鷹と蝶   作:ナカイユウ

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 「良かったぁ折りたたみ傘あって」

 「ほんとそれ」

 「ギリギリだったけどケーキも食べ終えた後で良かった~」

 「ケーキに雨が当たったら最悪だもんな」

 

 もしもの為に持ち歩いていた折りたたみ傘を差して、2人揃ってベンチに座って前触れもなく降ってきた雨をバッグとリュックを抱えながら凌ぐ。雛姉がちょうどショートケーキを食べ終えたタイミングで降り出した、今日の天気予報にはなかった天気雨。

 

 「あ、弱くなってきた」

 

 降り出してから僅か1,2分。開いた傘の上をザっと激しく打ち付ける水滴の音が少しずつまばらになって、光芒が徐々にこっちを照らし始めて気まぐれな通り雨の終わりを告げる。

 

 「なんか今日タイミング悪いね私たち」

 「逆にタイミングが良いまである」

 「ポジティブだね君」

 「バドも簡単に勝てる試合(ゲーム)より一筋縄じゃ勝てない白熱した試合(ゲーム)のほうがやってて楽しいからな」

 

 雨脚が弱くなったところで、最後の一口を急いで食べて微妙に虫の居所が悪いのか雛姉が愚痴るようにタイミングの悪さを呟く。確かにピンポイントのタイミングで吹いた風でろうそくの火は消えるし、食べ終わろうかってタイミングで予想外の雨は降るし、おまけにあっという間に止みそうだという一周回ってツイてるとまで言えてくるタイミングの悪さ。強いて言えば、ちょうど2人して折りたたみ傘を常に持ち歩く派で本当に良かった。

 

 「それにこういう予期せぬハプニングも、()()()()()()()ってもんでしょ」

 

 こんな具合にバドだと自分の思い通りにいかないとすぐ調子が乱れるのが俺という奴なはずなのに、いまは不思議と嬉しさすら沸き上がっているのは今日が俺にとって()()()()だからだろうか。

 

 「…言うことが大人っぽくなったね飛鷹くん」

 

 突然の雨さえもひっくるめてポジティブに捉える俺へ、雛姉が顔をこっちへ向けて小さく呟く。その口元に、まるでクレープを食べた後みたいにちょこんとショートケーキの生クリーム。

 

 「雛姉、口んとこにクリームついてる」

 「うそどこ??」

 「俺から見て左の口元」

 「えっ……あははっほんとだ」

 

 俺から指摘されて少し恥ずかしそうに笑いながら、雛姉は口元についたクリームを指先で拭う。弱くなり出した雨は、いつの間にか完全に止んでいた。

 

 「どうしよっか。また雨降るかもしれないしそろそろ帰る?」

 

 ベンチから立ち上がりバタバタと折りたたみ傘についた水滴を飛ばして、雛姉は少しだけ日が傾き始めた雨上がりの空を見上げて少し名残惜しい様子で呟くように俺へと聞く。

 

 「おう。んじゃ帰って筋トレとテス勉すっか」

 「自分の誕生日なのに偉いなぁ君は」

 

 俺もまた若干の名残惜しさを感じながらも同じように折りたたみ傘の水滴を飛ばしてラケットバッグを背負う。誕生日とはいえ今は期末テスト期間。まさかの通り雨という天からのサプライズで雛姉との小さな誕生日会はお開きになったけれど、これはまた“遊んでないで勉強しろ”という神様のお告げなのかもしれない。知らんけど。

 

 「って自転車びしょ濡れじゃん!」

 

 リュックを背負い雨のせいで湿ったケーキ箱を持った雛姉が、入り口のあたりに止めていた自転車に視線を投げるや大声で再び愚痴る。当たり前だがこの公園には屋根なんてないからたかが数分だろうと雨に打たれれば、チャリなんてずぶ濡れだ。

 

 「これ乗ったら絶対制服濡れるよね…」

 「ワンチャン家まで立ち漕ぎとか?」

 「インターハイ控えた大事な時期に怪我はしたくないので却下」

 「はい。仰る通りです」

 「もうハンカチで拭けるだけ拭くか~ホントはタオルがあったらいいけど持ってきてないし」

 

