鷹と蝶   作:ナカイユウ

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何してんだ

 「針生。ひとつ聞きたいことがある」

 「何ですか兵藤さん?」

 「これが最後だと意気込んでいる人に言うのは酷な話かもしれないが、バドミントンに限らず勝負事で最後に笑って終えられるのはたった1人だけだ」

 「ははっ、何を話すかと思ったら今さらそれですか」

 「負けて終わることの悔しさを知っているお前ならもう分かってるだろ?勝負というのは大抵、報われないで終わることのほうが多いことを」

 「…それは俺が大喜(あいつ)に負けるという意味ですか?」

 「そういう意味じゃない……俺が言いたいのは、自分にだけは絶対に負けるなってことだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 月曜日_

 

 「ゲーム。21―17、21―18、21―14。針生」

 

 「…はぁ」

 

 フルセットにもつれ込まれたゲームをどうにか終えて、どっと溜息が零れる。

 

 「針生にしちゃ調子悪いな」

 

 ベストとは程遠いゲームが終わり溜息を吐いた俺に、試合相手の西田が僅かに心配そうな素振りで声を掛ける。このゲームの前にこいつとの真っ向勝負でここまで迫られたのは、記憶が正しければ本当に数ヶ月ぶりくらい久しぶりのことだ。

 

 「緊張か?」

 「人の心配するならせめて俺に勝ってからにしろよ」

 「口だけは相変わらず絶好調なことで…」

 

 もちろんこのゲームの結果は、西田の実力がそれだけ上がっているという証拠だ。今日はいつもより調子が悪かったから1セットを取られたなんて言い訳はしない。心技体のコンディションも含めて、これが今の俺の実力。

 

 「でも、本当に大丈夫か?」

 

 いつもなら負けない相手に負けてしまうほどの不振に陥っているわけではなく、身体自体はちゃんと動いている。とはいえインターハイが懸かる予選が週末に迫るタイミングでこのザマなのは、自分でもどうかと思う。そもそも調子が今一つ上がらないのは今日に始まったことではなく、振り返ればここ1,2週間ほどは満足な状態でプレーが出来ている日のほうが少ない。

 

 「大丈夫だよ。今ので割とマジで油断できないなってスイッチ入ったから、後は上向くだけさ」

 

 俺がこのところ本調子ではないことを知っている西田に“心配は要らない”と言葉を返して、コートの外へと向かう。

 

 「(ったく、らしくないな俺…)」

 

 高校で区切りをつけて()()()()へと進むことを決めた俺にとって、今年のインターハイは本当の意味で最後の大会になる。だからこそ絶対に勝ち進みたいと意気込む気持ちが無駄な緊張を生みプレッシャーという重りとなって、この身体へ圧し掛かっている。

 

 パァァンッ_

 

 「サービスオーバー、15―13」

 

 そしてスマッシュの音がしたコートのほうを振り返れば、同じ場所を目指す後輩(ライバル)たちがいる。

 

 「(…でも、これぐらいの危機感を持ってないとこいつらに食われるってことかもな)」

 

 一瞬の油断も許されない本番の試合のような熱量で羽根を追いかけ打ち合う、大喜と飛鷹。スコアを見るとゲームはセカンドゲームに入り1セット目を飛鷹が先行し、点数でも先を行っている。結のお兄さんでもあるこのバド部のOBで“佐知川キラー”と呼ばれていた千木良さんから何を吹き込まれたかは知らないが、スタイルを変えてからたったの2週間で人が変わったようにプレーの安定感が増した。元から好不調の波が激しい部分が改善されれば脅威になり得ることは分かっていたものの、いざその瞬間を目にすると初めて大喜から1セットを取られた日のことを思い出して不覚にも気が引き締まる。

 

 「サービスオーバー、14―15」

 

 予選まで1週間を切った中、そう簡単に負けて堪るかとつかさず大喜も一瞬を突いたショットで点を奪い返す。手の届くところまで一気に調子を上げてきた後輩を前に、ただ真っ直ぐに自分が勝つことだけを考えて気迫を滾らせ対峙する次期エース。そりゃあ倒したい相手がこの俺や“佐知川の遊佐”なわけだから、1年生ごときにストレートで負けるわけにはいかないのは当然だろう。

 

 「……」

 

 そんな俺の背中を脅かすほど上り調子な2人に、今のままで勝てるのか?

