16歳の誕生日からの1週間は、呆気ないくらいに淡々と時間が過ぎて行った。毎日のようにやっていた部活の時間が空白になり、その間をテスト勉強で潰して合間にランニングや筋トレ、そして感覚が鈍らないように蝶野家の庭で素振りをする勉強重視の日々。
「“agree”」
「えーっと……これはあれだ。“同意する”」
「正解」
「しゃあっ、やっと覚えられた」
「“I want to play badminton right now”」
「え?アイウォント、トゥ……これ単語じゃなくね?」
「“私は今すぐバドミントンがしたい”」
「お前もちゃんとテス勉のダメージ受けてて安心だわ」
時には練習がないことへの軽い禁断症状みたいなものと戦いながらも、俺は坂元の勉強にも付き合いつつ自分のペースで期末範囲をなるだけ頭に叩き込んで本番に挑んだ。
キーンコーン_
そんなこんなであっという間に期末テストの日を迎えて、ひとまずは乗り切った。出来栄えはまあ、自己採点も込みで余裕ってところだ。
「これでやっとテス勉の地獄から解放される…」
「あぁ。勉強も悪くはないけど、やっぱバドしか勝たんすわ…」
期末は終わった。ここからは待ちに待った
パァァンッ_
バウンダリー狙いで高めに上がった羽根を、遊佐さんと戦った県予選の準々決勝でモノにしたジャンプスマッシュで左コートのサイドライン際へ放つ。
「21―17。22―20。21―18。ゲーム、大喜」
だが頭に思い浮かべていたイメージからほんの僅かに外へと軌道が逸れた羽根は、狙っていた場所から数ミリほど外側へと落ちていき、それを冷静に見極めた大喜先輩が見送ってゲームセット。
「いやぁ間が空くと駄目っすねこれ」
試合が終わり、溜息の代わりに自らのミスショットへの自虐を吐き出して気が沈む前にテンションを保つ。試合結果は前と同じく1ゲーム目先取からの逆転負けだが、試合自体の内容としては大喜先輩との差は確実に近づいている実感がある。
「狙いに行き過ぎているんじゃない?もっとリラックスしてみるとか」
「ぶっちゃけ力加減とかはちゃんと出来てるって感覚はあるんすよ。でもなんつーか、出来てはいるけど遊佐さんと試合したときと比べてスイートスポットにバチっと入り込む感じがしないというか」
課題なのは、準々決勝では百発百中だったフェイント込みのジャンプスマッシュが、今日は割合として2,3回のうち1回くらいしか狙った場所へ打てないこと。これでも1回も成功しなかった県予選前と比べれば良くはなっているとはいえ、だったら遊佐さんのときに全部狙い通りの軌道で打てたのはマグレだったのかって話になってしまう。
「大喜先輩からはどう見えました?この前の準々決勝といまの試合を比べて」
ただ何となく、あの試合ほどの手応えを感じない
「…ゾーンに入れていない感じがした」
頭に浮かんだ疑問を確信に変えるために敢えて大喜先輩へ感想を聞いてみたら、思っていた通りの答えが返ってきた。
「(やっぱり。あの試合のときと比べて明らかに集中力が低かったもんな…)」
調子は悪くないどころかめちゃくちゃ良い。だけれど遊佐さんとの試合で感じた自分がいるコートの外側が視えなくなるほど五感が研ぎ澄まされる感覚に、一度も意識を持ってこれなかった。純度100パーセントの完全体で集中できていないということは、それだけ付け入る隙が多いということ。
「先輩。ゾーンってどうやったら入れるんすかね?」
「それはさすがに俺も分かんないよ」
「でも準決勝のときは入ってましたよ先輩」
「試合に夢中すぎて自分がゾーンに入ってたこと覚えてない」
「なんか大喜先輩ぽいっすねそれ」
「
「当たり前じゃないすか」
「ならいいんだけど(態度まで雛に似てきた気がするな…)」
冗談半分でゾーンに入るコツを聞くと、大喜先輩は困惑混じりの苦笑いでそう答える。まずゾーンなんて意識して入れるものじゃないのが俺の認識だから、こんなことを聞いたところでって話だ。
「…俺は正直ゾーンにどうしたら入れるかよりも、ゾーンに頼らなくても勝てるようになることが大切だって考えるかな。どうしても勝ちたいって思っている相手に勝つならその人より1分でも1秒でも長く努力すれば、次の試合で勝てるかは分からないけど差は埋めることはできるから」
