精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

122 / 266
121話 物理無効(有効ではないとは言っていない)

「いやらしい目つきだったわね。あのサーライトとかいうやつ」

 

「え、そうだったの? 俺には好青年にしか見えなかった……。ベンジャミンさんには悪いけど、彼のほうがよっぽどいやらしい表情だったけどな」

 

「重要なのは表情ではなく視線です。ベンジャミン様は私たちの装備に目を向けていましたが、サーライト様は私たちの体を見ていました」

 

「人は見かけによらなすぎる……やっぱり女性ってそういう視線に敏感なんだね。俺も気をつけないと」

 

「違うでしょ。むしろシキくんはもっとお姉さんを見るべきよ」

 

「そういえばよく《追跡》がかけられたってわかったね」

 

「ちょっと流さないで~。お姉さん悲しいわ」

 

 アリエが前かがみになり胸を両腕で寄せて強調している。

 流行語にもなった往年のあのポーズを思い出し懐かしくなったシキではあったが、スルーした。

 

『魔術 《追跡》は以前リーゼロッテが使用しているのを解析済みのため、エネルギー波長で魔術が発動する前に判別可能です』

 

 オルティエ曰く魔術の種類によって構成を編み詠唱する時点でエネルギー、いわゆる魔素の波形が決まっているそうだ。

 なので一度見た魔術なら発動前に波形から内容を察知することができた。

 

「《追跡》は対象の位置が方角と距離でわかるんだっけか。やっぱりこちらを襲うつもりなのかな? それともレイスにやられると踏んで死体あさりするつもりなのか」

 

『その両方である可能性が高いです。着かず離れずこちらを追跡してきていますので、状況に応じて切り替えるつもりでしょう』

 

「まぁそうだろうね」

 

 第三層も既に小型情報端末によってスキャン済みで、その全貌が明らかになっている。

 構造は第一層と同様に点在する小部屋が細い通路で繋がっているのだが、通路と小部屋の距離と面積はすべて同じ。

 およそ縦横2kmの空間に15×15部屋、合計225部屋が碁盤目状に整然と並んでいた。

 

 サーライトはシキたちから3部屋離れた位置をキープして追跡してきている。

 こちらが止まれば向こうも止まるので間違いないだろう。

 

「迷宮は異物を取り込むから目印を置けないし、部屋数をちゃんと数えておかないと。すぐに現在位置がわからなくなりそうだ」

 

『マッピングはお任せください。小型情報端末を使って常に測位しています。サーライトたちも生体反応を登録しましたので、見失うことはありません』

 

「至れり尽くせりで他の冒険者たちに申し訳なくなるね」

 

『サーライトたちのことで追加報告があります。パーティーメンバーの女性三名の首から共通のエネルギー反応がありました』

 

「ん? 三人とも同じ魔術具をつけているということ?」

 

 シキは女性たちのおそろいのマフラーを思い出す。

 灰色のシンプルなもので、三人とも首全体を覆い隠すようにして巻いていた。

 

『同じエネルギー波長を持つ魔術具をレドーク王城で確認しています。場所は宝物庫ではなく城の最下層です』

 

「えっ」

 

『リファ、映像を出せる?』

 

『まかせてー』

 

 ボイスチャット越しにリファが返事をすると同時に、シキの拡張画面に新たなウィンドウが出現する。

 それは数は減らしたが現在も〈SG-061 リファ・ロデンティア〉の鼠型ドローンによる諜報活動は続いており、そのうちの一体のカメラ映像であった。

 

 城の最下層と思われる石造りの薄暗い廊下には鉄格子がいくつも並び、約半数に人が収容されている。

 彼らの身なりは襤褸切れから貴族のような豪奢な服を纏った者までと幅広いが、種族は人族が大半で亜人はほぼいない。

 

 人権などという概念は存在しないため環境は劣悪なようだ。

 碌な食事を与えられず骨と皮だけになった者、尋問という名の拷問を受けて身に痣や切り傷を作り、床に蹲ってぴくりとも動かないような者もいる。

 現代日本では考えられない地獄のような光景が広がっていた。

 