 

 

 

 「自分にだけは絶対に負けるなってことだ」

 

 

 

 昨日の部活終わりで兵藤さんのところへ挨拶も兼ねて羽根を打ちに行ったときに言われた助言が、時間差でこの心へと突き刺さる。言われなくても分かると平気な顔で言葉にするのは簡単なことで、俺からすれば実践することも決して不可能なことじゃない。

 

 

 

 「ちー、足は大丈夫なのか?」

 「うん。ただの捻挫だから平気だよ」

 「…そうか」

 「珍しいね。針生くんが私の心配してくれるなんて」

 「そこまで俺は冷酷じゃねえよ」

 

 

 

 ただそれは……自分の中や周りで()()()()()()()が起きなければの話だ。

 

 

 

 バチッ_

 

 何かが弾けた音が目の前のほうで聞こえ、俺は意識を向ける。

 

 「うっわガット切れた!」

 「飛鷹、俺のやつ貸すか?」

 「いえ予備あるんで取ってきます!」

 

 スマッシュを打った拍子にガットを切った飛鷹がタイムをかけ、壁際に置いたラケットバッグまでダッシュして予備のラケットを取り出してコートへと戻っていく。

 

 「そんなに急がなくても大丈夫なのに」

 「いまめっちゃ流れいいんでこの()を逃したくないんすよ」

 「サーファーかよ」

 

 その様子を半ば無意識に追っていた視界に、早くもウインターカップに向けての練習を始めた仲間たちをコートの外でパイプ椅子に座りながら静かに見つめるちーの姿が映った。

 

 「……」

 

 一瞬だけ見た横顔は、普段からよく見るちーと何ら変わらない表情をしているように俺には見えた。ひとまず嘘をつくのが下手くそなちーが迷うことなく平気だと言っていたから、試合中に痛めたという右足自体は大丈夫なのだろう。

 

 キュッ_

 

 本当は仲間やクラスメイトに会うのも今はしんどいくらいなはずなのに、ちーは今日も体育館に来て練習を見守り仲間へ声を掛けてエースとしてチームを引っ張り続けている。だけどちーのことだから、県大会3回戦敗退という結果に対しては誰よりも責任を感じていて、前を向いてチームを鼓舞する裏側で怪我をしてしまった自分をきっと今も心の中で責め続けているはずだ。

 

 

 向き合った結果がもし報われないものになったとき、俺は……

 

 

 「どこいくんだ針生?」

 「ちょっと2,3分だけ外の空気吸ってくる」

 

 色んなものが重なり意に反してネガティブになっていく気持ちをリセットさせるために、俺はアリーナから離れてリフレッシュへ向かう。思い通りに行かないときは苛立ちを沈めるという意味で一旦コートから離れることも大事なこと。何せバドミントンで最も重要なのは、自分の弱さに負けないメンタルだからだ。

 

 「…さっきから何してんだ」

 

 シューズを履き替え扉を開け雨降りだった昨日とは打って変わり晴れ渡る外の空気を吸い込んだ瞬間、溜息を吐き出した勢いで口から飛び出した自分へ向けた独り言。別に大丈夫だと言い切るちーのことが心配だからとか、後輩の成長に対する焦りだとか、そういう理由で思い通りのプレーが出来ていないわけではない。

 

 ただ、俺たち3年生は泣いても笑ってもインターハイに出られるのは今年で最後。考えたくはないが、昨日の自主練習で兵藤さんが言っていたように“報われない”結果で終わることだってある。

 

 「(なに恐がってんだよ。俺は…)」

 

 

 

 ちーが試合中に足を捻挫して戦線離脱したことと、女バスが3回戦で敗退したことを聞いたとき……今まで経験したことのない類のプレッシャーを感じた。

 

 

 

 「お疲れ様です。ハリー先輩」

 

 外の水道へ向かう途中で、前のほうから聴き馴染みがあるハキハキとした2コ下の後輩の声が聞こえてきた。

 

 「だからいい加減その呼び方やめろ、結」

 「色々考えたんですけどこの呼び方が一番しっくりくるんで」

 「ホントはめんどくさいだけだろお前?」

 「あはっ、バレました?」

 

 俺とは違う高校へ進学した岸と共にジュニアチームにいたときから先輩後輩としての付き合いがある結が、俺の機嫌がそんなに良くないことなどお構いなしに元気よく絡んできた。こいつはこいつで週末に女バドの予選があるというのに、まるでプレッシャーなどこれっぽっちも感じていないと言わんばかりに明るさが滲み出ている。