そんな針生先輩との試合で明らかにゾーンへと入っていた大喜先輩へ一縷の望みぐらいの気持ちで答えを問うた俺に返ってきたのは、勝ちたい相手に勝つための
「…そうですね。ゾーンに入れなかったせいにしてる場合じゃないっすね」
その泥臭い努力で今まで練習で一度も勝てたことのなかった針生先輩に勝ってインターハイの切符を掴んだこの人が言うから、説得力は半端じゃない。
「ありがとうございます!勉強になりました!」
先輩からの真摯なアドバイスを受け取って、俺はコート外に出て体育館の端へと足を進めてインターバルに入る。
「(ほんとに大喜先輩の言う通りだな…)」
考えてみれば、ゾーンに入らないとスマッシュが狙い通りに打てない現状ではまだ勝てたことのない相手に勝てるわけがないのは当然だ。ただでさえ自分の中にあるリミッターを超えた本能で身体を動かしているということは、裏を返せばそれが切れたときにツケが一気に回ってくるということ。この前の準々決勝がまさにそうだった。
「準々決勝、超ナイスファイトだったよ」
“ナイスファイトだった”と、千木良や先輩たちは揃って遊佐さんとの試合を称えてくれた。もちろん俺もやれることは全部やって出し切れた。だけど時間が経って冷静に振り返られるようになればなるほどまだ大きな差があることを実感した。
「(ゾーンに頼らなくても勝てるぐらいにならないと、駄目だ)」
大事なのはゾーンに入れるかどうかではなく、勝てるようになれるかどうか。針生先輩から教わったメンタルの重要性。千木良のお兄さんから教わった勝つための執念。そして大喜先輩から教わった泥臭い努力の積み重ね。久しぶりに思いっきり羽根を打てると有頂天になっていた心が、いい意味で引き締められていく感触。
「やっぱ面白いわ。バドは」
「ホント面白いよねバドって」
「いたんかい千木良」
「インターバルでーす」
ポカリが入ったスクイズボトルを片手にしながら呟いた何気ない独り言に、横からクラスメイトの合いの手が加わる。
「調子はどう?」
「予選んときほどじゃないけど期末から解放されてすっげえ調子良い」
「あれ?ひだっち勉強も好きって言ってなかった?」
「バドと比べたらまだまだってとこよ」
「あははっ、ひだっちらしいね」
同じくインターバルの合間で、首元にタオルを掛けた千木良が当たり前のように俺の横に立ち男バドの練習を見物しがてら機嫌よく話しかける。表情からして、向こうも調子は良さそうだ。
「千木良は?」
「変わらず好調本日全勝♪」
「そいつは最高だな」
「ひだっちは?」
「1勝1敗」
「それはドンマイ」
「しゃーないよ。大喜先輩に勝つなんて甘くないから」
中性的なショートカットの髪から覗くお兄さんの遺伝子を強く引き継いだ無駄に美形な横顔が、クールな雰囲気に反した明るい笑顔で微笑む。一応聞いてみたら絶好調のようで、そりゃ気分も上がるわけだ。
「…ところで話変わるけど30日の練習終わりって空いてる?」
男バドの練習風景に視線を送ったまま、左に立つ千木良が月末の予定を聞く。俺の記憶が正しければ、今月の30日は花火大会がある。
「花火大会?」
「そっ。もし予定が空いてるならひだっちも行かない?って話」
だろうなと思ったら、案の定ビンゴだった。奇しくも俺のほうも部活が終わったところでいま隣にいる千木良、それと坂元や晴人辺りのバド部の面子に花火大会のことを話そうと思っていたところだった。
「あ~そういやちょうど俺も部活が終わったタイミングで千木良とか男バドの同期あたりを誘ってみようって考えてたとこだから、もし良かったら」
「花火大会さ、
すると聞かれるがまま誘おうと考えていた俺の隣で、前を向いたまま千木良が少し強めな声色で口に出していた言葉を遮る。
「ていうか、ひだっちとふたりで行きたい……あぁもちろん、さかこーとかハルも誘いたいなら、全然そっち優先でいいんだけど…」
俺の言葉を遮った千木良の視線が、コートから右側にすっと向けられて、言い終えると同時にまた前へと逃げる。10秒前とは打って変わり心なしか緊張しているようにも見える横顔と、あんまりらしくない歯切れの悪いぎこちなさと、何とも言えない違和感を含んだ表情。
とりあえずいまわかるのは、こいつが“俺と2人で花火大会に行きたい”と誘ってきたということだけ。
