鷹と蝶   作:ナカイユウ

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6月28日

 ピピピッ_

 

 6時にセットしたアラームの音でスッと意識が夢から現実へと戻り、1回でアラームを止めてベッドから身体を起こす。かつて麦姉のものだったこの部屋で初めて目が覚めたときは親戚の家に泊まりに来ている感が否めなかったが、今じゃすっかり実家にでもいるかのように蝶野家の天井も見慣れてきた。

 

 「ふぁぁー…」

 

 寝起きで酸素を一発だけ吐き出して立ち上がり、スポーツウェアに着替える。今日も今日とて何も変わらない朝だ。

 

 「(…16歳か)」

 

 ただひとつだけいつもと違うことがあるとするなら、俺が15歳から16歳になったことくらいか。ぶっちゃけ、実感はまだ1ミリもない。

 

 ガチャ_

 

 「あ」

 「あ」

 

 部屋から出たところで、まだ部屋着のままの雛姉とちょうど鉢合わせした。

 

 「ちょうど一緒っていうね」

 「あはっ、気が合うね私たち」

 

 意図せずに全く同じタイミングで部屋から出た俺に、髪を下ろした雛姉が朝一番で嬉しそうな表情を覗かせる。親戚(はとこ)と言えど、朝一番からこの人の笑顔を見ると本当にこっちも元気になる。

 

 「お誕生日おめでとう。飛鷹くん」

 「おう。ありがとう」

 「意外と素っ気ないリアクションだなお主」

 「朝すぎて実感が湧かんのじゃ」

 「あるあるだね(ちゃんと乗ってくれた)」

 

 その笑顔から告げられる、16歳の誕生日。ありがとうと返しながらも、やっぱりまだ自分が16歳になったという実感は湧かない。まあきっと誕生日の朝なんてざっとこんな感じで、家族とか友達とかから“おめでとう”って言われたり、プレゼントを渡されたりケーキを食べたりしてだんだんと実感が湧いてくるものなんだろうなと、俺の経験値はそう言っている。

 

 「じゃあちょっと走って来るわ」

 「今日ぐらい休んでもいいんじゃない?誕生日なんだし」

 「テスト期間で部活がないときこそ動かせるときに動かさないとって話よ」

 「朝から元気だなぁ」

 

 ひとまず眠気も醒めたことだしと、顔を洗ってささっと走りに行こうと1階のほうへ足を進める。

 

 「飛鷹くん。授業終わったら一旦蝶野家に集合ね」

 

 階段を一段だけ降りたところで、雛姉が俺を呼び止める。言うまでもなく内容(それ)は、昨日の帰り道で話した()()()()()()。雛姉曰くそのお店は“ご褒美のときにしか行かないとっておきのケーキ屋さん”、だという。

 

 「おっけ。一応学校出たらメッセするわ」

 

 

 

 今日は6月28日。俺の誕生日だ。

 

 

 

 

 

 

 「おはよっ!」

 「うわびっくりした千木良か」

 

 少し時間は飛んで朝8時5分。ホームルームが始まる20分前に同じ制服の群れに混じって門をくぐった俺の真横から、待ち伏せをしていたかのように千木良が現れた。

 

 「からのお誕生日おめでとう」

 「おう、ありがとう(ついさっきも言われた)」

 

 まるで朝一番に見た光景をなぞるかのように、蝶野家に続けて一番仲が良いクラスメイトからの祝福。しかも右手には何やら紙袋のようなものが見える。恐らくは、というより間違いなくこれは誕プレだ。

 

 「ねえ。まだホームルームまで時間あるからちょっと体育館のほう行こうよ」

 

 その紙袋へ向けた視線を遮らせるかのように、千木良は体育館のほうへ行こうと俺を誘う。とりあえずそこへ行って何をするのか、兄譲りの無駄に美形な顔立ちの裏側で考えているであろうことが筒抜けなのが否めない。一応こいつ、中間テストで学年3位を取るくらいには頭もいいはずなんだけどな。

