精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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149話 恐怖の肉体改造人間

 その洞窟は一番奥のその先に空洞があることが簡易スキャンで判明した。

 自然の洞窟なら空洞自体は珍しくない。

 

 岩石の成分の反応によって溶けたり、地下水流で削れたり、他にも地震や火山活動の影響でボコボコと穴ができるものだ。

 しかしこの空洞は歪みの少ない円筒形をしていて明らかに不自然だった。

 

「これは天井が崩落した、って感じだね」

 

 洞窟内に魔獣の姿はなく、数分で最奥に辿り着いたシキが感想を漏らす。

 崩落箇所はそれなりの年月を重ねているようだが、周囲の岩盤よりは新しく見える。

 

『穴を開けましょう。パワードスーツ〈GGT-117 ゼーレ〉の試運転を兼ねて、携行型荷電粒子収束射出装(ハンドラプソディ)置を使用してください』

 

「了解……おおっ、格好いい」

 

 シキが右手を前に差し出すと、アームの内側の装甲が開き、内部に収納されていた武器が現れた。

 それは角ばった形状のハンドガンで、艶消し黒で包まれた銃身には細いスリットが入っている。

 

 まさにアリエの荷電粒子収束射出装置の携行版といったデザインだ。

 銃を崩落箇所に向けて構えると、〈GGT-117 ゼーレ〉のバイザーに弾道と攻撃範囲が表示される。

 

「え、直径三メートルくらいがごっそりなくなるみたいだけど、大丈夫?」

 

『はい。問題ありません』

 

 オルティエを信じてシキがトリガーを引く。

 反動もなければ銃声も聞こえない。

 

 電子音の後に崩落した岩盤がジュっと溶ける音がした。

 携行型荷電粒子収束射出装置から放たれたのは一筋の赤い光線だったが、その周囲も焼失して大穴ができている。

 焼失を免れた岩石の表面は熔解していて、マグマのように赤々と光っていた。

 

「これは人前では使えないね。威力が高すぎるよ」

 

『そうですか? アリエの装備と比較すると低出力なので、防磁繭(ぼうじけん)による保護は不要です。しかし連射はできないのでご注意ください』

 

「これを連射するような状況は考えたくないね」

 

 などと言いつつも、SF要素全開な武器が使えてシキは内心で興奮していた。

 本人は冷静を装っているが声が若干上ずっていたりと、そわそわした雰囲気は抑えきれていない。

 そんなシキにオルティエとセラから暖かい視線が送られているのだが、本人は全く気付いていなかった。

 

 安全を確認してから崩落箇所の先へと進むと、十メートルもしないうちに円筒形の空洞へと到着する。

 そこは直径二十メートルはありそうな広い空間で、天井や壁は石畳に覆われていた。

 

 セラが Break off Online 製の光量の強いライトで照らすが床は見えない。

 相当深い位置にあるようだ。

 

「ここが〈克己の逆塔〉で合っていそうだね。まさに塔が埋まっているって感じだし。迷宮ってことでいいのかな?」

 

『いえ、魔素の反応がありませんので、通常の建築物のようです』

 

「あ、それもそうか。迷宮なら空間を渡るような入口があるはずだもんね。どうやって降りよう」

 

『〈GGT-117 ゼーレ〉には飛行能力も備わっています』

 

「まじで」

 

 さすがに両手足のジェットはついていなかったが、背部ユニットのブースターで飛ぶことができるという。

 

「セラはどうする?」

 

「ん」

 

「あ、はい。抱っこね」

 

 両手を広げてアピールするセラを抱きかかえ、シキはゆっくりと降下する。

 先に飛ばした小型情報端末によると、底までは二百メートルあった。

 シキたち以外に生物の反応はない。

 

「今度はパワードスーツ越しじゃなくて、生身で私を抱いてね」

 

「言い方よ。残念ながら背が足りないよ」

 

「なら成人する三年後に期待するわ」

 

「地球人的には十五歳だとまだ成長過程じゃない? 背もそんなに伸びてなさそうな気がするけど」

 

『問題ありません。マスターの生育状況は内包するナノマシンで制御、管理しています。今から促成させれば180cm、100kgの肉体を作ることも可能です』

 

「本人が望まない肉体改造はやめてね」

 

 ボディービルダーのような肉体に自身の頭が乗っかっている姿を想像して、シキの背中に冷や汗が流れる。

 しかし〈GGT-117 ゼーレ〉内は空調完備なのですぐに汗は引いた。

 

 降下し続け底が見えてくると、その異様な光景にシキは息を飲む。

 床を埋め尽くすほどの魔獣の死骸が散乱していた。

 

 完全に骨になって積み重なっているものもあれば、死後数日か数週間で腐敗が進んでいるものもある。

 どの死骸もボロボロで、食い破られたような痕跡が多く見られた。

 足の踏み場もないくらいなので、床から十メートルくらいの位置で止まる。

 

「さすがに臭いわね」

 

「今更だけど空気は大丈夫?」

 

『小型情報端末で安全は確認済みです。空気はあそこで循環しているようです』

 

 オルティエが指差したのは円筒形の壁の一か所で、見覚えのある黒い影のような穴がある。

 タクティス子爵領や樹海にあった迷宮の入口と同じものだ。

 

「視覚的には向こう側が見えないけど、物理的には直結してるんだから不思議だよね。さて、これまでの状況証拠から推理すると……」

 

 まず目の前にあるのが迷宮〈克己の逆塔〉であると仮定する。

 この迷宮は高さが二百メートルある地中に埋もれた塔と、洞窟を経由して外の森林地帯に繋がっていた。

 

 空を飛べる魔獣や翼人族なら外と迷宮の行き来は可能だろう。

 ある日、迷宮の魔獣が外に出て森林地帯の生態系に影響を及ぼす。

 

 森林地帯に生息していたゴブリンやオークは棲家を追われ、カドナ村へと流れ襲撃した。

 当初はゴブリンやオークが迷宮から出てきた魔獣かと思われたが、彼らは塔を登れないためその線はなくなった。

 

 もし迷宮から出た魔獣が森林地帯に居座れば、村々への被害は増していたはずだ。

 しかしそうならなかったということは、その魔獣はすぐに討伐されたと思われる。

 

 そして洞窟が崩落し外界と遮断されたため、それ以降は迷宮の魔獣が森林地帯に現れることはなかった。

 村付きたちが迷宮を探していたにも関わらず、洞窟を見つけられなかったのは謎だ。

 

 翼人族は〈克己の逆塔〉を隠したがっていた。

 もしかしたら洞窟は何かしらの手段で隠蔽されていたのかもしれない。

 

「それで誰が迷宮から出てきた魔獣を倒して、洞窟を崩落させたのか。まぁ崩落は偶然かもだけど。オルティエ、魔獣の残骸の中に人骨が混じってたりする?」

 

『いいえ、スキャン結果からは検出されませんでした』

 

「半分冗談だったんだけど、わかっちゃうんだ」

 

 少なくとも現時点で、生みの母エフェメラの死亡は確認できていなかった。

 無論死体が見つかっていないだけの可能性が非常に高い。

 それでもステナや各村の人々が信じているように、シキもエフェメラの生存を信じたかった。

 

「この先に答えがあるかもしれないね」

 

 シキは迷宮の入口を睨みつけ、セラを抱えたまま飛び込もうとして……。

 

『マスター、時間切れです』

 

「えっ」

 

『王都の宿にイルミナージェ第一王女の使者が来ています。どうやら登城の許可が出たようです』

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