 制服が濡れるからと乗ることを渋る雛姉に冗談で立ち漕ぎを提案してみたら、割とマジなトーンで怪我するから却下とごもっともの正論をぶつけられた。こういうときでもちゃんとすべきところはちゃんとしているのが、何ともこの人らしさが溢れている。

 

 「だったら歩いて帰るってのは?」

 

 半ば諦めと妥協の境地でハンカチを取り出して自転車のほうへと歩き始めた雛姉に、次はジョークじゃない()()のほうの提案をする。

 

 「あ~その手もあったわね……でも歩くとまあまあ距離あるけど大丈夫?」

 「むしろいい運動になるから大歓迎」

 「そうだ飛鷹くんって普通に体育会系だった」

 

 思わず少しばかり心配な様子で雛姉は聞き返してきたが、俺はそれに快く頷く。チャリを漕いで15分くらいとなると、歩くとなれば単純にその倍かもう少しの時間は掛かるといったところだが、俺は全然構わないどころか逆にガチで大歓迎だ。

 

 「あと雛姉がいいんなら川のとこ通って帰りたい」

 

 そしてダメ押しで、同じ道で帰りたいと聞いてみる。

 

 「筋トレと勉強の時間が減っちゃうよ?」

 

 行きと同じ川沿いのサイクリングロードを歩いて帰りたいと提案した俺に、雛姉は悪戯っぽい笑みを浮かべて“OK”と同じ意味を持つ言葉を返す。雛姉がどういう人か全部とは到底言えないけど同じ学校に通っている人の中だったら一番知っている自信か、何となく“いいよ”と答えが返ってくる気がした。

 

 「いいんだよ。今は雛姉と少しでも長く一緒にいたいし」

 「ぷはっ、急に卒業する前みたいなこと言うね」

 

 それで悪い意味で調子づいたのか、普通に考えてツッコミどころしかないことを口にして不意に雛姉のツボを刺激してしまった。自分で言っておいてアレだが、来月に転校でもすんのかお前?と俺も言いたくなる。

 

 「そういう意味じゃなくてあれよ。学年も部活も違う雛姉とこうやって2人で放課後過ごすのはあんまないからちょっとでも長くこういう時間を俺は楽しみたい…」

 

 

 

 『いい感じにこっちはごまかすから雛先輩との誕生日デート楽しんで!_』

 

 

 

 「…っつー感じ」

 

 雛姉へ言いたかったことを改めて言い直していたら、途中で千木良から送られてきたメッセを思い出して急に小恥ずかしくなって、俺は堪らず視線を隣にいる雛姉から空へと投げる。まず俺たちは親戚同士だから、これはデートではなく家族と一緒にケーキを買いに行っただけのようなものだ。

 

 「何で空見てるの?」

 「いやほら、こういう雨上がりのときって虹とか出るやん。だからどっかに架かってねえかなって」

 「大人っぽくなったと思ったけどやっぱり飛鷹くんってまだまだ子供だね」

 

 なのに千木良からの冗談半分であろうメッセが頭の片隅で残っていたせいなのか、変な動揺がこの身体を巡って心拍数はダッシュをし終えた直後のように跳ね上がっている。まずなんで動揺しているのか、自分でも意味がわからない。

 

 「くっそ見当たんねぇ…」

 

 

 

 だけど雛姉に“歩いて帰りたい”と言ったとき、俺は無性に“雛姉と2人でいるこの時間が少しでも長く続いたらいいのに”と、確かに思った。

 

 

 

 「飛鷹くんあれじゃない?」

 

 咄嗟の誤魔化しで虹を探していた隣で、雛姉が陽の光と反対側の方角の空を指差す。

 

 「うおすげえマジであった!」

 

 指が差すほうへ視線を移すと、住宅街の頭上に広がる雨模様混じりの夕方の青空に大きな七色のアーチが綺麗に架かっていた。そもそも虹は太陽とは正反対の場所に現れるものだったと、同時に思い出した。

 

 カシャッ_

 

 「何撮ってんの?」

 「虹」

 「あぁ、そっか」

 「他に何かある?」

 「いや。聞いただけ」

 「どんなリアクションよそれ」

 

