精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~ 作:忌野希和
1話 世代交代 / 2話 もしかして:ロボット
「それじゃあシキ、今からお前に儂の持つ精霊の加護を授けるぞ。よいな?」
「うん、わかった!」
紺のローブにとんがり帽子を被った、いかにも魔術師といった姿の老人が、シキと呼んだ少年の元気の良い返事に頷いた。
「これからは年老いた儂の代わりに国防を頼むぞ」
おほん、と軽く咳払いをしてから老人は手に持つ節くれ立った杖を掲げる。
そして呪文を唱えた。
『マスター権限変更。ロナンドからシキへ譲渡』
「ん? 今のって」
『権限変更の命令を受諾しました』
凛とした美しい声が聞こえたかと思うと、シキの目の前に突然女性が現れる。
声の通り上品な雰囲気を漂わせた銀髪銀眼の美女で、地上から50センチほどの位置に浮かんでいた。
しかし精霊と呼ぶにはその服装は少し……いやかなり変だ。
ぽかんと見上げているシキに微笑んでから、美女が喋りだした。
『こちらの言語を理解されていないと思いますが、規則なので説明させて頂きます。マスター権限の変更によりシキ様にはこれから108の規約に同意して頂き――』
『いや、わかりますよ。思いっきり日本語だし』
『こちらの〈私はロボットではありません〉にチェックを入れて……えっ』
返事があるとは微塵も思っていなかったのだろう。
空中に新たに出現した画面について説明していた美女が、驚愕の表情を浮かべながらシキを華麗に二度見した。
「じいちゃん日本語使えたんだね。そうならそうと早く教えてくれればいいのに」
「えっ、なんじゃそれは」
「えっ」
三人とも驚きを隠せないまま、こうして精霊の加護の引継ぎが始まったのであった。
「つまりじいちゃんは日本語を喋れるわけじゃないのか」
「儂が知っているのは精霊を召喚するためのいくつかの呪文と、空中に現れる魔導書の扱い方じゃな。まあシキに精霊の加護を譲渡したから、儂にはもう精霊も魔導書も見えなくなったがのう」
「日本語での命令が呪文で、この人が精霊。魔導書ってのはこの利用規約のことかな」
『今は利用規約だけ表示していますが、同意して頂ければすぐにメインメニューをお見せしますよ!』
シキの呟きに空中に浮かぶ美女が答えた。
当初は凛として落ち着いた雰囲気を醸し出していたが、今は興奮していて鼻息も荒い。
ちょっと怖い。
「日本語だけでなくこの国の言葉もわかるんですね? ええっと」
『私は総合支援AIのオルティエと申します。私を含めた全ユニットのAIはマスターの指示を忠実に、且つ迅速に達成するため最上位品質の量子型中央処理装置を搭載し学習することが可能です』
「えーっと、つまり言葉を覚えることもできる?」
『はい』
「そこまで優秀ならじいちゃんに日本語を教えても良かったんじゃないですか?」
『優秀だなんてそんな……おっほん、失礼。私たちAIはマスターの忠実なる僕ですので、直接干渉する権限はありません』
シキに褒められて? てれてれと照れだしたオルティエであったが、途中できりりとした表情に戻った。
「そ、そうなんですか。それじゃあ早速規約を読みますね。なになに、
要約するとそれはネトゲの利用規約であった。
お馴染みの規約の定義、同意、変更、プライバシーといった注意事項が小難しい言葉で並んでいる。
ただしシキの知るものよりもこれらの規約は膨大で、より先進的なものであった。
「拡張表示の投影による脳への負荷ダメージについて……こわっ」
『規約上謳う必要があるだけで、実質的な危険はほぼありません』
「いやまあ、じいちゃんから引き継いだ以上、同意しないわけにはいかないんだけどね。規約って後で読み直すことも出来るんですか? それなら画面をスクロールして……おお、指だけでなく視線でも動かせるのか」
シキが長い規約に同意すると、視界に広がる画面が切り替わった。
中央は巨大なモニターになっていて、鬱蒼と茂る森林を航空写真のように俯瞰した映像が映し出されている。
画面の上部には〈ユニット〉〈部隊〉〈ガレージ〉〈設定〉などといった項目が並んでいた。
森林の中にいくつかの光点を見つけたので、シキがそのうちのひとつに意識を向けると、そのユニットの情報が小窓で表示された。
〈SG-071 シアニス・エルプス〉という名称と共に、重厚な装甲を纏った人型兵器の機体画像が映し出される。
「えすじーぜろなないち……オルティエさん、これってどう見てもロボットだよね」
『はい。正確には換装式汎用人型機動兵器ですが、俗称でスプリガンと呼ばれています。当初は圧倒的な継戦能力を揶揄され〈
「うーん惜しい。スプリガンといえば精霊じゃなくて妖精だよね」