドリブルで交わして3ポイントのラインからシュートを放つ千夏先輩の姿が映る。

 

 「……」

 

 捉えた瞬間、全く同じスピードでターンをしている視界に映る世界がスローモーションになって、またすぐに元の早さに戻って動き始める。朝早く、誰もいないコートの中でたった1人バスケットボールを持ってひたすらシュートの練習をしている千夏先輩。

 

 その姿を見て、大喜はこの人に()をした。

 

 「(…こんな感じなんだ)」

 

 大好きな先輩と2人きりで互いに目を合わせることなく、だけど頭の片隅でほんのちょっとだけ意識しながらそれぞれのやるべきことをする。競技は違えど、誰よりも朝早く体育館に行ってネットを張って練習を始めているバドバカなあいつが毎日のように目に焼き付けていたのが、こういう景色。だだっ広いこの体育館(ハコ)の中を2人だけで支配しているかのような、誰も踏み込められない2人だけの世界。

 

 『♪~_』

 

 1分半の曲も後半に入り右手でリボンを持っているイメージでアティチュードを加えたターンをする視界に、再び千夏先輩の姿が一瞬だけ入る。だけど、私の視界にはシュートを放つ千夏先輩の前に緑色の網目状のネットが無造作にモザイクをかけているように見えて、どうしても2()()()()()()()()()には入れない。

 

 「(…やっぱり違う)」

 

 もしも千夏先輩が栄明じゃなくて違う学校にいて、朝練でネットを挟んだ向こう側のコートにいるのが私だったらなんて、あり得もしない馬鹿げた妄想を考えてしまったこともあった。そんなことを考えてしまうくらい、大喜(あいつ)のことが本気で好きだったときの私はどうかしていた。

 

 

 

 「がんばれ」

 

 

 

 でも……欲を言うなら、たった1日だけでもいいから、私も大喜と“2人だけの世界”に行きたかった。

 

 

 

 「コラ、いつまで練習してるんだ退館時間だぞ」

 「あ、スイマセン」

 

 あと18秒で曲が終わろうかという佳境で、体育館の扉が開いて管理人の人が居残って練習する私と千夏先輩へさっさと帰るように促す。こういうときにふと思うのが、どうして休日は夕方までしかこの場所に居られないんだろうっていう物足りなさ。

 

 「2人とも早く出る」

 「なるはやで出るんでお待ちを」

 

 とはいえ校則違反をしたら頼みにしている内申点に響くから、私は千夏先輩と一緒にマッハぐらいのスピードで帰り支度を済ませて、管理人から急かされながら傘を片手に体育館の外へと出ると、湿気を伴った涼しげな空気が身体へと伝う。

 

 「雨、さっきより強くなってる」

 

 数分前より強くなった雨が降るどんよりした薄暗い空を見上げて、千夏先輩が小さく呟く。そういえば忘れ物のスマホを届けに行ったあの日も、こんな天気だった。

 

 「明日は晴れるといいですね」

 「うん。そうだね」

 

 雨音に混じる小さな呟きを拾った私へ優し気な表情で相槌を返して、千夏先輩は右手に持っていた傘を開いて一足早く雨で濡れた出入り口の階段を下りていく。

 

 「うわっ!」

 

 後に続こうと私も傘を開いた刹那、前を歩く千夏先輩が雨のせいで滑りやすくなっている段差に足元を掬われて前のめりにバランスを崩した。

 

 「千夏先輩っ…!」

 

 最悪な数秒後の未来が瞬時に頭の中で流れてその身体に駆け寄ろうと一歩を踏み出した先で、足をとられた勢いを利用して咄嗟に左足を前に出して駆け出す要領で着地しながら何とか転ばずに千夏先輩は踏み止まる。

 

 「…危なかった」

 

 間一髪のところで転ばずに済んで、雨の中で零れる心の声。あんな状況から転ばずに立て直せたのは、さすがは女バスのキャプテンってところか。

 

 「千夏先輩、大丈夫ですか?」

 「うん大丈夫」

 「足とか痛めてませんか?」

 「全然。どこも痛くないよ」

 「はぁ…よかった」

 

 足元に細心の注意を払いながら7段の階段を下りて、私は千夏先輩に駆け寄って足を痛めなかったか聞くと、笑顔でどこも痛くないと先輩は答えた。足を挫いたり変な着地の仕方をしたわけじゃないのは後ろから見ていて分かっていたけれど、1ミリも痛がっていない綺麗な顔を見たら自然と安堵の溜息と言葉が口から出た。

 

 「ありがとう。心配してくれて」

 

 そんな自分以上に安堵で胸を撫で下ろす私に、千夏先輩は少し申し訳なさそうに微笑みながら感謝を告げる。

 

