鷹と蝶   作:ナカイユウ

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「恐いんだよ……水泳のときみたいにみんなが離れていくのが……バドでもそうなって、また楽しめなくなったらって……」



 俺が初めて雛姉の前で泣いたのは、小5の夏のことだった_


可哀想なやつ

 「すごいね飛鷹くん!またシュート決まったよ!」

 「おれに苦手なスポーツはないからなっ!」

 

 物心がついたときから、俺は周りのみんなと比べて運動センスが頭ひとつ抜けて高かった。体育の成績はずっと5段階中5で、かけっこだろうとサッカーやバスケといった球技だろうととにかく負けなしで、運動会やクラスマッチのときは必ずクラスの英雄(ヒーロー)になっている。そんな子供だった。

 

 「飛鷹、水泳ってやってみる気ある?」

 「プールで泳ぐやつ?」

 「まあ、半分正解かな」

 「いいよ。海っぽくておれ好きだし」

 

 特に“あいつより速く走れるようになりたい”とか、“みんなにカッコいいとこ見せて人気者になりたい”なんて目標や願望を持って強くなろうと努力なんてしなくても、コツさえ掴めたら一気に出来てしまう。だからバドミントンに出会うまでの俺には、何かを本気で頑張った記憶がほとんどなかった。それでも俺がかけっこで1位になったりバスケとかでファインプレーをすると周りが喜んでくれたし友達もそこそこいるほうだったから、何だかんだで小学生の頃の思い出は楽しいことが多かった。

 

 「凄いよ飛鷹くん!また自己ベスト!」

 

 そんな俺が水泳を始めたのは、ちょうど小1になったタイミングだった。“海っぽい”という適当な理由で始めた水泳だが、気がつくと自分の泳ぐスピードがどんどんと上がっていて、小3に上がる頃には小4以上の上級生チームの練習に参加させて貰えるようになった。そして正式に上級生のチームに入った頃には、入会していたスイミングスクールの中で誰よりも速く泳げるようになっていた。

 

 俺にとってスイミングスクールで1番速く走ることは決して難しいことじゃなかったけど、もちろん水泳は楽しかった。自分がどんどん強くなればなるほど、楽しさは増した。

 

 「正直俺さ、飛鷹(あいつ)と一緒にいると水泳が全然楽しくないんだよね」

 「ひでえな」

 「だってどうせ俺らがレースしても勝てねえじゃん。実力が違いすぎて」

 「あ~それはわかるかも」

 「別にあいつが嫌いとかじゃないんだけど、ああいう天才はもっと強いチームのところに行ってくれよって思っちゃうんだよね」

 

 だけれど周りもそうだったかと言われたらそんなことはなくて、俺が良いタイムを出せば出すほど周りのみんなからは少しずつ距離を置かれるようになり、裏で陰口を叩かれることが増えてきた。そしたら昨日まで楽しかったはずの水泳が楽しくなくなってしまった。

 

 「なんか飛鷹って、一周回って()()()()()()だよな…」

 

 ある日、俺のことを結構気に掛けてくれていた1学年上の上級生が仲間に愚痴を溢しているところを偶然耳にしてしまった。その一言が決定的なトリガーになって、俺はその日の夜に母ちゃんへ“水泳をやめる”と意思を告げた。

 

 

 

 「ごめん母ちゃん。俺もう泳ぐの飽きた」

 

 

 

 

 

 

 後から思えばたまたま俺が入ったスイミングスクールが運悪く()()()()()()()だったというだけの話かもしれないが、“可哀想なやつ”というあの一言は俺の心の奥でトラウマという()()()()()として残り続けることになる。

 

 

 

 

 

 

 「21―15。ゲーム、飛鷹」

 

 月日は巡り、恵介の影響で隣町のバドミントン教室に入って9ヶ月。俺は同学年の中で断トツに強くなっていた。幸運なのかある種の不運なのか生まれ持っての運動センスはバドでも存分に発揮され、バドのことを“テニスもどき”だと本気で信じていた程度には無知だった小4のガキは、周りと同じだけの並みの努力だけで1年も経たないうちに上級生にも勝ててしまうほどプレーが上達していた。