 

 「何?サプライズ的な?」

 「まあね」

 

 とは心の中で思いつつも、どんな形であれ誕生日を祝われるのは普通に嬉しいのは変わらないから、普通に乗っかることにした。

 

 「一応聞くけど袋の中身は何?」

 「誕プレ」

 「そこは普通に言うのな」

 「さすがに中身はまだ教えないけどね」

 「ここで言ったらサプライズの意味ないしな」

 

 紙袋の中に入っている誕プレの話題(はなし)をしながら、誰も人がいない体育館へ千木良と一緒に足を進める。そういえばこいつと初めて話したのは、この学校の体育館だった。

 

 「朝練がない朝にここ歩くのって何気に初だわ」

 「あ~、確かに私も初めてかも」

 「やっぱいつもと空気が違うよな」

 「まず体育館に人がいないからね」

 

 そしてこいつと初めてまともに会話したのは次の日の朝練で門から体育館へ歩いている途中で、偶然ほぼ同じタイミングで練習に来たこいつとこんな感じで駄弁りながら入り口まで行って、針生先輩に冗談半分で変な勘違いをされた。

 

 もちろんあのときは、千木良が俺にとって2人目の親友になっているなんて思いもしなかったけれど。

 

 「サプライズの前にもう一個聞いていい?」

 「うんいいよ」

 「なんで体育館なん?」

 「せっかく誕生日を祝うならひだっちと私が友達になった場所がいいかなってさ。エモいでしょ?」

 「あぁ。エモいな」

 「ちゃんとわかって言ってるひだっち?」

 「そのまま台詞返すわ」

 

 朝練がある普段(いつも)とは違いボールの音もシューズの音も何も聞こえてこない体育館が目の前に近づき、エモいというお決まりのワードと一緒に千木良がこの場所を選んだ理由を明かす。ちなみにこいつが割とよく使う“エモい”の意味は、大雑把だけどようやくわかってきた。

 

 「この辺でいっか」

 

 7段の段差がある体育館の扉の前まで来たところで、千木良の言葉を合図に足を止める。いつもなら静かなはずの校舎の中からガヤガヤと音が聞こえてきて、いつもなら残響が聞こえてくるはずの体育館の中から何一つ音が聞こえてこないのが、この体育館(ハコ)の日常が当たり前になっていた俺には少し不思議な感じに思えてくる。

 

 「それではひだっち。私からの()()()()()()()()な誕生日プレゼントです」

 

 案の定にエモい感覚に浸り出した俺に、千木良がお兄さんの試合映像をプレゼントしてくれたときと同じような畏まったノリで、ちょっとだけ豪華だという誕プレが入った紙袋を手渡す。

 

 「何にしようか色々考えたけど、やっぱ誕生日に貰って嬉しいものといえば甘いやつってことで」

 

 誕生日と言えば甘いやつだと話す千木良をよそに袋の中身を見ると、包装紙で包まれた少し大きめの長方形の箱が入っていた。

 

 「これは……お菓子的なやつ?」

 「そう。近所のケーキ屋で売ってる美味しいって評判のクッキー」

 「一人分にしちゃ奮発したな…」

 「12枚入ってるからひだっちだけじゃなくて雛先輩と親御さんのみなさんでどうぞ」

 「マジか。ちょっとどころか普通に豪華じゃねえか」

 

 ちょっと豪華な誕プレの中身は、ケーキ屋で買ってきたという12枚入りのクッキー。ちゃんと予告していた通りにちょっとというかまあまあ豪華なやつを用意してきたところや、ご丁寧に俺だけじゃなく蝶野家の分まで入っているというところが、変なところで礼儀正しい千木良らしくて微笑ましい。

 

 「ひだっちが甘いの苦手だったらごめんなさいだけど」

 「いや…甘いもの好きだからすげえ嬉しい」

 

 無論、俺は小さいときから自他共に認める甘党だから、何やかんやでこういうプレゼントを貰えると一番テンションが上がる。

 