「わかった。じゃあ一緒に行くか」
「ほんとにいいの?」
「全然いいけど。てか俺も最初に声掛けるの千木良のつもりでいたし」
2人で行きたいという親友からの花火大会の誘いに、二つ返事で俺は応じる。元から千木良のことは誘おうと考えていたから、別に全然2人だけでも構わないのが本音だ。
「そっか…ありがと」
二つ返事で“OK”を出した俺に、千木良はこっちに身体を向けてはにかむように小さく笑う。普段のこいつだったら“あざーす”ってくらいの軽いノリで返してくるはずが何だか今は微妙にぎこちなくて、やっぱり少しだけ緊張しているように俺からは見える。
「じゃっ、詳しいことはまた今度で!」
「おう。練習頑張れよ」
なんて心の内を察せられたのかただの偶然か、花火大会の約束を取りつけるや千木良は軽く手を振りながら急ぎ足で女バドのコートへと戻って行く。それにしても千木良は、誕プレを渡してきたときもそうだったけどふと稀に
上手い例えは思いつかないけど……普段の溌剌さとは違う、
「(…いつも通りだな)」
女バドのコートに戻った千木良へ視線を投げると、同じ1年の兵藤さんや先輩たちに元気よく笑いかけながら練習を再開するいつもと変わらない親友の様子がこの目に映る。つい10数秒前の恥ずかしさ交じりの少し不自然な笑顔じゃない、普段よく見る自然な笑顔。
「私は君の
学校でよく話すクラスメイトから親友になったとはいえ、考えてみればきっと俺は自分が思っている以上に千木良のことを知らないんだろうな……
「コラ1年生、サボる暇があるなら先輩に叱られる前に練習に戻るっ」
女バドのコートで試合形式の練習に臨む千木良を見ていた意識に、守屋先輩の声が入って我に返る。そういえばこっちはこっちで練習の真っ只中だった。
「スイマセンすぐ戻ります」
「ねぇ」
急いでポカリをラケットに持ち替えてコートへ戻ろうとした俺を、守屋先輩が耳を貸せと言わんばかりの小声で呼び止める。
「さっき1年生の女バドの子となに話してたの?」
「…見てたんすか?」
「ごめん見ちゃった」
わかりやすく興味津々な顔で聞いてきたのは、千木良と話した会話の内容。普通に守屋先輩から見られていたと知って、サボっていると思われかねないところを見られたと少しだけ恥ずかしさが募ってすぐ消える。
「マジな話すると…花火大会の話をちょっとだけ」
「で?」
「で?も何も、普通にさっき話してた千木良って人とふたりで行く約束してました」
かと言ってここで嘘をつく理由も意味もないから、正直に会話の中身を守屋先輩に打ち明ける。
「千木良さんとふたりで?」
「はい」
「ほぉ~、なるほど」
すると“ふたり”という単語に反応した守屋先輩が、何とも言えない意味深な表情を浮かべて俺と女バドのコートへ交互に視線を投げて徐に小さく頷いた。
「飛鷹くん。頑張りなさいよ」
「あっハイ、頑張ります(何を?)」
そして隣に立つ俺の背中をポンと叩いて何やら意味深な激励を送り、守屋先輩はコーチのいるほうへと戻って行った。よくわからないまま反射的に頑張りますと答えてしまったが、ぶっちゃけ針生先輩に続いて変な誤解を生ませてしまった感が否めない。
俺らには全く
「(とりあえず今はバドに集中と…)」
「羽鳥。ちょうど試合したい相手がいないところだから次打つぞ」
「奇遇じゃん。ちょうど俺も晴人とやりたいなって思ってたとこ」
「ホントかよ?」
「マジだって大マジ」
まあ今はそういう難しい話は置いといてバドが強くなることだけに集中するとしようと、俺は練習相手がちょうど空いていた晴人と共にコートへ戻った。
「いや~テストから解放されるとこんなにも晴れやかな気持ちになるとは」
「まだテスト返ってきてないから油断はできないけどね」
「今日だけは余韻に浸らせてもらえませんかにいなさん…」
「心配だったら自己採点すれば?」
「それで一つでも赤点があった場合私はどうすれば??」
「私に聞かれても自業自得としか言えないよそれ…」
期末テスト明けの部活終わり。真っ直ぐ家に帰る前に、久しぶりの練習の解放感と余韻に浸りながらにいなと2人でコンビニに立ち寄る道中で今日のテストを振り返る。
「まぁ何だかんだ今までずっと赤点だけは回避してこれたからきっと大丈夫だろうけど」