 

 「ところで先輩はこれからどちらに行くんですか?」

 「軽く水でも浴びてリフレッシュしてくるだけだよ」

 「私はちょうどリフレッシュを終えたところです」

 「じゃあさっさと戻れ」

 「も~そんな冷たい態度だと()()()()に嫌われますよ?」

 「余計なお世話だ」

 

 まあ、不本意ながら女バドのムードメーカーが相変わらずの明るさでウザ絡みしてきたおかげで、バドとは関係のないことで気負っていた自分の馬鹿らしさを自覚して顔に水を浴びる前から気分的に6割くらいリフレッシュ出来てしまったのだが。

 

 「お互いこんなとこで道草食ってる暇はないだろうから、マジで練習戻れよ」

 

 と言っても今は1分1秒たりとも時間を無駄に使いたくないから、早々に俺は話を終わらせて水道へと足を進める。

 

 「…()()先輩」

 

 さっさと振り切ろうと歩き出した背後で、結が珍しく俺のことをよく呼んでいる呼び名ではなく本名で呼び、それに釣られて俺は思わず立ち止まって振り返る。こいつが俺のことをこの名前で呼ぶときは、決まって真剣に話したいときだ。

 

 「ひだっち。強くなったでしょ?」

 

 そして何を話すか身構えながら振り返った俺の顔を真っ直ぐ見つめると、結は得意げな笑みを浮かべながら“これで面白くなったでしょ?”と言わんばかりの挑発じみた口ぶりでこう言ってきた。

 

 「…あぁ。随分と余計なことしてくれたな」

 

 兄譲りの無駄に整った美形な顔から放たれた後輩からの挑戦状を、先輩として俺は受け止める。最後のインターハイがかかる俺からすれば、本当にこの言葉通りの心境だ。

 

 「その割には嬉しそうですね。先輩」

 

 もちろんそれは悪い意味なんかではない。ここから本番までにどこまで調子を戻せるかは自分次第になるが、どうなろうとインターハイへ行くなら出来るだけ強い相手と手に汗握るような試合をして、そして勝ちたい。

 

 「当然だろ。強い相手に勝って進むからこそインターハイは目指す価値があるからな」

 

 

 

 ついさっきまであんなに不安だったはずが、後輩からちょっと煽られただけでこうなる俺は……きっと大喜と負けず劣らずの()()()()なのだろう。

 

 

 

 「やっと明るい顔になりましたね。ハリー先輩」

 

 俺を見つめる結の表情が、明るい顔になったと再びいつものように緩む。花恋(かれん)の次くらいには付き合いの長いこいつの気遣いを察して、後輩から一本取られたという自分への情けなさと馬鹿らしさに似た心境がさっきまでのプレッシャーと入れ替わりで襲う。

 

 「ったく、どいつもこいつも人より自分のことを考えろって話だ」

 

 ただ同時に、考える必要もない不安に駆られて焦り始めていたこの心はやっといつもの落ち着きを取り戻した。後輩が成長して段々と強くなっていく姿を見ていると純粋に嬉しくて、強くなって立ち向かってくる後輩と本気で1点を奪い合うことが何よりも楽しい。それがバドをしているこの俺だ。

 

 「言っとくが万が一試合で当たることになったら()()()()()だろうと容赦なく倒すからな」

 「友達ではなく“親友”です。じゃ、お疲れでーす☆」

 「…ほんと1年生で俺にこんな態度取れるのはお前ぐらいだぞ…」

 

 試合の結果次第では決勝で戦うことになるかもしれない飛鷹(ともだち)だろうと容赦はしないことを告げると、結はいつの間にかその友達と親友になったことをサラッと打ち明けて返答を待たずに体育館の中へと戻って行った。本当にこいつは、良くも悪くもずっと明るくて煩いやつのままだ。

 

 「親友か……順調そうで何よりってとこか」

 

 ずっと明るいけれどそれと同じくらい()()()なところもある結に親友と呼べる存在(ひと)が出来たことをジュニアチームからの先輩として少しだけ嬉しく思いながら、リフレッシュが済んだ俺は水を浴びずにそのままアリーナへと引き返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「すいません、ガットの張り替えで来ました」

 

 練習が終わり、大喜先輩とのゲーム中にガットを切った俺は早速ガットを張り替えてもらうために商店街のすぐ近くにあるスポーツショップへ足を運んだ。

 

