「21―12。ゲーム、結」
「やっぱり結ちゃんは強いなぁ~」
「いやいやそれほどでもないって~」
お兄が栄明に進学して少し経った頃、私はジュニアチームの同学年組の中で男女問わず1,2を争うくらいバドが上手くなっていた。ついこの間まで同じ体育館に行って練習していたお兄がいなくなったという寂しさはあったけど、それも周りのみんなと一緒に切磋琢磨していく中で自分が成長している喜びへと変換されていった。
「ねえ、結ちゃんのお兄さん県予選でベスト4になったってホント?」
「うん!準決勝で優勝した人と当たっちゃったからインターハイ行けなかったけど」
「でもすごいじゃん!まだ高校1年生なのに!」
「そうそう!お兄はすごい人なんだから!」
何より高1でいきなり県予選ベスト4まで進む活躍をしていたお兄に負けていられないと、私は燃えていた。もちろん同学年でトップを張れるくらい強くなれたのは才能なんかじゃなくて、どうしたら速くて強い羽根を狙い通りに打てるのか、どうやって相手のショットを見極めるのか、上手い人のプレーを観察しては身体を動かして実践してみる……そういう地道な作業の繰り返しで培った実力。元から勉強も好きだったから、私にとって努力はちっとも苦じゃなかった。
「結ちゃんもお兄さんみたいな選手になれるといいね」
ただお兄が高校に入っていきなりバドで注目される結果を出してから、私は今まで以上に“天才”と呼ばれてきたお兄と比較されるようになった。最初は学校でもジュニアチームでも人望があって人としても選手としても憧れと尊敬を持っていたお兄と比べられることは、自分もそんな人と天秤にかけられるくらいみんなから期待されているんだと感じて純粋に嬉しかった。
「うん!絶対なるから見ててね!」
だけどこの背中を押していたみんなの期待は、日が経つにつれてゆっくりと重圧に変わっていき、押していたはずの背中を押し潰すようになっていた。周りはただ頑張れと言ってくれているだけで何も悪くなんてないから、私はいつもの
「あ~駄目だまた1ゲーム目の立ち上がりが悪くなってる…」
「気楽に行こうよ結、何だかんだストレートで勝ててるし最後のスマッシュもちゃんと決まってるから良いんじゃない?」
「いや、納得いかないからもう一回っ」
そうやってお兄がジュニアチームを卒業してから心を休ませることなく突っ走り続けて小6になった私は、スランプに陥った。小学生大会の予選が近づくにつれて練習で思うようなプレーが出来なくなる回数が増えて、その度に焦りが増していった。
周りのみんなは“気楽に行こう”とか“結ならどうにかなる”と言って励ましてくれたけど、私の目標はお兄みたいに強い
「21―18。ゲーム、実咲」
「結ちゃん。最近調子悪そうだけど大丈夫?」
「ここんとこ読書にハマってて昨日もつい夜更かししちゃってさ~」
強くなりたい思いに反して、焦って調子を落としては頑張りが足りないからだと更に追い込んでまた調子を落とす悪循環。スランプが続くといつも練習で勝てていたジュニアチームの友達に負けるようになった。かと言って弱音を吐いたら自分がどんどん弱くなっていくと思っていたから、適当な言い訳で私は誤魔化していた。
「結ちゃんのお兄さん今年もベスト4だって」
「うわ惜しい~!」
「でも準決勝ファイナルゲームまで行ったんだよね結ちゃん?」
「うん。それも佐知川の選手相手にデュース」
「佐知川って埼玉で1番の強豪じゃない!?」
「もう栄明のエースじゃん!」
知らず知らずのうちに、一番私らしく居られる場所だってぐらい楽しんでいたはずのバドを、楽しめなくなっていた。
「結も負けてられないね?」
「……ごめんちょっとだけ外走ってくる」
