精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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177話 また増えてる

「これを機に王弟の存在も公表する。いい加減隠し続けるにも限界があった。今まで閉じ込めていてすまなかった、弟よ」

 

「それはつまり未来視のできる俺を引き込むために、対立を続ける派閥に介入するということだな?」

 

「ああ。これ以上後手に回るわけにいかないからな。シキよ、レカールキスタのことだが、他の肉腫を埋められた者たちと同じように、被害者として公表させてもらえないだろうか」

 

 レカールキスタ第二王子も結果だけを見れば、吸脳鬼に利用された被害者と言える。

 しかし王城に吸脳鬼を招き入れたのはレカールキスタであり、被害を拡大させた罪は重い。

 

 本来ならその罪を王族が認めて償わなければならないが、全ての罪を吸脳鬼に擦り付けるつもりであった。

 当然状況を正しく理解している貴族は、王族の罪を追及するだろう。

 

 これを防ぐ手立てはないが、王族自らが罪だと認めなければ、少なくとも民衆が王族を責め立てる機会はない。

 出来るだけ抵抗勢力を少なくして、国を早く立て直したいというアレクサンドの思惑であった。

 

「身勝手なことを言っていることは理解しているが、どうか頼む。対価が必要であれば、既に提示している条件以外に追加しよう」

 

「頭を上げてください陛下。第二王子の処遇についてはお任せします。対価も既に貰っているもので十分です」

 

 アレクサンドはシキのレドーク王国への()()()()()に改めて危機感を覚える。

 最悪、将来エンフィールドが独立した際、見捨てられないよう対策が必要だろう。

 

「いいえ、対価なしというわけにはいきません。大恩を認めて恩を返すのが、王族としての最低限のけじめです。以前ははぐらかされてしまいましたが、ラシールと真面目に婚約しませんか?」

 

「「えっ」」

 

 王妃フランルージュの言葉にシキよりも早く反応したのは、アレクサンドとイルミナージェだ。

 

「ラシィはまだ四歳だし、婚約の話は早いんじゃないかい?」

 

「姉を差し置いてシキと婚約する気ですか!?」

 

「はやくない。五さいのお披露目とどうじにこんやくする」

 

 動揺する二人を尻目にラシールがむふーと鼻息荒く宣言した。

 フランルージュはうんうんと頷き、ジルクバルドは相変わらず蚊帳の外で、話についていけずぽかんとしている。

 

「えーっと、俺も王弟の息子、つまり王族みたいなものだし、王族同士の結婚ってどうなんでしょうね?」

 

「もしかして血の濃さを気にしているのかしら? 確かに過去には濃すぎる事例があったこともあるけど、シキとラシールくらいなら健全よ。前回はお婿に来てもらうつもりだったけど、今回はお嫁に行かないといけないわね」

 

「うん。およめにいく」

 

「ええ……」

 

「シキはラシールのこときらい?」

 

「うっ、そんなことはないよ。ただお互い未成年だし、ラシールも社交界に出てからでも遅くないと思うんだ。だから俺が成人する三年後くらいに改めて考えてもいいんじゃないかな」

 

 四歳児に泣きべそをかかれてしまってはシキも敵わない。

 なんとか結論を先延ばしにすることで逃れようとする。

 

「げんちとった。三年後にこんやくする。べつに正妻じゃなくてもいい」

 

 むしろ進退窮まってしまったか。

 いや、三年後の自分に期待するしかない。

 

『ラシールは24番目ですね』

 

 ぼそっとオルティエが言った人数も前より増えていた。

 シキは聞こえなかったことにする。

 

 エリンも横で何か言いたそうにしているが、さすがに不特定多数の前でのインモラル発言は控えたようだ。

 

「そ、そういえば肉腫を埋められた人々と、ベリーズ・ペトルスの接点はあったんですか?」

 

 露骨な話題の逸らし方だったが、一連のやり取りを温かい目で見ていたフールーザが答えた。

 

