精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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151話 知っているがお前の態度が気に入らない

「お前は生みの母親を覚えているか?」

 

 皆が尖塔の部屋から出ていくと、何の前置きもなくコンスタンティンがシキへと問いかける。

 

「……名前はエフェメラ。小柄で可愛らしい人で、俺と同じ黒髪黒目。今はもうないカドナ村という所に二人で住んでいた」

 

「村、か」

 

 コンスタンティンは顎に手を当て、何かを思い出すように考え込んでから言葉を続ける。

 

「そこは森に面した平屋で、軒下に椅子が置いてあったか?」

 

「……そうだ。それが【巡礼神の加護】による未来予知か?」

 

 シキの問いにコンスタンティンは答えない。

 無表情のまま再び考え込んでから質問を続ける。

 

「その村が魔獣の、闇の眷属の襲撃に遭い滅んだ。それで合っているな?」

 

「……ああ」

 

「それはまだお前が赤子の頃、十年は昔のことだな?」

 

「……そうだ」

 

「何故お前は母親の名前を知っている? 二歳程度では言葉を理解するどころか、記憶すらないはずだ。お前は村が滅んだ後、すぐに攫われてエフェメラを知る者たちからも離れている。だから知る術はないだろう?」

 

「……」

 

「お前のその力、エンフィールド男爵家に伝わる精霊の力が関係しているのか?」

 

「俺のことはどうでもいい。それよりもエフェメラ母さんのことだ。あんたにとって大切な人じゃないのか? それとも適当な遊び相手だったからどうでもよかったのか?」

 

 ここで初めてコンスタンティンが驚きの表情を見せた。

 まじまじとシキを見つめ、ため息をつくと自虐するように言った。

 

「どうでもよかったら予知などしない。しなかった。だがそれももう過ぎたこと。エフェメラは既に死んでいる」

 

「……それは未来予知の結果か?」

 

「そうだ」

 

「母さんの死ぬ瞬間を見たのか?」

 

「いや、見ていない」

 

「は?」

 

「私の未来予知は万能ではない。だが間違いはない。現状がそう物語っている」

 

 理解が追い付かないシキにコンスタンティンが未来予知について説明した。

 目を瞑り脳裏に未来を知りたい対象の光景を思い浮かべる。

 するとその思い浮かべた光景が勝手に未来へと進み、どのような結果になるかを教えてくれるというものだ。

 

 ただし未来予知は絶対ではなく、無数にある可能性の一つを示唆しているに過ぎない。

 そしてその可能性のうち、より確率の高い結果を予知するのに必要なのが情報であった。

 

 情報があればあるほど、予知した未来が確実なものに近づく。

 エフェメラと別れてからは新しい情報を得られなかったコンスタンティンは、ただひたすらに予知を繰り返した。

 村での暮らし以外の光景も幻視することはあったが、やがて未来は収束し終わりを告げる。

 

「何度未来視しても、続きを見ることはできなくなっていた。見えるのは果てしない暗闇。そう、死者に未来が訪れることは永遠にない」

 

 コンスタンティンが話し終えると、シキは項垂れ下を向いていた。

 

「未来予知のことは話した。もういいだろう。次はお前の精霊について聞きたい。新たな情報がなければこの国の未来を……」

 

「……めたのか」

 

「何だ?」

 

「そんなことで諦めたのか!」

 

 シキは座っていた椅子から立ち上がり、コンスタンティンとの間にある鉄格子に掴みかかる。

 感情のままに力が籠められ、インナーとして着込んでいるパワードスーツ〈GGX-104 ガイスト〉が働き鉄格子が大きく歪んだ。

 

「話を理解していなかったのか? 未来が見えないということは、カドナ村で死んだことを意味していてる」

 

「見えないだけだろう? 死ぬ瞬間も見ていないのに、決めつけるな!」

 