「えっでもこの後すぐ練習が」
「すぐ戻るからっ!」
「ちょっ、結ちゃん!?」
2週間後に県予選を控えた中学生チームとの合同練習の日。練習が始まる直前の些細な会話で心の中で溜め込んでいたものが一気にぶわっと出てきて、堪えきれずに私は走り出して、気が付いたら体育館の外に出ていた。
「なんで……ただ楽しくバドがしたいだけなのにっ……なんでっ…」
本当はお兄みたいにとか、お兄と比べて自分がとか、そんなことはどうでも良くて、ただ純粋にバドミントンを楽しみたい。だけど心の中には栄明で2年生エースになったお兄のことを“羨ましい”と思う気持ちもあって、私とお兄を比べるみんなの言葉を聞いて“お兄のことばっかり”って思う怒りみたいなものもあって、何よりそんなネガティブなことを考えてしまう自分の醜さが許せなくて、外にいる自分と
「結はっ……お兄みたいに強くないのにっ…」
今まで“耐えろ”と溜め続けていた
「…バドミントン……全っ然楽しくないっ…」
私にとってあの日ほど、
「大丈夫か?」
泣きじゃくっていた真っ暗な視界の後ろから、男の人の声がしたことは今でもはっきり覚えている。去年の春までお兄がいた中学生チームで新キャプテンになったばかりの、健吾先輩の声だった。
「ははっ、全然余裕ですよ……というかっ、結なんかほっといて早く戻らないと」
「泣いてる女子置いて練習には戻れねえだろ」
呼吸を何とか整えようとするだけで精一杯の決壊した感情で強がった私に、健吾先輩は頭を撫でたり背中をさすることはせず淡々とそう言って普通に隣に座った。
「…泣いてないっ」
「じゃあ顔見せろ」
「やだっ」
私と同じ小学生チームにいたときは入ったタイミングが同じことを良いことに学年もバド歴も1つ上のキッシー先輩と一緒にちょっかいをかけたりしては追いかけ回されるくらい打ち解けた先輩後輩の関係だったけど、学年の関係で練習時間の異なる別のチームになってからはこの日みたいな月1の合同練習ぐらいでしか会わなくなっていた。
「いいんですか?ここにいるとハリー先輩も結と仲良く怒られますよ?」
「監督には頭下げて事情話しといたから、主将として10分くらいは話聞いてやるぜ」
「…どーもです」
「不服そうだな?」
「ハリー先輩が怒られてるとこ見れると思ったのに」
「戻るわ」
「ジョークですよジョーク」
久しぶりの2人きりでの会話。中2になって元から高めだった背も伸びて声も低くなったからか、隣に座って淡々と言葉を返す健吾先輩がやけに大人っぽく思えて、同時にお兄が隣にいるときとはまた違った安心感を私は覚えた。
「まだ使ってないタオルあるけど使うか?」
「さすがに先輩のやつ使うのは悪いんで大丈夫です」
「ったく、相変わらず変なとこで律義な奴め」
ジュニアチームで初めて会ったときから、健吾先輩は私のことを“あのお兄さんの妹”ではなく“結”として接してくれた。だから私はこの人に心を開くことができたんだと思う。
裏を返せば、健吾先輩がいなかったらいまの私はバドをやっていなくて、全く違う日常を送っていたかもしれない。
「…好きなものが好きじゃなくなったら……どうしたらいいのかな…」
それだけ心を開いていたから……きっと私はこの人を
「やっぱ夏に食べるかき氷は美味ぇなぁ」
オレンジから紺色に変わり出した夕闇の下を照らす屋台の灯り。どこからともなく漂うソースやらチョコやらのあらゆる食欲をそそる匂いと客呼びの声、浴衣と夏服でごった返す熱気と賑わい。
「逆に夏しか食う機会なくね?」
「てか前から思ってたけどブルーハワイって何味なんだろうな?」
「ブルーハワイはブルーハワイだろ知らんけど」
「他の味と違って想像つかないからブルーハワイはいいんじゃねえの?」