 「当たり前ですよ。競技は違いますけど私も先輩と同じアスリートだから心配はします」

 

 目の前で人が転びそうになったら、そんなの誰だって心配はする。だけど千夏先輩は高校最後のインターハイを賭けた大事な試合が明日に控えていて、この人がバスケと向き合い続ける姿を糧にインターハイという舞台を目指して一直線に走り続けている人もいる。

 

 「それに、高校最後のインターハイなのにこんなことでケガして出たかった大会に出られない千夏先輩なんて、私は見たくないです…」

 

 

 

 だから千夏先輩(あなた)には試合以外の理由で怪我なんかして欲しくない。あなたには常に、()()()()に余計なものを背負わせない“完璧な彼女(ひと)”でいて欲しい……なんてどうしようもないほどに()()()()()()が、言葉になって出てきてしまった。

 

 

 

 「…そうだよね」

 

 つい本音混じりに自分の気持ちをぶつけてしまった私の目を真っ直ぐに見て、千夏先輩は呟く。

 

 「すいません。我儘みたいなこと言いました」

 「ううん、蝶野さんの言う通りだよ。こんなところでケガなんかしちゃったら、みんなに合わせる顔がないし」

 

 勝手な我儘を言ってしまったと謝る私に、続けてその通りだと答える千夏先輩。その表情は明日もある試合に向けてなのか、小さく笑みを浮かべながらも並々ならぬ覚悟みたいなものが燃えているように私には見えた。

 

 「何としても今年は、絶対にインターハイへ行かないと駄目だから」

 

 相手にだけじゃなく自分にも言い聞かせるかのように私の目を見てそう言うと、千夏先輩は振り返って門のほうへと歩き始める。それに合わせて私も、隣を歩いて同じ方向へと足を進める。

 

 「私も応援しています。千夏先輩のこと」

 

 自分のことを全部分かる人なんて親や兄弟姉妹を含めて誰もいなくて、自分(わたし)だってたまに自分のことが分からなくなるときもあるから、競技が違う千夏先輩がどれほどの覚悟を持ってバスケをしているかなんて分かるわけがない。

 

 「ありがとう。蝶野さんも県予選頑張ってね」

 「県予選は問題ないですよ。今年もサクッと1位獲ってインターハイに行きます」

 「そういえば蝶野さんって強いもんね」

 「はい。何せ私の身体には元日本代表の血が流れていますから」

 

 それでも色んな人からの期待を背負って一番好きなスポーツと向き合っているのは千夏先輩(このひと)も私も同じだから、抱えている覚悟(モノ)のほんの少しくらいだったら分かる。

 

 「でも1年からインターハイに行けたのは蝶野さんの実力じゃない?」

 「あはっ、そう言ってもらえると嬉しいです」

 

 

 

 「今日からお世話になります。蝶野雛さん」

 

 

 

 関係は全然違うけど、いまの私にも隣にいて自分のことを応援してくれる人がいるから。

 

 

 

 「ではお疲れ様でした」

 「お疲れ様。帰り道気を付けてね」

 「千夏先輩も気を付けてください。特に()()

 「うん。もちろん」

 

 門を出てすぐに、私と千夏先輩は別々の方向へと歩いてそれぞれ応援してくれる人が待つ家へと帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「21―14、21―16。ゲーム、千木良慧」

 

 お兄さんから戦い方を教わった2週間の成果を試すジュニアとのひと試合が終わった。結果は審判をしてくれた千木良の言う通り、1セットも取れずに俺の負け。

 

 「いやぁやっぱジュニアは強いわ。さすが全中ベスト4」

 「恐縮です」

 

 まあ言ってしまえば大方の予想通りな結果だ。元は2桁得点すら奪えなくて、2週間前の練習でも大差で負けていた相手にたった2週間で勝てるようになるほど、このスポーツも現実も甘くなんてない。当然ながら俺は本気で勝つつもりでコートに立ってリベンジに挑んだわけだけど、これで手に汗握る勝負ができるのは漫画の世界での話だった。

 

 「でも今日の羽鳥さんは相手をしていてやりづらかったです」

 

 点差だけを見れば接戦と言えるほどのゲームではなかった試合に勝ったジュニアが、その感想を伝える。目の前のネットを伝い俺のことを真っ直ぐに見つめる表情は、変化こそあまりないけど心なしか楽しそうに見える。

 

 「ひだっち。2週間前とは見違えるくらいずっとプレーが安定してたからね」

 

 一見すると褒めているのかどうかわからないジュニアの言葉を、姉が通訳代わりになって俺に伝える。

 