「ベリーズ・ペトルスは第二王子派お抱えの商人として、王城の人々とも商売をしていた。どうやら被害者は買い物客だったようだ。ジルコニアが今思えば、商談中に頭がぼんやりとする瞬間があったと言っていたので、その時に肉腫を埋め込まれたのだろう」

 

 王国のお膝元である王城にまさか邪人が、しかも吸脳鬼という並みの邪人より遥かに凶悪な存在がいるとは思うまい。

 だがその油断が今回の未曾有の危機をもたらした。

 

 奇跡的にも軽微で済んだのだから、この教訓は生かさなければならない。

 フールーザはそう考えている。

 

「聖女殿の神託を受けてもっと早く対処していれば、被害は更に少なくできたかもしれませんな」

 

 聖女ウルティアが王城に現れ〈第二王子に悪魔の影あり〉という神託を伝えたのは、事件当日ではあったが、事件発生までに半日程の猶予があった。

 

 しかしアレクサンドもフールーザも、聖女の神託を字面の通りには受け取らなかった。

 悪魔の影というのは言葉の綾で、第二王子の性根の悪さを表現しているのだろうと。

 真実は字面通り悪魔に憑りつかれていたわけだが。

 

「いえ、私たちももっと早く神託をお伝えできればよかったのですが」

 

 シキとラシールのやり取りを、嫉妬の炎を燃やした瞳で凝視していたウルティアであったが、話を振られるとすぐに外行きの聖女モードに切り替える。

 皆の注目を受けて、澄まし顔でフールーザに答えた。

 これで神託も噓なのだから役者だ。

 

 〈SG-061 リファ・ロデンティア〉の鼠型ドローンのスキャンによって、ベリーズの正体が邪人であると看破していた。

 レカールキスタが取り返しのつかない状況になりつつあったため、神託を利用して暴こうとしたのだが、先にジーナがベリーズを呼び出し追い詰めてしまう。

 

 その結果がペトルス伯爵邸と王城での戦いで、ある意味ジーナが最短で吸脳鬼の野望を阻止したとも言える。

 

「一つ疑問がある。何故レカールキスタ第二王子は吸脳鬼が接触する前に、眷属に変身したのだろう。エリン殿、心当たりはあるか?」

 

 それまで沈黙を守っていたゼーレが発言したため、今度はそちらに注目が集まる。

 シキはこの場にいるので中身は()()だ。

 

 パワードスーツ〈GGT-117 ゼーレ〉は全身を覆っているし、変声機は発生主の声質に依存しないので、口調さえ気をつければ誰でもゼーレを演じることができる。

 ゼーレの問いにエリンは答えにくそうに、王族の方をちらりと見ながら口を開く。

 

「えーっと、あの時は第二王子に襲われそうになったから蹴り飛ばしたんだけど、勢い余った第二王子が後頭部をテーブルの角に思い切りぶつけたの。そしてそのまま動かなくなってまずい、と思ったら眷属に変身したわ」

 

「ふむふむ、つまり肉腫を埋められた者は吸脳鬼による接触がなくても、致命傷かそれに近いものを受けると防衛本能が働き変身すると。これも吸脳鬼における未発見の特性であり知見を得ましたな」

 

 フールーザがそれっぽいことを言ってフォローしたが、その場にいる一同は微妙な顔だ。

 それはそうだろう。

 女性を襲って返り討ちに遭い、うっかり死にかけたため変身が暴発したのだから。

 

 しかもその暴発のおかげでベリーズに連れ去られそうになったアレクサンドの前にエリンが現れ、アレクサンドは逃亡することができた。

 アレクサンドは息子の痴態のおかげで生き延びたようなものだ。

 

 だがしかし原因を作ったのも息子なので、トータルで言えば圧倒的にマイナスである。

 どう反応してよいかわからず、アレクサンドは遠い目をしていた。

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