 虹を見つけた視界の後ろからスマホのシャッター音がして、親友になった誰かさんが頼んでもないのに度々俺の横顔をスマホで撮ってくるせいか、つい反射で自分が撮られたと勘違いしそうになった。

 

 「(割に合うかはわからんけど、せっかくだし千木良に写真の1枚でも送るか…)」

 

 そうして虹を眺めているうちに貰ったちょっと豪華な誕プレを思い出した俺は、千木良へプレゼントするための写真を撮るため雨上がりの空に向かってスマホを構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あ、虹だっ」

 

 閉館時間になった図書室を出たところで、窓の外に視線を向けたゆーづが指を差して呟く。

 

 「うわほんとだ」

 「さっき一瞬だけど雨降ってたからかも」

 「ていうかめっちゃ綺麗じゃん」

 

 それに釣られて、私を含めた残りの5人も窓の外に広がる午後から夕方に移り変わり出した空に目を向ける。雨が上がったばかりの空には、西日の反射に照らされた七色の鮮明なアーチが架かっていた。

 

 カシャッ_

 

 「こんなに綺麗なのあんまり見れないから写真撮ろ」

 「いいね後で送って」

 「おっけー」

 

 ちなみにだから何って話になるけど、私にとっては小さいときから虹を見た日は“ラッキーな日”だと相場で決まっている。

 

 「(…ひだっちに送るか)」

 

 でもここまで綺麗な虹は中々見れないから、ひだっちにも見せたかったなぁ……ていうかさっき雨降ってたけどひだっちと雛先輩大丈夫かな?

 

 「(ひだっちからだ。写真?)」

 

 ケーキを買いに行った2人のことをふと思い出しつつ、せっかくだからと校舎の3階から見える虹を写真に収めて送ろうとスマホを構えようとしたところで、ひだっちから写真が送られてきたことを知らせるメッセージがロック画面に現れた。

 

 「(これは……公園?)」

 

 送られてきた写真を開くと、空を見上げた角度でいま私が見ている空に架かっているものと全く同じ虹を撮った写真がひだっちから送られていた。写真の左端にもみじらしき木がチラリと見切れていることから、公園みたいな場所で撮ったんだろうか。

 

 『めっちゃきれいな虹だね!_』

 『ところで雛先輩と食べるケーキは無事?_』

 

 とりあえずは写真を見て思ったことをそのままメッセにしてひだっちへ送る。

 

 『雨ふってくる前にギリ間に合った_』

 

 10秒くらいの間に続いてトークへ送られてきたのは、公園のベンチと思しきところに置いたケーキ箱の中に入ったふたつのショートケーキの写真と、雨が降る前に公園でケーキを食べたというメッセ。

 

 『雛先輩と公園でケーキ食べるとかエモエモのエモじゃん_』

 

 ひだっちと雛先輩の“誕生日デート”のシチュエーションを想像しながら、思ったことをそのまま文章にして送り返して、画面をトークアプリからカメラに切り替えて窓の向こうの虹にピントを合わせて、構図と明るさを決める。もちろんデートはあくまで私の冗談だけど。

 

 「おっ、カメラマン結だ」

 「女子だからそこはウーマンじゃね?」

 

 推測するに、ひだっちは親戚(はとこ)の雛先輩と2人でお揃いケーキを買いに行ったあとに帰り道の途中にある公園に立ち寄って、その公園のベンチに座って2人でケーキを食べた。そして食べ終わった後に降ってきた通り雨と、16歳の誕生日を天から祝福する綺麗で鮮やかな(アーチ)……こんなの、()()()()()()()じゃないか。

 

 カシャッ_

 

 

 

 エモすぎて……何だか悔しいな。

 

 

 

 ヴゥ_

 

 同じ虹の写真を撮り終えたタイミングで、マナーモードにしていたスマホがひだっちからの返信を知らせる。

 

 『ゴムゴムの実か_』

 

 「ぷっ」

 

 思っていた以上に上手い親友からの返しに、つい吹き出してしまった。一瞬だけ感じた敗北感に似たような感情は、ひだっちのメッセと一緒に吹き飛んだ。

 