 「あー、切っちゃいましたか」

 「そうなんすよ。スマッシュを打ち込んだらバチッて」

 「大会当日じゃなくて良かったですね」

 「ホントすね。マジで不幸中の幸いってやつです」

 「ポンドは前回と同じ26にしますか?」

 「はい。それでお願いします」

 

 カウンターに行くと総当たり戦の前にガットを張り替えてもらって顔見知りになった店長さんがいて、軽く雑談しがてらガットの切れたラケットを渡す。どっちにしろ今日の練習終わりにガットを張り替えるつもりではいたが、いざ本番じゃなくて良かったって言われると本当にそうだって思う。強いて言えば、それで貴重な運を使ってしまった感は否めなくはないけど。

 

 「では工賃と割引込みで1200円になります。翌日には仕上がりますのでまたお越しください」

 「ありがとうございます」

 

 サービス券と料金を支払い、俺はカウンターを離れてショップの中を何気なく見渡す。前に来たときから気になってはいたけれど、ここのスポーツショップは決して大きくはないもののバドミントンを専門としているだけあってよくある大きな店と比べて置いているバドミントンラケットやシャトルの種類が豊富だから、ただ眺めているだけでもテンションが上がる。

 

 「(うわ、最新モデルあんじゃん…)」

 

 ショップを出る前にせっかくだからと店の中を周っていた視界に、壁に掛けられた最新モデルのラケットが目に留まる。

 

 「やっぱするよなぁ…」

 

 そして低く見積もっても小遣い半年分が一瞬で吹き飛ぶほどの値段を見て、現実に戻る。考えてみれば中3に上がるタイミングで親戚一同から貰ったお年玉をほぼ全て使い切って買ったいまの相棒と同じくらいかそれ以上の値段なわけだから、高1の俺にはあまりに出費が高すぎるって話だ。

 

 「(いっそ曜子さんに頼んで半年分だけ……いやいやそれはお世話になってる身として失礼すぎるわ)」

 

 と、良からぬことを考え出した頭をリセットして衝動から逃れるように最新モデルの売り場から一旦離れてシューズコーナーへ進む。

 

 「(あ、前買ったやつまだ売ってる)」

 

 予算的な意味ですぐには買えないことはともかく、いま予備で持っているラケットは中2のときに買ったやつでカテゴリーで言うと中級者レベルのやつだから、スイートスポットが広く遠くまで羽根を打ちやすい代わりにスマッシュを打ったときの感触が軽くて今一つ深いところまで打ち切れない部分があり、はっきり言って上級者レベルのラケットに身体が馴れてしまった今では逆に思い描くようなショットを打ちづらくなってしまった。そんなこともあって、今メインで使っている相棒と同じレベルのやつがもう一つ欲しいとちょうど思っている今日この頃という感じだ。

 

 「(…頑張って小遣い貯めて買うか)」

 

 

 

 「ゲーム、21―16。大喜」

 

 

 

 もちろん大喜先輩とのゲームでガットが切れたことで流れを変えられ1セット先取からの逆転負けで初白星のチャンスを逃したのはラケットのせいではなく、ただ単に俺の実力不足だ。

 

 

 

 カシャッ_

 

 「…千木良だな?」

 

 店の中をうろつき終えてそろそろ帰ろうかというところで、何気なくバドミントンシューズを眺めていた意識にスマホのシャッターの音が左から聞こえてきて、俺は視線を移さずにそのまま音の正体を言い当てる。

 

 「よくわかったね」

 「一人しかいないだろ俺のこと盗撮する奴なんて」

 「さすがに盗撮呼ばわりは酷くないひだっち?」

 

 バレたかと言いたげに、言い当てられた千木良は小さく笑う。恰好からして俺と同じく部活終わりでそのまま来たみたいだ。

 

 「ていうかなんでここにいるの?」

 「練習でガットが切れてな。で今ちょうど張り替えに出したとこ」

 「このタイミングで切れたのは不幸中の幸いだね」

 「似たようなことさっき店長から言われたわ」

 「ちなみに私もガット交換」

 「やっぱ大会が近くなるとみんなやるのはあるあるだな」

 「ほんとそれ」

 

