精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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183話 おちゃのじかんにきた……

「只今ご紹介に預かったゼーレだ。シキ・エンフィールド様に仕えている」

 

 低い男の声で、漆黒の騎士が名乗り一礼した。

 素肌が一切見えないほどに金属鎧を着こんでいるというのに、金属の軋む音ひとつしない。

 

「エンフィールド、ということは私たちを捕まえたあの人たちですか」

 

「その通りだ」

 

「戦った時は気付かなかったけど、あの〈雷霆〉と御前試合で引き分けた〈精霊使い〉だったんですね。私の魔術が通用しなかったのも納得です。ですが何故私たちに温情を?」

 

「うむ、我が主は優しい御方だ。悪辣な男に騙され、犯罪行為を強いられていたという事実に心を痛めておられる。罪は罪だが、赦しも必要だろう。無論その場合は生涯をかけて償ってもらうことになるが」

 

「裏世界での活動が本当に償いになるのでしょうか?」

 

 単に裏組織の構成員になれということであれば、これからも犯罪に手を染めることになるだろう。

 ティオラを支配するのが、サーライトからジーナに代わっただけだ。

 

「ああ、それは大丈夫。今後、裏世界は縮小してサンルスカ侯爵家がすべてを管理するわ。貴女たちには裏世界の悪を管理する側になってもらいたいの。世の中綺麗ごとだけじゃ成り立たないけれど、必要以上に悪意をばら撒かれても困る。だから悪人を裁くことはあっても、善良な国民に危害を加えるような指示は出さないわ」

 

 それは自らの利益を抑制するという、裏世界の支配者とは思えない発言だった。

 ジーナが本気なのか、ティオラを利用するための嘘なのかはわからない。

 

 だがいずれにせよ、ティオラの返事は決まっていた。

 

「わかりました。三つ目の提案を受け入れます。私の命をジーナ様に捧げます。ですが、一つだけお願いがあります。どんな命令にも従いますので、仲間のアイリスには寛大なる処置を望みます。お願い出来る立場ではないのは重々承知していますが、どうか……」

 

 ティオラは椅子から立ち上がりジーナとゼーレに向かって跪く。

 鉄格子の向こうの二人は、その様子を見て顔を見合わせていた。

 

「実はここに来る前に、別棟のアイリスの元で同じ提案をしているのだけれど、ティオラと全く同じことを頼まれたわ」

 

「今は信じられないかもしれないが、決して悪いようにはしない。アイリス嬢の望みは聞き入れた。故にティオラ嬢の望みも聞き入れよう。二人を共に行動させても構わないかな? ジーナ嬢」

 

「もちろんですわ。ゼーレ様」

 

 ゼーレとの会話でまたもや嬉しさを隠せないジーナであるが、今回もティオラの視界には入っていない。

 幼馴染と離れ離れにならずに済んで、床に蹲り安堵の涙を流していたからだ。

 

「ありがとう、ございます」

 

「さぁ立ち上がるんだティオラ嬢。もう我々は仲間だ。アイリス嬢と合流しようじゃないか」

 

「お忙しいと聞いていますが、よろしいのですか? ゼーレ様」

 

「彼女たちの新しい門出だ。もう少し付き合おうじゃないか。君とももっと話をしたいしな」

 

「まぁ……! お上手ですね」

 

 三度乙女の顔になるジーナ。

 ティオラは涙を拭って立ち上がったところだったので、今度はしかと目撃する。

 普段なら絶対しないであろう蕩けた表情を見せられて、ぎょっとしていた。

 

 

 

 

『ちょ、変なこと言わないでよ』

 

『このくらいのリップサービスは普通よ、普通。お姉さんもシキくんから言われたいな~』

 

 そしてジーナたちには聞こえないボイスチャットで、そのような応酬があった。 

 ゼーレの中身は今日も代役だ。

 

