精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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154話 新たなる領民たち

「うわぁ~、エンフィールド男爵領へ続く道、主要街道よりも立派ですね」

 

「……ああ、そうだな」

 

 隣ではしゃぐローナにゴードンが生返事をする。

 ゴードンたちを荷台に乗せた馬車は、丁度レドーク王国の中心の外側を囲うように走っている主要街道から外れて、エンフィールド男爵領に入ったところだった。

 

 最大で馬車が四台は並んで走ることができる主要街道と比べると、男爵領の道は一回り狭い。

 しかしその舗装の程度は段違いだ。

 

「これ、まさか全部土魔術で整地してるのか?」

 

 普通の街道は邪魔な木々を伐採し根を掘り起こし、ある程度均したらそれで完了である。

 あとは人々の往来で勝手に踏み固められていく。

 

 なので元の地形に沿って勾配がついていたり、小石が散乱してでこぼこしていたり、大雨が降ると水捌けが悪い場所ならぬかるみ、馬車が立往生したりすることもしばしば。

 ところが男爵領の道はどこまでも水平で、しかも均一に固められている。

 

「こんなに平らで硬い道、一度だけ依頼で訪れたことのある、タクティス子爵家の敷地内でしか見たことないぞ。貴族が見栄で整えるレベルの道がこの先ずっと続いているのか……」

 

「そんなに凄いんですか? あ、でも確かに馬車の揺れがなくなりましたね。お尻がそろそろ限界だったので助かります」

 

 ローナが荷台で膝立ちになり自身の尻をさすった。

 目の前で揺れる大きな尻には目もくれず、ゴードンはエンフィールド男爵家がレドーク王族肝煎りの案件なのだと再認識する。

 

 その真実は土魔術ではなく、アリエが夜なべして荷電粒子収束射出装置(ラプソディ)をぶっ放して地面を削り、焼き固めた結果なのだがゴードンには知る由もない。

 

 当初は普通の街道と同じ施工をするつもりだった。

 ところがやっぱりマスターの大切な領地で妥協はしたくないと、スプリガンたちから訴えられた。

 なので誰にも目撃されないことを条件に、舗装へ手を貸すことをシキは許可する。

 

 その結果、昨日までのでこぼこ道が翌日には真っ平になっていて、視察団の度肝を抜いたのであった。

 これはシキの使役する精霊の仕業と周知されているため、後に〈精霊の気まぐれ〉と呼ばれるようになる。

 

 馬車に乗っているゴードンとその仲間たちは、タクティス子爵領の森でリーフマンティスという魔獣に殺されそうになったところをシキに助けられた。

 ゴードンはそれだけでなく利き腕の古傷を、ローナは冒険者引退の原因となっていた痛めていた膝を、それぞれ貴重な霊薬で治してもらっている。

 

 この恩を返すべくシキの招待を受けて、エンフィールド男爵領までやってきたのだった。

 

「これは気合を入れて取り掛からないとまずいな。呼ばれてきてるのに役立たずじゃぁ、シキ様に追い出されちまう」

 

 決意を新たにするゴードンの横では、ローナが荷台の縁に組んだ腕を乗せ、更にその上に顎を乗せ寛いでいた。

 これも道が真っ平でなければ出来ない芸当だ。

 普通の道でやれば、振動ですぐに舌を噛むことになるだろう。

 

 暫く快適な馬車の旅を続けると、やがて切り開かれた場所に出る。

 そこが現在のエンフィールド男爵領の開拓地なのだが、小柄な少女が桃色の髪を風になびかせ、仁王立ちで待ち構えていた。

 

「よくきた」

 

「あっ、エルちゃん」

 

 それまで黙って馬車に揺られていた鼠人族の少女、タロが初めて声を上げた。

 彼女もまた今は亡き両親から教え込まれた薬草知識を買われて、エンフィールド男爵領に招待された一人だ。

 タロが荷台から降りて仁王立ちするエルに近寄ると、鼠人族特有の丸い耳をわしわしと撫でられる。

 

「よしよし、相変わらずの丸くて可愛い耳。こっちきて。マリナに紹介する」

 

「え? マリナ、さん?」

 

「他の人はみんなあっち。ガラテア様に挨拶する」

 

 エルがそう言うのと同時に、開拓団の文官らしき人がやって来て、ゴードンたちを副代表の元へと案内する。

 広々とした天幕へと連れてこられると、そこでは貴族然とした金髪の美女が待っていた。

 慌ててその場に跪くゴードンたちを見て美女が鷹揚に頷く。

 

「楽にしてください。ここでは貴族も平民も関係なく、エンフィールド男爵領の発展を担う仲間たちですから。私はガラテア・ウォルト。開拓団の副代表を務めています」

 

 ゴードンたちも一人ずつ名乗り、最後の一人が終わる頃にあることを思い出した。

 

「ガラテア・ウォルト様はもしかして〈豊穣姫〉様ですか?」

 

「あら、私のことを知っているの? こう言っては失礼かもしれないけれど、冒険者なのに博識なのね。さすがはシキ殿が引き抜いた冒険者かしら」

 

 ガラテアは貴族令嬢としてのキャリアを捨てて、レドーク王国内の未開発領地の発展に尽力してきた。

 最初の数年は蔑ろにされていたが、結果が出始めると手の平を返すように褒めたたえられ、いつしか〈豊穣姫〉と呼ばれるようになっていた。

 

「ですがその呼び名は少々恥ずかしいわ。(とう)の立った女に姫はないでしょう」

 

「いいえ、美しいだけでなく土地に豊穣をもたらすガラテア様には相応しい二つ名かと。冒険者の依頼でマトリカ男爵領の村を訪れたことがあるのですが、長年悩まされ続けていた水害がガラテア様の普請(ふしん)によって治まったと、村人が嬉しそうに教えてくれました」

 

「それは本当ですか!? 私の下まで民の言葉は届かないので、そういった言葉を聞けるのはとても嬉しいわ。教えてくれてありがとう、ゴードン」

 

「あ、い、いえ……」

 

 ガラテアが笑顔を咲かせると、あまりの美しさに直視できずゴードンは俯く。

 年甲斐もなく恥じらってしまい羞恥が加速するゴードンの横では、ローナがわかりやすく狼狽している。

 

 その様子を見てガラテアはピンときた。

 ははーん。

 これは脈ありで、しかも一方通行なうえに進展していないなと。

 

 ガラテアが行き遅れたのは仕事を優先したからであって、決して恋愛への機微に疎いからではない。

 恋バナ自体好物である。

 

 ガラテア自身はシキとの仮初の婚約が解消されるまでは動けない。

 当面はこの二人にちょっかいをかけて、恋愛成分を補給しようと企むガラテアであった。

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