精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~ 作:忌野希和
王国の危機に心当たりがないどころか、現在進行形で
シキの拡張画面にはペトルス商会の馬車内の映像が映っていて、丁度レカールキスタ第二王子が合流したところだ。
ベリーズの隣で気絶しているジーナを見て、第二王子が邪悪な笑みを浮かべている。
「心当たりがありそうな顔をしていますね」
第二王子が映る拡張画面から右に視線をずらすとフランルージュの顔がある。
貴女の次男が邪人に唆されていて、丁度侯爵令嬢を攫ったところですよ、などとは言えない。
「王国がもたない時がきているとはどういう意味ですか? 何か根拠があるのですか?」
「根拠はありません。ただの乙女……王妃として男たちの政治を見てきた勘です。300年以上も国が続くと沢山の固定観念や既得権益が生まれます。外部から見れば明らかな異常でも、内部の貴族たちはそれが正常だと思い込んでいるため気が付きません。私が政治の歪を意識するようになったのは、王弟コンスタンティンと国王アレクサンドが仲違いを起こした頃のことです」
フランルージュが当時の出来事を語る。
王弟コンスタンティンは【巡礼神の加護】により未来予知を授かり、その力で国王アレクサンド右腕として活躍していた。
コンスタンティンの未来予知は無数にある未来のうちの一つを視るという特性上、これから確実に起こる大局を予知するのが得意だった。
例えば干ばつ、水害、凶作といった避けることができない自然災害がそうで、事前に察知し対策することにより救われた農村は数知れず。
しかし派閥争いの中で国王と対立し、争いに敗れ、流刑の罰を受けて表舞台から姿を消した。
「この派閥争いの根底にも固定観念や既得権益があります。王弟は未来が見える故に、最短距離での災害対策を推進しました。ですがそれは災害地を管理する領主貴族の矜持や利益を、蔑ろにしてしまう側面が多くあったのです」
例えば水害対策で新たに水路を掘る工事を行うとする。
通常であれば工事の人員、経路、作業日程の全てを現地の領主が仕切る。
ここに王弟が未来予知で得た情報を元にして介入することになるのだが……。
「さて問題です。王弟の介入によって現地領主が最も嫌がることはなんでしょう?」
唐突に始まったクイズにシキが困っていると、それまで黙っていたラシールがすっと手を上げた。
「はい、ラシールさん」
「貴族は
「うーん、不正解。でも矜持という着眼点は悪くないわ。工事は王命なので逆らうことはできないけれど、代わりに助成金が支払われます。工事自体は自力でするよりも安くなるので、タイミング次第では歓迎されるでしょう」
「むう」
舌足らずながらも、四歳児とは思えないラシールの言葉遣いにシキは驚く。
正解とはならずラシールが不満そうに頬を膨らましていて、その姿は年相応だったので安堵する。
「さあ次はシキの番ですよ。まさか幼いラシールが答えたのに、次期領主のシキが答えられないとは言いませんよね?」
「ええ……」
フランルージュが謎のプレッシャーをかけてくるので、シキは真面目に考えてみる。
貴族は矜持を重んじていて、タイミング次第では工事も歓迎される。
しかし王弟の介入するタイミングは歓迎されていない。
つまり貴族のプライドを最も刺激するタイミングというのは……。
「あー、もしかして、発生するであろう災害を未然に防がれるのが嫌なんですかね? 未然に防ぐよりも、実際に発生した災害を迅速に対処して被害を最小限に留めた、という結果の方が有能な領主として見られそうです」
「正解です。よくわかりましたね」
「シキすごい」
目をキラキラさせたラシールが、正解を出したシキを尊敬するように見つめている。
ラシールの回答とフランルージュのヒントがなければ答えられなかったので、シキとしては少し気恥ずかしかった。
「普通は災害を予知することなんて不可能。大雨が続き川が増水すれば、やがて決壊するかもしれないと想像することはできます。しかし具体的に何時、どの辺りが決壊するかを予測して、事前に工事をする貴族はまずいません。本当に起こるかわからない災害に備えて工事するなんて、無駄なお金でしかありませんから、というが彼らの言い分です。愚かにもそういう考え方しかできないのです。そしてシキの言う通り、実際に起きた災害を見事な手腕で治めた領主、という筋書きが貴族の矜持を最も昂らせます」
「でもそれって少なからず領民の犠牲が出ますよね」
「はい。嘆かわしいことに、この国には民を蔑ろにする貴族が沢山います。民の支えがあって初めて統治者である貴族が成り立つというのに。332年という歳月は初心を忘れるには十分でした。ですからそろそろレドーク王国は生まれ変わる時なのです」
「生まれ変わるといっても、相応の大義名分が必要ですし、相応の犠牲も出るのではありませんか?」
「大義名分も犠牲も、最小限で済むかもしれません……例えば王族内に国家反逆に加担するものが出るとか」
「えっ」
急に具体的な話が出てくる。
フランルージュは自身の次男である第二王子の交友関係に、不穏な空気を感じているそうだ。
素性の知れない貴族や商人が城を出入りするようになり、国王に咎めるよう言ったがまともに取り合ってくれなかったという。
「では、第二王子が国家反逆に加担していると?」
「何も証拠はありません。ただの乙女の勘です」
「勘が鋭すぎて怖い。でもさすがに乙女ってのは……」
「何か言いました?」
「いえっ、なんでもありません」
小声で呟いたつもりが聞こえていたらしい。
シキは慌てて首を横に振る。
もしかしてこちらの
「話は戻りますが、盟約は嘘でも盟約を叶える力をシキは持っているのでしょう? もし本当に第二王子のせいでレドーク王国に危機が迫り、民が危険に晒された時は、シキにこの国を簒奪して頂きたいのです。たとえ可愛い息子を弑することになったとしても……」
「宜しいのですか?」
「民に最大幸福をもたらすのが王族の務め。そこに母親としての感情を挟む余地はありません」
そう言いつつもフランルージュの瞳は悲し気に揺らめいていた。
それはそうだろう。
出来ることならフランルージュのためにも、レカールキスタ第二王子をなんとかしてあげたいが……。
シキが拡張画面に視線を動かす。
そこには気絶しているとはいえジーナがいるというのに、馬車内でベリーズとそのまま情事を始めそうなくらい、過度にイチャついている第二王子が映っていた。
親の心子知らずとは正にこのことだ。
「国王様は頼れないのですか?」
「あの人はだめです。無能ですから」
「あっはい」