 「ありがとう千木良。帰ったら美味しく頂くわ」

 「味は千木良家を代表して私が保証するよ」

 「そりゃ楽しみだ」

 

 その気持ちを“ありがとう”の五文字と一緒に伝えると、自信満々な表情で千木良が得意げに答える。“ジュースを奢りたくなるくらいのプレゼント”だと言ってお兄さんの試合映像をプレゼントしてくれたこいつのことだから、きっと間違いなく美味しいんだろうなっていうのが伝わってくる。もちろん甘いものという時点で、俺は大分嬉しい。

 

 「ではサプライズも終わったことだし教室に行きましょか」

 「おう。普通にホームルームあるしな」

 「でもよかった~ひだっちが甘いもの好きで」

 「言っとくけど俺めちゃくちゃ甘党だぜ」

 「そうなんだ!ちょっと意外かも」

 「それすっげぇ言われんだよなみんなから」

 

 こうして千木良からのサプライズも一応予定通りに終わり、俺は誕プレの入った紙袋を片手に1Bの教室へと向かった。

 

 「飛鷹。これ食ってもっと強くなれよ」

 「サンキュー。これはこれで嬉しいわ」

 「うわぁその手もあったかー」

 

 そして教室に入るや坂元からプロテイン(誕プレ)と一緒に誕生日を祝われて、朝起きたときにはほとんど感じられなかった16歳になったという実感が少しずつ湧き始めた。

 

 

 

 キーンコーン_

 

 

 

 「ぶっちゃけさ、結と羽鳥くんを見ててあかりはどう思う?」

 

 昼休み。教室の机を合わせて一緒にお昼を食べていた結月ちゃんが、何やらものすごく意味深な表情を浮かべながら正面に座る私に問いかけてきた。たびたび私たち女バドの中で話題になる、結ちゃんと羽鳥くんの話。

 

 「どうって……私にはただ仲良いなぁって感じにしか見えないかな…」

 「そうそう。もう本っ当に仲が良いんだよねぇあの2人」

 

 問いかけに、私は直感で思ったままのことを伝える。結月ちゃんの言うように、隣のクラスにいる結ちゃんと羽鳥くんは本当に仲が良い。

 

 「うん。結ちゃんも羽鳥くんは親友だって言ってたくらいだし」

 

 大会の前に結ちゃんが羽鳥くんを自主練に誘ったり、体育館で練習の合間にすれ違いついでに2人で談笑してるところも何回か私も見ていたりと、とにかく女バドの中だと密かに噂になるくらいにはお互いに仲が良いことは知っている。それでも私は、あくまで結ちゃんの言う親友という関係が全てだと思っている。

 

 「しかしですねあかりさん。当社比によると幼馴染という関係も含めて異性同士が親友の関係になった場合は、かなりの高確率でどちらかが相手のことを好きになるというデータが出ておりまして」

 「そ、そうなの?(プレゼン始まった?)」

 

 だがしかし結月ちゃんによると、私の考えはどうやら違うらしい。かと言って私は恋愛なんて経験はおろかイロハのイすらよくわからないから、言われたところで場をしのぐ相槌しか返せない。

 

 「それでさ、今から言うことは結には絶対に秘密ってことにして欲しいんだけど…」

 

 なんて具合に言っていることをあんまり深く理解できてない私へ、今から怖い話でもするかのような表情を浮かべて真彩ちゃんは只事じゃないと言わんばかりの前置きを挟んで打ち明けた。

 

 「ここだけの話……もしかしたら結って羽鳥くんのこと意識し始めてるんじゃない?って私は思ってるんだよねぇ」

 「意識って?」

 「()()ってこと」

 「ふぇっ!?」

 

 私にしか聞こえない声量で、結月ちゃんが呟いた。それを聞いて、普通に衝撃すぎて変な声が出た。

 

 「いやいやっ、結ちゃん体育祭のとき“あり得ない”って言ってなかった?」

 「わかる。あかりが結のことを信じたいって気持ちは私も痛いくらいわかるよ」

 「信じたいっていうか、そう思ってるってだけだよっ」

 

