精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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14話 フラグ発動

 森の中を複数の人影が走っている。

 先頭が一人、その先頭に手を引かれているのが一人、そして背後を気にしながら走る殿の二人。

 

 前後の三人は意匠の凝った金属鎧を着込んだ女騎士たちで、残る一人はドレス姿の美しい女性だ。

 ドレスの女性は懸命に走っているが、その服装故に足元はおぼつかず遅々として進まない。

 既に息も絶え絶えで、額には汗が浮かび綺麗な金髪が貼り付いていた。

 

「くそっ、もう追いつかれたのか」

 

「姫様……どうかご無事で」

 

 殿の二人はそう言い残すと立ち止まり、追いかけてきた黒ずくめの集団の前に立ちはだかった。

 こうして護衛騎士が命を賭して襲撃者を足止めするのは三度目。

 

 逃走開始時には十名いた護衛騎士も、遂に隊長一人になってしまった。

 背後で起こる剣戟の音を聞いて、すまないと隊長は心の中で部下たちに詫びる。

 

 最初から全員で戦えば良かっただろうか? いや、奇襲された直後に護衛騎士の半数を失い、戦力の差は明らかだった。

 仮に戦っていたとしても今頃には護衛騎士が全員殺され、既に姫様の命も奪われていただろう。

 

 だがこのまま逃げ続けてもすぐに追いつかれる。

 全員で戦うよりも、多少時間を稼いだに過ぎないが……。

 

「姫様、そろそろ樹海に入ります。入口までで本当によろしいのですか?」

 

「……はい」

 

 隊長が振り返ると、息も絶え絶えな姫からか細い返事がある。

 謎の黒ずくめの集団に襲われ、戦うか逃げるかの選択に迫られた時、姫は樹海まで逃げるよう隊長に命令した。

 

 普通に考えれば強力な魔獣が跋扈すると言われている樹海に逃げるのは自殺行為だ。

 姫から詳しい説明を聞く暇もなかったし、仮に説明を聞いても納得できなかった気がする。

 

 だが長い主従関係で培われた信頼関係から、姫は乱心したわけではなく確信を持っての命令だと隊長は直感した。

 姫が信じるものであれば、隊長も納得はできずとも信じることはできた。

 

「ここまでよくお走りになられました。ここからは全力で逃げます。私の首にしっかりと掴まってください」

 

 隊長はそう言うと姫を抱き抱え、全速力で森を駆けた。

 いくら精強な護衛騎士といえども、金属鎧という重装備に加えて人を一人抱えての全力疾走は長くもたない。

 

 改めて樹海に近づくための犠牲となった部下たちに詫びながら、隊長は姫を抱えて森をひた走る。

 そもそも魔獣の跋扈する樹海など、隊長は存在しないと思っていた。

 

 もしそんなものがあればとっくの昔に国境は魔獣によって侵され、国を挙げての防衛戦線が張られていただろう。

 だがしかし、恐るべきことにそこに樹海は確かに存在した。

 

 只の森とは違い、感じ取れる魔力の密度が異常に濃い。

 未だかつて感じたことの無い魔力濃度に眩暈を覚えて、隊長の足元がふらついた。

 

 魔獣は生息する環境の魔力が濃ければ濃いほど、強力な個体に育つ。

 これほどの環境で育った魔獣は、いったいどれだけの強さを持っているのだろうか。

 

 少なくとも隊長一人では到底太刀打ちできそうにもない。

 これは襲撃者より先に魔獣に姫共々殺されるかもしれないな。

 だがどうせ死ぬならその方が楽に死ねるかもしれない。

 

 などと悲観的なことを考えながら走る隊長の背中を、突如衝撃が襲った。

 鎧に複数の鋭い何かが当たり、金属の擦れる甲高い音が森に響き渡る。

 

 それは《嵐刃》という無数の空気の刃を飛ばす魔術であった。

 鎧で保護されていない膝裏部分にも《嵐刃》は襲い掛かり、隊長の膝裏をぱっくりと切り裂く。

 踏ん張りが効かなくなり隊長は前のめりに倒れ込み、抱えられていた姫も前方へと投げ出されてしまった。

 

「姫様、お逃げくださ―――」

 

 隊長の言葉は途中で途切れる。

 追ってきた黒ずくめの一人が、倒れる隊長の背中に剣を突き刺したからだ。

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