精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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128話 迫りくる触手

 その闇の眷属は仮称:β556と呼ばれていたが、宮廷魔術師サマンサによって〈無敗をもたらすもの〉という名称であると判明した。

 フルネームだと長いため現在はムハイと呼んでいる。

 

 オルティエからの報告を受けて、シキはジェリとの面会を終わらせると直ちに樹海へと戻った。

 

『今はどの辺りだ?』

 

「ご主人様!」

 

 〈SG-071 シアニス・エルプス〉の複座へとシキが〈搭乗〉するとシアニスが声を上げる。

 座席の背もたれ越しに、尻尾が嬉しそうにぶんぶんと揺れていた。

 

『現在は縄張りの外側、北西5kmの地点です。ムハイは時速40kmで聖樹守りの縄張りに向かって進んでいます』

 

 〈SG-071 シアニス・エルプス〉はムハイを上空から追跡している。

 メインモニターに映し出される姿は、汚泥に浮かぶ触手の塊だ。

 大きさは直径十数メートル程度で、地上三メートルくらいの位置に浮かんでいた。

 

 無数の触手が球状に絡まり蠢き、触手から分泌した粘液が滴り落ちて汚泥を生み出している。

 シキの視界に投影された樹海の地図で確認すると、オルティエの説明の通りムハイは真っすぐ聖樹守りの元へ向かっていた。

 障害物があってもお構いなしで巨体で木々を薙ぎ倒し、通過した場所は分泌液の汚泥によって汚染されていく。

 

「どうして急に縄張りを飛び出したと思う?」

 

『確認されている変化点は綿毛羊の供給が途絶えている、この一点となります』

 

「やっぱりそれが原因なのかなぁ」

 

 ムハイは縄張り内にある無名の迷宮から迷い出てきた綿毛羊を定期的に捕食していた。

 綿毛羊は魔獣ではあるが(とある誰かさん以外には)温厚で人懐っこい性格をしていて、スプリガンたちの賛成多数により保護が決定。

 迷宮の入口の内側に柵が設けられ、綿毛羊が迷宮の外に飛び出すことがなくなっていた。

 

「綿毛羊以外も捕食してるよね? 綿毛羊が何か特別なのかな? 聖樹守りの元へ向かう理由も何かありそうだけど、今は環境破壊を止めるのが先か」

 

 ムハイの触手から滴る汚泥のようなものは、腐敗すら許さない猛毒だという。

 その証拠に汚泥が触れた木々は溶けるように崩れ落ち、土壌も白く濁った色に変わっている。

 

 毒というよりは強力な酸みたいだなとシキは思った。

 某映画に出てくる恐ろしい宇宙生物が脳裏を過る。

 

 ちなみに縄張り内でのムハイの行動は、アルファベットのCの文字を作るように行ったり来たりを繰り返し、中に迷い込んだ生物を伸ばした触手で捕らえて食べるというもの。

 自分が好き勝手に動き回ると環境を破壊してしまい、他の生物が寄り付かなくなることを理解しているのだ。

 

『ルミナ、危なくなったら遠慮なく攻撃に切り替えてくれ』

 

『はいっ、わかりました!』

 

 溌溂とした返事がボイスチャット越しに聞こえると同時に、ムハイの正面に空から落ちてきた〈SG-062 ルミナ・ヴィオス〉が降り立つ。

 全身が砲金色(ガンメタリック)の重厚感溢れるロボットが着地すると、衝撃で足回りの地面が陥没し土煙が上がった。

 

 〈SG-062 ルミナ・ヴィオス〉は防御に重点を置いた重量二脚型のスプリガンで、腕部武装はプラズマシールドとハンドミサイル、肩部武装は設置型のバレットタレットとレーザータレットを積んでいる。

 自らの防御を固めて半自動型の武器で迎撃する防衛特化の機体だ。

 

 ムハイは微量だが他の闇の眷属と違って神力を内包している。

 神力は名前の通り神々の力の源であり、これを持っているということはムハイは神に近いか神そのものなのかもしれない。

 他に類のない存在で研究の余地があるため、討伐はできるだけ避けたいのだが……。

 

 〈表示設定:オン〉の状態で立ちはだかるルミナに対して、ムハイは止まることなくそのまま体当たりした。

 ルミナがプラズマシールドを展開してムハイの体を受け止めると、肉が焼けるような音と共にいくつかの触手が千切れ飛ぶ。

 プラズマシールドを構成している荷電粒子が接触した触手を焼いたのだ。

 

『えいっ』

 

 ルミナがプラズマシールドで押し返すとムハイの球状の体は縦長に歪み、追加で触手をぼとぼと落としながら後退する。

 地面に落ちた触手は形を保っていられず、溶けて汚泥になると地面を浸食した。

 今の衝突で体積の二割は削れたように見えたムハイだったが、蠢く触手は球体の内側から盛り上がるようにしてすぐさま再生してしまう。

 

 ムハイに撤退する様子はなく、球体の体から複数の触手を伸ばしてルミナを取り囲む。

 触手の粘液で溶かすつもりなのだろう。

 並の生物ならひとたまりもないが、スプリガンの装甲は並ではない。

 

 そう簡単に溶けるとも思わないが、わざわざ攻撃を食らう理由もないだろう。

 合計八本の触手から同時に襲われたルミナは、ブースターを吹かして真上に飛んで逃げた。

 すると最初は囲うような動きを見せていた触手も、遠ざかったルミナを追跡するうちに直線状に集まり一本の太い触手のようになる。

 

 そこへ横合いから実弾と非実弾による十字砲火(クロスファイア)が浴びせられた。

 ルミナの肩部武装である設置型バレットタレットとレーザータレットによる攻撃だ。

 最初に地面に着地した時点で設置済みで、小型情報端末に似た円筒形の各タレットが空中に浮いている。

 

 ルミナの遠隔操作によって、それぞれから赤みを帯びた銃弾と青白い光線が撃ち出されると、伸びてまとまっていた触手をずたずたに引き裂いた。

 今のところ手も足も触手も出ないムハイだったが、それでも縄張りへの撤退の意思は見せない。

 

『これはもう倒してしまうしかないのかな。さすがに触手が無限に湧くとかないよね?』

 

『我々の攻撃でムハイの内包するエネルギーは初期値から二割ほど減少しています。このまま削れば消滅すると思われます』

 

『ふむ。ならもっと削れば撤退するかな? ルミナ、本体に攻撃していいよ。シアニスも援護射撃をお願い』

 

『『了解しました!』』

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