 つい大声を上げてしまったせいで視線を向けられてないか周りを見渡して、大丈夫だってことがわかって少し声のボリュームを抑えて話を続ける。

 

 「例えばほら、この前の大会のときとか羽鳥くんが試合で負けたとき真っ先に下に降りて行ったことあったじゃん」

 「それだけで決めつけちゃうのはどうかと思うけど…」

 「しかもあの後、ちゃっかり私たちから少し離れたところで2人きりで猪股先輩と針生先輩の試合見てたんだよねぇ」

 「ごめん応援に集中してたからそれは知らない」

 「猪股先輩?」

 「ちがっ///!?」

 「(わっかりやすいなぁこの子…)」

 

 結月ちゃん曰く、結ちゃんは羽鳥くんのことを親友じゃなくて、()()()()として見ているという。猪股先輩の試合を応援してたから大会のときの結ちゃんのことはちゃんとは見てないから何とも言えないし、あくまで私はただの友情だって思っているのは変わらないけど、確かに羽鳥くんと話しているときの結ちゃんは心なしかすごく楽しそうにも見えた。 

 

 

 

 「“もしかしたらワンチャンその気があるんじゃない?”って思われてたりしてるのかもなーっていうのは、ぶっちゃけ自覚はしてる」

 

 

 

 「…まあ友達同士の距離感で話していてもそれが()()ってだけで何も知らない外野からはカップルみたいに見えちゃうのはよく聞く話だから、案外あかりの言う通りただの親友っていうのもあり得るかもしれないね」

 「うん。やっぱり私はそうなんじゃないかなって思う」

 「そもそも結って男女関係なく相手が初対面だろうと幼馴染くらいの距離感でいきなり接してくるくらいコミュ力高いからなぁ」

 「それはわかる」

 「そんな明るい人柄に加えてバドの実力は1年にして女バドの中でもトップで勉強もめちゃくちゃできて、おまけに俳優をやってるお兄さん譲りの端麗なビジュアルのおかげで学校の中じゃ鹿野先輩や蝶野先輩に次ぐくらい人気なわけですよウチの結は」

 「さすがに最後は結月ちゃんの主観が入ってる気が…」

 

 冗談と本気が半々に混ざったような言い回しで、結月ちゃんは誤解されやすい結ちゃんの振る舞いを愚痴る。

 

 「そんな“女バドの美人”ともあろう人が場所を選ばずいの一番に羽鳥くんと肩組むくらいの距離で話しかけていくものだから、私みたいに勘ぐっちゃう人が出てくるんだよねぇ……結ってそういう部分の自覚ができてないところがあるから、何だか誤解されやすいっていうかさ…」

 

 初対面の人をいきなりあだ名で呼ぶくらい人に対して壁を作らない。そういう人が()()()()()に選んだのが、同じクラスで同じスポーツをやっている羽鳥くんだったというだけのこと……で終わるほど単純な話じゃないというのが、結月ちゃんの思う“異性の親友”という関係。言ってしまえば、どっちに転ぶのもあり得るということ。

 

 「逆に好きって気持ちがあるなら素直にそのまま突っ走ったっていいのにさ。友達だった人との仲が深まって好きな人になるなんてごく自然なことじゃん…」

 

 物思いに耽るような表情で友達から恋人になることは自然なことと呟いて、私より色恋沙汰に詳しい結月ちゃんは自販機コーナーで買ってきたいちごオレを口へ運ぶ。

 

 「…私も結ちゃんが羽鳥くんのことをどう思ってるか、ちょっとだけ気になるかも」

 「おやぁ?あかりも意外にそういう話に興味が」

 「全然そういうのじゃないからっ!」

 

 最初はあり得ないって思っていたけれど、結月ちゃんの話を聞いたら確かに相手が同性か異性かで全然変わってくることもあるんだなって、思えてきた。

 

 「たださ……友達として結ちゃんのことは正しく知っていきたいんだよね…」

 

 

 

 「さっき千夏先輩。“大喜”って言ってなかった?」

 

 

 

 これは多分、恋愛的な意味での“好き”という気持ちがよくわからないせいで、周りのみんなが言っていることに流されて優柔不断になっているだけ……って、なんで猪股先輩のこと思い出しているんだ私は??