 コンスタンティンのシキに対する態度は別にどうでもよかった。

 ただどうしても許せなかったのは、コンスタンティンがエフェメラのことを諦めていたことだ。

 

 これまでエフェメラの足跡を追う中で、色々な人に会ってきた。

 ステナに始まりトーキ村の元村付きのお爺さん、メイクイ村の人々。

 その誰もがエフェメラの無事を祈り、生きていることを信じて諦めていなかった。

 

「お前に何がわかる? 何度繰り返しても未来が見えない絶望を。私だってこんな結末を知りたくなかった。長い間諦めきれなかった。いっそのこと彼女の死ぬ瞬間が見えれば、もっと早く諦められたというのに」

 

「そうやってまた逃げるのか? それに仮に死ぬ瞬間が見えたとしても、無数にある未来のひとつなんだろう? 俺ならそんな未来が見えても信じない」

 

「死んでいないなら何故その先の未来が見えない!? 何故暗闇が続いている!? お前の理屈は死んでいる理由にもならないが、生きている理由にもならない」

 

「本当は見えないんじゃなくて、見たくないんじゃないのか?」

 

「……!? そんな、まさか」

 

 コンスタンティンは驚愕して立ち上がる。

 勢いで座っていた椅子が後ろに倒れたが気にせず、目の前のテーブルに両手をついた。

 

 言葉の応酬が途切れ、部屋は沈黙で支配される。

 暫くして先に口を開いたのはシキだった。

 

「もしカドナ村襲撃以降の、母さんの足跡があったとしたらどうする?」

 

「なん、だと。それはどこだ?」

 

「……」

 

「ふっ、言いたくないか。それはそうだろうな。お前の言う通り、私はこうやって囚われていることを口実に、自分の足でエフェメラを追いかけることをしなかった。加護の力だけを頼り、都合の良い結果を選び勝手に諦めていた」

 

 コンスタンティンの独白をシキは黙って聞いていた。

 俯く彼の顔は前髪で隠れて見えなかったが、僅かに肩が震えている。

 

 コンスタンティンにも事情があるのかもしれないが、それでもシキは許せなかった。

 一緒に暮らしたのはたったの二年だが、会えない夫を想い語る母の優し気で悲し気な姿が、脳裏から離れない。

 

「私には覚悟が足りなかった。だから今こそ、覚悟を決めよう」

 

 再びの沈黙の後、コンスタンティンは机から手を離すと、真っすぐ立ち両目を閉じる。

 すると次第に全身が輝き出し、部屋全体が光で包まれた。

 

 シキが眩しさに目を細めていると、「まさか、これは」というコンスタンティンの呟きと共に不意に光が消える。

 視界が戻ると、そこには呆けて虚空を見上げるコンスタンティンがいた。

 両目と鼻から血が噴き出していて、その場に崩れ落ちる。

 

「おい! あんた!」

 

 シキは鉄格子を捻じ曲げすり抜けると、コンスタンティンに駆け寄り抱きかかえる。

 意識を失っているだけでなく、呼吸も弱まっていた。

 

「オルティエ!」

 

『スキャン結果しましたが、脳への過度な負荷が認められました。脳出血を起こしていますが、治療薬で治癒可能な範囲です』

 

 シキが治療薬でコンスタンティンを治療していると、騒ぎを聞きつけて何者かが部屋に入ってきた。

 イルミナージェの「お、お待ちください! お兄様!」という声が聞こえる。

 

「これはどういうことだ? イルミナージェ。どうしてエンフィールド男爵家の者がこの尖塔にいる?」

 

 現れたのは、騎士を引き連れたレカールキスタ第二王子であった。

 そして邪悪な笑みを浮かべながらシキを指差す。

 

「なんということだ。コンスタンティン王弟が弑逆されているぞ。騎士たちよ、即刻エンフィールド家の二人を捕らえよ」

 

 こうしてシキとエリンは、王城の地下牢へと投獄されてしまった。

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