精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~ 作:忌野希和
第二層への螺旋階段を降りていくプリマの姿を、
石造りの階段には窓も光源もないのに、不思議と周囲はほんのりと明るい。
階段を降りるプリマの足元が、拡張画面越しに見守っているシキからもしっかりと見えるほどだ。
十階分ほど降りてようやく階段が終わると、鉄格子の嵌ったゲートが出現する。
プリマが近づくと鉄格子は勝手にガラガラと音を立ててせり上がった。
『坑道?』
『そのように見えますね』
ゲートの先は石畳ではなく、剥き出しの岩盤で覆われたトンネルだった。
トンネルは真っすぐ伸びていて、階段と同様に光源はなく薄暗いが視界は確保されている。
『前世における坑道といえば石炭や鉱石だけど、ここもそういうものが採れるのかな? それとも単に坑道風のダンジョンなだけ?』
『スキャン結果によると鉱山として有用な鉱物の含有量は少ないようです。代わりに高エネルギー反応の物体が埋没しています』
『ふむ、
『主君、魔獣の気配はなし。第一層と二層を繋ぐ階段にも魔獣が通った痕跡はなかったから、一層の安全は保障された。だから戻ってもいい?』
『そうだね、一旦戻ろうか。ありがとうプリマ』
綿毛羊を撫でたくて仕方がないプリマが第一層に戻ると、アリエの戦いは続いていた。
突進してくる綿毛羊たちを紙一重で躱し続けている。
『闘牛かな?』
『ねえ、どうして羊ちゃんたちは私に攻撃してくるの? ちょっと撫でたいだけなのに』
『アリエは群れの新入りなんだから立場をわからせる必要がある』
『ちょっとそれどういう意味? 私が新入りだとしたらプリマは何なのよ~っ』
プリマが現れると綿毛羊たちはコロッと態度を変えた。
アリエには見向きもしなくなり、プリマ元にわらわらと集まると再びおしくらまんじゅうを始める。
『マフラーで口元が見えないけど、プリマは絶対勝利の笑みを浮かべてるよね』
『ふふん』
『ぐぬぬ……ほら、シキくんも安全になったんだからおいで。そしてお姉さんと一緒に羊ちゃんにどつかれましょう?』
『何故俺もそっち側だと? いやまぁその可能性が出てきたから、そっちに行く気が薄れてたんだけど』
『おねがいよぉ~。お姉さんの仲間になって』
アリエに懇願され仕方なく、シキは〈SG-068 アリエ・オービス〉の複座に〈搭乗〉する。
そして〈降機〉で迷宮の第一層へと降り立つ。
『おお、拡張画面越しに見てたけど、本当に迷宮の中なのかと疑いたくなるねこれは』
気温は暑くもなく寒くもなく、空気はカラッとしていて、心地よい風がシキの頬を撫でる。
前世の故郷の初夏くらいの気候とよく似ているだろうか。
シキの横に出現したオルティエも、風になびく髪を手で押さえていた。
『違うのはどこにもない太陽と、全方位地平線なところか。地元は盆地で四方が山だったしなぁ。さて……』
シキを発見した一部の綿毛羊たちが近寄ってくる。
襲われても対処できるように、着込んでいるパワードスーツ〈GGX-104 ガイスト〉の出力を上げるが……。
「「「Baa Baa Baaaaaa」」」
「「「Maa Maa Maaaaa」」」
『うわーーッ』
「新しい迷宮が見つかったのですか!?」
「はい。場所はタクティス子爵領の北東部に広がる森林地帯です。エンフィールド男爵領の領境からも近い位置にあります。あくまで直線距離ですが」
エンフィールド男爵領へ到着したランディとレニアミルアが、イルミナージェ第一王女と面会している。
迷宮発見の知らせを受けてイルミナージェは驚きを隠せない。
それもそのはず、迷宮は発見された領地の経済に大きな影響を与えるからだ。
迷宮から産出されるであろう魔獣の素材、宝物、資源は富を生み、富を求めて人々が集まる。
「迷宮の詳細はわかっているのですか?」
「レニアが発見したばかりですのでまだわかりません。ですが今回だけでなく一年前にもタクティス子爵領で発生している魔獣の異常繁殖は、この迷宮からの魔獣の氾濫が原因だと思われます。発見された魔獣の素材が流通するだけでも、派閥内での影響力は大きく増すでしょう」
「タクティス子爵家の寄親は第二王子派のフロント伯爵家でしたか。このままだと新たな成果のない第一王子派は苦しい立場になりそうですね。本来なら次期王に一番近いはずなのですが」
「このままエンフィールド男爵領が発展すれば、第一王女が女王になることも可能なのでは?」
ランディが揶揄うように言うと、イルミナージェは含みのある微笑を浮かべた。
「私はあくまで他派閥の抑止力になりたいだけです。単一の派閥が権力を持ち過ぎれば、暴走した時に止めることができませんから。王に迎えたい殿方がいないわけではないのですが、色好い返事は頂けていないのです。ですが諦めては―――」
『王様なんてやりたくないなぁ』
拡張画面の映像を見ながらシキがぼやく。
イルミナージェとランディの会話は、小型情報端末によって筒抜けになっていた。
『一国の王程度では役不足です。マスターには最低でもこの神無き大陸の支配者になって頂かないと』
『いやならないよ? 樹海の迷宮も暫くは黙っていた方がよさそうだね。抑止目的の派閥が最大勢力になったらまずいし。樹海の外の資源だけでも十分やばいかもだけど』
『我々が主導しない限り、樹海の開発は数十年単位の時間を要するでしょう。そしてそれは我々が主導するならば、開発スピードを制御できるということでもあります』
『なるほど。それじゃぁ開発を制御するためにも、樹海と迷宮の調査は進めないと……あと五分だけ寝かせて』
シキが白いもこもこの上に寝転がる。
そこは懐いて寄ってきた綿毛羊の群れの背中の上であった。
密集しているため、天然の羊毛ベッドと化しているのだ。
『五分と言わず好きなだけお眠りください、マスター。調査は我々スプリガンにお任せを』
オルティエがシキの頬を優しく撫でる。
柔らかい感触と心地よい揺れもあって、シキはあっという間に眠りについた。
ちなみにアリエは不貞腐れながら樹海の防衛に戻ったので、とっくにいない。