精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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17話 伝言ゲーム(332年目)

 亡くなった護衛騎士たちは丁重に葬られた。

 騎士団の長であるテレーズは当然として、元冒険者のエリンや元孤児のシキにとっても人死には珍しくない。

 

 決して辛くないわけではないが堪えることはできる。

 ただイルミナージェだけは溢れる涙をそのままに、埋葬される様子をずっと見つめていた。

 

 初めて目の当たりにしたのが、己を庇い死んでいった者たちなのだ。

 いくら教育されているとはいえ動揺しないわけがない。

 

 ようやくイルミナージェが落ち着いた頃には、すっかり日も沈んでいた。

 男爵家の屋敷の質素な応接間で、シキたちは改めて王女からやってきた目的を聞いている。

 

 くたびれたソファに王女が座り、その背後にテレーズが立つ。

 対面の長椅子にシキとロナンドが座った。

 エリンは夕食の準備をしているためこの場にはいない。

 

「盟約の内容を整理すると、まずエンフィールド家が男爵位を賜ることを条件に、精霊を用いて樹海からの国防を担っている、というのは間違いないですよね」

 

「はい。それに加えてもしレボーグ王家が腐敗し、民を苦しめるような事態に陥った際には、現王家を打倒して新たな王として君臨して頂く盟約がある。そう私はお母様から教えられました。お母様はお婆様から、お婆様は曾お婆様から、王族の女たちが口伝で代々受け継いできたそうです」

 

 シキがロナンドを見ると、彼は首を左右に振った。

 

「そのような盟約は聞いたことがありませんのう」

 

「そ、そんな」

 

「口伝ということは、書面での記録もないということですよね?」

 

「はい……」

 

 まさか盟約自体を知られていないとは思ってはおらず、イルミナージェは血の気が引く思いだった。

 護衛騎士たちを犠牲にしてまでここに来たというのに、意味はなかったのか。 

 

「イルミナージェ様! お気を確かに」

 

 体から力が抜けて、後ろに倒れそうになったところをテレーズに支えられた。

 

「もしお互いに口伝だったとして、エンフィールド家側が失伝した可能性もあるのかな?」

 

「いくら精霊がおるといっても、樹海の魔獣を押さえながら国と戦うのは、ちと無理があるのう」

 

「御先祖様が安請け合いしたとか」

 

「ううむ、ないとは言い切れぬが」

 

『マスター、よろしいでしょうか』

 

「ん? 何だい? オルティエ」

 

 これまで沈黙を保っていたオルティエが日本語でシキに話しかけてくる。

 

『ひとつお伝えしたい情報がございます。今から遡ること331年と62日、20時間30分40秒前のことです。二代目マスター、アダムス・エンフィールドは時の王女殿下エリザリートにこう囁きました』

 

 おほんと咳払いしてから、オルティエが無表情のままアダムス? の声真似をした。

 

『僕の可愛い子猫ちゃん。もし君の父上が僕たちの仲をとやかく言うなら、精霊様の力を使ってでも君をものにしてみせるよ』

 

「………」

 

「シキ様はもしかして精霊様と会話を?」

 

「そのようですな」

 

『まあ、頼もしいですわアダムス様。わたくし、十五も年上の隣国の冴えない王子と結婚するなんて耐えられませんもの。いつまでも待っていますわ』

 

 無表情を維持したままオルティエはエリザリートの真似もした。

 

「ええ……」

 

『これは推測になりますが、王女と逢瀬を繰り返していた二代目マスターの口説き文句が、内容が変化しつつも脈々と受け継がれたのではないでしょうか。ちなみに王女と二代目マスターが結ばれることはありませんでした。王女は予定通り隣国の王子の元へと嫁ぎました。二代目マスターは日本語が理解できないので、私たち精霊に細かい指示が出せません。そのため樹海の防衛が精一杯でしたから、並行して王家と戦うことは不可能ですね』

 

『つまり王族と戦ってでも王女を奪い取るという口説き文句が、最終的には堕落した王族から王位を奪い取る話に変わってしまったってこと? うーん、酷い伝言ゲームがあったものだ。というかオルティエは歴代のマスターたちの記録を持っているんだね』

 

『はい、全てのログが残っています』

 

「シキ様、精霊様はなんとおっしゃっているのですか? 盟約についてご存じなのでしょうか?」

 

「わしも気になるのう」

 

「ええとですね……」

 

 二人の御先祖様は結構チャラかったですよ、とは言えず困り果てるシキであった。

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