「雛が大丈夫って思っているなら大丈夫なんじゃない?」
「その言葉を待っていたぞ心の友よ」
「どっかで聞いたことある台詞出てきた」
微かに西の方角がまだ色づいた夜空と、日が沈んでやっと涼しくなった7月の夜風が心地良い。とりあえず期末テスト出来栄えは、ほぼ間違いなく赤点はないはず。そう信じたい。
「とにかくこんなところで蝶野雛さまが躓くわけにはいかないって話よ。インターハイもあるし、菖蒲ちゃんが誘ってくれた花火大会もあるし、何より後輩になった飛鷹くんにはカッコ悪いところなんて見せるわけにはいかないし…」
そもそもここで落ちぶれるようじゃ、蝶野雛の名が廃るって話だ。周りが思っているより苦手なことが多い私でも、
「もう1年前の末っ子な私とは違って、いまの私は
「また来年も来たいね」
「そうだな」
「あ、そういえば花火大会って言葉で思い出したんだけどさ」
「ん?」
右隣を歩くにいなが、何かを思い出した拍子に
「今日の練習のときはとこくんと女バドの千木良さんがすっごく仲良さそうに話してた」
「へぇ~」
「あれ驚かないんだ雛?」
「あの2人が仲良いのはいつものことじゃん」
「それはそうだけど」
何の話だろうと思ったら、蓋を開ければいつものことだった。飛鷹くんのほうからは言ってこないからたまに聞くぐらいでスルーしてるけど、学校とか体育館で仲良く談笑したりしているのを何度か私はこの目で見たことがある。もちろん飛鷹くんの邪魔になるようなことは一切しないと一緒に住むことになったときから心に決めているから、こっちから声を掛けるなんて真似はしないおかげで当の本人は知らないまま。
「ていうか何で花火大会で思い出したの?」
「ひょっとしたら花火大会のこととか話してたんじゃないかな~って」
「花火大会……割とあり得るかも」
「あくまで推測だよ?」
にいなの推測によれば、飛鷹くんと千木良さんは花火大会の話をしていたかもしれないらしい。そう言われて6月28日の誕生日の帰り道でまだ花火大会に行く予定も決まっていない飛鷹くんへ冗談半部で“千木良さんとか誘ってみれば?”と提案したことを思い出した。
「でも、にいなの言ってることが本当だったら私は嬉しいかな」
「どうして?」
当事者がどう思っているかとか、気付いていたり自覚していたりするのかは2人のことだから私は飛鷹くんにふとたまにさり気なく聞く以外は傍観者の立場を貫いているけれど、飛鷹くんと千木良さんの仲が“いい感じ”なんじゃないかという噂は、我ら新体操部の界隈でもこのところちょいちょい話題に上がるようになった。
「もちろん片っ端から友達誘ったりして大人数で行く花火大会も楽しいけど、親友と2人きりで花火大会なんてなかなか味わえない貴重な体験だからね」
実際のところ果たしてあの2人がどれくらい仲良しなのか、にいなが言っている推測が正しいかなんて分からないし聞く権利はない。だけどもし全部が本当だとしたら、“嬉しい”っていうのが私の本音だ。
「…あの子にはひとつでも多くの思い出を体験してもっと強くなって欲しいから」
もし飛鷹くんがこれからも続く思い出の中で
「おっ、噂をすれば」
にいなの呟きと視線に釣られて、気が付くと目の前まで近づいていたコンビニの光のほうへ意識を向ける。投げた視界の先には、お店の前で男バド1年の面々とホットスナックの唐揚げを分け合いながら楽しそうに話す飛鷹くん。
「あ、先輩方お疲れ様です」
「「お疲れ様です」」
「(めっちゃ顧問の気分…)」
私とにいなにいち早く気付いた飛鷹くんが会釈して挨拶するのを合図に、他の4人もそれに続いて私たちへ礼儀正しく会釈する。どうでもいいけど、これだけの人数から純粋な眼差しで“お疲れ様です”と1年の子から一斉に頭を下げられると部活の顧問になった気分が半端じゃない。
「君たちはどういう集まり?」
「期末終わったんで1年同士で軽い打ち上げやってる感じです。と言ってももうすぐお開きっすけど」
「青春してんね~」
どうやら飛鷹くんたち男バドの1年組は期末テストの打ち上げでここへ道草しに来たらしく、強豪らしい緊張感のある体育館の中とは違ってテストが終わった解放感からか和気藹々としている。私もこの気持ちは分かるぞ、1年の男バド諸君。
