精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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114話 大丈夫、スプリガンの攻略本だよ

「そんなことまで教えてもらっていいんですか?」

 

「別にこれは金になるような内容でもないからいいぜぇ」

 

 王城の書物を一通りスキャンしてわかったことがある。

 知識や技術の類はあまり文書化されていないということだ。

 

 それもそのはず知識や技術は手に入れた者の財産であり武器であるため、それを文書化して不特定多数に知らしめるというのは一方的な損でしかなかった。

 仮に他者へ教えるとしても口伝に限られ、必要以上に知識や技術が流出しないよう対策するのが定石なのだ。

 

 また識字率が低く書物にしても読める人間が限られているため、効率が悪いから文書化しないという側面もあった。

 では何故ベンジャミンが迷宮について色々と教えてくれたかだが、最低限度の知識もなければ他のパーティーに迷惑をかけてしまうかもしれない。

 後々に自分たちの手を煩わされないようにするための防止策であった。

 

「さて、最後に地図を買わないか? 第二層までのもの。それとお前たちはしなさそうだが、第三層以降の地図を売買するのは暗黙のルールで禁止されている。情報を共有していいのは初心者向けの第二層までってことさぁ」

 

 別になくてもそれほど困らなかったが、冒険者の描く地図に興味はあったのでシキは購入することにした。

 受け取った地図は使い古された羊皮紙で、おそらくこれまでに沢山の初心者冒険者たちの間で売買され、探索の一助になってきたのだろう。

 

「もしかしてこうやって初心者に渡すために、いらなくなった地図を買い取って持ってたんですか?」

 

「ひひっ、さてな」

 

 ベンジャミンはニタリと笑ってから、仲間を引き連れて去っていった。

 ちなみにベンジャミンは第三位階冒険者で〈早撃ち〉という二つ名を持っているそうだ。

 何が〈早撃ち〉かといえば魔術で、あの盗賊風な外見をしていて魔術師だというのだから、本当に見た目と中身が一致しない人物であった。

 

 

 

 

 

 

 

「地図ってどんなことが書いてあるの?」

 

「おおまかな迷宮の構造と、固定罠、出現する魔獣の情報みたいだね」

 

 地図を広げているシキの背後からアリエが覗き込んでくる。

 抱きしめる、というかのしかかるようにしてシキの頭に乗せてくるので重たかったが、当然そんなことは言えないので黙って意識を地図に戻す。

 

「まぁ手書きだし縮尺は適当だね」

 

『取得した地図情報をマップデータへと反映させます』

 

 またどこからともなくオルティエの声が聞こえてきて、拡張画面に映るマップに罠情報が追加される。

 迷宮へ入る時、シキとアリエの他に非表示状態の小型情報端末(リーコン)を忍ばせてあった。

 

 小型情報端末の索敵範囲は直径5kmほどあるため、一度のスキャンで第一層全体の構造の取得が完了している。

 第一層は点在する小部屋が細い通路で繋がっていて、入口から一番遠い第二層への下り階段がある小部屋まで2kmほど離れていた。

 

 シキたちがインプと戦っている間に小型情報端末は第二層へ移動し、こちらの構造もスキャン済みである。

 第一層と変わって第二層は、一辺が2kmの正方形の空間が壁や扉で仕切られた構造になっていた。

 ベンジャミンから買った地図の第二層の情報は大雑把で、本当は小部屋が三つある空間がまとめて一つになっていたりはするが、おおよその位置関係は正しいようだ。 

 

「なんていうか、ずるいよね。小型情報端末って。今俺の目に映ってる地図をそのまま清書して攻略本にしたら絶対売れるよね。やらないけど」

 

『このまま第三層へ向かいますか?』

 

「いや、戻ってきてもらおうかな。しかし第一層も二層も微妙に狭くてスプリガンを転送できないなぁ。転送できれば中継ポイントにできるのに。あ、でも出入りをアートリース伯爵領の兵士が管理してるから、不正侵入になっちゃうか」

 

「そんなのバレなきゃいいのよ」

 

「そうかな……まぁバレる可能性はほぼないけど。あと迷宮からの脱出は〈搭乗〉で外のスプリガンに転送すれば余裕だね。でもうっかり脱出しちゃうと迷宮での行方不明扱いになるから気を付けないと」

 

『マスター、スプリガンですが一時的にであれば迷宮に〈ユニット転送〉する手段があります。転送する空間がなければ作ればよいのです』

 

「え、まさか……」

 

『まずは人が寄り付きにくい迷宮の端のフロアに向かいましょう』

 

 オルティエの指示で迷宮の入口と第二層への下り階段、そのどちらからも遠い小部屋へと移動する。

 小型情報端末がリアルタイムに第一層全体をモニタリングしているため、他の冒険者や魔獣を避け遭遇することなく目的地に到着した。

 

『それではマスター、〈RP-CO0W1:Mondlicht〉で指示通りにお願いします』

 

「やっぱりか」

 

 ご丁寧にシキの拡張視覚に切り取り線が表示されている。

 天井を正方形に切れという指示だ。

 

 シキはストレージボックスから〈RP-CO0W1:Mondlicht〉を取り出し装備した。

 それはリストバンド型の武器で、バックル部分が青白く光るとシキの手の中にパルスで成形された光の刃が現れる。

 

 光の刃を天井に向かって振るうと、刃が光波となって撃ち出され天井に切り込みを入れた。

 光波を四度飛ばし、四辺が切り抜かれた状態にしてから複数方向から斜めに光波を放てば、切り離された天井が次々と落下してくる。

 

 落ちてきた天井は轟音を響かせながらシキの目の前に積み上がっていく。

 しかしそれも一瞬のことで、すぐ空気中に溶けて消えた。

 

「迷宮を構成する物質も魔法生物と同じで魔素で作られているのか」

 

『修復には数時間かかるとのことですので、その間であればスプリガンをここに転送することができるはずです。迷宮内でも小型情報端末は正常に作動しているのでおそらく問題ありませんが、念のため試行しておくことを提案します』

 

「うん、そうだね。やってみようか」

 

 シキが〈ユニット転送〉を使用すると、手元の小型情報端末の座標を目印にして、切り開いた空間に換装式汎用人型機動兵器(スプリガン)が出現する。

 動き回れるほど空間に余裕はないが、問題なく転送できた。

 転送は問題なかったのだが……。

 

「ちょっと~、シキくんとのデートの邪魔しないでよ!」

 

「もう半日以上独占してたんだから十分だろ」

 

「その通りです。協定項目であるミロードの独占時間を一時間超過していますので、私たちの合流は正当なものです」

 

 転送したスプリガンを経由して、フェリデアとリューナが迷宮探索に参加したのであった。

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