鷹と蝶   作:ナカイユウ

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遠回り

 “…飛鷹くん、本当にこの体育館でバドミントンやってるんだ…”

 

 トレーニングメニューをこなす傍ら、私の意識にチラチラと入ってくる新体操部とバドミントン部を隔てるネットの向こうでコートに立ち先輩たちと一戦を交える飛鷹くんの姿。いつもだったら練習中は新体操以外のことを遮断できるくらいには集中力を自在に上げられるのに、何だか向こうで試合形式みたいな練習が始まってからは心なしかイマイチ身が乗りきれないままでいた。

 

 「ちょっとリフレッシュしてくる」

 「行ってら~」

 

 休憩時間に入り、気になって居ても立っても居られなくなった私はレオタードを練習着(うわぎ)でカムフラージュして、飛鷹くんの試合をモップや靴を入れるロッカーの置かれたコート外の通路から見守ることにした。もちろんガッツリとではなく、本当にちょっとだけ横目で見送ってそのまま外に出てリフレッシュに行くつもりだった。

 

 “って、大喜と試合してるじゃん…”

 

 試合を見守るバド部のギャラリーの背後でなるべく気配を消しながらコートに目を向けると、ちょうど目の前で大喜と飛鷹くんが1ゲームを戦っているところだった。人の目ではとても追い切れないほどのスピードで飛ぶ羽根について行きながら、コートの中を縦横無尽に動き回って相手へと返していく。あまり詳しくないなりにバドミントンがどれほどハードなスポーツであるかだけは大喜がコートで戦う姿を見てきたから知っていたけど、同じ視点の高さで見ると尚更にその過酷さが伝わってくる。

 

 “しかも結構いい勝負…”

 

 でも何よりも衝撃だったのは、飛鷹くんが大喜を相手に互角以上の勝負をしていたこと。お母さん伝手で全中に出たってことは聞いていたけれど、実際に飛鷹くんの試合を見たことがなかった私には今一つその凄さがピンと来ないでいた。そのせいか絶対に負けたくない相手と出会って強くなった大喜に食らいつくどころか逆に押す勢いで羽根を打ち返す飛鷹くんは、私の知ってる飛鷹くんとはまるで別人みたいに見えた。

 

 パァァンッ_

 

 直後に放たれた、ラケットとは思えないほど凄まじい音と一瞬で見失うほど速いスピードで羽根を打ち落とす、文字通り目が覚めるようなスマッシュ。必死に大喜は返ってきた羽根を受け止めようとして打ち返してみせたけど、その羽根はコートの外へと飛んで行く。大喜へスマッシュを打ったのが飛鷹くんなのは見れば分かる。だけど、私の記憶の中にいる飛鷹くんはまだ5年前の夏で止まったまま。

 

 “…こんなに本気でバドミントンをしてる飛鷹くん……初めて見た…”

 

 だから、ネットの奥で背中に羽が生えたかのように高くジャンプして渾身のスマッシュを放った飛鷹くんの姿を見て、昨日から一緒に暮らすことになった親戚(はとこ)だって分かっていながら本気で()()()()()って思ってしまった。もちろん、大喜へ抱いていた“かっこいい”とは意味合いは違うけれど。

 

 

 

 “…知らなかった…”

 

 

 

 結局チラッと見てさっさと外にいくつもりが、大喜の勝ちで決着するまで私は2人のバドバカによる1ゲームを見届けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「お疲れ様でした」

 

 栄明での初日の練習が終わり、帰り際に先輩たちに挨拶をしてラケットバッグを背負い込んだ身体で学校の門を出てまだ覚えたての家路へつく。引退してから元エースのOBという立場を使って部活に度々顔を出してはいたけれど、丸一日ガッツリ練習したのは久しぶりだったからか昨日に続いて今日もちょっとだけ疲れた。

 

 “さすが関東。長野と違って夕方になっても暖けぇ…”

 

 何気なく見上げる少し薄曇り気味な空の色は青からオレンジへと染まり始めているが、微かに頬を伝う風はまだ暖かい。昨日の朝までは空の色が変わると風が一気に冷たくなるような場所にいたからか、まだまだ見慣れない景色と明らかに今までとは違う空気に思わず歩きながら俺は耽る。何というか、昨日とは違う空気を味わうことで新天地に来たっていう実感を、またひとつ感じる。

 

 “…やっぱりインターハイに行けるような人のプレーは全然違ったな…”

 

