Boy Meets Girl - Buddy Daddies IF parallel-world -- 作:はれまま
このお話は、主人公「来栖一騎」の本編では語られなかった過去の話です。
本編中で「親の顔も知らない」という一騎。事故で身重の妻を失うという不幸な過去を持つ彼。
彼の生い立ちを妄想して、来栖一騎というキャラの、魅力と人間性を伝える事ができたらと思います。
本編中、または公式には無い設定・キャラも登場します。
そのあたりを許容できる、「なんでも許せる方」向けのお話だと思います。
ただ、一騎パパのファンとして心を込めて贈ります。
ビルの影に四角く切り取られた空に、綿菓子のような雲がポカンと浮かんでいた。
あちこちいたくて動くのは面倒くさかったが、俺はその雲にフイっと手を伸ばした。
でも俺の手がその雲に届くはずもなく、真ん丸の綿菓子は風に吹かれて流れて行ってしまった。
俺が欲しいと思うものにはいつも俺の手は届かないんだ。
喉の奥がギュっとなり、思わず歯を食いしばると口の中に鉄の味が広がり、視界がゆがむ。
泣くな!こんなことで泣くもんか!
「なんだまたお前か?一騎」
声がする方に視線を向けると、中年のオヤジが俺をのぞき込んでる。めんどくさい奴に見つかった。
このオヤジは、板橋っていう地元の刑事だ。刑事ってのは暇らしい、俺は何度もこのおやじにけんかをしているとこを見つかってる。
「おい、そんなところにいないで、お前なんかこの兄ちゃんにいうことあるんじゃないか!」
いきなりおやじが路地の入口に向かって大声をだす。なんだ?と思って少し体を起こしてそっちを見ると、有名進学塾の鞄を下げた小学生が制服の警察官に連れられてこっちにきた。
「助けてくれたのってこの兄ちゃんであってるんだろ?」小学生は顔をこわばらせたまま頷いた。
「ほらそういうときはなんていうんだ?」
「お兄ちゃんありがとう」
「お前この子が不良に絡まれてるところに助けに入ったんだって?ヒーローさん」
「目の前で胸糞悪いことしてるやつがいてむかついただけだ」
「へぇーそりゃあ御大層な正義感だな」からかうように言われて、おれはフィと顔をそむけた。
「心配するな、この坊主はこっちでちゃんと送り届けておくさ。最近この辺も物騒だからな、親御さんにもそこんところ注意してもらわなきゃなんないからよ」おやじはそういうと、行けというように警察官に手を振った。
「で、立てるか?ヒーロー」
「うるせぇよ」俺は差し出された手を払って立ち上がった。
「立ち話もなんだから、ちょと付き合えや」板橋のおやじはそういって歩き出した。
殴られてあちこち痛いし行きたくはなかったが、「ほら来いよ」とおやじが顎をしゃくるので、あとあとめんどくさいことになるのも嫌で黙って後に続いて歩きだした。
しばらくあるいたところで、おやじはさびれた店のドアを開けた。
「いらっしゃい。ああ、板橋さん」店の雰囲気の割りには若い男の声が聞こえたが、俺が殴られた顔を見られたくなくて顔を俯けたままおやじの後ろについて店に入った。
店の一番奥の席に座ると、板橋のおやじがおもむろに口をひらいた。
「なあ一騎、この前も言ったがいい加減に人のためにけんかするのやめろや」
「べつにそんな大層なことはしてねえよ。むかついたから殴っただけだ」
「そらご苦労なこったな」
「うるせえ、ほっといてくれ!」
板橋のおやじは、火のついたタバコを指にはさんだまましばらく黙っていた。
俺がふてくされて黙り込んでいると、おっさんはその煙草を灰皿にギュっと押し付けて消して大きなため息をついた。
「なあ一騎、お前の人生の価値を他の奴らに決めさせるんじゃねえよ」
「は?意味がわかんねよ、俺頭悪いから」
「あはは、お前案外賢いじゃねえか」
「だから、言ってる意味がわかんねぇって言ってるんだよ」
「いいか。その辺をうろついてる大勢の奴は、自分が頭が悪いってことすらわかってないんだよ。でもお前はちゃんと自覚があるんだろ?それだけ立派じゃねえか」
「は?けんか売ってるのかおっさん」
「いいか一騎よく聞け。頭が悪いと思うんだったら、勉強して賢くなれ。出自は他の奴よりちょっと不幸だったかもしれない。でもな、これから先はお前の努力しだいでどうにでもなんだよ。お前の人生は誰のもんでもない、お前のもんだわかったな」
「うるせえほっといてくれ!」
板橋のおっさんは何か言っていたが、俺は席を立つと振り返らずにそのまま店を出た。
殴られた顔をみられるのは嫌だったが、それでも俺は顔を上げ奥歯に力を入れ、ギュっと手を握り締めて歩いた。
通りすがりの奴らがチラチラと俺の事を見たが、そんなこと知った事か!