「ってあれ?男バドってもう1人1年生いなかった?」
「晴人ですか?」
「多分そう」
「あいつなら即効で帰りましたよ。帰ってランニングするとか言って」
「そうなんだ(すっごい想像できる…)」
「真面目でいい奴ではあるんすけどいかんせん人付き合いがちょっと
「晴人はノリ悪いとこがもうちょい良くなればいい奴だってみんなに伝わるんだけどなぁ」
ちなみに例の後輩くんはランニングがあるからと断って帰ったという。何というか、良くも悪くもいかにもあの子らしいなってふと思う。
「飛鷹くん。帰りどうする?」
「あー、とりま成り行きで」
「りょーかい」
「そういや蝶野先輩と飛鷹って親戚同士だったわ」
「今更かよ水口」
「いやだってこの2人が話してるとこ何気に初めて見たから」
「家の中だとめちゃくちゃ話してるよ私たち」
「えっマジすか」
「もし良かったら飛鷹とどんな話してるか是非聞かしてもらっていいすか?」
「後ほど詳しく」
「「あざますっ!」」
「雛姉、コイツら全員無視でいいからな」
なんてどうでもいいことは彼方に置いて、私と飛鷹くんの事情を知っている男バドの1年組と打ち解けつつ私はにいなと一緒にコンビニの中へ足を進める。
「そういや飛鷹、千木良さんと花火大会2人で行くことになったってマジ?」
「おう」
「うわいいなぁデートじゃんそれ」
自動ドアが開いたのと同時に、後ろのほうから花火大会の会話が小さく耳に入った。耳に入ってきた会話の中身は、にいなが推測していた飛鷹くんと千木良さんのことだった。
「別に
そしてお店の中に足を踏み入れて外の会話がBGMにかき消される間際で、リアクションが聞こえた。デートだと言われても全く動揺もせずに千木良さんとは友達同士だと言い切った声色からして、飛鷹くんの言葉は照れ隠しではない。
「そういえば花火大会って、他に誰かくんの?」
「さーて入ったはいいけどなに買うかー」
前を歩くにいなの声で、スッと我に返る。ほんの一瞬だけ
「…私たち、すっかり先輩になったよね」
「なんの話?」
買うものを考えがてら、店の外で楽しそうに談笑を続ける飛鷹くんたちに私は視線を投げる。たかが1学年違いだけれど、15歳から18歳にかけて筋肉が一気に発達していくという話みたいに、何気ない日々の一部を見るだけでも1つ下の後輩がちょっとだけ眩しく見えてくる。
「なんかさ、男バドの1年の子たちが“先輩っ!”て感じの真っ直ぐな目で話しかけてくるのが急に可愛く思えてきた」
「あー、それは私もちょっと分かる」
自分の周りに後輩が1人もいないときは、1学年上の先輩がいま以上に大人っぽく見えた。そしていざ1年後に自分が先輩になったとき、同じようにちょっとのことでは動じない頼りがいのある先輩になれるのかなって、不安とかではないけれど時々ふと思ったりもした。
「ああいうのを間近で見たら、自分も先輩になったんだな~ってひしひしと感じるんだよねぇ」
「雛は1年のときから実力はトップだったけどね」
「一応
けど実際になってみたら、1年前の自分が想像していた以上にちゃんと“先輩やれてるな”って、自惚れとかでもなく純粋に後輩の子と話すたびに思う
「…にいなが言ってた通り。次の1年も色々起こりそうね」
とにかく1年で色んなことがあった私が思うのは、飛鷹くんの1年もきっと
「バド部のみんなに雛様がチョコを授けよう」
「えっいいんすか!?」
「1人1個ずつね」
「「あざっす!」」
「あぁ俺余ったやつでいいわ」
「うわ出た親戚マウント」
「親戚マウントって何なん?」
「てか飛鷹はマジで感謝しろよ蝶野先輩に」
「わあってるって」
5人分のチロルチョコを買って、私はにいなと一緒に男バドの1年生5人組とそれぞれの部活の話とかをしながら家路へと足を進めた。
~おまけ。それぞれの期末テストの結果~
「ひだっちも結構やるじゃん」
「前より落ちたけど期末もスポーツ推薦にしちゃ頑張ったほうでしょ」
飛鷹、中間テストから順位を1つ下げて学年15位。
「何気なく吸っている空気がこんなにも美味しいとは…」
「赤点回避できてほんとによかったね雛」
雛、数学と英語に苦戦するも赤点回避。
「私“2”って数字が一番嫌いなんだよね~」
「もう東大行けよ」
結、中間テストから順位を1つ上げて学年2位。