精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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142話 領地開発コンサルタント

「お初にお目にかかります、エンフィールド卿。私はガラテア・ウォルトと申します」

 

 そう言って金髪の美女がシキの祖父ロナンドに一礼した。

 ガラテアは本日エンフィールド男爵領にやってきた開拓団の一員で、ランディの補佐を務めることになっている。

 彼女は挨拶のためにエンフィールド男爵家の屋敷にやってきていた。

 

「ようこそいらっしゃいましたガラテア嬢。まだ何もないところですが、ここを自分の領地と思って、気兼ねなくその手腕を振るうってくだされ」

 

「ありがとう存じます。兄のランディからはエンフィールド男爵領は今後のレドーク王国発展に欠かせない、重要且つ素晴らしい場所だと聞いています。この地に骨を埋める覚悟で挑ませて頂きますわ」

 

 ガラテアは王都にある貴族学院を主席、しかも飛び級で卒業した才女だ。

 特に領地開発に関わる土木事業や各種産業に造詣が深い。

 

 その美貌も相まって結婚相手は引く手あまただったが、未だに独身。

 女性の結婚後の職場は社交界であり、領地開発に直接関わる機会は得られない。

 

 折角得た知識を結婚相手としての箔を付けるためだけの道具にしておくのは勿体ない。

 どうせなら王国の発展のために使いたい。

 

 一念発起したガラテアは結婚を先延ばしにして、王国内の領地開発が滞っている地域に向かう。

 そこで現地領主の相談役のような仕事を始めた。

 

 最初こそ奇異の目で見られるばかりだったが、そこは侯爵家令嬢の地位を利用してごり押しする。

 暫くしてガラテアの提案した都市計画……具体的には水路橋の建設や農地の輪作、区画整理による安全性と利便性の向上等……が十年近い歳月をかけて少しずつ結果を出すようになる。

 

 結果が出てしまえば、今度は相談役として引く手あまたとなった。

 仕事が生きがいとなったガラテアは年中国内を飛び回るようになる。

 

 ウォルト侯爵家は長いこと派閥に属さず中立を保っていたが、これは派閥に関係なく王国全体を豊かにしたいというガラテアの思いを、父と兄ランディが汲み取ってのことだ。

 そして樹海という広大な土地と資源が新たに開発できるようになったと聞いて、ガラテアは一人闘志を燃やしていた。

 

 …………貴族令嬢としては完全に行き遅れたことに目を瞑って。

 

「ところでエンフィールド卿、視察団の駐留地を通りすがりに見ましたが、とても綺麗に整地されていますね。なんでもご子息の精霊魔術によるものだとか」

 

「そうですじゃ。シキ、挨拶しなさい」

 

「シキ・エンフィールドです。宜しくお願いいたします、ガラテア様」

 

「ええ、よろしくね、シキ様。早速だけど貴方の精霊魔術による整地はスケジュールに組みこんでもよろしいかしら?」

 

「えーっと、精霊の気まぐれな部分もあるので、期間を設けて頂ければと」

 

 視察団の下の平らな地面は、彼らの一部の男爵領を馬鹿にする発言に怒ったアリエが、荷電粒子収束射出装置(ラプソディ)をぶっ放してできたものだ。

 あれを他人に見せるわけにはいかないので、夜中にこっそりやる必要がある。

 

「それで構わないわ。あと、これはイルミナージェ第一王女殿下からシキ様宛ての親書よ。この場で読んでくださる? エンフィールド卿とエリン様も見て構いません」

 

 言われた通りロナンドと出迎えの際に自己紹介を済ませていたエリンが、シキの左右から親書を覗き込む。

 

「ええと……えっ」

 

 貴族的な枕詞の後にまず書いてあったのが、ガラテアをシキの婚約者にするという内容だった。

 

「シキ様は御前試合で力を示した後、自派閥に取り込むために複数の令嬢から婚姻を迫られたと聞いています。対策として第一王女殿下が婚約者選定の窓口となり、直接の交渉をできないようにしていますが、王女殿下が王都にいる間に強硬手段……既成事実を作ろうとする輩が現れないとも限りません」

 

「ええ……」

 

 中身はともかく体は十二歳の少年なので、既成事実と言われてもシキとしては只々引くばかりである。

 そもそも令嬢に押し倒されるほど軟弱じゃないし、護衛のスプリガンたちが黙っていないだろう。

 

 その証拠に非表示状態で待機している背後のオルティエとエリンから、覇気というか怒気のような気配を背中にひしひしと感じる。

 

 あっこれ振り向いたらいけないやつだ。

 シキはそう直感した。

 

 驚いて固まっているシキを見て(半分は怒気のせいだが)、ガラテアが少しだけ悲しそうな表情を浮かべる。

 

「私との婚約もあくまでシキ様を守るための偽装です。私がエンフィールド男爵領に常駐して貴族の出入りを監視しますので、もし他所からシキ様を狙った令嬢が現れても近寄らせません。当然エンフィールド卿が認める正式な婚約者が現れれば私との婚約は解消します。偽りでもこんな年増と婚約者なんて嫌かもしれないけれど、許してね」

 

「嫌がるなんてとんでもない。こちらこそガラテア様の貴重な時間を奪ってしまい申し訳ありません」

 

「ちょっとエリン様、良くできたご子息じゃない。私があと十歳、いいえ五歳若ければ……って冗談だからそんな顔しないでちょうだい」

 

「おほほほ」

 

 ガラテアもまさかエリンが養子関係を解除してまで、本気で息子と結婚しようとしているインモラルな義母とは思うまい。

 シキ的にもどの面下げてガラテアを威嚇しているんだと言いたかった。

 

「それじゃあ続きを読みますよ……これは……〈慧眼卿〉ですか」

 

 親書の後半の内容は〈慧眼卿〉との面会を指示するものであった。

 

「親書に書かれてもいますが、視察団の帰還に同行する形で王都まで移動し登城せよ、とのご指示です。〈慧眼卿〉について私から言えることは一つだけです。くれぐれも人前でその名を出さないようにしてください」

 

 かつて王国にはコンスタンティンという名の王弟が存在した。

 【巡礼神の加護】によってもたらされた未来視の力を使い、国王アレクサンドの右腕として活躍していた。

 

 しかし派閥争いの中で国王と対立し、争いに敗れ、流刑の罰を受けて表舞台から姿を消す。

 それ以降コンスタンティンは王族の汚点として存在を抹消され、その名を口にすることすら許されなくなった。

 

 〈慧眼卿〉というのは、名前を言ってはいけないあの人に付けられた二つ名だった。

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