精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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150話 突然の反抗期

 シキは転送で王都の宿に戻ると、待機していたエリンと共に使者の案内で王城へ向かう。

 通常であれば「登城は三日後に決まった。また迎えに来るから準備しておくように」という流れになる。

 

 しかし今回は事前に聞かされていた通り、呼び出し即登城ということになった。

 イルミナージェ曰く、これは本来王城には居ない人物に会うために必要な処置であるという。

 

「随分待たせてしまいましたね。さあ、参りましょう」

 

 テレーズだけを護衛に連れたイルミナージェに招かれて、城の奥へと歩みを進める。

 廊下で侍女や家臣たちとすれ違うと、皆が端に寄り(こうべ)を垂れた。

 だがそれも最初だけで、城の奥に進めば進むほど人に会わなくなる。

 

「この辺りまで来ると、王族とその護衛騎士以外はまず踏み入れられない場所なのですよ」

 

「へぇ、そうなんですね」

 

「普通はもっと緊張するものなのだが、二人とも変わりませんね」

 

 テレーズが関心半分、呆れ半分で呟く。

 イルミナージェとテレーズは気が付いていないが、シキの表情が微妙に硬いことをエリンとオルティエは見抜いている。

 そのことをエリンは疑問に思い、オルティエは懸念を覚えていた。

 

 やがて城の一番奥にある尖塔に到着すると、五階分の高さの螺旋階段を四人で登る。

 シキの前を進むイルミナージェはドレスの裾を摘まんで持ち上げ、すいすいと階段を上っていく。

 

 なかなかの健脚だ。

 それをなんとなく観察していると、視線に気が付いたイルミナージェが振り返った。

 

「その、叔父様は尖塔から出られませんので、こうして出向くしかないのです」

 

「シキ殿との面会の打ち合わせと称しては、足繁く通っておられます。体力がつくので喜ばしい限りです」

 

「ちょ、ちょっとテレーズ」

 

 運動によってではなく、羞恥で顔を赤くするイルミナージェ。

 尖塔の最上階まで登ると、イルミナージェが一息深呼吸してからドアをノックする。

 そして中からの返事を待ってから鍵を扉に差し込んだ。

 

 内部は王族が住むに相応しい豪華な部屋だった。

 扉側と部屋側を隔てる鉄格子がなければだが。

 

「叔父様。エンフィールド男爵家のお二人をお連れしました」

 

「ああ」

 

 王城にいないはずの男、王弟コンスタンティンは椅子に座り本を読んでいた。

 返事をして本を閉じると、シキとエリンに視線を送る。

 

 これまでにシキが見た王族は全員が金髪碧眼だったが、コンスタンティンは違った。

 焦げ茶色の長い髪を首の後ろ辺りで束ね、榛色の切れ長な目をしている。

 

 日に当たっていないため色白で、歳は三十代後半のはずだが十歳は若く見えた。

 端正な顔立ちから感情は読み取れず、ただじっとシキのことを見つめている

 

 対するシキもコンスタンティンを無表情で見つめ返している。

 妙な沈黙がこの場を支配していた。

 

「あの、叔父様?」

 

「お初にお目にかかります。王弟コンスタンティン様」

 

 エリンが鉄格子越しに跪いたので、シキも遅れてそれに倣う。

 

「楽にしてくれて構わない。私はただの〈慧眼卿〉だ。厚意で匿ってもらう以上、過度に畏まれる必要はない」

 

「では簡単な自己紹介だけ。私はエリン・エンフィールドと申します。そしてこちらが息子のシキです」

 

「どうも」

 

 これにはイルミナージェとテレーズだけでなく、エリンもぎょっとした。

 シキの普段の愛想の良い雰囲気は掻き消え、そっけない態度を取ったからだ。

 だがコンスタンティンに気にした様子はない。

 

「シキは養子なのだろう? どういった経緯で養子にしたのだ?」

 

「それは……」

 

「別に言ってもいいよ、母様」

 

 言い淀むエリンにシキが声をかける。

 そのやりとりを見て、コンスタンティンの目が僅かに険しくなった。

 

「今から四年近く前のことです。当時のシキは王都の孤児院で暮らしていたのですが、とある貴族に誘拐されてしまいました」

 

 一方その頃のエリンは故郷を離れ、王都で冒険者として活動していた。

 既に〈剣姫〉という二つ名を持ち活躍していて、その強さを買われてある貴族から〈商品〉を運ぶ商隊の護衛を依頼される。

 

「なんと私が護衛していた〈商品〉がシキを含めた珍しい子供たちだったのです。その貴族は裏で非合法の奴隷売買に手を染めていて、他国に売ろうとしていました」

 

 〈商品〉のシキが脱走し、護衛のエリンに話したことで全てが露見。

 最終的にその貴族は取り潰しになる大事件となった。

 

「ですが取り潰しになった貴族は非合法の奴隷売買組織の、ほんの一部分で黒幕が別にいました。そちらには明確な証拠がなく手が出せず、シキの存在も知られているので、保護する目的で養子にしたのです」

 

 というのが表向きの理由である。

 シキは若干八歳にして非合法の奴隷売買の証拠を揃え、他の子供たちを守るために最後は貴族を手に掛けようとまでしていた。

 

 そんな子供とは思えない気概を発揮したシキに惚れた。

 というのがエリンの本当の気持ちだが、さすがに王族相手に話す内容ではないだろう。

 

 前世の記憶を持っていると聞いたのはその後のことだ。

 驚きはしたが納得でもあった。

 その後、エンフィールド男爵家に伝わる精霊の加護の引継ぎの件でもっと驚くことになる。

 

「ふむ。やはりシキがエンフィールド男爵家に入ったのは必然であったか」

 

「ちっ」

 

 シ、シキが舌打ち!?

 コンスタンティンと面会を始めてから、急に態度が悪くなったシキにエリンは気が気でない。

 

 同じ気持ちだったのか、イルミナージェが引きつった顔で本来の話を進めた。

 第二王子派の暴走で〈慧眼卿〉の予知が悪用されそうになった場合、エンフィールド男爵家への避難をどのようにするかの手順を決めていく。

 

「迅速な連絡手段として、精霊様を一体お借りするということでよろしいですか?」

 

「はい」

 

「では、これにて今回の面会は終わりに……」

 

「最後にいいだろうか。シキと二人きりで話をさせて欲しい。他の皆は扉の外に出ていてくれ」




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