精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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119話 教えてシキ先生

「おっほん。というわけで俺たちは察しの通り冒険者としては新人なので、具体的な指導はベンジャミンさんのような熟練冒険者に頼んだ方がいいと思います」

 

 わざとらしく咳払いをしてから、キリっと真面目な顔でシキが喋り始める。

 しかしグリクたちの視線はシキの顔よりやや上で固定されていた。

 

 リューナはストレージボックスから取り出した丸椅子に座り、膝の上にシキを乗せている。

 そして背後から抱きしめて黒髪を優しく撫でていた。

 

 表情はポーカーフェイスに戻っているが手つきは優しい。

 そのギャップが気になり、なんとなく目が離せなかったのだ。

 

「戦闘訓練なら付き合えそうだけど、こちらも急ぐ身でして。今すぐ助言できるとしたら、冒険者に限らない俯瞰した視点からかなぁ。言うならば過去トラと水平展開だね」

 

「かことらとす?」

 

 聞き覚えのない単語にエスパが疑問符を浮かべる。

 

「簡単に言うと失敗を反省して次に生かそうという話なんだけど、まずモンストランス・バットに襲われた原因はなんだと思う? はい、ジャンさん。お答えください」

 

「ん? それは近くでモンストランス・バットと戦っていた冒険者が負けたせいで、運が悪かったからだ」

 

「本当にそれだけ? 運が悪かったで片付けちゃうと、次また襲われたら今度こそ死んでしまいますよ。ジャンさんたちに出来ることはないですか?」

 

「うーん、インプと戦った場所が悪かった?」

「でもちゃんと十字路からは引き離したよ。他の魔獣がやってきて囲まれないように」

「空を飛ぶモンストランス・バットには意味なかったな」

「じゃあそのまま十字路でさっさとインプを倒せばよかった?」

「でも間に合わなかったかも」

 

 喧々諤々とジャンたちが意見を交わし合う。

 冒険者という職業は過酷だ。

 失敗は死に直結し、死を免れても冒険者を引退しなければならないような重傷を追う可能性がある。

 

 タクティス子爵領の冒険者ギルド職員ローナはその後者で、膝に魔獣の針による攻撃を受けて運動能力が著しく低下してしまった。

 だからこそ幸運にも五体満足で死地を免れたシャンたちには、是非とも糧にしてもらいたい。

 というのがシキの願いである。

 

「はい、そろそろ意見はまとまりましたか?」

 

「にゃぁ……あたしがスリングで石を投擲してインプを誘導したり足止めしたりしてたんだけど、インプも体が金属みたいだから石が当たると大きな音がした。音のせいでモンストランス・バットを呼び寄せちゃったと思うから、次からはスリングは使わないで戦う」

 

「なるほど、大きな音を立てないというのは重要ですね。つまり相手に合わせて武器を変えると。スリングは体が柔らかい、もしくは毛皮を纏った魔獣相手なら使えそうですね。他にありますか?」

 

「え、まだあるのか?」

 

「ありますよー。例えばここのような小部屋にインプを誘い込む。インプと戦わずに逃げる。探索ルートを変える……等々。耳の良い魔獣がモンストランス・バット以外にいない前提だけど、鐘楼から遠く離れてしまえばインプ相手でもスリングを使って安全に遠距離攻撃ができるようになりますね」

 

「あっ」

 

 グリクは何かに気が付いたのか、自分のリュックから何かを取り出す。

 それは使い古しの地図で、シキがベンジャミンから買ったものと似ていた。

 

「みんな見てよ。僕らが買う前に誰かが地図に道順を書き込んでるんだけど、無駄に遠回りしてるから落書きかなと思ってたんだ。でも改めて見ると鐘楼から遠ざかるような道順に見えない?」

 

「ほんとだ! それ意味あったんだ……もっと早く気付いていれば」

 

 隣で地図を覗き込んでいたナーヤの表情が再び暗くなる。

 グリクが助かったのは本当に幸運だったのだと再認識していた。

 

