精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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108話 迷宮とは何ぞや

 迷宮内でも小型情報端末(リーコン)が問題なく稼働している。

 ということは〈ユニット転送〉も可能であった。

 綿毛羊の群れの上に非表示設定のスプリガン〈SG-069 プリマ・グリエ〉が出現する。

 

「ねえ母様。迷宮内部に空があっても本物じゃないんだよね?」

 

「そうね。どこまでも続いているように見えても、空と地平線には終わりがあると言われているわ」

 

『マスター、小型情報端末によるスキャン結果を報告します。上空2000メートル地点にて地表と並行に続く物質反応がありました。これが天井だと思われます』

 

『ちょっと気になるからスプリガンで行ってみようか。アリエ、転送してもいい?』

 

『いいわよ~』

 

 〈SG-068 アリエ・オービス〉を追加で迷宮内に転送し、真上へと飛んでもらう。

 空に太陽の姿はないのに不思議と周囲は明るく、雲一つない青空が広がっている。

 上空2000メートル地点にはすぐ到達したが、依然としてアリエの頭上には青空がある。

 

『見えない壁があるわね。攻撃してみる?』

 

『いや、今はまだ慎重に行動しよう。迷宮は神々が人類に課した試練らしいし、うっかり敵対しちゃったらまずい』

 

 一通り迷宮内の環境を調査した結果、太陽が見えず不可視の壁がある以外は自然環境そのものであるということがわかった。

 地上はどこまでも牧草地が続いているが、空と同様に2000メートルも進むと見えない壁で阻まれている。

 

 壁の向こうにも牧草地が続いて見えるが進めない。

 視覚的には地上と変わらないが、実際には閉鎖空間であるにも関わらず風が吹いているし、暫くすると頭上には雲がちらほらと見え始めた。

 エリン曰くそういった自然現象も迷宮の力で管理されているらしい。

 

「重力とか気圧とか空気の浄化とかどうなってるんだろう? 最初に土地や水、牧草、綿毛羊は外から持ち込んだのか? 謎が多すぎる」

 

「神々のやることだし、私たちにはわからないすごい力で成り立っているんじゃない? そういえば見えないのにある壁って、ちょっと精霊様に似てるわね」

 

「似てる、ねぇ……」

 

 エリンにとっては何気ない一言だったが、シキの頭の中で反芻される。

 普通の精霊ともかけ離れた強力で異質な存在。

 それは神の領域に……。

 

「ところでその迷宮は綿毛羊がいるだけなの? 他には何もないの?」

 

「迷宮の入口から南西に1300メートル進んだ地点に地下への階段を発見しました」

 

 エリンの質問にオルティエが答えた。

 

「やっぱり精霊様の力ってすごいわ。外から自由に出入りできて探索し放題なんだもの」

 

「出入りに関してはスプリガン本体を経由する都合、広い空間がないと無理だけどね。小型情報端末での偵察なら可能だから、今度タクティス子爵領で見つかった迷宮もこっそり見学しようかな」

 

 オルティエが発見した第二層へ続く下り階段は石畳で作られており、古典的なダンジョンの雰囲気を醸し出していた。

 ちなみに迷宮の内部から見た外界への出口は、牧草地の空間にぽっかりと開いた暗闇である。

 

『この入口から誤って飛び出してしまった綿毛羊が、ムハイの餌食になっていたということか。第二層へ迷い込んだり、逆に向こうから違う魔獣が来たりもするのかな? 俺もそっちに行っていい?』

 

『主君はまだ駄目。第二層も確認して安全が確保されてから。そしてまずはこの綿毛羊たちが安全かどうか、じっくり調査する必要がある』

 

 などと普段より厳しい目つきでプリマが言っているが、その手は自身に群がる綿毛羊の毛並みを撫で続けている。

 赤いマフラーで隠れている口元は、もしかしたら緩みきっているかもしれない。

 

 それにしても綿毛羊たちはお行儀が良かった。

 プリマの尻尾や風に揺れる長いマフラーを食むようなことはなく、みちっと密集しながらも器用に入れ替わり立ち代わり、プリマに撫でてもらっている。

 

『そういうことなら綿毛羊はもう大丈夫だから、早速第二層も調査してもらおうかな』

 

『あっ』

 

 名残り惜しそうな声と共に、綿毛羊の群れの中心からプリマの姿が消える。

 シキが〈搭乗〉コマンドで〈SG-069 プリマ・グリエ〉の操縦席に戻したからだ。

 調査のためであるからして、決していじわるではない。

 

『第二層の入口周辺の安全が確認できたら、綿毛羊の調査に戻っていいから』

 

『すぐに調査する』

 

 切り替えの早いプリマがスプリガンを操縦して下り階段の元へ飛んでいく。

 第二層への下り階段は螺旋状で、例の如く途中から暗闇に覆われていて先が見えなかった。

 〈降機〉で螺旋階段の前に降り立ったプリマが小型情報端末を伴って調査を始める。

 

『シキく~ん。お姉さんも羊ちゃんたちと戯れたいわ』

 

『プリマの手伝いはしてくれないの?』

 

『適材適所よ。荷電粒子収束射出装置(ラプソディ)で焼き払う状況になったら頑張るわ』

 

『確かにアリエが機敏に動いて斥候する姿は想像できないかも』

 

『ちょっと~』

 

 ウェーブのかかった白銀髪が特徴的なゆるふわ美女が、迷宮の入口付近に現れる。

 泥濁(カーキ)色のブレザーとミニスカート姿で、肉感的な太腿と白のニーソックスが作り出す絶対領域が眩しい。

 

『さぁおいで、羊ちゃんたち……って、あれぇ?』

 

 アリエがさぁ来いと両腕を広げているが、さっきまでプリマに群がっていたはずの綿毛羊が、びっくりするほど一匹も寄ってこない。

 まるでアリエがいないかのように、まったり牧草を食んでいる。

 

『どうして~、お姉さんにもなでなでさせてよ』

 

 我慢できずアリエから一匹の綿毛羊に近付くと、視界に入ったからか「Baa Baaaaaa」と鳴いて突撃していった。

 

『お、ようやく歓迎してくれたのかな?』

 

『いいえ、あれは攻撃されてますね』

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