精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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100話 一年前にできなかったこと

 〈SG-061 リファ・ロデンティア〉のドローンは便利だが数に限りがある。

 そのためタクティス子爵領には冒険者ギルド支店に一機しか設置しておらず、手に入る情報も冒険者ギルドと同等のものであった。

 

 リファの報告を受けてシキはそのドローンを座標にして〈ユニット転送〉を使い、冒険者ギルドの上空へとやってきた。

 

『前にゴードンたちをリーフマンティスの群れから救ったあたりか。あの時は他に異常はなかったよね?』

 

『はい。魔獣の異常繁殖は確認されませんでした』

 

『ということはやっぱり急に増えたのか。魔獣の生態を詳しくは知らないけれど、普通に繁殖したにしては早すぎる? ギルドでも言われていた通り見つかっていない迷宮からの氾濫説が濃厚なのかな』

 

 シキは〈SG-070 エイヴェ・サリア〉の複座から、タクティス子爵領の東部森林地帯をメインモニタ越しに眺める。

 既に魔獣とタクティス子爵騎士団と冒険者の混成軍の戦闘は始まっていた。

 

『多種多様な魔獣の軍勢に混成軍は苦戦してるみたいだな。なんか燃えてるトカゲもいるけど森林火災にならないのか』

 

『生木を一気に燃やすような威力はないようですが、放置するのは危険ですね』

 

『被害が拡大するようなら介入するけど……あっ』

 

 混成軍の最前線は乱戦状態だがその中にリティスの姿を見た瞬間、シキは躊躇わず行動に移した。

 〈降機〉コマンドで空中に飛び出す。

 

 肌に外気の冷たさを感じたのも束の間、体内に取り込まれているナノマシンがシキの脳内分泌に作用し、体感時間が大幅に加速した。

 まだ自由落下も始まっていない世界から地上を見下ろすと、乱戦の中リティスの背後から魔獣のガーゴイルが迫っているのが見える。

 

 ガーゴイルの武器である戦斧が振り下ろされ、今にもリティスの背中を切り裂こうとしていた。

 オルティエたちに助けるよう指示する余裕はなかったし、アトルランの原始的な武器では援護も間に合わない。

 

 だからストレージボックスから取り出し装備したのは、〈RP-CO0W1:Mondlicht〉だ。

 それはリストバンド型の装備で、バックル部分が青白く光るとシキの手の中にパルスで成形された光の刃が現れる。

 

 シキがそれをガーゴイルに向かって振るうと、刃が光波となって撃ち出された。

 一秒が十倍にも二十倍にも引き延ばされた世界を光波が飛んでいき、ガーゴイルが振り上げている戦斧の柄腹を切断する。

 時の流れが元に戻り、シキが自由落下を始めた。

 

「えっ」

 

 背後のガーゴイルにようやく気付いたリティスが振り向いた瞬間、彼女の鼻先を切断され短くなった戦斧の柄が通り過ぎた。

 ガーゴイルは魔法で生み出された魔獣なので感情を持ち合わせていない。

 だから突然短くなった戦斧に驚く様子は見せず、冷静に戦斧を手放し両手の鋭利な爪でリティスに襲い掛かった。

 

 ここでシキが地上に到達する。

 続けてストレージボックスから取り出したブロードソードの切っ先を真下にして、ガーゴイルの頭に突き下ろした。

 

 脳天を貫き下顎から切っ先が飛び出す。

 勢いはそのままガーゴイルは前のめりに転倒し、ブロードソードによって地面に縫い付けられる。

 この一撃でガーゴイルは絶命し、全身を砂に変え崩れて消えた。

 

「ええっ、シキ!? 一体どこから……」

 

「スース、リファ、エル。やっちゃって!」

 

「「「了解!!!」」」

 

 落下中に〈降機〉させていた三人も戦闘に参加させた。

 強化人間であるコアAIたちの戦闘能力は上位冒険者に匹敵する。

 

 スースはシミターで魔獣を斬り伏せ、リファは手にしたダガーで的確に急所を貫く。

 エルは素手で張り倒している……と見せかけてナックルダスターを装備している。

 

 Break off Online 由来の武装で敵を倒すと、死体は消失しCRに変わってしまうため、アトルランの武器で倒す必要があった。

 スースは刀を所望したが、さすがに見つからなかったのでシミターで我慢してもらっている。

 

「姉御、姉御がきてくれたんだ!」

 

「リファちゃんすげえ! つよつよだ!」

 

「エル様もすごいぞ! てか馬鹿力過ぎるぞ。一体何の加護なんだ」

 

 スースたちと面識のある冒険者たちが盛り上がっている。

 援護が辛うじて間に合ってシキは胸を撫でおろす。

 スースたちが戦線を押し上げるのを見ていると、戸惑った様子のリティスが話しかけてきた。

 

「シキたちがどうしてここに?」

 

「最前線に出ちゃ駄目じゃないか。リティ姉に何かあったらタクティス子爵が悲しむよ……えっと、ラスティ様の時はできなかったけど、俺の代になってこうやって精霊を動かせるようになったから、助けに来たんだ」

 

 シキの呼びかけに応じてゴスロリ衣装のオルティエが姿を現す。

 初お目見えの精霊にリティスや護衛騎士、冒険者たちが驚いて目を丸めていた。

 前回タクティス子爵領に来たときは一応お忍び設定だったが、今回は正式にエンフィールド男爵家として参戦するつもりだ。

 

「これ以上被害は出させないから安心してよ。精霊の力……がなくてもスースたちだけでなんとかなっちゃいそうだけど」

 

「シキ……ありがとう」

 

 窮地から脱出するだけでなく、魔獣の群れを一掃する希望が見えてリティスが瞳を潤ませている。

 何故かオルティエがやれやれと肩を竦めていたが、シキは見なかったことにした。

 

「シキ殿、活躍しているようだな」

 

「ランディ様? どうしてここに?」

 

 想定外の人物の登場に、今度はシキが驚く番だった。

 

「ようやく派閥内の調整が終わってな。視察団に合流するべくエンフィールド男爵領に向かっていたところだ。しかしタクティス子爵領内で魔獣の異常繁殖が発生したと聞いて、放っておけずここまで来たが、シキ殿がいて出番を奪われたところさ」

 

「でもこれって未発見の迷宮が関係している可能性が高いですよね? であればランディ様の知識をお借りしたいです」

 

「そうだな。魔獣を一掃したあとの調査には協力しよう。ああ、あと話は変わる上にこんな場所で何なんだが、エンフィールド男爵家について新たに決まったことの概要を伝えておこう。早く知って対応を考えてもらう必要があるからな」

 

 すっかり観戦モードになっているランディから、シキに向けて重要なことが告げられた。

 それは樹海が正式に〈エンフィールド大樹海〉と命名されたことと、樹海が開拓された暁にはエンフィールド男爵家の領地になるというものだった。




*誤字報告ありがとうございます*
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