精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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106話 ジンギスカン食べたい

「どうして外様の神が地上におる? 世界網があるはずじゃろ?」

 

 ロナンドが驚くのも無理はない。

 世界網は創造神がこのアトルランを外敵から守るために張った結界だ。

 

 名前の通り網目状の結界で、外様の神のような巨大な力を持つ存在の侵入を防いでいた。

 世界網に阻まれてアトルランに降りられないからこそ、外様の神は世界網を通り抜けられる矮小(神と比べると、だが)な存在である闇の眷属を先兵として派遣している。

 

「世界網は魔素や神力が大きい存在を通さない結界です。それらが結界の網目より小さければ、理屈上は何でも通過することが可能です」

 

「ふむ、つまり〈無敗をもたらすもの〉は世界網を通れる程度の弱い神力を持った存在だと」

 

「何故弱い神力を〈無敗をもたらすもの〉が持っているのか? 何故それができるなら他の闇の眷属は神力を持っていないのか? 弱い神力で何ができるのか……私も書物での情報しか持っておらず、仮説しか立てられません。謎だらけなのです。もしかして討伐に出向くのですか? であれば是非お供させてください!」

 

「いやいや、神力を持っているとなると危険そうじゃ。何が起こるかわからないし、奴が縄張りから動かない限りは手出しせんよ」

 

「そうですか、残念です……」

 

 ロナンドが首を左右に振ると、サマンサはがっくりと項垂れた。

 数秒俯いた後、急に顔を上げてロナンドをハイライトの消えた瞳で見つめる。

 

「男爵様に言うのは大変無礼で自分の力不足を白状するだけなのですが、精霊様たちは意味不明過ぎます。どう調べても魔素を感知できないし、魔素隠蔽の痕跡も見当がつきません。もう調べられることがほとんどないのです」

 

「そ、そう言われてものう。エンフィールド男爵家の精霊は昔から見えないものじゃし」

 

『当然です。我々の被探知性(ステルス)は誰にも破られません』

 

 画面越しに様子を見ていたオルティエが得意げに頷く一方で、シキはサマンサの不安定な情緒に嫌な予感がした。

 

「何か、何か精霊様の謎を解くヒントをください。成果がないんです。成果が欲しいんです。何でもしますからぁぁぉぁぁ」

 

「うおおお、おち、落ち着くのじゃサマンサ殿」

 

「ちょ、やばいやばい。母様助けてきて!」

 

「え、なに?」

 

 サマンサがロナンドの肩を掴んで激しく揺さぶり出したので、シキは慌ててエリンに助けを求めた。

 拡張画面が見えずシキが慌てる理由がわからないまま、エリンは言われた通り天幕へと向かう。

 

「あ、これはまずい。サマンサさん、落ち着いて! お父様の首がもげる……もげる!」

 

 見た目は学者然としていて華奢なサマンサだが、持ち前の加護の力なのだろうか。

 揺さぶる力は強烈で、首が座っていない赤子のようにロナンドの首がぐらぐらしていた。

 

 

 

 

 

「ふう。亡き妻エリザが川の向こうに見えたわい」

 

「じいちゃんごめん。俺が余計なお願いをしたばっかりに」

 

 なんとかエリンの救出が間に合い、ロナンドが屋敷へと逃げ戻ってくる。

 我に返って平謝りするサマンサは、騒ぎを聞きつけてやってきたリックスに預けてきた。

 後で追加のフォローが必要だろう。

 

「治療薬を使ってもらったから大丈夫じゃ。ぴんぴんしとる。しかし視察団へのフォローは必要かもしれないのう。成果を持ち帰らせないと、エンフィールド男爵領の評価にも関わる」

 

「精霊の謎は教えられない。となると〈無敗をもたらすもの〉の調査か。ただの闇の眷属じゃなくて、外様の神そのものかもしれないって話だし。小型情報端末のスキャンで神気の判別はつく? オルティエ」

 

『エネルギー波形の差異から神気のパターンを得られる可能性はありますが、現時点ではサンプルが不足しています。樹海に生息する魔獣のデータ収集を進めます』

 

「うん、お願いするよ。別に急ぐものでもないし討伐は一旦保留だね。イルミナージェ様やもうすぐ到着するランディ様も含めて相談しよう。迷宮が気になるけど仕方がない」

 

『マスター。スプリガンでの調査なら呼称:〈無敗をもたらすもの〉を倒さずとも可能です』

 

「迷宮は奴の縄張りの中にあるけど、非表示設定ならバレないか? それなら頼もうかな。羊型の魔獣以外に何がいるかも気になるし」

 

「羊型の魔獣? 綿毛羊(フラフィーシープ)かしら。あの子の毛は衣料用として人気があるだけじゃなく、お肉が美味しいのよねぇ」

 

 食いしん坊なエリンが過去に食べた綿毛羊の味を思い出しているのか、頬に手を当ててうっとりしている。

 シキも美味しい羊肉と聞いては黙ってはいられなかった。

 

「羊肉……ジンギスカン食いたい……」

 

「じん? なんじゃって?」

 

「タレがないのが悔やまれる……専用の鍋も用意しなきゃ……」

 

「おーい、シキ」

 

「はっ、ごめんじいちゃん。道産子の魂が疼いて我を忘れていたよ。〈無敗をもたらすもの〉は後回しにして、先にオルティエたちに迷宮調査をお願いすることにしたよ」

 

『プリマ、聞いていましたね? 斥候能力に長けた貴女に迷宮調査を任命します。マスターは羊肉をご所望です。失敗は許されませんよ』

 

『……ん、承知。命に代えても羊肉を手に入れる。そして主君への献上品とする』

 

『いやいや、全然そこまでじゃないからね? 安全第一で頼むよ?』

 

 敵武将と刺し違えてでも首を取るつもりか? そう勘違いしそうなほどに気迫の籠ったボイスチャットが聞こえてきたため、シキは慌てて釘を刺した。

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