精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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104話 樹海のはしっこ

 これでタクティス子爵領での事件は一段落した。

 リティスからお礼がしたいということで、タクティス子爵家の屋敷へと招待されたがシキは辞退する。

 

「魔獣による被害もあれば、その原因である迷宮も発見されました。これから忙しくなるのは間違いないので、お礼については後日で構いませんよ」

 

「わかったわ。シキたちの活躍はお父様に必ず伝えるから、絶対に来てね……助けてくれて本当にありがとう」

 

 リティスはシキを一度強く抱きしめてから、騎士団の一部を引きつれて去っていった。

 

「それじゃあ俺たちもエンフィールド男爵領に向かおうか」

 

「……あっ、ランディ様たちは先に向かってください。我々はちょっとやることがあるので」

 

 シキたちは〈ユニット転送〉でここまでやってきたため、当然移動手段となるような馬車も何もない。

 リティスがガーゴイルに襲われ絶体絶命で、あと少しでも助けるのが遅れていたらどうなっていたかわからなかった。

 だから後悔はしていないのだが、咄嗟に気の利いた言い訳も用意できず挙動不審になってしまう。

 

「ふむ……そうか。ではそうさせてもらおう。行こうレニア」

 

「シキ様。オルティエ様。純水の話、楽しみにしていますね」

 

 内心焦っていたシキだが、空気を読んだランディが素直に引き下がってくれたため事なきを得た。

 

「お前たちもさっさと帰れ」

 

「そんなつれないこと言わないで、酒場で飲みましょうぜ。姉御~」

 

 食い下がる冒険者たちを睨みつけ、殺気を飛ばすスース。

 しかしスースを姉御と慕う冒険者たちにはあまり効いていないようだった。

 

「スースはそっちのおじさんたちと行ってもいいよ。ごしゅじんはエルたちに任せて」

 

「は?」

 

「はいはい、またそうやってちょっかいをかけない。皆で帰るよ」

 

 伊達に332年間も一緒におらず、エルもスースも決して本気ではない。

 しかしお互いの性格を熟知しているからこそ、傍から見ると本気の喧嘩のように見える。

 シキとしてはちょっと冷や冷やする。

 

 リティスと共に帰らなかった騎士団は迷宮から魔獣が出てこないよう見張るそうだ。

 シキたちは彼らと冒険者に別れを告げ、適当に移動し周囲に誰もいなくなったところで〈ユニット転送〉を使い秘密基地〈エアスト〉へ帰ってきた。

 

『おかえりなさい。ボス』

 

『ただいま。セラ』

 

 セラと日本語で挨拶を交わしたシキが、入った食堂に漂う美味しそうな匂いに気が付いた。

 

『いい匂いがするね。今日は何を作ったの?』

 

青椒肉絲(チンジャオロース)もどきよ。キルテからピーマンに似た苦味と歯ごたえの野草を教えてもらったから作ってみたの』

 

『この世界ではある意味セラが青椒肉絲の第一人者なんだし、毎回もどきをつけなくてもいい気がするけど』

 

『本物を知っていて及ばないとわかっているから、名乗りにくいのよね』

 

『セラの料理はどれも美味しいよ』

 

『うふふ、ありがとうボス。糧食の白米を使って青椒肉絲丼にしてあげるわね』

 

『やったぜ』

 

 エアストの食堂で腹ごしらえをしながら、シキはオルティエから樹海で発見した迷宮の詳細を聞く。

 拡張画面に小型情報端末(リーコン)から収集した映像が映っている。

 

『迷宮ですが、防衛ラインの北東側で発見されました。見た目は山脈の麓にある普通の洞窟のようですが、洞窟の穴の内側と外側では別空間になっていることを確認しました』

 

 シキは樹海の地図を頭の中に思い浮かべた。

 樹海とレドーク王国は332年間、スプリガンの200km強ある防衛ラインにより隔たれている。

 防衛ラインには当然両端が存在するが、そこから大型魔獣がレドーク王国側へ流入することはない。

 

 何故なら西側は海、東側は山脈で閉ざされているからだ。

 そして今回見つかった洞窟は東側の山脈の麓であった。

 

『防衛ラインから見て北東側ということは人類未踏、未発見の迷宮ってことでいいのかな?』

 

『はい。周辺に亜人の里もないため人類には発見されていないと思われます』

 

『うん? なんか含みのある言い方だね』

 

『青椒肉絲丼は食べ終わりましたね? ではこちらを御覧ください』

 

 オルティエの声に合わせて拡張画面の映像が変化した。

 麓の洞窟を斜め上から見下ろしていたものが反転して、洞窟側から外を見上げるような視点に切り替わる。

 そこに映っていたものを見て、シキは思わず声が出た。

 

『うげっ、なんだこいつ。気色悪い』

 

 それは汚泥に浮かぶ触手の塊だった。

 汚泥の大きさは直径十数メートルくらいだろうか。

 

 その中央では無数の触手が球状に絡まり蠢いている。

 よく見ると触手から分泌した液体が滴り落ちて汚泥を生み出しているようだ。

 

『これは仮称:β556。以前に樹海の南東側に縄張りを持っていると説明した魔獣です』

 

『栗鼠、竜、狼にシマエナガときたから、残りも可愛らしい奴かと思ったら、なんかでかくて気色悪い奴だったとは』

 

『また内包する魔素のエネルギーパターンからすると、厳密には魔獣ではなく闇の眷属(ミディアン)のようです』

 

 闇の眷属とは、アトルランと呼ばれるこの異世界の外からやってきた敵だ。

 派遣したのは外様の神という存在で、アトルランへの侵略を目論んでいる。

 

『もしかしてこいつを倒さないと迷宮に入れない?』

 

『そうですね。無視して迷宮に入ろうとしても、間違いなく妨害されるかと。理由はこれです』

 

『ん?』

 

 迷宮の入口から白いもこもこした、可愛らしい羊型の魔獣が出てきた。

 どうやらタクティス子爵領にあった迷宮と同様に魔獣が氾濫しているようだが……。

 

 魔獣を発見した闇の眷属が反応し、瞬く間に襲い掛かった。

 触手の中から汚泥まみれの太い腕が飛び出し、素早く魔獣を捕まえると触手の中に放り込む。

 いつの間にか触手を掻き分けるように巨大な人間の口が出現していて、魔獣を一飲みにしてしまった。

 

『うわ、食われちゃった』

 

『どうやら迷宮から氾濫した魔獣を食料にしているようです』

 

『自動餌やり機の前で待機している猫みたいだね。いや猫より圧倒的に気色悪いけど』

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