―なんで俺が親に捨てられたのか?そんなことはわかってる。この見た目だ!―
「騒がしくして悪かったな、ブレンドくれ」一騎を見送った板橋は、奥の席から入口近くのカウンターに移った。
「なんだか随分生意気な奴ですね?あの制服中学生でしょ?その癖にあの髪」板橋はこの店の常連らしく若い店員が声をかけてくる。
「ありゃ―あいつのせいじゃねえよ」
「え?」
「あいつは捨て子なんだよ。生まれ育った施設の前に置かれたかごに、おくるみにくるまれた赤ん坊と使いかけのおむつと粉ミルクの缶。そして、「5月16日生まれ 一騎」…って丁寧に、名前の漢字の文字の上に「かずき」とふりがながしてあったメモが一枚添えられていたよ。そしてあいつを最初に見つけたのは俺だ、前の俺の任地の時だ」
「へえ」
―きっと好き勝手に男遊びをした無責任な奴が、毛色の違う赤ん坊が生まれてびっくりして捨てたんだー
「多分あいつはハーフなんだろう、あいつの髪は地毛だ。もう10年以上前の話だし、ちょっと田舎の方だったからな。捨て子だってだけじゃななくて、その派手見た目もあって小さいころからさんざんいじめられてきたんだよ」
「そうだったのか…」
―捨てるぐらいだから、俺はいらない子。生まれてきちゃいけない子供だったんだー
「それで小学校の時に近所の悪ガキともめて、奴は切れたことがあるんだよ」
「え?」
「喧嘩するたびに施設に迷惑かけるなと叱られてきたみたいで、それまで我慢してきたみたいなんだが、ある時集団でリンチまがいの事をやられて。一人のガキを半殺しに近い状態まで殴っちまってな」
「…」
「たまたま一部始終を見てた子が何人かいて、正当防衛ってことにはなったんだが。そこの施設にはいられなくて俺の知り合いのこっちの施設に移したんだよ」
「そんなことが」
「ああ、だがやっぱりあの見た目だろ?もめ事が絶えなくてな」
「まあ、そうでしょうね?目立つっちゃー目立つけど、モテるんじゃないですか?」
「まあそうだろうな。でもあいつは自分の見た目が嫌いなんだよ」
「え?」
「あの見た目のせいで親に捨てられたと思ってるからな」
「なるほど」
「だから、自分の見た目に寄ってくる奴らの事も信用してない」
「確かに」
「根は悪くない奴なんだけどな」
「で?俺にどうしろって言うんですか?板橋さん」
「お。相変わらず察しが良いな久太郎」
「何年の付き合いだと思ってるんですか?」
「久太郎」と呼ばれた店員、九棋久太郎はため息をついた。
「いや、特に何ってことはないけどよ。街で見かけたらよろしく頼むよ」
「そうそう接点があるとは思いませんけどね」
「ま、袖触れあうも他生の縁っていうだろ?」
「そうですね」
「じゃあよろしく頼むな」
板橋はブレンドを飲み干すと店を去って行った。