精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~ 作:忌野希和
感傷に浸ってばかりもいられなかった。
ステナの証言の裏取りも兼ねて、まずはここから東隣のトーキ村へと向かう。
隣といっても直線距離で5kmほど離れているので、上空から見ても結構遠い。
当たり前だが滅んだカドナ村とは違って、ロシェからトーキ村に繋がる道はしっかりしていた。
トーキ村から少し離れた位置で〈SG-066 セラ・トゥー・クロス〉から降り、冒険者のセラとゼーレとして訪問する。
第一村人の中年男性はシキの巨体に怯えていたが、隣のセラの美貌に気が付くと鼻の下を伸ばした。
「カドナ村? もちろん覚えているとも。一歩間違えれば俺たちの村も滅んでいただろうからな。村付きの冒険者に会いたい? 十年前の村付きは引退しちまったぞ」
「ならその引退した方に会わせてもらえるかしら」
「もちろん、さあこっちだ」
案内された小屋に住んでいたのは、小柄だが筋骨隆々のお爺さんだった。
小屋の前で上半身裸になって薪割りをしている。
「エフェメラか。覚えておるとも。あんなめんこい嬢ちゃんが素手でゴブリンをぐちゃぐちゃにするもんだから、最初は驚いたもんだわい」
がははとお爺さんが真っ白な髭をしごきながら笑い、懐かしそうに目を細めている。
しかしエフェメラが行方不明なことは知っているため、すぐに悲しそうに長く伸びた白い眉尻を下げた。
「魔獣が、特に闇の眷属が活発になっとるから、もしかしたら近くに迷宮ができたのかもしれん。だもんで各村付きの連中で探したんだが、結局見つからんかった」
「むう、また迷宮か……」
新たに生まれた迷宮が放置され続けるとそこから魔獣が溢れてしまう。
タクティス子爵領で同様の現象が起きたことは、シキの記憶にも新しかった。
「ところがカドナ村を襲った魔獣を騎士団が殲滅したら、そのまま収まっちまった。本当に迷宮だったら魔獣が湧き続けるだろうから多分違ったんだな」
カドナ村襲撃のあとは大きな事件もなく平穏が続いているという。
お爺さんに礼を言って別れると、今度は西隣のメイクイ村へ向かった。
「エフェメラさん? 可愛かったなぁ。用事があってこの村に来るたびに、男連中が見に来てたからね」
メイクイ村の村付きの冒険者は、三十代後半くらいの男だった。
毛皮のベストを身に着け弓を背負った猟師スタイルだ。
「トーキんとこの爺さんにも会ってきたんだ? 元気にしてた? 薪を割ってた? はは、相変わらずだなぁ」
「ここ十年は平穏だってトーキ村では聞きましたけど、こちらはどうですか?」
「そうだね。この辺も平和だねぇ。爺さんの言う通り迷宮が原因ではなかったのかもね。ただ一つだけ気になることがあってねぇ……」
村付きの男曰く、旧カドナ村やメイクイ村、トーキ村より南側には森林地帯、山岳地帯が続いている。
そして更にその先には亜人の国があるという。
「森林地帯の奥地や山岳地帯には危険な魔獣がうようよいるし遠いから、レドーク王国と亜人の国に直接の交流はないんだけどね」
『周辺環境は樹海と似ていますが、魔素濃度は平均値のため生息する魔獣も脅威ではありません』
「そうなんですか。なるほど」
男の説明とオルティエの補足の両方を聞きながらシキが相槌を打つ。
「それで山岳地帯には翼人族って亜人の少数部族が住みついてて、森林の奥まで狩りに行った時たまに出くわすんだよ。ちょっと気難しいが打ち解けると親切な連中でね、そいつらから亜人の国の話も聞いたんだ」
シキはレドークの冒険者ベストラを思い出す。
背中から漆黒の翼を生やした美女で、彼女は確か翼人族だったはずだ。
「それで気になることだけど、カドナ村のことがあってから二週間後ぐらいに、また森の奥で翼人族と会ったんだが」
その時に男は翼人族からこう尋ねられたという。
「我々の〈克己の逆塔〉が何者かに破壊された。心当たりはないか?」と。
「こっきのさかとう?」
「何のことかさっぱりだよねぇ。だから俺も何だそれって聞き返したんだけど、わからなければいいって話を打ち切られてさ。それっきり翼人族とは会えなくなったし、十年経っても気になってるわけ。で、これは俺の勝手な想像なんだけど」
仮に〈克己の逆塔〉が迷宮だとして、それが破壊されたことにより魔獣の生息数が落ち着いたのであれば辻褄が合う。
そして〈克己の逆塔〉を破壊したのが……。
「もしかしてエフェメラさんじゃないのかなって」
「そんなまさか!?」
驚きのあまりシキがびくりと肩を震わせる。
パワードスーツ〈GGT-117 ゼーレ〉が正確にその動きをトレースしたため、騎士に見える外骨格も大きく揺れた。
「エフェメラさん、訳アリだったみたいだけど、冒険者としての才能が凄かったからね。ちゃんと昇格試験を受ければ第二位階になれたんじゃないかな。少なくともゴブリンやオークの群れ程度に後れを取る人じゃなかったよ。だからカドナ村で行方不明になったとは聞いたけど、行方不明になった本当の理由は別にある気がするんだ。まぁ迷宮はずっと探してたのに見つかってないから、俺の想像は外れているかもしれないけどね」
「やはり貴方から見てもエフェメラは強かったですか?」
シキことゼーレとセラは古い友人という設定だ。
それを考慮してエフェメラの強さについて遠まわしにシキが尋ねる。
「そりゃぁねぇ。あんなに小柄なのに小屋ぐらいある大岩を、拳ひとつで砕いちゃうんだもの。あれを見せられたら口説くのも命がけになるよね」
近隣の村々は交流も盛んで、エフェメラはどの村に行ってもモテていたそうだ。
しかし旦那一筋で身持ちの堅さは筋金入りだったと男は語る。
「赤子を連れてカドナ村に流れてきたって言うじゃないか。生きてるか死んでるか知らないけど、皆でエフェメラさんの旦那に嫉妬したもんさ。あんな可愛い人を放り出すなんて、もし生きていたら全員で殴り飛ばしてやるってね」
「はは、そうですね」
どこかで聞き覚えのある台詞にシキは再び同意した。
話を聞いていると通りがかった村人が集まり始め、色々なエフェメラとの思い出を話してくれる。
エフェメラは異性だけでなく同性からも好かれる存在だったらしい。
どこで習ったのか、村の女衆は綺麗な刺繍の仕方を教わったりしたそうだ。
村人全員がエフェメラの安否を案じ、絶望的だとわかっていても、無事を祈ってくれている。
それが伝わってきてシキのバイザー越しの視界が再び歪んだ。