 交差点の赤信号に進めていた足を止められたのを合図にして、日の暖かさが残る空気を味わいながら今日の1ゲームマッチを振り返る。結果から言うと、俺は針生先輩と猪股先輩以外の先輩に勝つことができた。とはいえ余裕だったかと言われたらそうではなく、全中が終わってからはバドをする時間が減っていたこともあってか追いつかれそうになるゲームもいくつかあった。

 

 

 「いいか飛鷹。バドミントンはセンスで勝る奴じゃなく、最後まで闘志を捨てなかった奴が勝つスポーツだ。負けるかもしれないなんていう迷いは捨てて、どんな逆境でも上を向く……それさえ出来ればお前はもっと上に行ける!」

 「これで西田が勝ってたら締まるんだけどなー」

 「ん?なんか言ったか針生?」

 

 

 中でも部長の西田先輩との1ゲームはデュースに持ち込まれ、『23―21』という熱戦になった。最終的には下狙いの攻撃が少し不得手という弱点を突いてワイパーショットで決着をつけたけれど、もし下手に動揺して流れに飲まれたら普通に負けていたかもしれない。それぐらい俺がマッチポイントを取ってからの西田先輩の粘りは凄かった。ただ、強いて言えばいきなり部長に勝ってしまったという謎の罪悪感みたいなものも若干あるにはある。

 

 

 「まずはその熱しやすく冷めやすいメンタルをどうにかすることだな。じゃないとインターハイどころか()()()にされたまま終わるぞ」

 

 

 最後に相手をさせてもらったエースの針生先輩との1ゲームは、普通に負けた。スコアは『21―14』とボロ負けこそ回避できたものの、開始早々にいきなり4点を先制されたのを皮切りに終始針生先輩のペースで、俺なりに食らいついては見たものの3点差以上の点差を縮められず格の違いを見せつけられたまま終わり、最後に厳しくもありがたいアドバイスを頂いた。自分にとって一番の弱点が何なのかを分かっていても、それを克服するのは容易じゃないってことを改めて思い知る1ゲームだった。

 

 そして…

 

 ポンポン_

 

 「?」

 

 今日の1ゲームマッチを思い返しながら学校から一番近い交差点で信号が青になるのを待っていると、いきなり左の肩をポンと2回叩かれて思わず振り返る。

 

 「あははっ、引っかかった」

 「…普通に声かけりゃいいじゃん雛姉」

 

 振り返った瞬間、反対側から声をかけられて再度振り返ると、同じ学校のウインドブレーカーを着た雛姉がしたり顔で笑っていた。同じ体育館でずっと部活をしていたのに、雛姉を直接この目で見たのがノックの合間の一瞬だけだったからか、数時間ぶりの会話でも久しぶりに感じてしまう。

 

 「ちょうど目の前に飛鷹くんがいたから久しぶりにやりたくなっちゃったんだよね」

 「久しぶり?」

 「ほら、小っちゃいときとかよく私が飛鷹くんにこういうのやってたじゃん。覚えてない?」

 「…言われてみれば今のやつ雛姉から何回もやられた記憶あるわ」

 「やっと思い出したか」

 「あと肩叩いて振り返ったときに頬に指当てるやつな」

 「あ~それもあったわね。私が引っかけるたびに飛鷹くんがちゃんと引っかかってくれたから可愛かったな~」

 「引っかかるにちゃんとも何もなくね?てか可愛い言うな」

 

 まだ俺と雛姉が互いに幼稚園や小学校に通っていた頃の思い出を話しながら、青になった横断歩道を渡る。ちょうど1日が経って多少慣れてきたつもりでも、5年も会っていなかった雛姉と同じ通学路を歩いている光景はどこかまだ夢を見ているかのようで、何だか不思議な気分だ。

 

 「…そうだ。ちょっと遠回りしない?」

 「遠回り?」

 

 横断歩道を渡り終えたところで、右隣を歩く雛姉が何かを思いついたかのように遠回りしようと言ってきた。何となくだけど、()()()なものがありそうな感じがする。

 

 「だって飛鷹くん、まだこの辺のこと全然知らないでしょ?」

 「…確かに弘彦さんの家から学校までの道以外何も知らないわ俺」

 「じゃあ話は早いね」

 「え?マジで遠回りすんの?」

 「ごめん。嫌だったら無理しなくていいんだけど」

 「別に全然嫌じゃないけど」

 「なら行こうよ。逆方向になっちゃうけどそんなに遠くないから」

 

