精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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105話 神の末端

「ねえじいちゃん、母様。こんな闇の眷属って知ってる?」

 

 エンフィールド男爵家の屋敷に戻ってきたシキは、二人に仮称:β556の姿を説明した。

 タクティス子爵領でランディとレニアミルアを見送っているので、シキが先にエインフィールド男爵領にいるのはまずい。

 なので屋敷の外には出ず、事情を知っているロナンドとエリンにだけ相談する。

 

「――――といった感じで、ばっちい奴なんだけど」

 

「汚泥に浮かぶ触手の塊、か。いかにもな様相じゃが、知らない闇の眷属じゃのう」

 

「私も聞いたことないわ」

 

「そっか。まぁ正体はよくわからないけど倒しちゃうか。見た目的に素材が有益そうにも見えないし」

 

「まぁ待つのじゃ。折角視察団がいるのだし、彼らに聞いてみてもよかろう。儂がちょっと行ってくるから、シキは待っておれ」

 

「ありがとうじいちゃん! あ、それなら小型情報端末でこっそり撮影してもらおうかな。説明してもらう手間が省けるし」

 

『はい。お任せくださいマスター』

 

 視察団への天幕へ向かうロナンドの後ろを、円筒状の小型情報端末がふわふわ飛んで追いかけた。

 換装式汎用人型機動兵(スプリガン)器が射出する小型情報端末なので、その大きさは大人の上半身ほどある。

 もし誤って人と衝突すれば大惨事だが、現在は表示設定も物理判定もオフなので問題ない。

 

「ちょっとよいかのう」

 

「はい、なんでしょうか? エンフィールド男爵様」

 

 出迎えてくれたのは若い女性で宮廷魔術師のサマンサだ。

 視察団としてやってきた当初、サマンサはエンフィールド男爵家の噂に懐疑的だった。

 

 しかし魔素を全く纏わないオルティエを目撃して絶句。

 目からハイライトが消えて背景を宇宙にしたりもしたが、すぐに現実を受け入れたようで真面目に樹海の調査に従事していた。

 

「前に樹海に生息している魔獣の聞き取り調査をしていたじゃろう? 一体新たに思い出したから話にきたのじゃ」

 

「ええっ、本当ですか!? 少々お待ちください。今筆記具の準備をしますので」

 

 サマンサは魔獣の生態を専門に調べている宮廷魔術師で、魔素を多分に蓄え他所とは違った独自の生態を持つ樹海の魔獣に夢中になっていた。

 興奮を隠せないサマンサはロナンドを天幕内へと招き入れると、大急ぎで筆とインクと紙を用意する。

 

「その外見からおそらく闇の眷属だと思うのじゃが……」

 

 ロナンドがシキから聞いた外見情報を、さも自分が見たかのようにサマンサへと伝える。

 

「汚泥に浮かぶ触手の塊ですか。その闇の眷属は倒したのですか?」

 

「いや、なんかばっちいし縄張りからは出てこないから放置したのじゃ」

 

「ばっちい……また随分と個性的な闇の眷属のことを忘れていたのですね」

 

「ふぉっふぉっふぉ。年は取りたくないものじゃのー」

 

 笑って誤魔化すロナンドに多少違和感を覚えたようだが、サマンサはすぐに闇の眷属へと意識を戻す。

 メモを取っていた手を止めると、再び自分の荷物を漁り始める。

 取り出したのはサマンサが両手で抱えるほどの巨大な本だった。

 

「おお、次元収納ですかな」

 

「小さいのでこの本一冊しか入らないのですが、仕舞っている間は湿度や日光の影響を受けず本が傷まないので重宝しています。この本は私がこれまでに見聞きした魔獣を全て記したものです」

 

 サマンサは机の上に大きな本を乗せると、丁寧にページを捲る。

 そこには小さい文字や緻密な魔獣のイラストがびっしりと書き込まれていた。

 

「ええと……これですね。創造神からアトルランの簒奪を目論む外様の神は沢山いますが、その中でも〈悪魔卿〉は八つの師団を率いています。そして第八師団〈腐乱の群衆〉に所属しているのが〈無敗をもたらすもの〉です」

 

「んんー。急にそれっぽい用語が沢山出てきたぞ」

 

 小型情報端末の映像越しに見ていたシキが唸った。

 

『どうやら以前倒した呼称:山崩しとは別の外様の神の先兵のようですね。山崩しとはこれまでに十七度遭遇していますが、仮称:β556、改め呼称:無敗をもたらすものは今回の個体以外とは遭遇した履歴がありません』

 

「え、三度目って言ってた竜族のシュヴァルツァよりも珍しいのか。もしかしてすごく強い?」

 

『魔素量を基準に観測した限りでは、呼称:聖樹守りやシュヴァルツァとの大きな差は認められません。レドーク王城にあった資料はスキャン済みですが、外様の神の情報については不足しています。マスター、別所での情報収集の機会を頂けないでしょうか』

 

「そうだね。情報があるといったら王立図書館とかかな? 思いっきりデジタル万引きだけど今更かぁ……」

 

 シキが良心の呵責で苦笑いを浮かべている間も、拡張画面の向こうのサマンサは解説を続けていた。

 

「〈無敗をもたらすもの〉という名前ですが、ここで言う無敗とは勝ち負けだけでなく、腐敗を無にするという意味も込められています。触手から滴る汚泥のようなものが、腐敗すら許さない猛毒らしいのです」

 

「らしいということは〈無敗をもたらすもの〉については、聞いた情報を書き残したものだったのかの?」

 

「その通りです。〈無敗をもたらすもの〉は絶対的な目撃数が少ないのですがその理由として、外様の神の末席に連なるものだからだという説があります」

 

「なんと!?」

 

 外様の神そのものかもしれないと聞いて、ロナンドは驚愕していた。

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