「うわめっちゃいいこと言うやん飛鷹」
バドが最高なのは揺るがないけど、やっぱりこういうお祭りで思い切って息抜きするのも俺的には最高の気分だ。
「それよりマジで俺たちといて大丈夫なん飛鷹?」
さて俺はいま、千木良と2人で観に行く花火大会の屋台を男バド1年の面子と一緒に一足先に巡っているところだ。
「あぁ大丈夫。“ちょっと遅れるから男バドのみんなと先に楽しんでて”っつーメッセ来てっから」
「なんか千木良さんっぽいなそーいうラフなとこ」
「けどせめて待ち合わせの場所ぐらいは決めといたほうが良くね?」
「それもちょうど“ここ”だから平気」
「だからこっち行こうぜって言ったんか」
「飛鷹お前やりおるな」
「何が?」
理由は一旦帰って色々と準備してから来ると言っていた言い出しっぺの千木良が遅れたから時間を潰しているってだけで、ドタキャンしたりされたわけではない。こういうふうに予定通りに進まない感じもまた、祭りの醍醐味だったりする……のかもしれないと俺は思っている。
「にしても千木良さん。浴衣とか着てくるんかな?」
「なんで
買ってきたかき氷を口にする男バドのいつメンと待ち合わせ場所にしている屋台の入り口で一緒に下らない話をしながら、千木良からのメッセを待つ。水口みたいに期待してるわけじゃないけど、そういや色々と準備するから遅れると言っていたのは浴衣を着てくるってことなんだろうか。確かにああいうのって、着るだけでも結構大変そうだもんな。
「晴人も来れば良かったのにな」
「それは俺も思う」
「まーあいつはしょうがないよ。こういう人でごった返してるとこ自体あんまり好きじゃないって言ってたし」
ちなみに晴人は、“そんな暇ない”と花火大会の誘いを断って今日も真っ直ぐ家に帰っている。ぶっちゃけ男バド1年がこれだけ揃ってるから来てくれたら嬉しいのが本音ではあるけど、“遊ぶ暇あるなら暇を使ってバドのことを考えるほうがマシ”って感じでストイックなのが晴人でもあるから、戦友として止める義理はないから仕方ない。
「…やっぱ俺も買てこっかなかき氷」
「結局食うんかい」
「なんか見てたら腹減ってきた」
「千木良さんが来るまで我慢しとけそこは」
まあ、“こういう息抜きも時には大事だぞ”と
「あれ?飛鷹くん?」
いざ俺以外の4人が買ってきたかき氷を見てたら無性に食欲が刺激されて千木良が来る前に買おうか魔が差し始めたところに、花火大会の雑踏に混じって聞き馴染みの声が聞こえた。
「雛姉!……と、守屋先輩と島崎先輩」
「君たちも来てたんだね」
「「お疲れ様です!」」
声がしたほうへ振り向くと視線の先には浴衣に着替えて髪もセットした3人の美人な先輩、もとい俺と雛姉の関係を知っている顔なじみの先輩たち。花火大会に行くってことは知っていたけど、まさかこんなところで雛姉たちと会えるとは。
「なんかこういう場所で会うのって新鮮っすね」
「学年違うから体育館以外じゃ会わないからね~」
「って、早速かき氷買ってるし」
「やっぱ夏はかき氷ってことで」
「満喫してるねみんな」
「まぁ普段練習頑張ってるんで」
「ちなみに屋台を楽しむのはいいけどメインは花火だから観たいなら時間は気にしておいたほうがいいわよ」
「了解です!」
かき氷を片手に祭りの屋台を満喫する俺たち1年へ先輩らしくこの花火大会の楽しみ方を説く守屋先輩たちと一緒に、俺たち後輩を見て島崎先輩と一緒に雛姉は小さく微笑んでいる。
「…ていうか飛鷹くんって千木良さんと一緒じゃなかったっけ?」
「千木良が遅れるみたいだから待ち合わせ場所にしてるここで
「男女二人で花火大会……エモいとはこのことね」
「守屋先輩も“エモい”って言葉使うんすね」