『ここは王家に反逆した人が捕らえられている場所よ』

 

『なぁリファ……』

 

『にぃに、これも仕事だから別に何とも思ってないからね。もし心配してくれるなら今度のお願いを奮発してね』

 

『う、わかったよ』

 

『マスター、あの収容者の首を見てください』

 

 オルティエの言葉に反応するかのように、カメラが一人の人物の前で止まる。

 筋骨隆々の男が拘束衣を着せられた状態で、天井からぶら下げた鎖に繋がれ吊るされていた。

 

 目隠しと猿轡(さるぐつわ)もされていて顔がほぼ見えない。

 そして首には複雑な彫刻が施された首輪が嵌っていた。

 

『怖っ、ホラー映画に出てきそう』

 

『このおじさんは〈握撃卿〉っていう二つ名を持つ元貴族で、表向きは反逆の罪で極刑にされたの。でも強力な神の加護のせいで殺しても死なないから、あの〈隷属の円環〉っていう首輪で封印してるんだって』

 

 〈隷属の円環〉は奴隷の首に嵌めて行動を操る魔術具らしい。

 リファが守衛たちの雑談から得た情報をシキに伝えた。

 

『女性三人の首からはこの〈隷属の円環〉と同じ反応があると。マフラーはカモフラージュだったのか。サーライトが女性三人を奴隷扱いしてるとしたら……ゲス過ぎない?』

 

 シキは改めて三人の顔を思い出す。

 伏し目がちで表情から読み取れる感情も希薄だったが、休憩中だし疲れているのだろうと思っていた。

 

 しかし首に〈隷属の円環〉を嵌められ奴隷のように扱われているのかもしれないと知ると、自身の境遇に絶望していたように見えてくる。

 

「でもお姉さんなら好きな人の奴隷だったら喜んでなるわね。ああシキくんに束縛されたいわ~」

 

「はいはい」

 

「ああん。だから流さないで。もう少し構って欲しいわ~」

 

「状況証拠からしてサーライトが他の冒険者を狙っているのは間違いなさそう。でも現時点では何も犯罪行為はしていないので、こちらからは手を出せない。かといってそのうちジャンたちが狙われたら嫌だから放置もできないし……一芝居打ってもいいかな?」

 

『了解しました』

「いいわよ~」

「ミロードの御心のままに」

 

「フェリデアもいいかな?」

 

「もちろんいいぜ。あのいけ好かない兄ちゃん、少しは手応えがあるといいんだけどねぇ」

 

 シキが問いかけると、レイスと格闘していたフェリデアからも了承の返事がある。

 レイスは宙に浮く死神のような外見をしていた。

 草臥(くたび)れた黒いローブ姿で、白骨の腕がぼろぼろの裾から伸びていている。

 

 足は見えず、深く被ったフードからは木乃伊のような顔が覗いていた。

 サーライトの言う通り実体がないため体全体が透けていて、只の物理攻撃は通用しないはずなのだが……。

 

「フェリデアの拳ってオーラか何か纏ってるの?」

 

 シキが戸惑うのも無理はない。

 フェリデアが拳を振るう度にレイスの体の一部分が消し飛ぶが、それ自体はダメージになっていなかった。

 

 空気中で散り散りになったレイスの体はすぐに集まり元に戻ろうとする。

 ところがフェリデアの連撃で吹き飛ばされる速さに追いつけない。

 

 しかもフェリデアは踏み込みながら攻撃し続けているので、散り散りになった体がその場に取り残され、後退するレイスの体積がどんどん小さくなっていく。

 そんな状況なので当然レイスに反撃する暇などない。

 

『レイスの総面積は減っていませんが、ある程度拡散させられると、元に戻る力が失われるようですね』

 

「ええ……強引に散らしてるのか……あ、CR(クレジット)入った」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。