「うーん、やっぱり冒険者って秘密主義者が多いというか、飯のタネだからなんだろうけど、もう少し情報は共有してもいい気がするなぁ。さて、これで皆さんはモンストランス・バットへの対処法を身に着けたわけですが、ここまでが過去トラです。まだ満足しちゃいけません。今の情報、及び考え方は発展させることができます」

 

「発展?」

 

「縄張りを避けたり、大きな音を立てて引き寄せないというのは、モンストランス・バットに限った話ではないですよね?」

 

「他の魔獣にも応用できるってことか」

 

「その通り。失敗から学ぶという行為は、普段からある程度は無意識に実践しているでしょう。これを言語化してパーティーメンバーで情報共有をすれば、同じ失敗は繰り返さなくなる。これが水平展開です。そしてこの考えは冒険者稼業に限らず、日常でも使えるんですよ」

 

 とにかく如何なる状況でも、冷静に考え続けることが大切だ。

 諦めれば可能性はゼロだが、諦めなければゼロではない。

 

「以上が俺たちからできる助言です。年下の子供が生意気なことを言ってすみません」

 

「いや、とても勉強になった。ありがとう。だってシキ……様は金持ちの商人か貴族様なんだ……すよね? すっごい賢いし、次元収納を持ってるし、護衛のお姉さん方は強いし」

 

 思い出したかのようにジャンが言葉遣いを改める。

 シキは商人か貴族かという問いにはあえて答えなかった。

 

「口調は気にしなくていいですよ。今まで通り俺も呼び捨てでいいです。同じ冒険者仲間じゃないですか」

 

「ならシキも俺たちを呼び捨てでいいし、その堅苦しい喋り方をやめてくれ。同じ冒険者なんだろ?」

 

「ははっ、わかったよ、ジャン」

 

 歯を見せて嬉しそうに笑い合い、ジャンとシキが握手を交わす。

 

「それじゃあ俺たちはもう行くね」

 

「おう、俺たちは迷宮を出るよ。本当にありがとう! 今度改めてお礼をさせてくれ。また会えるよな?」

 

「うーん、迷宮都市ムルザには長居しないからなぁ。俺たちはエンフィールド男爵領から来ているんだけど……あ、やっぱり知らないか」

 

 ぴんときていない四人にシキは苦笑いするしかない。

 王都での御前試合の噂もまだムルザには届いていないようだ。

 

「タクティス子爵領は知ってる?」

 

「聞いたことあるな。東の方だっけ?」

 

「そうそう。エンフィールドは更に東でレドーク王国の東端なのさ」

 

「凄く遠いな……。けどもし行くことがあったらどうやってシキを探せばいい?」

 

「冒険者ギルド(建設予定)で名前を出してくれれば大丈夫だよ」

 

 お互いの再会を誓って、シキたちはジャンのパーティーと別れた。

 

 

 

 

 

 

 

「グリク、ごめん」

 

 シキたちを見送った後、グリクたちも迷宮から脱出するため荷造りをしているとナーヤがぽつりと呟いた。

 

「私が無理やりグリクを村から引っ張り出したせいで、今日死なせるところだった。もし村に戻りたかったら、戻ってもいいよ」

 

 自分が死にかけてからナーヤはずっと暗い表情のままだったので、グリクは少しおどけた態度を取る。

 

「今更何もない村に戻りたくないかな。確かに死にかけたけど、貧しい村に帰っても不作で口減らしにあって野垂れ死ぬかもしれないし、それなら冒険者をやっていたほうがましだよ。それに……」

 

「それに?」

 

「アリエさんみたいな美人が都会には居るってわかったし……痛っ! 冗談なのに」

 

「もう勝手にすれば!」

 

 先ほどと同じように足を踏まれて痛がるグリクを放置して、ナーヤも荷造りを再開した。

 ただし内心ではあの三人の美女の中ではアリエがグリクの好みなのだと、しっかり記憶しておく。

 

 現在のナーヤではアリエには実力も見た目も敵わない。

 しかしいつか自身が成長した時、アリエに似た立派なレディになって見返してやるぞとナーヤは闘士を燃やしていた。

 これもある意味過去トラからの水平展開、なのかもしれない。

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