 話の流れから察するに、雛姉はつい昨日長野からこっちに来たばかりでまだほとんど知らない俺を案内したいみたいだ。確かにこれから3年間は住むとして、この辺りのことを何も知らないっていうのも後になって馬鹿にされたりするかもしれないから、むしろ良い機会だ。

 

 「どうしても()()()()()()()()()があるんだよね」

 

 というわけで俺は雛姉について行く形で戻りかけていた道を引き返し、“どうしても連れて行きたい”という場所へ遠回りすることにした。

 

 

 

 

 

 

 「(人も店も多いなやっぱ…)」

 

 蝶野家とは逆の方向へ歩き出して体感的にだいたい10分と少々。どこに向かっているかもわからず歩いていたら、アーケードの商店街についた。

 

 「家とは逆方向なんだけど、行きつけの整骨院がこの近くにあるからよく通るんだよねここ」

 「へぇ~。てか雛姉って整骨院通ってんだ?」

 「そう。新体操は身体の節々を日々酷使するゆえ、定期的なメンテナンスが必要不可欠なのです」

 「なんで急に敬語?」

 

 行きつけの整骨院が近くにあるという理由で通るという商店街は、当たり前だけど俺の地元にある商店街とは店の数も歩いている人の数も全然違う。これぐらい店も多くて賑わった場所となるとバスで3,40分かかる隣町まで行かなければいけないのが日常だった俺からすれば、学校から歩いて立ち寄れる距離にこういう場所があるだけでも()()っぽいなと感じる。まあ、裏を返せばそれだけ俺が生まれ育った雲山が田舎だってことになるけれど。

 

 「気が向いたらでいいけど飛鷹くんも一回通ってみる?そこの整体師さんすごく腕いいしケガの予防にもなるから」

 「じゃあ、ちょっと脚とか腕の調子が悪くなったら行ってみようかな」

 

 初めて足を踏み入れるアーケードをまだ慣れない足取りで歩く俺を先導するかのように、斜め前を歩く雛姉が楽しそうに話しかける。思い返せば小3の夏休みに羽鳥家へ泊まりに来たときに親同伴で近くのパワースポットの山を登ったことがあったけれど、あのときも“お姉さんだから”って頂上にある神社の場所を知っている地元民の俺を差し置いてこんなふうに前を歩いていたっけ。

 

 というか、4月からは同じ学校になるわけだから雛姉は()()になるわけか……なんか実感が湧かないな。

 

 「あ、そうそう!ここのたい焼きがめちゃくちゃ美味いんだよね~」

 「マジで?…あぁでもホントだ美味そう」

 「やばい見てたらお腹減ってきた…」

 「部活終わりの身体に糖分は最高の調味料よな…」

 

 と、一学年上のはとこが本当の意味で先輩になることへの実感の無さを勝手に感じている傍から、通りすがったたい焼き屋のショーケースに並ぶたい焼きを眺めて背徳感と格闘する雛姉。こういうたまに子供っぽくなるところを見ると、“ああ、雛姉は雛姉だな”って俺は思う。

 

 「…って感じで本当は週2で食べたいくらいだけど、食べたら確実に一日の摂取カロリーオーバーしちゃうから大会が終わった後のご褒美にしか結局買わないんだけどね」

 

 背徳感と暫し闘い、たい焼きの誘惑に勝った雛姉は立ち上がって再び斜め前を歩き出す。たい焼き一個なんて全然大した量じゃないしそんなに食べたければ買って食べればいいのにとも思うけど、それを言うのはきっと雛姉にとっては酷な話なんだろうなっていうのは何となく知っているからその思いは心に留めておく。

 

 「そういや俺が持ってきた土産食べるときもカロリーのこと気にしてたけど、新体操って体重管理とか結構シビアな感じなん?」

 「うん。だって新体操は体重が数百グラム変わるだけで動きが鈍くなるからね」

 「マジか…食べたいものを我慢しないといけないとかすげえ大変じゃん新体操って」

 「もちろんお店で売ってるたい焼きが0キロカロリーだったなぁって、ここ通るたびには思ってるけど」

 「それは俺もめっちゃわかる」

 「こう見えて甘党だもんね飛鷹くん」

 

 たい焼き屋を後にして、雛姉は新体操の苦労話を平然な顔で笑いながら話す。俺にとって新体操というスポーツは雛姉がやっているってこと以外は未知の領域なレベルで縁のない競技だけど、大会で結果を出すためだけに食べたいものを我慢することがどれほど大変なのかぐらいはわかる。