 「急に笑い出したけどどうした結?」

 「いや、いま撮った写真をひだっちに送ったらどんな反応するかな~って思って」

 「出たよ羽鳥くん」

 「そういえば今日珍しく羽鳥くんいないよね?」

 「なんか用事あるっぽくてホームルーム終わったら秒で帰ってったわ」

 「秒ってどんだけ急ぎなのそれ?」

 

 というか誕プレなんて勝負もへったくれもないのが相場なのに、今日の私は何をずっと気にしているのだろうかって、本当に思う。

 

 「それはそうと花火大会どうしますか皆さん?」

 

 写真を撮り終えたところで、ゆーづが掲示板に貼ってあるポスターにあった花火大会の話題をみんなに振る。そういえばさっき、女バドのいつメンに行けそうかどうか聞こうとしてたんだっけ。

 

 「俺は陸部の連中に行こうぜって言われてるからそっちと行くかな」

 「そっか。坂元くんは?」

 「俺かぁ…まあ適当に男バドの1年あたって行ける奴と行くって感じ」

 「男バドだとウチのクラスの一匹狼は気難しいからなぁ」

 「あ~あの遊佐くんね~」

 

 それでイチくんから、

 

 

 「誰と行くか決まってないなら羽鳥誘ってみるのはどうよ?」

 

 

 という提案をされて、何にも決まらず今に至ると。あんまり意識なんてしてなかったけど、確かに私も私でバド以外だとひだっちに対してこれといって親友らしいことは今までしたことがなかった。強いて言うなら、今日渡した誕プレがそうではあるのだけど。

 

 「てことは女バドはこの4人かぁ~」

 「まあ最初はいつも一緒にいる人のほうが緊張しないっていうか」

 「あかりさん。それってもしかして」

 「違うってばっ!」

 「まだ何も言ってないんですけどね~」

 

 別に雛先輩の身内だからこそできる最上級の誕プレに触発されてとか、イチくんに言われて決心がついたとか、そういうものじゃない。

 

 「…あのさっ」

 

 

 

 ただ親友になってからほとんど平行線なままの()()()が何だかもどかしくて……少しだけ取っ払いたくなった。

 

 

 

 「花火大会。私他の人と一緒に行くかも」

 

 花火大会の話題がこっちへ来そうになったのを感じ取ったら、気が付くとまだ何も決まっていない約束事を私は口走っていた。言い終えた瞬間、ほんのちょっとの恥ずかしさが身体に走ってすぐに消えた。

 

 「なんと…ついに結も」

 「待ってゆーづ。言っとくけどマジでそーいうのじゃないしまだ“行くかも”ってだけだから」

 

 誤解混じりの変な期待を込めて揶揄うゆーづに、()()()()()()()はないとキッパリ伝える。そもそもまだ約束はしてないし、約束できたとしてもあくまで私は相手が大勢と一緒に行きたいと言ってきたらそっちに合わせるつもりだ。

 

 「ということなので今年はごめんっ」

 

 別に私はひだっちとデートをしたいわけじゃなくて、ただ親友になった人と一緒に花火大会に行きたいってだけ。本当にそれだけ。

 

 「そっか。でも予定合わなくてもウチら1年ズはいつでもしてるから(多分羽鳥くんだな相手)」

 「あざますっ。持つべきは友」

 「でも花火大会の話するならできるだけ早いほうがいいんじゃない?」

 「んー、とりま期末テスト終わったぐらいに話そうかなって思ってる」

 「割と貯めるなおい」

 「テスト期間中はテストが最優先なので」

 「優等生か」

 「何せこの(わたくし)、中間テストで学年3位を取ってますから☆」

 「そういうのあんまり自分から言わないほうがいい気が…」

 

 ひとまず花火大会の予定は一旦決まり、私は勉強会の面子と一緒に学校を出てちょっとコンビニ立ち寄って解散して、いつものバス停についたあたりでひだっちに虹の写真をまだ送っていないことに気が付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピロン♪_

 

 「いまの飛鷹くんのスマホじゃない?」

 「おう」

 