去年の花火大会のときに買ったとこの前に言っていたりんご色をした花柄の浴衣に、少しアレンジを加えたふたつのお団子と、浴衣の柄に合った明るくも落ち着いたナチュラルなメイクを纏った、普段よりお洒落な俺の
「……」
あれ?雛姉ってこんなに
「…ん?どうしたの飛鷹くん私の顔じっと見て?」
いつの間にか浴衣姿のはとこをじっと見つめていたら、“私の顔に何か付いてる?”と言いたげな顔をした雛姉が少し首を傾げて俺に声を掛ける。何故かわからないけど、浴衣を身に纏う雛姉があまりにも可愛くて、思いっきり見入っていた。
「…あー、雛姉が浴衣着てんのってそういや初めて見たなって」
「そうだっけ?」
「そうだよ。俺が小5んときに
「ぷはっ、よく覚えてるねそんなこと」
「忘れられっかよ大切な思い出なんだし」
「先輩、ウチの飛鷹が親戚マウント取ってスイマセン」
「だからマウント言うな」
なんて自分でも引いてるような本音を口にしたら雛姉を含む3人の先輩からドン引きされる未来しかないから、話を浴衣に逸らす。親戚というフィルターが掛かっているおかげで平然のまま話せているけど、明らかに雛姉は5年前の夏より可愛く、そして綺麗になっていることにふと気付く。ぶっちゃけ目の前にいるのが親戚じゃなくて同学年の人とかだったら、ちょっと
「じゃっ、私たちは花火の場所取りしてくるから」
「はい、お疲れ様です」
いやだから、
「つーことで俺らも俺らで色々と周るとすっか」
「だなっ!」
「飛鷹。千木良さんとの花火大会楽しんでこいよ」
「おう」
「頑張れよ飛鷹っ!」
「別に頑張るも何もねえっつの」
雛姉たち先輩組に続いて明らかに揶揄い交じりの激励を送られながら屋台の灯りへと戻っていくいつメンと離れ、待ち合わせの入り口で1人きりになる。つい数秒前まで賑やかだった周りが、少しばかり静かになった。
「(そろそろ来るか…)」
屋台のほうへ流れていく人の流れを何気なく目で追いながら、ふと思う。そういや遅れてくるってメッセが来てからどれくらい時間が経ったかはわからないが、そろそろ来てもおかしくなさそうな頃合いだ。
「(…やっぱいないよな)」
と思い込んだタイミングで死角から撮ってくると左右を見渡してみるも、千木良はまだ来ない。
「……」
束の間の退屈が訪れ、スマホを開いてまだ千木良からメッセが来てないことを確認して徐に祭りの灯りに視線を投げる。初めて来る雛姉の地元でやっている花火大会。屋台の数も人も俺の地元でやっていた夏祭りとは比べ物にならないくらい多いけれど、この何とも言えない活気と明るさの感じは変わらない。
「またいつか雛姉と一緒にお祭り行きたいな」
「うん。雛も飛鷹くんと行きたい」
「(…“可愛い”って、言えなかったな)」
屋台の灯りを見て雛姉に言いそびれた感想を心の中で呟いて、俺は屋台へ向かう人の流れに逆らって足を進めた。
『もうすぐ着く!_』
「……ふぅ」
というメッセをひだっちへ送ろうとした指先が送信を押す手前で止まって動かなくなって、とりあえず一旦息を吐き出す。思った以上に花火大会の準備に時間が掛かって待ち合わせの時間より20分遅れで待ち合わせ場所から数十メートル手前くらいのところまで来たけど、ここからの一歩が進まない。
「(人が多すぎてひだっちがいるかわかんないや…)」
とりあえずひだっちがいるであろう屋台の灯りに意識を向けてみるも、花火を観に行く人たちが多くて見えない。こういうとき、ひだっちみたいに視力が両眼で2.0くらいあったら視えるのだろうか。
「(…似合ってるかな?私…)」