 

 

 

 「まぁどっちにしろ私たち外野は見守ることしかできないんだけどねぇ」

 「それが一番だよっ」

 「でも私は結構お似合いなんじゃないかなぁって思うんだよねあの2人。“バドエリートカップル”みたいな」

 「やっぱり結月ちゃんは付き合う前提なんだね…」

 

 あぁ……やっぱり恋だの愛だのは、私にはまだまだ難しい。

 

 

 

 キーンコーン_

 

 

 

 「羽鳥ぃ、今日も帰る前にテス勉しとく?」

 「悪ぃ。今日ちょっと外せない用事あってなるはやで学校出ないとなんだわ」

 「おうそっか……まさか彼女できた?」

 「ちげえわ」

 

 帰りのホームルームが終わり挨拶を終えるや、まるで昨日の私みたいにひだっちは早速帰り支度を始め出した。後ろのほうから聞こえる席替えで同じ班になった陸上部のイチくんとのやり取り曰く、“外せない用事”があるらしい。

 

 「おっつー。この後あかりんたちと図書室で勉強会やるんだけど君たちも参加するかい?」

 「あぁ悪い千木良。俺はちょっと今日この後用事あって厳いわ」

 「マジか~残念」

 

 一応聞こえちゃった上で私は1年ズ4人でやる勉強会にイチくんと一緒にひだっちを誘うも、軽く謝りながら用事があると言ってひだっちは急ぐように席を立って教科書を入れたラケットバッグを背負う。

 

 「じゃおつかれ」

 「うん。また学校で」

 「あと千木良、プレゼントサンクス」

 「ははっ、ありがと」

 

 そのまま朝に教室へ行く前に渡した誕プレへの軽めの感謝とさよならをして、ひだっちはそのままやや急ぎ足で教室を出ていく。用事が何なのか聞こうとしたけど、あまりに急いでいるものだから聞くタイミングのなかった私はひだっちをその場でただ見送った。

 

 「さてと今日も今日とて期末……あれ飛鷹は?」

 「用事があるからもう帰った」

 「えっ帰んの早くね?てか用事って何?」

 「さあ?ワンチャン彼女じゃね?」

 「いや飛鷹(あいつ)あんまり恋愛とか興味ない感じだからさすがに違うでしょ。ねえ千木良さん?」

 「そうそう。なにせひだっちの恋人は“バドミントン”だから」

 「あ~確かにぽいわ」

 

 ちょうど入れ違いのタイミングで来たさかこーに、イチくんが冗談交じりで事情を話す。ひとまずイチくんの冗談はさておき、やけにひだっちが急いでいたのがやっぱり少し気掛かりになってきた。昨日みんなには内緒で約束していた“ちょっと豪華な誕プレ”を買いに行ってた私ならともかく、何でだろうか。

 

 ピロン♪_

 

 「誰かスマホ鳴った?」

 「あぁ私」

 

 なんて気にするほどじゃなさそうな些細なことを気にし出したところで、私のスマホが着信を告げた。

 

 『ごめん。さっき言った用事だけど雛姉とケーキ買う約束してたってことだから_』

 『市川いたから言えなかった_』

 

 画面を開くと、ひだっちからの正直さが詰まったメッセージが来ていた。

 

 「けど羽鳥って普通にモテそうな感じするんだよなぁ俺」

 「まぁバドだけに留まらずスポーツ全般得意で勉強もできるし人当たりもいいからモテそうではあるな」

 「言っとくけど体育祭の後とか陸部のあいだじゃ羽鳥の話題で持ち切りだったからな。俺ら青組もあいつのおかげで優勝できたようなもんだし」

 「最後のリレーとかMVP級に活躍してたもんなぁあいつ」

 

