精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~ 作:忌野希和
亜神ベリーズとの戦いはアルネイズにとって、自身の限界を思い知らされるものであった。
アルネイズの持つ【光輝神の加護】は光輝神の光を武具や肉体に付与し、性能を向上させて戦うことができる。
そしてウルティアの神託により盾への付与、及び具現化が加護の力を十全に引き出せると知らされてからは、鉄壁の守りを発揮し〈高潔なる盾〉という二つ名も得た。
具現化した光輝なる盾は亜神ベリーズの攻撃も見事に防いだ。
しかしアルネイズは不満だった。
亜神ベリーズはただの邪人ではなく、神格を得る一歩手前の強大な存在だ。
宮廷魔術師第一位のフールーザでさえ防御には相応の魔力を消費しており、防御できるだけでも一個人としては最高峰の能力を有していると言える。
それで尚不満という心境を他人が聞けば、高慢と受け取られるかもしれないが、アルネイズにその意図はない。
純粋に自分の力不足が不満だった。
アルネイズ・フォールマートはレドーク王国の二つ隣にある、イルグセッサ王国の子爵令嬢だった。
貴族間の政争に敗れ一族が抹殺されそうになった時、兄の計らいでアルネイズだけ隣国に逃がされる。
その後ウルティアに拾われ、レドーク王国へとやってきた。
国も家族も失ったアルネイズにとって、ウルティアだけが心の拠り所だ。
ウルティアを守らなければならないし、失望させて見捨てられるわけにはいかない。
死に怯えながら神殿で祈りを捧げる日々には戻りたくない。
だからウルティアが絶対の信頼を寄せるシキには激しい嫉妬と恐怖を覚えた。
精霊オルティエを使役し、亜神ベリーズの攻撃を防ぐだけでなく屠る力も持ち合わせている。
これまではエンフィールド男爵領と王都と物理的な距離があった。
だがシキを聖人指定するにあたって、ウルティアたちが男爵領へ派遣されることが決定する。
今後ウルティアとシキの距離はより一層縮まるだろう。
これから先も、ウルティアの隣にアルネイズの居場所はあるだろうか。
もう不要だと捨てられないだろうか。
ウルティアがそんなことはしないと頭ではわかっている。
戦力として数えられなくなったとしても、内心で失望していても側に置いてくれるだろう。
しかしそれではアルネイズの心が耐えられない。
もうウルティア以外に縋れるものはないのだから。
守るだけでなく、敵を打ち倒す力が欲しい。
「降参だアルネイズ! ちょっと休憩させてくれ」
「まだ訓練を始めたばかりではありませんか。皆さん気合が足りませんよ」
アルネイズの
その騎士の他にも、九名の騎士たちが訓練場のあちこちで倒れている。
全員がアルネイズに叩きのめされ気絶していた。
「無茶を言うな。【光輝神の加護】の身体強化だけでなく、強化した盾で殴られる身にもなってくれ。俺たち神殿騎士では束になっても相手にならん。第二位階、いや第一位階冒険者でも連れてこないと……な……ぐふ」
そう言い残して最後の神殿騎士も気絶した。
「第一位階冒険者、か」
過去に一度だけ第一位階冒険者パーティーの戦闘を見たことがあるが、確かに秀でた力の持ち主たちであった。
だが彼らは国のお抱え冒険者となり国内外の遺跡を探索したり、強力な魔獣を討伐して回っているため王都にはまずいない。
それにアルネイズが要請したところで手合わせなんてしてくれないだろう。
仕方なくアルネイズは一人で訓練を続ける。
具現化した半透明に輝く盾を空中に固定し、強化した
巨大な岩同士が衝突するような衝撃音が訓練場に響き渡る。
気絶していた騎士たちは腹に響くような衝撃で叩き起こされ、ボロボロの体を引きずって訓練場から逃げ出した。
暫く殴ると具現化した盾が砕け散るので、新しく設置して殴る。
盾の強化に特化した加護なので、盾殴りがアルネイズの唯一の攻撃手段だったが、一応相手の攻撃を利用する手段もなくはない。
以前エンフィールド大樹海でワイバーンと戦ったことがある。
その時はワイバーンが突進してくる軌道に盾を具現化させて正面衝突させたり、火炎の吐息に合わせて四方を盾で囲って自らの吐息で自滅させたりした。
だが大半は相手の攻撃を利用できないので、盾殴りを鍛えるしかない。
鍛錬により少しずつだが盾殴りの威力は上がっている。
ウルティアと出会ったばかりの頃は、具現化した盾を破壊するまでに三十回は殴っていたが、最近は二十回で破壊できるようになった。
単純計算で一撃の威力が五割増しにはなっているが、果たしてそれで順調だと言えるのだろうか。
アルネイズは精霊オルティエの攻撃を思い出す。
不可視の刃で亜神ベリーズの太い両腕や、広範囲に降り注ぐ針のような髪の毛を一瞬で斬り飛ばしていた。
自分がこのまま鍛え続けたとして、盾を振り回しているだけで、同じことができるようになるだろうか。
まず攻撃範囲が違い過ぎるし、盾殴りの威力が二倍、三倍になったところで、亜神ベリーズが振り下ろした片腕を逸らすのが精々ではないだろうか。
それなら素直に盾で防いだほうが早い。
他に対策も思いつかない。
湧き上がってくる迷いを誤魔化すかのように、アルネイズは盾を殴り続けた。
雑念は次第になくなり無心で腕を振るう。
十枚は盾を張り替えただろうか。
いくら加護の力で身体強化していても限界はいずれ訪れる。
盾を掲げていた腕が持ち上がらなくなり、その場に座り込む。
額から止めどなく流れる汗を反対の腕で拭ったところで、ようやく訓練場に見学者が現れていたことに気が付いた。
人の訓練を勝手に見るなんて無作法な。
そう声を上げて文句を言う気力もなかったので、無言で見学者のうちの一人であるシキを睨みつける。
「そんな怖い顔しないで、アルネイズ。シキが貴女に聞きたいことがあるって……だから怖いって」
シキの接近に合わせてアルネイズの顔の険しさが増すが、本人は気にした様子はない。
そして突拍子もないことを聞いてくる。
「アルネイズさん。その具現化した盾って投げられないんですか?」
「は?」
「あと、盾の形を変えて、刃とか生やしたりできませんか?」
「………はぁ?」