精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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132話 散弾と斬撃と苦無

 〈MLK:N4800〉は何種類かあるショットガンの中でも一番射程が短い。

 その代わりに威力が高く、射撃時の反動(リコイル)も大きかった。

 中量程度のスプリガンだと反動制御に苦労するくらいだ。

 

 ムハイの一本目の足を破壊したシアニスに二本目の足が迫る。

 破城槌のように真っすぐ突っ込んできた足を、シアニスはブーストを使わず跳躍のみで躱した。

 

 そして下を通り過ぎる足に向かって右腕のショットガンを撃つ。

 銃口から飛び出した装弾(ショットシェル)は発砲直後に破裂。

 多数の弾丸に分裂し散弾となって足に着弾した。

 

 ムハイの蛸に似た足は無数の触手が絡まり合ってできている。

 散弾により広範囲の触手が破壊されると、自重を支えられなくなり着弾箇所からぶちぶちと音を立てて足が千切れた。

 

 自由落下を始めたシアニスが、ムハイの足に接触する直前で今度は左腕のショットガンを放つ。

 散弾は足の傷口を抉って再生を阻害し、大きな反動によってシアニスを上空へと押し戻した。

 

 再び自由落下が始まる頃には右腕ショットガンの反動利用式(ロングリコイル)による排莢と次弾装填が終わっている。

 こうしてシアニスは二挺のショットガンを交互に撃ち続けることにより、ブーストを使わず反動のみで浮かびムハイの足に張り付いた。

 

 シアニスの巧みな操縦が為せる業である。

 

「おお、神業だね」

 

「えへへ」

 

 シキの素直な賞賛にシアニスの尻尾が激しく振られた。

 〈MLK:N4800〉の装弾数は六発。

 

 両腕の全弾を撃ち尽くす頃には、ムハイの二本目の足はほぼ消失していた。

 ここでようやくシアニスはブーストを使い上昇し、ムハイから距離を取りつつショットガンをリロードする。

 

「あれ、最初は四本の足に襲われていたのに、残り二本はどうしたんだろう」

 

『あちらをご覧ください。マスター』

 

 シキの疑問にオルティエが答える。

 上空からクレーターを見下ろすシアニスのメインカメラに、ムハイ本体の向こう側で繰り広げられている戦闘が映る。

 スースもプリマも、シアニスに負けず劣らず大暴れしていたのだ。

 

 〈SG-072 スース・ファシロ〉は武者鎧のような装甲を纏った中量二脚のスプリガンである。

 兜のような頭部パーツの額からはV字の角が生え、顔は面頬で覆われていた。

 武装は一振りの刀〈霊鷲乃剣(りょうじゅのつるぎ)〉のみ。

 

 正眼に構える姿はコアAIであるスースの立ち振る舞いにそっくりだ。

 三本の足に襲われているが、クレーターの斜面を摺り足のようなブースト移動で躱し続けている。

 

 左斜め上から叩きつけてきた足は前に進んでやり過ごし、僅かに遅れて正面と右から降ってきた足に対してスースは円を描くように刀を振り上げた。

 白刃が満月のような軌跡を生み出し、それに触れた両方の足が切断される。

 切り離された足先は制御を失い、どちらもスースにかすりもせず明後日の方向に飛んでいく。

 

 続けてスースは腰を捻り、背後を振り返りながら刀を一閃。

 今度は三日月の形をした斬撃が刃から放たれると、それはスースを追いかけてきていた足を縦に切り裂いた。

 

 勢い自体は抑えきれず突っ込んできた足がスースを呑み込んだが、二股に裂けていたため直撃はしていない。

 三太刀目で裂けた片面を斬り飛ばして、スースが足の中から出てきた。

 

「斬撃を飛ばせるのか。第一位階冒険者の〈雲割き〉みたいだね。プリマのほうは……あんなとこにいる」

 

 〈SG-069 プリマ・グリエ〉はシアニスやスースと比べるとかなり上空にいた。

 三本の足が空中で激しくのたうっていて、その中を黒い影となって高速で動き回っている。

 

 他機より小振りなプリマには反重力フィールドという固有装備があった。

 脚部と腕部で展開できるその装置は、名前の通り重力を局所的に反転させる機能を持つ。

 

 機体の重量をほぼゼロにしたり、質量を伴った投射物を反射することができる。

 プリマはこの機能を使いムハイの足の上でスケートでもするかのように滑っていた。

 

 挑発するように動き回るプリマを三本の足が捕まえようと追いかけるが、一向に捕らえられない。

 足の上を滑る進路の先に別の足が割り込んで巻きつこうとしてきたが、プリマは前方宙返りでそれを飛び越える。

 

 その直後に最初に滑っていた足が暴れたため、プリマの着地地点からは足がいなくなり空中に放り出されそうになった。

 咄嗟にプリマは横にずれていた足を蹴り、巻きつこうとしてきた足に飛び乗る。

 下から違う足が突き上げてきたので側転で躱すと、その足は巻きつこうと輪になっていた足の中を通り過ぎていった。

 

 このように縦横無尽に逃げ回っていれば、三本の足が絡まり合うのもあっという間だ。

 とはいえムハイも絡まったまま動けなくなるほど不器用でもない。

 

 すぐに解けて追跡を再開するのだが、その僅かな隙をプリマは見逃さなかった。

 三本の足が絡まった瞬間、そのポイントに向かってプリマが何かを投擲する。

 

 カカカ、と三本の平らな鉄製の爪―――苦無(くない)が足に突き刺さった。

 もちろんただの苦無ではない。

 よく見ると苦無の後部の輪の部分に、安全ピンの抜かれた対物手榴弾が括りつけられている。

 

 一瞬の閃光と遅れてやってきた空気を震わせる爆発音。

 スプリガンの装甲にもダメージを与えることができる手榴弾が炸裂し、三本の足が爆発四散した。

 

「おお、サヨナラ! このまま三機で削りきる作戦?」

 

『それでも構いませんが、呼称:ガルムの接近を確認しました。到着する前に決着をつけましょう。メナスには(コア)というものが存在します』

 

「え、メナスって」

 

 メナス。

 それは Break off Online の世界においての惑星外生命体。

 スプリガンの宿敵といえる存在であった。

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