 

 「また瑞貴さんに勝っちゃったよ飛鷹のやつ」

 「どんどん追い抜いていくよな~」

 

 自分で言うのは好きじゃないしあくまで思っていないつもりだけど、そりゃ自分のことを()()だと無意識に勘違いしてしまうのも納得だし、実際この場所でも俺はスイミングスクールのときと同じくあっという間に一目置かれるようになった。云わばどこかの町に必ず1人はいる、“地元の天才小学生”というやつだったかもしれない。

 

 「誰か試合しようぜ」

 「しょーごさっき審判やってたからやれよ」

 「俺ぇ?…なあ飛鷹、ちょっとでいいから手加減してくれん?」

 「え~加減したら面白くないしない?」

 「10パーでいいから。今回だけっ」

 「そうやって逃げてっから試合で負けるんだよ」

 「飛鷹にガチでやられたら俺じゃあ勝負になんないって」

 

 それでもバドミントンは、水泳の比じゃないくらい楽しかった。スマッシュが決まったときの爽快感。取れなかった羽根が取れるようになったときの達成感。コートの中で動ける範囲が広がって、昨日まで勝てなかった相手に勝てたときの解放感。プレーが上達すればするほどまたしても周りから注目されるようになったのは水泳と同じだったけど、今度こそは飽きずにこのスポーツを楽しめると俺は信じていた。

 

 「飛鷹。次いける?」

 「おう!ちょうど試合してくれる奴探してたとこ!」

 

 それは水泳のときとは違い、いつも俺と真剣になって試合をしてくれる親友(あいて)がいたからだ。恵介がいてくれたおかげで、俺は生まれて初めて本気で頑張れるかもしれない()()を見つけられたような気がした。

 

 「ゲーム、飛鷹」

 

 「いつの間にジャンプスマッシュ覚えた?」

 「なんかやってみたらできた」

 

 ただ同時に、本気で頑張ろうとする裏側でまだどこか一歩引いていた自分がいた。スイミングスクールで味わったトラウマが少しずつ頑張ろうとする心に暗い影を落とし続けて、恵介を含めてみんなに勝てば勝つほど奥底で抱えていた不安も大きくなっていった。今はまだ周りは俺のことを仲間として受け入れてくれているけど、これ以上頑張っていま以上に強くなったらまた前みたいに距離を置かれ、“出て行け”と言われてしまうんじゃないか……そんな不安が次第に大きくなっていった。

 

 「…恵介ってさ、ぶっちゃけ俺に試合で負けるのは悔しい?」

 

 夏休みが来週に迫った放課後、学校からの帰り道で俺は恵介にあることを聞いた。もしここで本当に思っていた不安を素直に打ち明けることが出来ていればと近いうちに後悔することなんて知る由のなかった俺は、誰にも自分が弱っているところを見せたくないという、たったそれだけのどうしようもなく小さなプライドを守るためだけに自分の心に嘘を吐いた。

 

 「そりゃ普通に悔しいよ。俺だって飛鷹みたいに自分より強い人に勝てるようになりたいって思ってるし、何より飛鷹より先にバドを始めたってプライドもあるから」

 

 “負けるのは悔しい?”と聞いた俺に、恵介は真っ直ぐな眼ではっきりと“お前に勝てるようになりたい”と答えた。普段はあまり感情を表に出さない親友が初めて見せた感情。

 

 「だからこれからも相手になってよ。俺の」

 「お、おう。当然だろ」

 

 このときの俺は、水泳をやめた本当の理由を恵介には言い出せずにいた。打ち明ける勇気もなかった。それを認めてしまうことで、恵介から“可哀想なやつ”だと思われたくなかった。自分が“可哀想なやつ”だと思われていたことを、受け入れたくなかった。

 

 

 

 

 

 

 だから俺は、親友からの答えを聞いて一度だけ本気になることを()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 「おい、恵介が飛鷹に勝ったぞ!」

 

 3日後の練習。フルセットの試合を制した恵介は4ヶ月ぶりに俺に勝った。

 