 「おう。何とかな」

 「まだ慧とは差があるけどね?」

 「そらそうだけどもうちょい余韻に浸らしてくれよ」

 

 最初のリベンジに挑んだ2週間前のスコアは、『21―12』と『21―13』。単純にスコアだけを見れば差は縮まったとはいえ決して接戦とは言えないし、千木良の言う通り差はまだ大きくこのレベルの選手に勝てるようになるには依然課題も多い。

 

 「だってよ、あんだけボロ負けした相手とそこそこぐらいのいい勝負ができたんだからさ……つってすぐ調子乗るからダメなんだよなぁ俺は」

 「ははっ、わかってるじゃん」

 

 ただそれ以上に、今日の俺は最後までジュニアの放つ羽根について来れていた。お兄さんからの助言で新たに取り入れたプレースタイルがこの身体に染み付き始めたことによる自信と、お兄さんの試合映像を参考にして自分の中で根付いていた考え方を()()()おかげか、2週間前とは比較にならないくらい相手の放つ羽根の軌道が読めるようになった。

 

 「新たなライバルができちゃったね。慧」

 「それは良いことじゃん。油断できないくらい強い人と競い合うからバドは楽しくて、自分(おれ)がどれだけ強くなれたかも実感できるから…」

 

 それでもまだこれだけの差があって、上を見上げれば必ず誰かがいるのがバドの奥深さであって、バドが楽しいと思える面白さだ……ということに高1になってようやく気が付いた俺。

 

 「次は今よりもっと楽しい試合をしたいですね。羽鳥さん」

 

 そんな今までで一番の試合ができた俺へ、ネットの向こうに立つジュニアが主審の姉から視線を移して称賛とも宣戦布告とも取れる気持ちを伝える。3度目のリベンジにして初めて見る、新しいライバルに出会えて満足と言いたげなポーカーフェイスの小さな綻び。

 

 「それは俺も同じだよ……ジュニアが高校に上がって()()()()()で同じコートに立って試合をするときは、いまの俺とは比べ物にならないくらいもっと強くなってっから」

 

 姉とは対照的に感情の起伏が少ない弟が見せた熱さに、俺はライバルとして応える。今はまだこうしてクラスメイトの自主練習でしか戦えないけど、来年からはほぼ間違いなくジュニアは俺にとってインターハイの前に立ちはだかる大きな壁になる。千木良が今さっき放った言葉を引用するなら、新たなライバルができてしまった。

 

 「こっからの1年でもっとバドを楽しんでいこうぜ、ジュニア」

 「…はい」

 

 

 

 “上には上がいる”ということ……中3までの俺はそれを仕方のないことだと考えていた。でも今は、まだ俺は“上に行ける”と知った今は、()()が楽しくて仕方ない……

 

 

 

 「ごめんみんな。遅くなった」

 

 ちょうど対峙するようにジュニアと向かい合っていたところに、体育館へ着いたお兄さんの声が響く。

 

 「お仕事おつかれお兄」

 「お疲れ結。代わりに練習やってくれてありがとう」

 「ううん。ていうか思ったより早く着いたね」

 「駅からタクシー捕まえてここまで来た」

 「おわ、その手があったか」

 「この雨の中を走って風邪でも引いたら仕事に響くからね」

 「そっか。お兄は芸能人だもんね」

 

 歩み寄りに行った千木良と話しながら、羽織っていたウインドブレーカーを取っ払って練習着の姿になってお兄さんは準備を始める。そのスラっとした佇まいや練習着からチラッと見え隠れする腕と脚についた筋肉は、芸能人という仕事柄も関係あるのかバドをやめてからもずっと身体と心を鍛え続けている証拠だ。

 

 「お疲れ様です」

 「うん、羽鳥君もお疲れ」

 

 果たして合っているかはわからないけど、こういうところにお兄さんがインターハイの決勝まで進むことができた所以を俺は感じた。

 

 「じゃ、練習再開の前に早速()()()()()と行きますか」

 

 千木良の少し後に歩み寄って挨拶する俺へ、ちょうどシューズを履き終えたお兄さんが間髪入れずに本題をぶつける。お兄さんの言う“答え合わせ”というのは、前の練習から課されていたあの宿()()のこと。

 

 「最後の試合で俺が負けた理由、分かったかい?」

 

 向けられる眼に映る表情が親友のお兄さんから同じバド部の先輩に一瞬で切り替わり、お兄さんは俺が見つけてきた答えについて問いかける。

 

 「はい。自分なりに」

 

 もちろん、“自分(おれ)なりの答え”は見つけてきた。




実は千夏と雛って、原作だと2人同士での絡みって数えるくらいしかないんですよね。

まあ……この2人は大喜を巡って色々ありましたからね。
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