 河川敷の道を雛姉とチャリを押しながら戻っていたら、やり取りが途切れて一旦静かになっていたスマホが10数分ぶりくらいで返信が来たことを知らせる。

 

 『ちょっと遅れたけどこっちも虹みれた!_』

 

 というメッセージと一緒に送られてきたのは、校舎の窓から撮った虹と勉強会の面子が楽しそうに何かを話しながら家路を歩いている日常の1コマ。ただ虹の写真だけで終わらないところが、これまた写真好きな一面のある千木良らしい。

 

 「千木良さんから?」

 「おう。さっきの虹学校からも見れたっぽくて写真送られた」

 「へぇ~見せて」

 「こんな感じ。ちと逆光で見えずらいかもだけど」

 

 千木良から虹の写真が送られたと聞くやさり気ない口ぶりで見せてと言ってきた雛姉に、西日を気にしながら立ち止まって写真を見せる。

 

 「うわぁ凄く綺麗に撮れてる…」

 「何気に写真撮るの上手いんだよね千木良のやつ」

 「これはプロのカメラマンになれるわね」

 「マジすか」

 

 俺みたいにただ何気なく被写体を撮っただけではない映りのいい虹と背景のコントラストを見て、プロになれると割とマジで感心した雛姉が褒めちぎる。俺は写真については人並み程度しか興味がないから相変わらずいい写真撮るなとしか思わないけど、雛姉が写真をべた褒めしていたことを千木良が知ったら、多分ほぼ間違いなく大喜びするだろう。

 

 「…千木良さんとは順調?」

 

 虹の写真を見終えリアクション代わりのスタンプを送った俺に、一呼吸を置いて雛姉が歩を進めざまに近況を聞く。

 

 「順調ってどういう意味で?」

 「普通に友達として」

 「それなら変わらず。教室とか体育館で顔が合えば何かしら話して、たまに一緒に昼食べてとか」

 「ははっ、もうすっかり仲良しじゃん」

 「一応あいつは親友だからな」

 「()()は千木良さんに失礼でしょ」

 「さーせんした」

 

 まあ聞かれたところで、俺と千木良の関係と言ったらよく話すクラスメイトから友達、友達から親友に変わったというくらいで、友人関係の呼び名が変わったこと以外で何かが変わったとかではなくいい意味でいつも通りだ。

 

 「でも自分の家族以外であれだけちゃんとしていて心も籠ったプレゼントを誕生日に渡してくれる友達なんてそうそういないと思うよ?」

 「そうか?」

 「私も大喜に毎年誕プレ渡してるけどチロルチョコ×年齢分で済ましてるから」

 「案外そういうのでも普通にありがたかったりするけどな」

 「そういう話じゃないんだけどね…(たまに天然が出るんだよなこの子)」

 

 ただ今日貰った千木良からの誕プレは、後になって振り返ってみれば少し予想外ではあった。3ヶ月同じクラスにいる中でただ明るいムードメーカーなだけではない真面目な一面は知っていたから渡されたときは“らしいな”と感じたけれど、周りの目なんて気にしないあの千木良のことだから教室に入ったところでみんなの前で堂々と渡してくるものだとも俺は思った。

 

 「もちろん大事にはするよ。こっちでできた初めての親友(ダチ)だしな」

 

 俺が雛姉との関係を打ち明けたときとは違って周りに隠すような秘密(こと)なんて何もないはずなのに、どうしてあんな()()()()()ことをしたのだろうか。

 

 

 

 「何にしようか色々考えたけど、やっぱ誕生日に貰って嬉しいものといえば甘いやつってことで」

 

 

 

 「そういえば毎年恒例の花火大会はこの川沿いでやるんだよね~」

 

 何気なく川のほうに視線を投げて、ふと思い出したかのように雛姉は話題を花火大会の話に移す。

 

 「あのポスターのやつ?」

 「うん」

 「あれ見て思ってたけどなんか俺の地元の隣町で毎年11月にやってる花火大会思い出すわ」

 「秋にやるって珍しいね」

 「それすげえ言われるけど北信(こっち)の人間からすりゃ物心ついたときには植え付けられてる常識だから逆に珍しいんだ?って感じになんのよね」

 「完全な地元ネタだね」

 