 「でも飛鷹のやつ、なんか今日調子悪そうじゃね?」

 「そーいう日もあるだろ。飛鷹ってたまにプレーが雑になるときあるし」

 

 理由は恵介が俺に追いついた……のではなく、このところずっと俺に負け続けていることを悔しがっていた親友に少しでも近づけたという気持ちになって勇気づけるために、俺があいつにやった最初で最後の手加減。ここから更に差が開いて、恵介がバドを続ける気力と自信を無くしてしまうことが恐かった。

 

 「恵介お前、やるじゃん!」

 

 それでもいっちょ前に手加減したことをなるべく悟られぬよう、下手なりのひと芝居で試合が終わった後に俺は久しぶりに勝った恵介を褒め称えた。振り返れば振り返るほどこのときの自分自身の愚かさに呆れるばかりだが、あくまで本気で恵介のためを思ったつもりだった。

 

 その優しさが恵介(あいて)にとってどれほど屈辱なのか、考えることすらしなかった。

 

 「……」

 

 俺からの励ましに、恵介は複雑な表情で一瞥すると言葉を返すことなくコートを後にした。手加減していたことが見透かされていたのは、顔を見た瞬間にわかった。

 

 「…飛鷹。ちょっといい?」

 

 練習が終わり迎えを待つ合間、帰りの支度を済ませたところで俺は恵介から呼び出された。何のことかは聞かずともわかった。

 

 「今日俺と試合したとき手加減してたよね?なんで?」

 

 呼び出した俺へ、恵介は静かに問いかけた。手加減されたことに対して怒っているとも、悲しんでいるともとれる表情で聞いてきた。

 

 「手加減なんかしてないっての。ほら、俺って日によって調子良いときと悪いときがあるタイプだし」

 「俺にはわかるんだよ。明らかに飛鷹が手を抜いてたってことが」

 「……」

 

 切れるはずのないシラを切ろうとするも、一瞬で見抜かれ言葉を失った。ドが付くほど嘘が下手な奴が半端な嘘をつこうとしたところで、こうなることは目に見えていた。

 

 「…前に恵介が“自分より強い人に勝てるようになりたい”っつってたじゃん。だから、ちょっとでも近づけたなって思ってもらおうって感じでさ。いやもう、俺めっちゃ間違ってたわ。マジでごめんっ」

 

 これ以上は無理だと理解した俺は、なるべく空気が重くならないようにいつもの調子を精一杯に装って手加減したことを謝った。どうしてちゃんと謝るべきところであんな軽々しい態度を取ってしまったのか、なんて考える余裕はあるはずもなかった。ただ俺は、親友と一緒にこれからも楽しいことをしたいだけだった。

 

 「「……」」

 

 そこから互いに、掛ける言葉を仲良く失くした。秒数的にはだいたい10秒くらいだったが、恵介が沈黙を破るまでの10秒が果てしないほど長く感じた。

 

 「……そっか。俺って飛鷹から“可哀想なやつ”って思われてたんだな」

 

 沈黙を破り、恵介は押し殺したような淡々としたトーンで俺に向けてそう言った。返ってきたのは、俺が()()()()()()()()()()()()になった一言をそのまま裏返したものだった。当然、恵介の口からこの一言が出てきたのは全くの偶然だった。

 

 「は?んなわけないって」

 「手加減したってそういうことじゃん。俺が“負けてばかりの可哀想なやつ”だって」

 「だから俺はっ!」

 

 「おーいそこの2人!親御さんが迎えに来てるから早く!」

 

 そんなふうに思っているわけないと恵介へ伝えようとしていたところで、迎えが来たことをコーチが伝えにきた。

 

 「もういいよ。じゃあね」

 

 コーチが来たのを合図に、恵介は逃げるように体育館の出口のほうへと足早に歩き去ろうとした。本当に俺は、バドでもっと楽しい思いをして欲しいという気持ちだけで、ただ恵介にちょっとしたサプライズをするつもりだけでいつもより少しだけ手加減しただけだった。

 

 「…こんなこと言われんなら、恵介(おまえ)と親友になんてなるんじゃなかった」

 

