精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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102話 迷宮はどこだ

 完全に失言だった。

 魔術で水を生成できると聞いたので、電気抵抗の強い純水も生成できるのでは? とそのまま口に出してしまったのがいけない。

 レニアミルアの反応からして、純水という存在自体を知らなかったのだろう。

 

「オルティエ様は水の上位精霊なのですか?」

 

「というわけでもないです……はい」

 

 エイヴェの狙撃による惨状に顔を青くさせていたレニアミルアはどこへやら。

 水に関する新たな気づきを与えられたことにより、シキとオルティエを見る目が変わっている。

 熱狂的な信者のそれだ。

 

「レニア、散々議論した後でなんだが今は戦闘中だ。論文を今この場で作るつもりか?」

 

「くっ、そうね。詳細はエンフィールド男爵領で、じっくり聞かせてもらいましょう」

 

 じっくりと言われても、シキの純水に関する知識は前世のネットで見た程度だ。

 知っていることはもう全部言ったし、詳しい作り方なんてわからない。

 

 自分から言い出した手前、もう知らないとは言いにくいし……。

 シキがちらりとオルティエを見ると、やれやれといった感じで首を振った。

 

『純水の生成は科学的にはそこまで難易度の高いものではありませんが、この世界において生成するのは難しいといえるでしょう。原始的な蒸留による純度の低い生成方法なら提示できますが』

 

「おおっ、ほんと?」

 

『また純水は空気に触れるだけで二酸化炭素や窒素、酸素が溶け込み純水ではなくなりますので留意が必要です』

 

「うーん、その辺は魔術でどうにかしてもらうしかないよね」

 

「精霊様はなんと?」

 

 オルティエの言葉はシキ及びスプリガンたちにしか聞こえない設定にしてある。

 これは精霊っぽく見せる演出であると同時に、日本語を解読されないための対策であった。

 

「簡易的な作り方を教えてくれるみたい。ありがとうオルティエ」 

 

『!? ……ま、まあマスターのフォローをするのが私の使命です。もっと頼ってくれても構わないのですよ』

 

 最初は呆れていたくせに、シキから頼られるという状況が琴線に触れたようだ。

 オルティエが頬を赤らめながらくねくねしている。

 

「よーし、次からは気をつけるぞ」

 

 不用意に頼ると過度な要求が飛んできそうだ。

 シキは猛省した。

 

 

 

 

 

「ごしゅ。おわったー」

 

「にぃに。つかれた」

 

「うん、お疲れ様」

 

 魔獣を掃討し最前線から戻ってきたエルとリファが、シキを挟みこむようにして抱き着いてきた。

 そんな二人の頭を撫でながら、シキは少し遅れて戻ってきたスースに対しても声をかける。

 

「スースも慣れない剣で大丈夫だった?」

 

「この程度の魔獣であれば問題ありません。御屋形様」

 

 そう言いつつスースはシキに抱き着いているエルとリファを凝視していた。

 シキにはわかる。

 本当はスースもシキに抱き着いて頭を撫でられたいのだと。

 

 スースは人前ではデレデレしないタイプだ。

 しかも冒険者たちが姉御、姉御と慕ってわらわらとついて来ているので、余計にそんな姿は見せられないだろう。

 

 そんなスースの性格を知っているエルとリファが悪い笑みを浮かべる。

 撫でているシキの手を掻い潜り、頬に頬を寄せてきた。

 

「ごしゅのほっぺふわふわー」

 

「ぐへへ、にぃにすべすべ」

 

「ちょ、やめ」

 

「……二人とも、はしたないからやめなさい」

 

「はしたなくないもーん」

 

「そうそう。スースもやりたきゃやればいいのよ」

 

 煽られて見る見るうちにスースの表情が剣呑なものになった。

 これはフラストレーションが溜まって、次の同衾の時が大変そうだなぁとシキは覚悟を決める。

 といっても一緒に朝までぐっすり眠るだけではあるが。

 

「あーもう、エルもリファも挑発しないの。はいスキンシップ終わり」

 

「シキ、さっきはありがとう!」

 

 シキが二人の包囲から脱出したところで、タクティス子爵領の騎士団を引き連れたリティスもやってきた。

 隣にいる騎士団長と思われる壮年の騎士が、シキに向かって恭しく一礼する。

 

「私はタクティス騎士団を率いるヴィフリートという者です。シキ・エンフィールド様、私からもリティス様を救って頂いたことを御礼申し上げます。魔獣掃討の助力を含め、タクティス子爵様へしかと報告させて頂きます」

 

「色々と間に合って良かったです。ですがまだ完全に終わったわけではないですよね? 魔獣の異常繁殖の原因を突き止めないと」

 

「その原因だが、未知の迷宮からの氾濫で間違いないだろう」

 

 ランディの発言に全員の視線が集まる。

 そしてレニアミルアが続きを説明した。

 

「いくら異常繁殖だとしても、これだけの量と種類の魔獣が一週間もしないうちに現れるとは考えにくいです。ですがもし森林地帯のどこかに未知の迷宮があり、その中で魔獣が繁殖し溢れ出たのであれば十分納得できます。それこそ一年分くらいの魔獣がいたのではないでしょうか」

 

 一年分と聞いてリティスが動揺しないわけがなかった。

 兄のランディが大怪我を負ったのは一年前の魔獣の異常繁殖の時だ。

 事件は終わっていなかったというのか。

 

「でもどうやったら未知の迷宮を見つけられるんだろう」

 

「それは〈大瀑布〉殿の出番だな」

 

 再びランディが発言すると、今度は〈大瀑布〉の二つ名を持つレニアミルアに視線が集まった。

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