 ちょうど鉢合わせる恰好になった俺と軽く話すと、ラケットバッグを背負う千木良はそのままカウンターへと真っ直ぐ向かってさっきの店長と慣れた様子でやり取りしながら、自分のラケットを差し出す。パッと覗き見た感じ、きっと千木良は常連と見た。

 

 「千木良って前からここ使ってんの?」

 「うん。元々お兄がここでガットの張り替えとか練習で使うシャトルとか全部買ってたから、家からだとちょっと遠いけど私も慧もバド始めてからずっとこのショップを使ってるって感じ」

 「なるほど、千木良家でご用達ってパターンか」

 「まーそんなとこ」

 

 カウンターから戻ってきた千木良に試しに聞いてみたら、大方予想通りの答えが返ってきた。どうやらここは千木良家もとい3兄弟にとってご用達らしい。

 

 「一応家の近くにもこういう店はあるけど、こっちのほうが色々と揃ってるからつい通っちゃうんだよね~」

 

 家から近いところではなくここに通っている理由を俺に明かして、千木良はついさっきまで俺が睨めっこをしていたラケットのコーナーへ視線を投げる。

 

 「ねえ、こういうの見ると新しいラケット欲しくなってこない?」

 「ほんそれ」

 

 共感しかできない千木良の話に合わせるように、俺も同じ方向に視線を向ける。

 

 「けどあそこに並んでるやつ新しいモデルばっかだから結構するぜ?」

 「知ってる。だから今からお金貯めて自分の誕プレで買う」

 「自分で誕プレ買う奴とか初めて見たわ…ってか千木良って誕生日いつだっけ?」

 「8月27日」

 「おう。覚えとくわ」

 「逆にひだっちがあの中で一番高いラケットを私にプレゼントしてもいいんだけどね?」

 「そんな金の余裕ねえよ」

 

 当然バドはラケットの性能が良ければいいってもんじゃないのは十二分にわかっているけれど、やっぱり次のレベルに向けたものがあれば使いこなしたくなるのがプレイヤーの性みたいなものかもしれない。

 

 「にしてもガット切れたのが大会前日とかじゃなくてマジで良かったわ」

 「これで運を使い切らなきゃいいけどね?」

 「縁起悪いこと言うな」

 

 

 

 「勝てそうだったのに勿体なかったな飛鷹」

 「おう。大喜先輩もインターハイに向けてちゃんと合わしてきてるから、これも実力だって受け入れて残りの時間でまたやれるだけのことやるしかないってとこだわ」

 「案外冷静なのな?」

 「当たり前よ。ゾーンが切れた理由(わけ)はわかってるしな」

 

 

 

 改めて言うけれど、俺が負けたのはラケットのせいではなく、大事なときに()()()()()を一瞬だけ考え集中力を切らしてしまった自分の実力不足だ。

 

 

 

 「…そろそろ出よっか。どうせ何も買わないならいても意味ないし」

 「おう。だな」

 

 新しいラケットの話で暫し盛り上がっていると、隣でラケットを眺めていた千木良が外に出ようと言ったから俺もそれに応じて一緒にショップの外へと出る。確かに店の中で何も買わないくせに屯って駄弁っているのは、店の人からすれば普通に迷惑な話だ。

 

 「ひだっちって帰る方向どっち?」

 「俺?とりあえず途中まで来た道そのまま戻るから一旦学校のほう行くわ」

 

 すると外へ出たところで、千木良は何か含みがありそうな表情で小さく笑いながら帰り道を聞いてきた。

 

 「じゃあさ、ひだっちの誕プレをちょっとだけ豪華にするから学校の前まで一緒に帰ろうよ」




色々と考え悩みに悩みましたが、まだ千夏先輩との接点が全くというほど無いに等しい飛鷹が直接“あのエピソード”に絡むのは違うだろうなということで、難産の末こうなりました。

さて話は原作の最新話に変わりますが、率直な心境を言うと「やっちまったなあ!」って感じです……言っておきますが最新話の感想ではありません。

真面目な話をすると、原作でついに雛の家族構成とそれに纏わるエピソードが明かされたわけですが、その結果として“このままの設定だと話の続きが書けない”という結論に至りました。

というわけで、今後の展開を考慮して誠に勝手ながら1話から前話にかけて大筋の展開を変えない範囲で急遽書き直しを行いました。ここまで読んで下さった皆さま、本当にごめんなさい。

色々と至らないところもありますが、自分なりにこの小説をここからもっと面白くしていきますので今後ともよろしくお願いします。
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