 すれ違いざま、突然と湧いて出てきた衝動のままに言うつもりなんてなかった心の声が口から出た。いま振り返れば、ここで俺は無理に引き留めてでも恵介にちゃんと全部を話すべきだった……だけど予期せぬ形でトラウマを掘り返されて気が動転していたあのときの俺は、よりによって一番最低な言葉を恵介へぶつけてしまった。

 

 「……」

 

 一瞬だけ立ち止まって、恵介は言葉を返さず視線も合わせずロビーの出口へ足を進めた。振り返ることなく去っていく背中を見て、言ってはいけないことを言ってしまったと理解した。かと言って、自分の弱いところを曝け出そうという気にはなれなかった。

 

 「……」

 

 

 

 

 

 

 ナイフで身体を突き刺されたような後悔の痛みと、痛みを守るための身勝手な怒りに心が飲まれた俺は、ただ恵介の背中を呆然と立ったまま無言で見送ることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 「恵介……昨日はごめんな」

 「…うん。俺も悪かった」

 

 さすがに良心の呵責に苛まれて、次の練習のときに俺が恵介へ謝ったことで()()()とはいえ俺たちは仲直りした。

 

 「アキ、試合しようぜ」

 「え~おれ恵介と比べたら雑魚だぜ?」

 「んなことないっしょ。何なら俺が鍛えてやろうか?」

 

 ただ仲直りしたのはあくまで形だけで、あの日を境に俺と恵介の関係は家に集まってゲームをして遊んだりすることはおろか、バドの練習でも挨拶でしか互いに言葉を交わさないほど気まずくなった。俺があと少しの勇気を振り絞って水泳をやめた理由を打ち明けるだけで済む話だったが、それが出来ないまま日にちだけがあっという間に過ぎて行った。

 

 「飛鷹って恵介と仲悪いん?」

 「え?なんで?」

 「だってここんところ全然話さねえじゃん」

 「あー、あれよ。ずっとあいつとばっか試合してたから、そーいうのってあんま良くないよなあって話になってさ」

 

 あからさまに距離を置いて話さなくなったことでさすがに周りからも何度か突っ込まれたが、その度に適当な言い訳で何とか誤魔化した。恵介とのいわゆる()()()()が2週目になった辺りからは、もう何も言われなくなった。喧嘩しているわけではないがいつの間にか俺たちがギクシャクしていることが勘づかれたのか、“そっとしておこう”という状況になっていた。

 

 「飛鷹くん。ひと試合お願い」

 「おう。いいぜ」

 

 その代わり俺は、皮肉なことに恵介以外の仲間から試合の相手を頼まれることが増えた。それは恵介も同じだった。同じ空間に恵介がいても、走り込みをしたりコートに立って試合をしているときだけはいざこざが頭から消えて気まずさが和らいだ。

 

 「「お疲れ様でしたっ!」」

 

 ただラケットを握る時間が終われば、反動で気まずい現実が訪れる繰り返し。次第に俺はバドを楽しむためじゃなく、向き合わなければいけない現実から逃げるためにやるようになり始めた。あんなに楽しめると信じていたバドを逃げる口実にしている現実も受け入れたくなくて、罪悪感が襲ってくるたびに“俺はいま楽しんでいる”と無理やり思い込んで、強引に心のスイッチを切り替えていた。

 

 「うぃーす来たぜれいじ」

 「うぃーすじゃあやろうぜスマブラ」

 

 週2日あるバドの練習がない日は、夏休みの宿題を片付けるか他の友達とひたすら遊んで1分でも長く恵介のことを考える時間を減らしていた。言ってしまえば現実逃避というやつだ。

 

 「こんど恵介も呼んでゲームしね?」

 「あいつか~、あんまゲームとかしねえからどうだろうな~」

 「そうだっけ?」

 

 もちろん何度も、俺は恵介にずっと抱えているトラウマのことを練習中に声を掛けようとしたりしてタイミングを作ろうとした。だけど話を聞こうともせずに知った口を叩くような言い方をした恵介に内心でムカついている気持ちもまだあって、自分が全部悪いことはわかっているのにクズで意固地なプライドが邪魔をしてきっかけを作れず日にちだけが過ぎて行った。