 

 「でも、我慢することで自分の演技が上手くなって大会でいい結果が出るんだったら、そのためならいくらでも好きなものなんて我慢できる……って言っても、私って小さいときから頑張るの得意じゃないから、これぐらいしか頑張れないんだけどね」

 

 だけど雛姉は、我慢している自分のことを頑張っているなんて思わずに当たり前のことと言い切ってみせる。その得意げな笑顔に、ノックのときに見た真剣な表情で振り付けのイメージトレーニングをしていた姿が重なる。

 

 だからつい、俺は言いたくなった。

 

 「…やっぱ雛姉ってかっこいいわ」

 「急にどうした?」

 

 本当に雛姉は、バドミントンのことが心から好きな親友がいなかったら頑張ることさえできなかった俺とは大違いだ。

 

 「新体操のためだけに自分の食べたいものまで我慢してストイックに頑張ってるけど、それを頑張りとは思わないで当たり前だと笑って受け入れられる…」

 

 最後の大会が終わってから今日に至るまで、朝のランニングを始めたり周りが許す限りOBとして部活に参加したりと自分なりに改めてバドと向き合ってきた。けれど今日の初練習で俺以上に本気でバドミントンと向き合ってきた先輩たちを見て、まだまだ俺は甘かったんだなと痛感した。人並みの努力だけで運良くここまで来てしまった俺にとっては簡単じゃないけれど、不完全燃焼という後悔を無駄にしないためにもっと自分にとってのバドと向き合わなければいけないと思った。

 

 「そこまでして本気で自分の好きなことと向き合ってる雛姉は本当にかっこいいし……偉いなって俺は思う」

 

 

 

 

 

 

 「それを頑張りと思わないって、普段から自分に厳しい証拠だろ……そういう普通の基準の差が俺より強い人たちとどれくらいあるんだろうって考えると少し不安になって…それと同時にその中で戦ってる雛は、やっぱりめちゃくちゃかっこいいなって…」

 

 

 

 

 

 

 「……やっぱり()()()

 

 俺のバドに対する気持ち以上に新体操と向き合っている心意気に思ったことをそのままぶつけると、雛姉は何かを俺に小さく呟いた。

 

 「何か言った?」

 「ううん何でもない」

 

 だけど雛姉が口にしたその言葉は、人通りの音で掻き消されて聞き取れなかった。

 

 「いや絶対何か言ったって今」

 「ここ左ね」

 「意地でも答えないパターンじゃんそれ…」

 

 何を言ったかをもう一度聞こうとしたら、たい焼き屋から数軒先のところで商店街の外に出る裏道を案内されて強引に話を切られた。言われた側は気になって仕方がないけれど、この態度からして絶対に教えてくれないパターンなのは親戚としてわかる。こんなふうに揶揄い好きで悪戯っ子なところがあるのも、まだ変わらないみたいだ。

 

 「…私から見れば、飛鷹くんのほうがむしろ本気で頑張ってるって思うよ」

 

 ていうか本当にいまの独り言は墓場までの秘密にするつもりっぽいな……というのは置いといて、スキップをするような足どりで一歩先に出て歩く雛姉が明るくも真面目な口ぶりで話を続きを始める。今更だけど、自分が言ったことを思い返すと若干照れくさい。

 

 「雛姉には負けるって」

 「いやいや、ただ周りより早く新体操をやってきただけの私より、バドミントンをやるためだけに親元を離れてたった1人で栄明に行こうって考えて、本当に有言実行しちゃうほうがよっぽど覚悟が決まってるでしょ…まだ高1にもなってないのに」

 

 そう言って一歩先を歩く雛姉が、立ち止まってくるりとターンをして振り返る。何気ないターンをしても一直線をキープする体幹から伝わる、インターハイ3位の確かな実力。

 

 「それに、全中に行けたのはそれだけ飛鷹くんが本気でバドミントンを頑張ってきた何よりの証拠じゃん」

 「1回戦敗退でも?」

 「あのね飛鷹くん。全中もインターハイも出場できるだけで本当に凄いことなんだからもっと自分を誇りなさい」

 

 競技は違えど同じ全中に出場した者としての労いに自虐で返した俺を軽く叱って、雛姉は再び前へと振り向いて歩き出す。もちろん俺だって多少の自己満はあるかもだけど実際本気でバドはやってきたつもりから、雛姉のような人からその頑張りを認めてもらえるのは、素直に嬉しい。

