精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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145話 懺悔

 シキとセラ、ステナの三名がキッチンの椅子に座っている。

 ひとしきり泣いて落ち着いたところで、ステナがエフェメラについて語り出した。

 

 エフェメラが生まれたばかりのシキを連れてカドナ村にやってきたのは、ステナが四十二歳の頃だ。

 彼女の第一印象は小柄で可憐な少女で、とても子を産んだ母親には見えなかった。

 

 だがその見た目とは裏腹にエフェメラは芯の強い母であり、村付きとして認められるほどの強い冒険者でもあった。

 エフェメラは愛想が良いし、シキは赤子にしては妙に大人しく、ステナが抱いてもちっとも嫌がらない。

 

 十二年前に流行り病で夫と息子を亡くし、村の外れで寂しく暮らしていたステナからすれば、急に娘と孫ができたようなもの。

 二人に対して愛情が芽生えるまで、一か月とかからなかった。

 

「エフィは村付きの冒険者として大活躍したさ。余所者だからと辛く当たられてもめげないし、村の若い男に言い寄られてもまったく相手にしてなかったね。ありゃ旦那が忘れられないって顔だったよ。何が理由で別れたか知らないけど、あんな可愛い嫁と子を放り出すなんて酷い旦那だよ。もし会えるならエフィの代わりにぶん殴ってやりたいね」

 

「ええ、全くです」

 

 思わずノータイムで頷いてしまったシキである。

 自分はともかく、母の扱いについては同意しかない。

 

 エフェメラが移住してきてから一年ほどは平穏だったが、徐々に魔獣や闇の眷属が出没する頻度が増えていった。

 これは何か原因があるのかもしれないと、周辺の村付きの冒険者が集い調査を進めていたが……原因を突き止める前に悲劇が起きてしまう。

 

「ある日、わたしが夕飯の準備をしている時だった。危険を知らせる村の鐘が鳴ったかと思うと、エフィが家に駆け込んできたんだ」

 

 そしてシキをステナに預けると、村の入口に向かって逃げるよう指示してすぐに家を飛び出す。

 慌ててステナも家を出ると、そこには恐ろしい光景が広がっていた。

 

 ゴブリンやオークといった闇の眷属の群れが、村に隣接する森から続々と現れ、村を襲撃していた。

 鐘の音を聞いて家から出てきた二軒隣の老夫婦が、ゴブリンの群れに飲み込まれる。

 

 見知った夫婦の聞いたことのない悲鳴が響き渡ると、僅か数秒で途切れた。

 これが現実のものと思えず、体も思考も硬直してしまったステナだったが、胸元から聞こえた「だぁ」という声で我に返る。

 

 抱きかかえていたシキが不安そうにステナのことを見ていた。

 そこからは死に物狂いで村の入口に向かって走った。

 

 村のあちこちから火の手が上がり、家屋が打ち壊される音と誰かの悲鳴が聞こえてくるが、立ち止まらずに足を動かす。

 シキを安全な場所に逃がさなければ。

 その一心で。

 

 エフェメラは逃げる村人を庇いながら闇の眷属を倒し続けていた。

 ステナが村の入口に辿り着き、用意されていた馬車に乗り込んだ。

 

「エフィも逃げなさい!」

 

「私は闇の眷属を足止めします! ステナさん、シキをお願い!」

 

 エフェメラは動き出した馬車を見送ると、燃え盛る村の中へと戻って行ってしまう。

 これがステナがエフェメラを見た最後の姿だった。

 

「わたしは馬車に乗って安心したのか、腰が抜けちまってたよ。でもあの時、縋りついてでもエフィを止めればよかった。そしたら親子が離れ離れにならずに済んだ。足止めなら老い先短いわたしがすればよかったんだ。すぐゴブリン共に食われるだろうけど、少しは時間を稼げたはずだからね。これが一つ目の罪さ」

 

「ステナさん……」

 

「エフィが頑張ってくれたおかげで、村人の約半数が生き延びた。それで一番近いロシェという街に逃げ込んで、村が襲われたことを衛兵に説明した。カドナ村は解散になった。村人は親戚を頼ったり、ロシェで領主の保護を受けて暮らしていくことになる。わたしは迷宮都市ムルザに兄夫婦が住んでたから、頼ることにしたんだけど……」

 

 エフェメラにシキを頼まれた以上、まずは安全な場所である兄夫婦に預けようと決める。

 それからロシェまで戻り、エフェメラの帰りを待つつもりだった。

 

 しかしその道中で事件が起こる。

 ステナと同様に親戚を頼る村人たちと共に、ムルザへ向かっていたある日の夜のことだ。

 

 街道での野営中、夜中に目が覚めたステナは用を足すために集団から離れた。

 そして戻ろうとした時、馬の嘶きと悲鳴が聞こえてくる。

 

 それは野盗による襲撃だった。

 先日のカドナ村襲撃を思い出し足が震え、度重なる不幸を呪いたくなったが、今はそれどころではない。

 

「死んでもシキは助けないと。そう思って野盗の前に飛び出したんだ。でも背中をばっさり斬られて倒れちまった。その後のことはよく覚えていない。気が付いたらムルザの治療院に寝かされてた。後から聞いたのは生き残ったのはわたしだけで、街道には複数の死体が転がっていたそうだ。そこに赤子はいなかったらしいから、シキはそのまま攫われたんだろうって」

 

 ひとしきり話して疲れたのか、ステナは俯いて黙り込む。

 シキとしても眠っていたので、攫われた時の状況は把握できていなかった。

 

 皆の安否が気になっていたが、まさかステナ以外が全滅していたとは。

 暫くの沈黙の後にステナの嗚咽が零れた。

 

「うぅ……これが二つ目の罪さ。わたしゃ情けないよ。シキも助けられず、一人だけ生き残っちまった。一年くらいシキを探したが、全然見つからなかった。そして一つ目の過ちを悔やんだよ。カドナ村でエフィの代わりにわたしが残っていれば、シキも攫われずに済んだはずだからね」

 

 カドナ村を占領した闇の眷属は、領主が派遣した騎士団により殲滅された。

 ステナはロシェに戻ってエフェメラを待ち続けたが、五年経っても戻らず消息は不明のまま。

 

 全てを諦めたステナはムルザの兄夫婦の元へ身を寄せていたが、三年前に夫婦も病死。

 現在は一人で暮らしていた。

 

「あんたたちの友人であるエフィも、息子のシキも助けられなかった。ごめん、ごめんよ……」

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