 前回はスースだったが、今回はアリエである。

 ジーナは知る由もないとはいえ、会う度に中の人が違うことに申し訳なく思うシキだ。

 

 好意に応えるつもりはないとしても、なんとなく不誠実な気がしてしまう。

 なぜ代役を立てたかといえば、王族とのお茶会と日程が重なったからだ。

 

「どうかしましたか?」

 

「いえ、なんでもないです」

 

 俯いて小声でアリエにボイスチャットを送っていたため、フランルージュに訝しまれてシキは慌てて顔を上げた。

 アリエが調子に乗って余計なことを言いそうで気が気でない。

 

「こうも早くお茶会の席が設けられて嬉しいですよ、シキ」

 

「こちらこそお招き頂きありがとうございます。フランルージュ様、イルミナージェ様、ラシール様」

 

「はっはっはっはっ」

 

「………エリン母様が参加できず申し訳ありません」

 

「気にしないで。やはりシキの義母の立場だと、実母の話を聞くのは躊躇われるのかしら」

 

「いえ、そういった理由ではありません。昨日、第一位階冒険者パーティーが王都に帰ってきたのですが、〈雲割き〉に母様が捕まってしまいまして」

 

「それは大丈夫なのかしら?」

 

「多分大丈夫です。母様は昔から〈雲割き〉に求婚されているらしいのですが、模擬戦で勝ち越すことで毎回断わっているみたいですので」

 

「あらあら、まあまあ、あの〈雲割き〉に勝てるだけでなく求婚を!?」

 

 エリンの恋愛事情を聞いて色めき立つ王族の女性陣。

 シキも英雄である〈雲割き〉と直接会う機会をまたもや逃してしまったが、実母であるエフェメラの話を聞くことの方が大事だった。

 

「はっはっはっはっはっ」

 

「…………。ところで、皆さんよくアレを無視できますね」

 

「同じ女性として、心奪われる気持ちはわかりますから」

 

「うん、わかる」

 

 イルミナージェとラシールがうんうんと頷く。

 視線の先には息の荒い犬、ではなく必死の形相でスケッチをしているドロシーの姿がある。

 

 王族女性陣からの要望があり、精霊オルティエは新しい衣装をお披露目していた。

 光沢のある深紅の布地に緻密な金の刺繍。

 長い銀髪は二つのお団子(シニョン)でまとめられ、スリットから覗く白い足が艶めかしい。

 

 それはずばりチャイナドレスであった。

 初見なのに洗練されているとわかるそのデザインに、いつも通りドロシーは過呼吸になるほど興奮していた。

 

 目を血走らせ舌が少しはみ出ていてアレだが、服飾の腕は確かだ。

 このチャイナドレスもレドーク王国風に落とし込み、いずれ流行るのだろう。

 

 ドロシーの侍女であるキャロラインも、主の痴態に動じることなく側で待機している。

 ……いや、あれは考えることをやめた、無の顔だ。

 さすがに王族の前ではきついらしい。

 

 昔のドロシーは病弱で痩せ細った体に不健康な青白い肌、ぎょろりとした目の下には大きな隈、といった様相だった。

 現在はシキがこっそり盛った回復薬の効果によって見違えている。

 

「折角健康的な美人に戻ったのに、残念すぎる」

 

「シキはドロシーのような容姿が好みなのかしら?」

 

「美人だとは思いますが、別に好みというわけでは」

 

「シキ様、一度断られたことは忘れます。だから責任を取ってドロシー様を娶ってください。なまじ体力がついたせいで、徹夜の頻度が増えて困っています。良いところに嫁いで侍女を増やして頂かないと、私が先に参ってしまいます」

 

「ええ……むしろ俺と結婚したらオルティエとの距離が近くなるし、余計に悪化するんじゃ」

 

「ぐぬう」

 

 悔しさで唸りながら、恨めしそうに見つめてくるキャロラインから、そっと顔を逸らすシキであった。

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