屋台へ行く人たちの邪魔にならないように通路の端により、カメラに切り替えインカメラでまだ全然着慣れない浴衣姿の自分を見て似合っているか最後にチェックする。“花火大会と言ったら浴衣でしょ!”と、張り切って親から来月の小遣いを前倒しで貰って人生初の浴衣を買って、文化祭くらいでしかやったことないヘアアレンジやメイクまでしてきた。すっぴんの私しかまだ知らないひだっちが見たらどんなリアクションをするか、最寄りのバス停を降りるまでめちゃくちゃ楽しみだった。
「(…やっぱり私服のほうが良かったかな…)」
だけどいざ花火が打ち上がる河原に降りたら、一気に緊張してきた。ここまで急ぎ気味で来たからヘアアイロンでセットした髪が崩れていないか、キッチリと結んだ帯は曲がっていないか、というかスカートみたいな女子っぽい服装があまり似合わない私に浴衣なんて似合うのか……考えれば考えるほど着慣れない恰好が変に見えちゃうんじゃないかと不安になって、それが緊張に変換されて身体中を巡る。
「(大丈夫。堂々としてればいいんだ。だってひだっちだし)」
左胸に手を当てて、緊張で少し浅くなっていた呼吸を整えて気持ちを落ち着かせる。これから一緒に花火を見るのはバドが共通点の気の合う親友だから、緊張なんてする必要も理由もない。
「よしっ、いつも通りいつも通り…」
でもどうしてだろう。ひだっちと親友になって、もっと仲良くなりたいって思うたびに呼吸をするだけで精一杯になるくらい緊張して、心臓のあたりが微かに痛くなって肝心な時に上手く喋れなくなって、自分が変になる。
「花火大会さ、
心地良さと息苦しさみたいなものが交互に押し寄せて、身体の中で混ざり合ってぐちゃぐちゃになっていく感覚……
「千木良っ」
「っ!?」
呼吸を整え視線を前に向けて止めていた足を再び前へ進めてちょうど10歩。同じ方向へと向かう流れに逆らって見覚えも聞き覚えもあり過ぎる顔と声が意識に飛び込んできた。
「あ、いたいた」
私のことを見つけるや、いつも通り教室や体育館で話すときの感覚でひだっちが近づいてくる。バッチリ決めてきた私に対して、半袖短パンと斜めがけバッグというそこら辺のコンビニとかに寄ってきたみたいな装いのひだっち。目の前の親友がいつも通りすぎて、浴衣なんかじゃなくて私服にしてヘアメイクも最低限にすれば良かったと恥ずかしさじみた気持ちが募る。
「待った?」
「いや、坂元たちと軽く屋台とか巡ってたから全然」
「ここまで戻ってきたってことは嘘じゃん」
「まあ、ぶっちゃけ2分くらい待ったわ」
「ぷっ、嘘つくの下手か」
「うっさいわ」
図星を突かれて、あっさり白状する相変わらず嘘が下手なひだっち。花火大会みたいなイベントでも着飾らず自然体なままの親友のおかげか、さっきまでの緊張が少し和らぐ。ちゃんと話せるかもわからないくらい身体が固くなってたけど、今のところはいつもと変わらずちゃんと会話できている。
「まず何からいく?」
「最初は千木良に任せるわ」
「だったらここはバド部らしく射的から行きますかっ」
「なるほど。狙った
「さすが男バドのエースは話が早いっ」
「俺がエース名乗るにはまだ早いわ」
「じゃあ来年のエース?」
「だったらいいな」
親友になってからというもの、周りから“いい感じ”だって思われてるのを平気なフリして心の中でずっと気にしては勝手に身構えたりしてたけど、やっぱりひだっちはひだっちだ。
『一番は俺のことをちゃんと内面で見てくれたってことかな?』
「つか浴衣可愛いな」
やっばい……せっかく緊張が解けてきたのに……
「……やっばい」
「何が?」
「…スマホ家に置いてきたかも」
「右手に持ってんじゃん」
「え?あ、ほんとだ」
「大丈夫かよ」
やっぱり、浴衣なんて慣れない恰好してくるんじゃなかった。
補足ですが、結のヘアアレンジはハンサムショートです。(イメージは『うるわしの宵の月』の滝口宵)