 

 

 

 

 

 

 気が付けば恵介と()()()()()()をするタイミングを逃し続けたまま、小5の夏休みは残り1週間になっていた。

 

 

 

 

 

 

 「曜子ちゃん。いま新幹線降りたって」

 

 お盆を迎えた8月13日の午後3時。俺は母ちゃんに連れられ長野駅に来ていた。

 

 「来たらちゃんと挨拶してね飛鷹」

 「言わなくてもちゃんとやるっての」

 

 水泳での一件を完全に乗り越えたと家族の前で強がり続けていた俺は、このときになってもまだ両親(おや)にすら恵介のことを打ち明けられないままでいた。

 

 「あ、曜子ちゃんたち来たよ飛鷹」

 「おう」

 

 新幹線の改札口の向こうから、観光やお盆の里帰りで来た人の流れに混じって2年ぶりに会う親戚家族の姿が見えた。母ちゃんの従姉で俺からすれば従伯母の曜子さんと、曜子さんの隣を歩く長女の麦姉。お父さんの弘彦さんはこのときも仕事で不在だった。

 

 「飛鷹くん久しぶりっ!」

 

 そしてお母さんとお姉さんの一歩前を先導するように歩いてきて、改札を抜けて俺のことを見つけるや大きく手を振り元気よく名前を呼ぶのが、ツインで纏めたお団子ヘアがトレードマークの蝶野家の末っ子で親戚の中で一番仲が良いはとこの雛姉。

 

 「よっ。久しぶり」

 

 小3の夏休みから2年越しに目の前で手を振る雛姉は、俺の記憶の中にいた雛姉より少しだけ小さくなっていた……もちろん前はほぼ同じくらいの高さだった雛姉の背が縮んだわけではなく、俺がこの2年で雛姉より早いペースで背が伸びたという意味だ。

 

 「あれ?飛鷹くんってこんなに背高かったっけ?」

 「2年で伸びた」

 「雛だってちょっとは伸びたんだけど」

 「こら雛。先ずは優実さんに挨拶」

 「あっ、久しぶりです優実さん」

 「久しぶり雛ちゃん。元気してた?」

 「はいっ。ずっと元気です」

 「ごめんね優実ちゃん、雛がいきなり」

 「ううん。変わらず元気で何よりだよ」

 

 少しだけ身長差が広がったことを羨ましがる雛姉の元気な笑顔を見て感情が綻ぶけれど、その直後に恵介のことが脳裏をよぎって胸を痛めつけた。久しぶりの親戚同士の再会だというのに俺は空元気でやり過ごすので精一杯だった。

 

 「大きくなったわね飛鷹くん」

 「まあ、一応成長期ってやつなんで」

 「雛も成長期なんだけど!」

 「張り合わないの雛」

 「麦ちゃんも久しぶり」

 「はい、こちらこそ」

 

 こんなことになっているのは俺の自業自得で俺のせい。溜め込めば溜め込むほど痛みが増していくのはわかっていたのに、俺はその痛みを奥へとしまい込んだ。

 

 

 

 

 

 

 何を言おうが言い訳になってしまうし、小5の自分を肯定するつもりは全くない。ただ心を許していた先輩(ひと)が何気なく仲間へ呟いた一言から生まれた()()()を見るのも見せるのも恐がっていたどうしよもないほどに臆病者だった俺には……自分で自分を責めて抱え込むしか術がないと思い込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 「は~なびっ、は~なびっ」

 「言っとっけど花火は明後日だぞ雛姉」

 「ていうか飛鷹くんテンション低くない?」

 「実は飛鷹(この子)、最近ちょっとだけ反抗期なのよ」

 「えっそうなの!?」

 「オイ言うな」

 

 

 

 そんな沈み切った俺の心情を裏腹に、蝶野家との4日間の盆休みは楽しげな雛姉の笑顔と共に始まった。




過去エピのペース配分マジで難しい
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