 

 「そりゃ全中が決まったときはマジで誇ったよ。“やべえ、かっこよすぎるわ俺”って本気で自分のこと思ったぐらい」

 「それはそれで調子に乗り過ぎじゃない?」

 「今思うと中学んときはマジで天狗だったしなぁ…俺って小っちゃいときからすぐ調子に乗るところがあってさ、そのせいで全中は見事にボロ負けよ」

 「スコアは?」

 「さっきの独り言の答えを教えてくれたら言うわ」

 「じゃあいいや」

 「いいんかい(くそ、チャンスだと思ったのに…)」

 

 だとしても、俺にとって中学最後の戦績は1()()()()退()。弁明の余地もなく、これが正真正銘の実力。

 

 「まあ、そんなこんなで中学最後の試合がボロ負けで終わっちまったから……高校最後の試合がまた不完全燃焼で終わるのだけは嫌なんだよね。俺」

 

 

 

 ……もちろん不完全な()()()を抱えた今のままで、俺はバドミントンを終わらせたくはない……

 

 

 

 「ここだよ、飛鷹くん」

 

 商店街を途中で逸れてから少し歩いたところで目と鼻の先にある突き当りを指さされ、ここだと教えられる。周りのマンションや家を覆い隠すように並ぶ木々の中にある、ブランコとベンチとちょっとした遊具がある何の変哲もない小さな公園。どうやらここが、雛姉が連れて行きたかった目的地らしい。

 

 「ラッキー!誰もいない!」

 

 こういうところで遊んでいそうな子供がちょうど帰ったタイミングなのか誰もいない公園に着くや、水を得た魚の如くいかにも新体操っぽい振り付けではしゃぐように踊り始める雛姉。本人にとってはお遊び程度なんだろうけど、軽く踊っても柔軟性と華奢な体格にそぐわない体幹の強さが滲み出ているから、通りすがりの人が立ち止まってつい見入ってしまうことが想像できるくらい上手いのが、新体操が分からなくても伝わる。

 

 「雛姉ってよく来んのこの公園?」

 「うん。家だと物が多くてちゃんとした振り付けの練習ができないから、オフの日とか大会が近くなったときはこんなふうにここで練習してるんだよね」

 「やっぱすげえ頑張ってんじゃん」

 「そんなことないよ~」

 

 頑張っていると言われてそんなことないと謙遜しながらも、雛姉はどこか満更でもなさそうな顔を浮かべながら踊り終えた軽い足取りでブランコに座る。俺の知る蝶野雛(はとこ)は頑張っている姿を極力見せないような人だから、何となくだけどここで自主練していることは学校のみんなには秘密にしていそうな気がする。

 

 「それに、こういう場所だったらお父さんやお母さんのことを気にしないで、思ってることを()()()()()私に話せる…」

 

 と、勝手な思い込みをしていた意識に普段より落ち着いた声と表情がグッと入り込んできて、完全に俺は面を食らう。

 

 「…どういう」

 「誤魔化そうとしても、蝶野雛さまの目は騙せないぞ?」

 

 咄嗟で聞き返そうとした俺の声に被せて、目の前のブランコに座る雛姉が見上げながら得意げな顔でクールに笑いながら“お見通しだ”と念を入れる。5年前の夏にも見せたその表情に、この公園に連れてきた()()を察する。

 

 「今日の練習で何かあった?」

 「んー、別に何かあったとかじゃないけど……強いて言うなら雛姉とちょっと話したいなって感じ」

 「そっか、じゃあ隣に座って話そうよ。ちょうど今なら私たち以外誰もいないし」

 「…わかったよしょうがないな」

 

 心に隠して平然を装っていたつもりでいてもこんなふうにあっさりと見破られてしまうという一連の流れが、()()()()と全くと言っていいほど一緒で軽く懐かしさすら感じる。こんなふうに怖いくらいに俺のことがお見通しな雛姉が、微笑ましいようなちょっとだけマジな意味で怖いような。

 

 「飛鷹くんって意外と不器用なところあるよね?」

 「恵介からも言われたことあるわそれ」

 「“けいすけ”って誰?」

 「中学んときまでダブルス組んでた俺の親友(ダチ)

 

 そんなこんなでまんまと魂胆に乗せられた俺は、柵のところにラケットバッグを置いて雛姉の左隣で次の主を待つように数十センチの空中で静止するブランコの座板に座った。




アニメもついに終盤にして最大の山場……持ち堪えてくれメンタル
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