 

 『おっけ!_』

 『いい感じにこっちはごまかすから雛先輩との誕生日デート楽しんで!_』

 

 

 「千木良さんはどう思う?飛鷹のこと?」

 

 

 『デートちゃうわ_』

 『ありがとな_』

 

 

 「千木良さん?」

 「…あ、ごめん。何だっけ?」

 

 トーク画面に集中して返ってきたメッセだけを見ていた意識(ところ)に、さかこーの声が届く。()()()()()に入り込んでいたせいで途中から話は全く聞いていなかった。

 

 「飛鷹って意外とモテそうじゃね?って話」

 「あー、ひだっちねぇ~」

 「女子の中だと飛鷹と一番仲良い千木良さんから見てどうなんだろうなって思ってさ」

 「え~、まぁ普通なんじゃない?同じバド部だとハルのほうが顔はイケメンだし」

 「ハルって誰?」

 「A組にいる遊佐晴人ってやつ」

 「…思い出した入学初日に先生と喧嘩してたヤンキーか」

 「やっぱバド部以外だと悉く印象悪いなぁ晴人のやつ(根は真面目でいい奴なんだけど…)」

 

 さかこーが話題をひだっちからハルへ移してくれたおかげでどうにかなったけど、数秒前までの文字でのやり取りに気を取られていて思うように会話が返せない。

 

 「(そりゃそうだ。誕生日だから普通だ)」

 

 今日は6月28日。ひだっちの誕生日。だから部活が休みの放課後にお世話になっている親戚と一緒に誕生日のケーキを買いに行くことなんて、ごくごく普通なこと。もし私がひだっちでも、きっと同じことをする。学校の中では1学年上の先輩後輩であろうと、家に帰れば1コ上の親戚(はとこ)なわけだから、言ってしまえばひだっちと雛先輩がケーキを買いに行くのは家族の団欒みたいなもの。

 

 「てか千木良さん、さっき図書室で勉強会やるとか言ってなかった?」

 「うわそうじゃん…あかりんたちもう行っちゃってるかな??」

 「俺らに聞かれても知らん」

 

 

 

 わかっているのに、ひだっちからのメッセを見たときに雛先輩のことを()()()()()と思ってしまったのと……そう思ってしまった自分の感情に()()()()()()()()みたいなものを感じた。

 

 

 

 「このクラスに結はいますか~?」

 

 そんなことより女バドの1年ズで勉強会をする約束をしていたことを思い出したところで、教室のドアから私のことを呼ぶゆーづの声が耳に届いた。

 

 「は~い」

 「は~いじゃなくてそろそろ行かないと席埋まって図書室で勉強できなくなるよ?」

 「わかってるわかってる~」

 

 振り返った先でいつもの3人が待っているのが見えて、教科書とノートを詰めたリュックを背負って教室を出る。“よそはよそ、うちはうち”という言葉があるように、こんな感じでひだっちにはひだっちの時間があって、私には私の時間がある。幾ら親友と言えど、自分じゃない家族の水入らずをあれこれと気にするのは良くないことだ。

 

 「そうだ、イチくんとさかこーも良かったら一緒に勉強会やる?」

 「え?まあ全員が良ければ」

 「だってどうする?」

 「私はOK」

 「私も大丈夫」

 「私は女バド以外からも何人か誘うかもって結から聞いてるからOK」

 「というわけなんでこの6人でやりますかっ」

 「あざます」

 「ちょっと待ってこの人数だと図書室で座れるかな?」

 「最悪3―3(スリーオール)でグループ分けるとか?」

 「3対3をバドのスコアみたいに言うな」

 

 それにひだっちは、私がチョイスした誕プレのこと本当に喜んでくれてた。だから今日は素直に“おめでとう”って親友の誕生日をお祝いしよう……そう心を切り替えて、私は図書室へ向かった。




先を考えて区切りのいいところまで進めたら、何だかオムニバスっぽくなってしまった。
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