 雛姉の言う通り完全に地元の内輪ネタなわけだが、俺の地元の隣町でも同じように川沿いでスターマインとかを打ちまくる伝統の花火大会が毎年11月にあって、ふとそれを俺は思い浮かべた。

 

 「飛鷹くんって誰かと行くとかもう決まってる?」

 

 そんな具合に1人地元ネタに浸り出した俺に、雛姉は花火大会の日の予定を聞いてきた。

 

 「いや、まだそーいう話もしてない」

 「へぇ~そっか」

 

 当然いつも一緒にいるクラスの面子の最近の話題はバドと期末テストが半分以上を占めている俺は、まだ夏休みの話なんてロクにしていない。正確には多少はしたっちゃしたけど、花火大会の日はマジで何も決まっていない。

 

 「雛姉は?」

 「菖蒲ちゃんから既に誘われてる」

 「行動力すげえな守屋先輩…」

 

 予定を聞いた俺へ、雛姉は即答で守屋先輩から既に誘われていると答えた。確かに守屋先輩あたりは結構こういうイベントとか好きそうだから、そりゃそうか。

 

 「決まってないなら同じクラスとか同じ1年のバド部で行くのがいいんじゃない?」

 「まーそうなるかなきっと」

 

 ていうかもし俺と雛姉が2人で花火大会に行ったとしても、事情を知らない連中からしたらどうして一緒にいるんだって話になるよな。

 

 「それか親友になった千木良さんとか?」

 

 

 

 ……いや何で雛姉と一緒に行く前提で考えてんだ俺?

 

 

 

 「千木良かぁ……確かにアリだな」

 「どっちの意味で?」

 「どっちって何?」

 「ううん何でもない独り言(ひょっとして鈍感なのかなこの子?)」

 

 雛姉との話に集中しながら空を見上げ、また何考えてんだ俺?と自分に言いたくなるようなことを考え出した頭をリセットする。確かなのは、何だか今日の俺はいつになく浮かれているということ。

 

 「雛姉」

 「ん?」

 「今日の誕生日、俺死ぬまで忘れない自信あるわ」

 「急にどうした?」

 「雛姉が公園で食べない?って言わなかったらあんな綺麗な虹は見れなかった」

 「思わぬハプニングだったけどね」

 

 多分これは、誕生日というめでたい状況が()()()()()()()せいだと俺は思う。

 

 「けど…ここまで喜んでくれたのなら良かったよ」

 

 隣で自転車を押す雛姉が、16回目の6月28日を振り返る俺に視線を送って小さく微笑む。雲間の抜けた空から斜めに降り注ぐ陽がスポットライトのようになって照らす、俺からそう言われて嬉しいという気持ちがはっきりと現れたすっかり見慣れている横顔。

 

 「雛姉のおかげで今までで一番最高な誕生日になった。ホントにありがとう」

 「ぷはっ、もうすぐそうやって大袈裟なこと言うんだから君は」

 

 

 

 

 

 

 いま感じた“嬉しい”の気持ちは……()()()

 

 

 

 

 

 

 「そうだっ、今からしりとりしよう」

 「しりとり?おういいぜ」

 「じゃあしりとり」

 「リトマス試験紙」

 「いきなり攻めてきたな……シート」

 「トマト」

 「ト…トナカイ」

 「田舎」

 「カラス」

 「水蒸気」

 「き…キツツキ」

 「木」

 「き……き…肝試し!」

 「四季」

 「待って君しりとり強すぎない?」

 「“き”だよ雛姉」

 「誕生日だからって先輩をなめやがって………あっ、器械体操っ!」

 

 それから俺と雛姉は、サイクリングロードを降りるまでひたすらしりとりをして家路を歩いた。




いつもなら書き始めてからだいたい4,5日くらいで1話分の下書きは書けるのですが、今回は下書きだけで丸1週間かかりました。物書くってホントムズイ。

そして原作のほうは一気にクライマックスへと向かっていく気配が大きくなってきましたね……原作勢としては、大喜ガンバって感じです。
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