精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~ 作:忌野希和
101話 考察される精霊使い
シキの使役する精霊は相変わらず規格外な存在だった。
蹂躙される魔獣を眺めながらランディは再認識する。
精霊オルティエが手を翳すと、上空から謎の攻撃が降り注いだ。
その攻撃は威力もさることながら、正確に魔獣の脳天を貫き一撃で死に追いやった。
オークのように体が大きければ頭が消し飛ぶだけで済むが、ゴブリンのような小柄な魔獣は悲惨だ。
謎の攻撃が脳天から股下へと貫通すると、衝撃が全身に伝わり破裂、爆散した。
仲間が死んでもゴブリンは怯まない。
死んだあいつは失敗しただけで自分は失敗しないと、根拠のない自信を抱きつつ敵に襲い掛かるはずなのだが……。
「おーおー、さすがに突然横の仲間が爆散したら怖いか。逃げ惑っているな」
ランディの言う通り、仲間が爆散しその肉片と血飛沫をもろに浴びたゴブリンは、恐慌状態になって森の奥へと逃げ出す。
しかし上空から戦場を見下ろす〈SG-070 エイヴェ・サリア〉の装備するライフル〈LR-017 RHODES〉による狙撃からは逃げられない。
轟く銃声と共にゴブリンが屠られていく。
まるで熟れた果物が地面に落ちて破裂したかのようだ。
いつも通りスプリガンは非表示なので、シキ以外には見えていない。
「これほど正確なら、最前線の魔獣を攻撃しても問題ないんじゃないか?」
「
精霊が魔獣の死体を喰らうというのも、ランディは初耳だった。
確かに精霊オルティエが倒した魔獣は暫くすると、破裂した死体もそうでない死体も霞のように消えてなくなる。
「既に相当数を倒しているが、全部消えているな。全部喰らっているとしたら随分と大食漢だ……おおっと、レディに対して失礼な言い方だったな」
ランディはちらりとオルティエの様子を伺うが、彼女は妖艶な微笑みを湛えながら淡々と魔獣を攻撃していた。
依然としてオルティエ自身やその攻撃からは、ランディの持つ魔眼をもってしても魔素が感じられない。
魔眼とはランディが神から与えられた【智慧神の加護】の
魔素は万物に宿る。
だから人体からも魔素が風呂上りの湯気のように、うっすらと立ち昇っているのが見える。
……はずなのだが、前線で暴れているスースたちからも魔素は見えない。
シキからスースたちは樹海で知り合い、エンフィールド男爵領に招いた領民だと紹介されている。
そのことについてランディに異論はない。
異を唱えてシキとの仲が抉れたり、最悪邪魔者と判断されて消されてしまえば、折角未知の存在と出会えたというのに研究ができなくなってしまう。
のらりくらり躱してきた王国の派閥争いに参加してまで手に入れたチャンスだ。
逃すわけにはいかない。
魔素は衣類や武具にも宿るため、裸でじっくり観察でもされない限り、スースたちのことは魔眼持ち以外にバレることはないだろう。
万全を期すなら強力な魔素を纏った魔術具や魔術武器を身に着けていたほうが、体から漂う魔素に見せかけて誤魔化すことができる。
今度それとなく助言する体で伝えれば、いい点数稼ぎになるかもしれない。
余計なことに気付いてしまったというピンチも、チャンスに変える男。
それがランディであった。
「というわけで精霊様の食事については他言無用だぞ。レニア」
「…………ええ、わかったわ」
ランディが話しかけると暫く間を置いてから、掠れた小さな声で返事がある。
レニアミルアは青ざめた表情で破裂する魔獣たちを見つめていた。
宮廷魔術師の序列第二位に君臨し、普段から落ち着きと余裕のある態度を崩さないのがレニアミルア・アミルアレニという宮廷魔術師である。
そんな彼女をもってしても精霊オルティエは想像の埒外にいたのだろう。
シキとは自己紹介を済ませてあるが、それより前にオルティエの暴虐ぶりを見せられたため動揺が隠せていない。
「言った通り一切の魔素を感じないだろう? シキ殿曰く、あれは《
顔色は悪いままだが宮廷魔術師としての探求心は健在のようだ。
ランディが質問に細い顎に手を当てたレニアミルアが考えを述べる。
「そうね……仮に魔素の隠蔽がないとするなら、魔素を探知できない時点で前者は成立しない。だけど後者であっても、石弾を撃ち出す時の魔素すら探知できないのもおかしい。つまり魔素の隠蔽は確実じゃないかしら」
「ふむ、魔素の隠蔽が前提なら、石弾を撃ち出すための魔素だけを隠蔽している可能性もあるか」
「どちらにしてもあの威力を出すだけで相当な魔力が必要だし、そこに魔素隠蔽に割く消費も考えると、宮廷魔術師が束になっても賄えない魔力量だわ」
「だよなぁ。これだけの魔力量があれば、レニアの《水壁》で俺の《雷撃》も防げそうだな」
「言ってくれるじゃない。確かに弱点属性でもこれだけの魔力量があれば覆せるでしょうけど」
「あのう、レニアさんって水魔術が得意なんですよね?」
「ええ、そうよ」
それまで二人の会話を黙って聞いていたシキが口を開く。
「それなら純水の壁を作れば《雷撃》も防げるんじゃないかなって」
「じゅん、すい?」
「……あ」
シキとしては大した話をしたつもりではなかったのかもしれないが、レニアミルアの反応を見て失敗だと気付いたようだ。
しかしもう遅い。
「そのじゅんすいとは何かしら?」
「ええとですね……」
シキによると水というのは不純物がたくさん混ざっていて、それらが雷の通り道になっているそうだ。
それに対して純水は不純物を限りなく減らした水のことで、雷の通り道がないので《雷撃》を防ぐことも可能になるらしい。
「私たちが普段認識している水は不純物が多い状態のものってこと? 魔素で作った水は純粋な水ではなかったの? その不純物というのが具体的に何なのか分からないわ。教えて! シキ様!」
「な、なんだったかなぁ。イオンって呼ばれてた気がするけど」
「シキ殿はどうして水の達人であるレニアすら知らないことを知っているんだ?」
「えーっと、精霊が気まぐれに教えてくれるというか、なんというか」
話を振られたオルティエが「ハァ?」みたいな顔をしているのは気のせいだろうか。
ランディは出会った時からこのシキという少年が妙に賢いとは思っていたが……。
精霊だけでなくシキ本人にも何か秘密がありそうだが、今はまだ追及する時ではない。
今後の楽しみが増えて思わずほくそ笑むランディであった。